東京都西東京市の新青梅街道沿いは、多くのゴルフ練習場やゴルフショップが軒を連ねる。田無ファミリーランドTIMEZIPS24もそのひとつ。その中で営業するのが、「ブルーゴールドゴルフスタジオ」だ。同店でCTO(チーフ・テクニカル・オフィサー)を務める武井幸喜氏は15年以上の経歴で、練習場に通うゴルファーの面倒を熱心に見る。今回の悩めるゴルファーは60歳代の女性ゴルファーAさん。ゴルフ歴は20年以上だが、ドライバーの飛球がスライスやフックと安定しない。シャフトのしなりを感じられず、長いクラブほど縦振りが強くダウンブローになる。そのAさんに薦めた組み合わせはテーラーメイド『Qi10』と三菱ケミカル『ディアマナPD』の5S。方向は安定したのか?
シャフトの硬度とHSは必ずしも一致しない
武井氏は、長年ゴルファーを診ていて思うことがあるという。
「昔はHSが速かったり力のあるゴルファーは、硬くて重いシャフトを使うのが定説でした。でも、最近は必ずしも一致しないケースが多いと思う。そこにとらわれてしまうと、フィッティングは失敗しちゃうんです」
自戒の念を込めて、そう語る。ひと昔前と比べ、シャフトはキックポイントが細かく設計されており、シャフトの選択肢も増えているからだという。
「たとえば野球部出身者とか、見るからに体格の良いゴルファーには、店員の第一印象で硬いシャフトを薦めがち。一方で女性やシニアには、なんの疑いもなく軽量で軟らかいシャフトのクラブを薦めてしまう」
ゴルフ工房には多くのゴルファーが相談に来るが、今回の悩めるゴルファーAさんも、病巣はそこにあった。症状はドライバーの飛球がスライス、フックと安定しない。ドライバーのHSは32m/s前後。スコアは100前後で飛距離は160ヤード。使用しているのはレディスクラブだ。
「シャフトのしなりや軟らかを感じることができないと言います。縦振りの度合いも強くて、ダウンブローにインパクトを迎えるから打点が安定せず、飛球が定まらない様子でした」
通常なら、シャフトのしなり、軟らかさを感じるように、さらに軟らかいシャフトを薦めるが、
「もちろん、そのようにしましたが、Aさんは違和感を覚えていました」
辿り着いた仕様がテーラーメイド『Qi10』(10.5度)と三菱ケミカル『ディアマナPD』の5Sだった。
中調子で先端硬めとカッコ良いヘッド

Aさんの違和感の正体は、
「シャフトがしなるとヘッドの重みを感じると言いますが、ヘッドが動いていることが心地よくなかったそうです」
それで一目見て「カッコ良い」と思った『Qi10』を試打。男性向けのスタンダードなモデルだったから、
「硬くて重くて、最初は打てないと思ったんですよ。ところが気持ちよさそうにスイングされていた。それで女性シニアでも硬いシャフトが合うゴルファーもいるんだということに気が付いたんです。先入観はダメですね」
さらにAさんは「軽いシャフト」でも軽さを感じない様子だったという。そこで探求心も働き、重いシャフトの試打も促した。
「薦めたのは『ディアマナPD』の5Sです。全体がしなるシャフトで、中調子で且つ先端が硬め。40g台のRからスタートしましたが、重く硬くなれば振りやすくなってくる。それで5Sに決めたんです」
Aさんはシャフトが硬くなると振りやすくなる。つまり、量販店に並んでいるレディスクラブでは対応できないと武井氏は感じたという。シャフトが重くなればなるほど、気持ちよくスイングしているAさんを見て、
「60g台のシャフトも1発の飛距離を求めるならアリですが、1ラウンドは体力が持たないのでやめました(笑)」
既成概念に捉われるとフィッティングは成功しない

Aさんの新たなドライバーは、総重量 288g、長さ43.5㌅、バランスC4。これまでのドライバーが260gのC1だから、重量だけでも30g近く重く、さらにフレックス表示は一気にLからSになった。それによって、
「インパクトが安定して、サイドスピンが減りました。ロフトは10.5度ですから 打ち出し角は減りましたが、ボールは前へ行って、飛距離も180ヤードに伸び ました。何より『もっと早く来ればよかった』と言ってもらったことが嬉しかったですね」
武井氏は今回の件で、冒頭の固定概念 に捉われてはならないということを改め て自覚したという。
「すごく勉強になりましたし、やはり思い込みはダメですね。試打シャフトのラインアップも見直した方が良いと思いました」
今回のケースは、シニア、レディスゴルファーでも稀だという。だからと言って、必ずしも体格や年齢、HSでクラブが決まるわけでないという実例だ。それが出来るのがゴルフ工房の強みである。
メーカー担当者コメント
三菱ケミカル ツアー担当 三好正樹氏
「お話を聞いた限りでは、縦振りがポイントで、重さを使ってヘッドを落とせるのでHSが上がると思います。それに加えて、『ディアマナPD』は手元が軟らかく先端が硬いのでAさんのスイングに合ったと思います。王道の組合せとは言えないですが、重さやフレックスに先入観を持たずに試打をしてもらうと、今回のように最適なシャフトが見つかると思いますね」
ブルーゴールドゴルフスタジオとは
〒188-0014
東京都西東京市芝久保町5丁目8‐2
田無ファミリーランドTIMEZIPS24内
なお、この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。