神奈川県茅ケ崎市。海岸から徒歩5分の自宅で工房を構えるのが MORI GOLFの森裕起氏。 地クラブメーカーの立ち上げサポートに5年、地元の工房で15年。その後、当時枻出版が営んでいた「EVEN GOLF LAB」で3年、さらに地クラブメーカーに3年勤め、地元に戻って独立して3年が経つ。来年キャリア30年を迎えるベテランだ。自宅に工房を開いてからは、地元茅ヶ崎の常連客やSNSを通じて相談に来るゴルファーに対応している。今回のケースは63歳の女性競技ゴルファーAさん。20年ほど前に父親からもらった重いクラブでゴルフを始めたドローヒッターだが、しばしば出てる振り遅れによる右へのプッシュアウトが悩みのタネ。それをどう解決したのか?
高MOIと軟らかく長いクラブ 一部にしか合わない市販品
来年キャリア30年を迎えるMORI GOLFの森裕起氏。最近の市販クラブには、一部のゴルファーにしかマッチしないクラブが多いと指摘する。
「年々、市販品のクラブはシャフトが軟らかくクラブ全体が長くなっています。一方で高い慣性モーメント(MOI)のヘッドとの組み合わせが多いですよね。ゴルフはテークバックからトップ、そしてインパクトまで身体の右半分での動作が重要ですが、それらの組み合わせのクラブは物理的に振りにくい。長くて軟らかいシャフトのクラブで高MOIのヘッドは、振り遅れる可能性が高いからです。『やさしい』クラブと謳いますが、難しくなっていると思いますよ」
原因は異なるが、振り遅れで頻繁に顔を出す右プッシュに悩むのがAさんだ。父親から譲り受けた重いクラブでゴルフを始めたドローヒッター。悩みを解決するために提案したのがクオイドのヘッド『キングペガサスQS-01』(シャローフェース)とグラファイトデザイン『ツアーAD IZ』(6S)。アッパー気味にインパクトを迎えるドローヒッターには向かないヘッドとシャフトの組み合わせ。なぜ、それがハマったのか?
振り遅れに逆効果のシャフトと浅重心で球が上がらないヘッド

今回Aさんに薦めた『QS-01』と『ツアーAD IZ』の組み合わせは少々複雑と言える。
「Aさんは古くて重いクラブでゴルフを覚えたので、男性向けの重いヘッド、シャフトでなければ気持ちよくスイングできません。それに加えて、ドローヒッターで悩みが振り遅れの右プッシュ。通常ならつかまるヘッドで、先端が走るシャフトを薦めがちですが、Aさんの場合は合わない。なぜなら、タメを使ってアッパー気味にインパクトを迎えて球をつかまえてから、高い弾道でドローを打つスイングだからです」
つまり、スイング自体でドローを打つから、ヘッドやシャフトに余計なことをさせたくない。付け加えれば、さらにタメができやすいシャフトを薦めるということになる。
「そこで薦めたのが『QS-01』(10.5度、シャローフェース)と『ツアーAD IZ』(6S)です。ヘッドは浅重心で球が上がらず、シャフトも先調子ではありません。普通なら薦めるセッティングではありませんが、Aさんの場合はハマりましたね」
改善された理由は2つあるという。
「ひとつは元調子のシャフトによって、よりタメができて、アッパーにインパクトを安定して迎えることができるようになったことです。もうひとつはヘッドの特性でしょう」
『QS-01』は浅重心のヘッドだが、形状はシャローフェースのシャローバック。この形状が重心位置とは別の効果を発揮して、インパクト時にロフトを寝かせてくれるのだという。
「もちろん、Aさんのスイングが前提ですが、リアルロフト10度でも打ち出し角は16度。球が上がらないヘッドで球を上げている。普通なら打てないです」
そのヘッドとシャフトのおかげで、Aさんの右プッシュも顔をひそめ、フェアウェイキープ率が上がったという。
女性には難しい長いクラブ 横ぶりでは球は安定しない

もう一つ、今回の鍵となるのがクラブ長だ。完成したドライバーのスペックは、総重量307g、44 ㌅、バランスC8。市販品と比べ、スペックの割にはクラブ長が少しだけ短い。なぜ、そのような短いスペックにしたのか?
「一般的に女性はクラブをアップライトに振った方が良いと思います。身長が低いというのもありますが、クラブをフラットに振るとしなり戻りの方向とは別に、トゥダウンの動きがクラブ全体の挙動を邪魔するんです。それがアップライトなスイングなら、シャフトがしなり戻る動きの中で、トゥダウンの挙動が邪魔する割合が少ない。なので、アップライトに振りやすく短いクラブが良いんです」
特にAさんは、インサイドアッパーのドローヒッター。クラブが長いと邪魔をして、インパクトが安定しない。とはいえ、63 歳の女性競技ゴルファーに浅重心ヘッドと元調子シャフト、総重量307gのクラブは薦めない。
「この方でなければ薦めないし、市販品は全部合わなかったですから」
それが出来るのが工房。長年のキャリアでレアケースを解決している。
メーカー担当者コメント
グラファイトデザイン 企画2部 部長 本吉興毅氏
「お話を聞くと、通常ならマッチするシャフトではないですよね。ただ、最近試打会などで女性でも重く硬い男性用クラブが合う方が増えてきました。今回のケースはヘッドとシャフトの特性で『振り遅れ』が無くなったケースで、44㌅というクラブ長も絶妙だと思います」
MORI GOLFとは
〒253-0061
神奈川県茅ケ崎市南湖4-22-8
TEL 090-9959-5700
なお、この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。