東京都葛飾区青戸。レッスンとフィッティング、工房の三位一体で営業するのがフィッティングスタジオゼロだ。14年前の開業当時からフィッター兼クラフトマンとして活躍するのが金子正哉氏。その金子氏が歴30年で非常に稀なケースとして話すのが、しなりを嫌う68歳男性ゴルファーのA氏。A氏は独特な理論のコーチに師事し、シャフトをしならせないで、覆いかぶさるようにクラブを使う。今回チョイスしたヘッドはキャロウェイの『パラダイム◆◆◆』と藤倉コンポジットの『ベンタスブラック』(6X)。68歳、HS36m/sのゴルファーに合うとは思えないのだが。
ユーチューバーの意図が伝わらない動画が氾濫
『フィッティングスタジオゼロ』の名の通り、多くのゴルファーのクラブをフィッティングするのがチーフアドバイザーの金子正哉氏だ。最近は珍客も多いという。
「ユーチューブで『シャローイング』が流行った際には、シャローすぎて下からクラブをあおり、天井に向かってクラブを振っているように見えるゴルファーもいるんです。ユーチューブの見過ぎでしょう。『シャローイング』の理論は一理あると思うのですが、極端になるとメリットよりデメリットが大きくなってしまいます。ユーチューバーの伝えたいことが、動画ではうまく伝わっていないのでしょうね」
金子氏も研究のためレッスン動画を見るが、その中には独自の理論を提唱するインストラクターもいる。動画だけでは理解が難しく、実際に話をして初めて理解できることも多いという。
今回の患者A氏は、クラブのしなりを使わないという独特の理論を展開するインストラクターに師事しており、金子氏もインストラクターに会って初めて理論を理解したという。しなりを使わない独特の理論を実践するA氏の悩みは飛距離。しならせないクラブのセッティングに必要なこととは?
クラブ重量を上手に使ってHSではなく初速を上げる

金子氏が提案したのが、A氏が過去に使っていたキャロウェイの『パラダイム◆◆◆』と藤倉コンポジットの『ベンタスブラック』の6X。上級者向けのヘッドと、HS36m/sのゴルファーがクラブをしならせられるとは思えない振動数のシャフトだ。
「A氏のスイングは、切り返しで左サイドに荷重してタメを作るスイングではありません。トップからボールに向かってたたみかけるように圧をかけてクラブを振るので、クラブをしならせるスペースはありません。ただ、トップから最短距離でボールにヘッドが向かうので、HSは上がりませんが、ミート率が向上する可能性があった。さらに、ヘッド重量が増加すれば初速が上がる可能性はありましたね」
それで、A氏が過去使っていたヘッド重量が重めの『パラダイム◆◆◆』を採用。ただ、以前のクラブでは打ち出し角が低かったこともあり、ロフト角10.5度に調整。それによって、スピン量を増やすことなく、打ち出し角も増加して、飛距離も220ヤードから10ヤード伸びたという。
しなりを嫌うゴルファーだが、シャフト『ベンタスブラック』(6X)の元調子の性能もタメを作らないA氏のスイングには効果があったという。さらに、クラブ長も44.5㌅に短く設定したことも奏功したという。
しならせないならハンマーで良い

できたクラブは総重量321g 、クラ ブ長は 44.5㌅、クラブバランスはC8となった。
「A氏のスイングは独特で、通常なら68歳の男性ゴルファー、それもHS36 m/s のゴルファーに、今回のセッティングは薦めません。ただ、しなりを極端に嫌うゴルファーですから、クラブはハンマーで良いと思います。つまり、総重量が重ければ、クラブバランスは関係ない。さらに短くても良いと思いますね」
通常なら、上級者が好むヘッドで、パ ワーヒッター向けのシャフトを同年代のゴルファーに提案することはない。ただ、金子氏はA氏が支持するインストラクタ ーのスイング理論を理解する機会があった。それが今回のセッティングに対して金子氏が納得した上で、ゴルファーに提案したということになる。
「非常に稀なケースだと思います。200人に1人いるかどうかですね。それでも 飛距離が伸びたので良かった」
金子氏のフィッティング理論は「しなりを使うこと」だが、今回のフィッティングは真逆。成功した要因の一つは、フ ィッターの研究にあったといえるだろう。
メーカー担当者コメント
キャロウェイゴルフ PR担当 原哲史氏
「どちらかといえば、『パラダイム◆◆◆』はHSが速めのゴルファーに合うというドライバーのポジションですが、試打会等でもHSが遅い方でもマッチするゴルファーは多いんです。ただ、今回のゴルファーのHSなどを聞くと、一般的にはなかなかいないケースだといえますね」
フィッティングスタジオゼロとは
〒125-0062
東京都葛飾区青戸8-5-19
TEL:03-6662-9180 FAX:03-6662-9181
HP:Https://www.golf-zero.co.jp
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。