リコンセプト目線による プロショップのリノベーション TPC社長 飯島敏郎

リコンセプト目線による プロショップのリノベーション TPC社長 飯島敏郎
クラブハウス内にあるショップはかつて「プロショップ」と呼ばれていた。その呼称だけを現代に引き継ぐゴルフ場も多いが、大半はプロショップ本来の機能が失われている。 欧米のゴルフ場でプレー経験のある人は、日本のプロショップとの違いに戸惑ったことがあるかもしれない。海外のプロショップには、ゴルフ場所属のプロゴルファーが常駐し、メンバーやゲスト、あるいは地域住民のゴルフに関する困りごとに対応してくれる。試打会やクラブフィッティング、地域の子供を集めたコースデビューサポートなど、様々な仕組みが整っているところが多い。 ショップに陳列してあるウェアも、そのゴルフ場のロゴマークが左胸に付いており、アパレルメーカーと協同でダブルネーム仕様となっている。ウェアに限らず、様々なロゴ付き商品が誇らしげに店頭を彩るのだ。 一方、日本のプロショップはお土産中心のキオスクである。バブル時代に接待需要で隆盛を極めた日本のゴルフ場。その名残りはプロショップの商品構成にも色濃くあり、プレー後に取引先にわたす手土産として菓子類やケーキ・フルーツ・野菜などが置かれている。 ゴルフ用品の品揃えも貧弱だが、これは80年代に大型量販店が勢力を伸ばし、プロショップの品揃えや価格では対抗できなくなったことも一因。以後衰退したプロショップは、キオスクの形で細々と命脈を保っている。

プロ不在のゴルフ場

ゴルフ場に勤務するプロゴルファーが減ったことも、プロショップ衰退の一因だろう。その経緯を簡単に述べる。 日本でプロゴルファーの資格を得るには、かつてはゴルフ場での研修や勤務が必須だった。「研修生」と呼ばれる制度で、彼らはゴルフ場に住み込みキャディ業務や雑用をこなし、空き時間にラウンド・練習する。薄給だが給料も出る。地区ごとの競技会(研修会)で腕を磨き、プロテストに挑戦した。ゴルフ場も研修生を応援し、自コースからプロを輩出することが誇りでもあった。自然、プロになってもそのゴルフ場に所属するケースが珍しくなかった。 ところが今は、そのような下積みを必要としない。男子と女子では若干異なるが、各予選会を通り最終テストで上位に入ればプロになれる。また、推薦枠を利用してトーナメントに出場し、優勝後に「プロ宣言」をしてツアー出場権を得、プロになる道もある。下積みを嫌う若者は、できれば学生時代に活躍して、その勢いのままプロの世界に飛び込みたいと考える。 このような事情から、プロとゴルフ場の結びつきは希薄になり、ゴルフ場に常駐するプロが減少。プロショップが形骸化した大きな理由と言える。 一方では、バブル崩壊後の人員削減でプロの卵(研修生)を抱える余裕がなくなったゴルフ場側の事情もある。トーナメントから退いたベテランプロの雇用についても、ゴルフ場は即戦力が欲しいため見送られるケースが多い。なぜなら多くのプロはゴルフが上手でも、ビジネススキルや接客などに必要な教育を受けていないことが多いからだ。実は、この教育の有無が、日米のプロショップの違いに大きく関わっている。 日本のプロゴルファーは球打ちのプロだが、米国PGAはゴルフビジネスのプロを養成しており、毎年1月のPGAショー(フロリダ)にその片鱗を見ることができる。期間中、PGA会員向けに数十科目の講習が行われ、その内容は金融、ビジネスレターの書き方、クラブハウスで行う結婚式の司会やコース管理術など多岐にわたる。その下地があるからこそ、ゴルフ場にとってプロショップは重要な地位を占めているのだ。 それでも筆者は、トーナメントプロのセカンドキャリアとしてもプロショップには可能性があると考えているが、キオスクからプロショップへと進化する上で、利用者がそれを求めていない現実がある。 さて、どうすればいいのか?

リコンセプト目線の売場改革

来場者はゴルフ場でも買い物をする。代表的なのが必需品の「忘れ物」だ。売れ筋は、 ・ボール ・グローブ ・ティーペグなどの小物 ・帽子類 ・雨具 ・シューズ 実際にこれらが売れている現実を見るにつけ、必需品の品揃えを充実させることも大事な切り口ではないだろうか! 品揃えで重視すべきは利用者の利便性にほかならない。とどのつまり「あったらいいな!」を満たすこと。その際大事なのは、ゴルフ場や来場者の個性に合わせ、どのような目線で商品を仕入れ、陳列し、売場のゾーニングを考えるか、ということになる。 その要点を筆者は以下のように考えている。 ・クラブハウスの雰囲気を毀損させない造り ・アイキャッチになるものを配置して人の導線を確保する ・照明を活用して売りたい商品をアピールする ・売れ筋の商材をその奥に選びやすく整然と陳列する ・購入者の目線(女性目線・男性目線)に合わせた陳列に配慮する ・ダメ押しで購入意欲を沸かせる什器の設置をする 以上は、筆者が現場から得た売れ筋のABC分析による知識と、学生時代に取得したリテールマーケティング(販売士)の発想から箇条書きにした原則である。これを盛り込んだリノベーションが最も効果的だと確信している。 そこで次に具体論を展開していこう。 売場面積は様々だが、ここでは15坪程度のスペースを想定する。まず、視認性の高い場所にアイキャッチとなるトルソー(マネキン)を置き、ジャケット類またはトレンドのウェアを展示する。 そこから誘導するようにグローブや小物類を陳列していく。さらに導線をつなぐためキャップ類およびシューズ類の棚へと回遊させ、最後の会計(サイン)の時に、思わず手が伸びるボールのスリーブ売り。いわゆる「レジ周り商品」だ。 そのボールにもひと工夫が必要だ。中心部の数列に高額の売れ筋を置き、売れ筋の左右どちらかにお手頃価格、逆側の列には安価なもの、という具合に配置するとスムーズに売れる。 業者から委託販売の要望もあるが、ゴルファー目線で不用な物は委託でも置かず、ゴルフ場が売りたい物、来場顧客が買いたい物を選びやすく整理して、全体の雰囲気を壊さないよう配慮する。 以上が筆者の唱えるリコンセプト目線のプロショップリノベーションだ。これにより年間でのショップ売上が1名の人件費を賄うまで増えた実績もある。 ショップ改革は客単価の向上だけではなく、クラブハウスの雰囲気作り(非日常空間でのおもてなし)や顧客満足度の向上にも役立つはず。プロゴルファーのセカンドキャリアを活用できれば、言うことはない。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら