時代に合わせたデジタルとアナログの両立
時代に合わせて、デジタル化をとことん推し進めるべきか。それとも大事なことはアナログとして残すのか……。ここ数年、大きな悩みとなっています。
弊社では、労働力不足に直面する中で社内のデジタルシフトを加速させ、フロントには自動精算機を、カートにはよくしゃべるカートナビを、コンペ幹事の打ち合わせにはAIチャットボットをと、あらゆるシーンでデジタル化を導入していますが、他業界でも同様の取り組みが行われているようです。
たとえばホテル業界では、ゲストに過度な干渉や堅苦しいスケジュールを押し付けないという理念から、人をほとんど配置せず、ゲストに自由気ままに滞在を楽しんで頂く〝セルフホスピタリティ〟という概念が誕生し、高単価を付けています。スタッフ含めて誰にも話しかけられない滞在は、プライバシーが保護され、心地よい時間を過ごせるという価値観を重視したためです。
私は平成生まれながら、古き良き世界観が好みで、ゴルフ場の玄関に旅館のような女将さんを立たせて会員様との日常会話を大事にしたい、とアナログの事例にも挑戦したいと思いつつ、時代の要請はデジタルに向かっておりますので、本稿ではデジタルへの取り組みや今後の展開を書き留めたいと思います。
3DとVRゴルフとの提携
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VRゴーグルとクラブデバイス[/caption]
先日、弊社3クラブ(ザ・クラシックゴルフ俱楽部・西日本カントリークラブ・佐賀クラシックゴルフ俱楽部)では、シミュレーションゴルフを展開する企業3社と業務提携を交わしました。
最初の提携企業は、本誌で既報されたゴルフゾン社との取り組みです。同社はシミュレーションゴルフの最大手で、ソフトには多くのゴルフ場映像が内蔵され、インドアでプレーを楽しめます。その映像に、弊倶楽部3コースを加え、街中のインドアで体験してもらう。九州以外の大都市圏でPRできるメリットがあります。現在、ドローンによるコース測量まで完了し、来年度には3コースが搭載される予定です。
その本誌記事を読んだ関係各社から問い合わせがあり、スカイトラック社や、NTTデータ社が関連するバーチャルリアリティー(VR)機器「EnonoGolf」とも業務提携を交わしました。多くのゴルファーが街中で日常的に弊社のコースを目にし、体験することは、言うまでもなく認知度向上につながり、中長期的に売上貢献となるであろうと考え、積極的に同領域の企業と連携しております。
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シミュレーション施設からゴルフ場への具体的な送客設計は、今後詳細を詰めますが、シミュレーターでプレーした後にスクリーン上にQRコードが表示され、それを読み込むと、ゴルフ場のプレー割引券が発行されるなどが想像できます。
それ以外では、新人キャディの教育に「EnonoGolf」のVRが有効ではないかと企んでおります。同社のVR映像は臨場感があり、実際にゴルフコースを訪れたような感覚になります。18歳の新人キャディにVRゴーグルを装着し、講師はPCで共有映像を見ながら、レイアウト説明やバンカーまでの距離等の指導を行う。グリーンのアンジュレーションは実際のコースで実践教育をした方が合理的だと思いますが、全体像の把握にはVRで十分でしょう。
異業種においても、航空機パイロット等、高度で専門的な業種はVRで訓練を行っているようです。これまでキャディは、独り立ちまでに3ヵ月以上の時間を要し、30度以上の気温の中、先輩キャディの背中を追って身体で覚え込ませました。しかし従来の教育スタイルは令和の若者には非常に厳しく、その緩和策の観点でもシミュレーションゴルフ領域との協業は可能性があるはずです。
ギグワーカーの活用
ゴルフ場事業の人手不足が深刻化する中、タイミー社のマッチングサイトを用いて、ギグワーカー(企業に所属せず短期・単発の仕事を請け負う)を労働戦力にする取り組みも進めています。
先般、ファストフードチェーンSUBWAYは店舗スタッフ全員がタイミーという気鋭な運営コンセプトを発表しましたが、マネジメントができる層を中核として、残りはAI・ギグワーカー・アウトソーシングといった組織図で運営する会社が年々増えると思われます。
弊社では、ゴルフ場のコース管理部門(建設業務は不可)と料飲部門でギグワーカーを積極活用しており、運営維持とコスト削減の一体化を目指します。ギグワーカーは従来の雇用形態と比べ、年間を通してみれば、10%程度人件費減少が見込めます。
そこで先頃、キャディをタイミーのサイトで募集しました。〝カートドライバー体験会〟という題目で「時給を払うので体験会に来てください」と謳うもの。1日3時間(時給1000~1100円)の拘束で、2時間はコースで先輩キャディに帯同し、残りの1時間はキャディの魅力や業務内容のオリエンテーション。タイミーはその場で採用スカウトが許されているプラットフォームなため、数名の採用にこぎつけました。
また、いきなりキャディとして採用すると負担が大きいので、業務範囲を制限したカートドライバー(カートの運転を主に行う)という職業を設け、来場者から同サービスについての感想を集めます。数日の研修で独り立ちするため、既存のキャディと比べれば見劣りすると思いますが、タイパを重視する令和の世代は3ヵ月の研修に耐えられないため、このような発想が必要かもしれません。ゴルフ場のあらゆる仕事がギグワーカーになっていく未来を予見しつつ、その波に対応できる体制を構築していきます。
コースにはアナログを残したい
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佐賀クラシックGCのウィッカーバスケット[/caption]
時代はデジタルに向かい、人と人との関係はより浅く瞬間的なものに変わっていく中で、せめてゴルフコースだけはアナログで情緒的かつ歴史的な価値観を継承したいと思っています。マスターズトーナメントのスコアボードが未だに電子掲示板にならない話は有名ですが、改めて委員会のセンスに共鳴いたします。
個人的な趣味の一環でウィッカーバスケットをつくり、パッティンググリーンに挿しています。数年前にスコットランドのプレストウィックGCで本場のバスケットを観たことがきっかけで、その制作を始めました。大半の社員と会員様は、
「無駄なものをつくって、仕方がないやつだ」
とあきれているかもしれませんが、ゴルフコースには、手間暇をかけて、クラフトマンシップを感じさせるアナログ的な価値観が似合うように思います。
デジタルの波に乗りつつ、アナログな世界観も忘れない。両立のゴルフ場運営を模索してまいります。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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