本年6月から「森林環境税」の徴収が、住民税の均等割に1000円上乗せする形で開始されます。ご存じでしょうか?
地球温暖化防止や災害防止に果たす森林の役割を、適正に管理生育することは極めて重要。そこで、パリ協定における我が国の目標を達成するために、2019年3月に森林経営管理制度とその財源を確保することを目的とした「森林環境税及び森林環境贈与に関する法律」が制定されました。この法律により、「森林環境税」と「森林環境譲与税」とが一対となって創設されたのです。
「森林環境税」は、低所得者層を除く約6200万人を対象に、国税として、地方税である個人の住民税の均等割りに一律1000円上乗せして徴税されます。そして、徴収された620億円は「森林環境譲与税」として、全国すべての都道府県や市町村に森林経営管理制度の財源として配分されます。その使途は、人材不足が顕著な森林管理を担う人材育成、森林の有する公益的機能に関する普及啓発、木材の利用促進などに使われるそうです。
人手不足や後継者の不在により、手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託を受け、林業に適した森林はより広い区画で地域の林業経営者に再委託されて経営の効率化を図るとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理します。
「森林環境譲与税」は、「森林環境税」の徴収に先行して2019年度から5年間で累計2000億円が国庫から各地方自治体へ配分されています。その配分基準は、私有林人工林の面積に応じた分が50%、人口に応じた分が30%、林業就業者数に応じた分が20%となっています。
そのため、私有林人工林の面積がゼロで、人口の多い渋谷区のような自治体にも配分されるため、全額を基金として積み立てられ、活用されていないケースもあります。このような場合は、公共施設などに国産木材の利用促進を図ることも施策の一つですが、遅れているようです。
配分基準は、2024年度より山間地への配分を手厚くするために森林面積に応じた分を55%に引き上げ、人口に応じた分を25%に引き下げる改正が行われることになっています。また、今般の「森林環境税」が制定される前に、37府県と横浜市においては森林の間伐事業や治山・都市緑化などを目的に、地方税としての森林環境税(個人住民税・法人住民税に上乗せ課税)が導入されているため、一部には二重課税ではとの指摘があります。さらに、東日本大震災の復興財源のための「復興特別住民税」が2023年度で終了するために、使途の変更だとの指摘もあります。
以上のような指摘のある「森林環境税」と「森林環境譲与税」ですが、森林が有する多面的機能のうち、物理的な機能を中心に貨幣評価が可能な一部の機能について、林野庁は年間評価額を次のように試算し、その重要性を強調しています。
土砂災害防止機能・土壌保全機能36.7兆円、地球温暖化防止機能1.4兆円、水源涵養機能29.8兆円、保健・レクリエーション機能2.2兆円です。
6月5日、国連の世界気象機関(WMO)は、今後5年間で産業革命以前からの気温上昇が1.5度に達する可能性が高いと発表しました。この気温上昇が定着すると、産業革命以前には10年に1回の頻度で起きていた異常気象が、熱波は4.1倍に、豪雨は1.5倍に増加するとしています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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