~本質はなんだ!論7~ オーバーツーリズムから考える持続可能性とは? 日本ゴルフ場経営者協会専務理事 大石順一

~本質はなんだ!論7~ オーバーツーリズムから考える持続可能性とは? 日本ゴルフ場経営者協会専務理事 大石順一
円安の進行によって外国人観光客が急増しています。これにより宿泊料金の急騰や、オーバーツーリズム絡みの社会問題など、多くの喧騒が起きていますが、私にはそれがバブル経済崩壊前のゴルフ場の賑わいや、ゴルフプレー料金の高騰と重なって見えます。ゴルフ業界の一員として、その活況が羨ましい反面、同じ轍は踏まないようにと思うこともあり、今回取り上げてみます。 日本政府観光局(JNTO)によると、今年3月~5月の3か月間は毎月300万人を超える外国人観光客が入国したとか。2023年10月以降はコロナ禍前を上回り、このまま推移すれば2019年の年間3188万人を超えることが確実視されています。ただ、月単位の入国者数は円安がさらに進行したにも係わらず、300万人を超えた段階で頭打ちになっています。受入れ側の人手不足による、供給不足が原因です。 昨年の外国人観光客の消費額は過去最高の5兆3000億円を達成し、経済活性化の原動力として重要性が増しています。観光庁の「宿泊旅行統計調査」によれば、5月の外国人の延宿泊数は2019年の同月比26.5%増でしたが、逆に日本人の延宿泊数は5.3%減で総数は横ばい、宿泊施設の稼働率はコロナ前を下回ったそうです。 宿泊業の就業者数は、2019年度の64万人でした。2021年度はコロナ禍の影響で51万人に減少し、コロナ収束後は他のサービス業を上回る賃上げなどで雇用の回復を図った結果、本年3月には59万人にまで回復したとのこと。しかし、旺盛な外国人需要を吸収できない状況となっているようです。 このような状況から、多くの宿泊事業者は、宿泊料金の値上げによって需要調整を図ろうとしています。昨年の5月以降、宿泊料金は消費者物価指数の上昇を上回る値上げとなっています。円安の恩恵により、訪日外国人観光客にとって値上げの一部は緩和されていますが、その恩恵を受けられない日本人観光客の消費マインドは冷え込んで、一部ではビジネス出張にも影響が出ています。 これを解消するために、外国人観光客の利用料金を日本人客よりも高く設定する「二重価格」が行われている。また、インフラのキャパオーバー、ルール無視の迷惑行為など、オーバーツーリズムが発生し、地方自治体がインフラ整備などを目的に「宿泊税」を導入するケースが広がっています。前月号で、国税として「森林環境税」が導入。その前に37府県が課税自主権で同様の地方税を制定していることを紹介したのでご参照下さい。 二重価格の根拠、課税自主権による新税、一部レジャー施設で導入され始めた有料優先利用制度など、ゴルフ界が抱える課題と同じような現象が見えています。 少子超高齢社会で人口減少の中、外国人観光客の需要によって賑わう観光業。しかし、その光景とゴルフ業界とを重ねて俯瞰すると、同じ過ちを犯す危うさを感じます。持続可能な企業の発展を考えた時、将来世代のニーズを損なうことなく現在世代のニーズを満たす視点での経営が不可欠になってくるはずです。 それを可能とするのが、個人の専門性と多様性とをマネイジメントし、個々人の可能性を開花させる発想です。すなわち、やり甲斐を持ち、感謝の心を忘れずに利他が循環し、チャレンジ精神に満ち、それぞれの個性が生かされた「人間中心の経営」=「ウェルビーイング経営」が、重要になると思います。 [surfing_other_article id=89970][/surfing_other_article] [surfing_other_article id=89543][/surfing_other_article]
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら