進むクーラー付きゴルフカートの普及
本連載2024年3月号において、ゴルフ場で最も熱くなる場所は「カートの座席」であることについて紹介した。当時は、PGMのクールカートにまだ目新しさを感じていたが、この2年弱で多くの企業からゴルフカート用クーラーが販売されゴルフ場での導入も進んでいる。
総プレー時間270分(4時間30分)のうち、実際に打っているのは2-3分であり、夏場のプレーでは日射を遮るためにカートに座っている時間が長くなっていることが考えられる。「カート内に涼しい風を送る」ことに関してはクーラーが解消してくれているが、カート内における暑さ対策の根本解決にはなっていない。
風で涼を感じても尻から熱せられている
暑熱下でのプレー中、キャディバッグからドライバーを抜き取ろうとした際「熱っ!」となった経験が1度はあるだろう。特に黒ヘッドの場合はそれを感じやすい。筆者らの調査では、気温39℃前後のプレー時におけるドライバーヘッドの温度は61.7℃になっていた。
前述のように、ドライバーヘッドよりも熱くなるのは「カートの座席」である。乗用カートの座面温度は70℃を越えており、ドライバーヘッドの温度よりも約10度(71.1℃)も高温になっていた。尻や腿裏は指先よりも熱さを感じ難いため、大半の人はショットを終えて、カートのシートにどっかりと着席し休息している「つもり」になっているかもしれないが、「実際」には尻から身体が熱せられて、座面の熱で体温を上昇させ逆効果になっている可能性も否めない。
ベビーカーにみる風の通りと蓄熱度合
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図1.ベビーカータイプと1時間走行時の平均温度(頭部周辺と足元周辺)[/caption]
ベビーカーには押す人と赤ちゃんが向かい合う「対面タイプ」と、背中側から押す「背面タイプ」の2種類が存在する。今夏、移動中のベビーカー内温度(60分間)を調べたところ、「対面型ベビーカー」の方が高温になった(図1)。
具体的には、対面型の頭部周辺温度の最大値が42.1℃、背面型では39.5℃であり、対面型の方が2.6℃も高温になっていた。60分間のデータ平均値で比較すると、背面型は36.6℃、対面型が38.3℃となっており、両者間の温度差(1.7℃)には統計学有意差(p<0.001)が認められた(図2)(図3)。この実験ではベビーカーを60分間押し続けたが、立ち止まりながらゆっくり進んだ場合、対面型と背面型の温度差はもっと開いた可能性がある。
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図2.赤ちゃんマネキンの頭部周辺平均温度の比較[/caption]
(実験条件:赤ちゃんマネキンを乗せた同型同色のベビーカーを同時に稼働。実験終了時のWBGTは30.7℃)
このように、「対面タイプ」は熱がこもりやすいため、ベビーカー用扇風機などで風を循環させ、温湿度を抑える工夫が必要であることを提言している。
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図3.ベビーカーの走行時における赤ちゃんマネキン頭部周辺温度の推移[/caption]
正面から風を浴びられる背面型ベビーカーの方が涼しい
ベビーカーの知見をゴルフカートに置き換えて考えてみたい。ゴルフカートの窓(フロントシールド)は打球事故防止のためのものであり基本的には開放しない。となると、背面型ベビーカーのように正面から風を浴びることはできないので、背面型ベビーカーと同じような熱籠りが生じる可能性が高い。
カートエアコンがそれを解消している場合はよいが、エアコンが設置されていないカートの場合や、4バッグプレー+キャディの乗車もある場合などは、当然蓄熱度合いが高まるだろう。
エアコンのないカートにはフロントシールド両側に小型扇風機を設置しよう
フロントシールドは閉まりっぱなしなので正面から風が浴びられない上に、シート(尻)から熱せられ、さらには乗車密度が高い場合は熱籠りも促進される。カートから降りれば猛暑の直射日光が降り注ぎ、暑さから逃れることなくプレー再開となっている場合が多いと思われる。安全上、フロントシールドを開けようと言う提言には問題があると思うので、「エアコンのないカートにはフロント両側に小型扇風機を設置し熱籠りを解消しよう」と提案したい。
・鈴木タケル、北 徹朗ほか(2023)猛暑日におけるゴルフ場内各場所やゴルフ用具の表面温度変化についての実態調査、ゴルフの科学Vol.36,
No.1,pp.40-41
・北 徹朗(2024)「急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策」(GMACセミナー2024:地球沸騰化時代、夏のゴルフを安全に楽しむには -ゴルフと環境とSDGsを徹底討論-、2024年3月9日発表資料)
・毎日新聞(2025)ベビーカーの対面型と背面型、どちらが暑い?実験を受けた対策は:
https://mainichi.jp/articles/20250810/k00/00m/040/209000c
(2025年8月13日配信記事)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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