薬機法改正をチャンスに! ゴルフ施設でも薬の取り扱いが可能に ゴルフハウス湘南代表 小森剛

薬機法改正をチャンスに! ゴルフ施設でも薬の取り扱いが可能に ゴルフハウス湘南代表 小森剛
「いててて~」コースでラウンド中に足がつってしまい、痛い思いをした人はいませんか? こんな時、足のつりに効くと言われる漢方薬、芍薬甘草湯がコースで買えたらと思う人は少なくないはず。日本の法律では、漢方薬の一部を含めた一般用医薬品(注1)、いわゆる「市販薬」を薬剤師等が常駐していない店舗で販売することは出来ませんでした。しかし今年5月、薬の取り扱いなどを定めた改正医薬品医療機器等法(通称、薬機法)(注2)が成立し、薬剤師等が常駐していない店舗でも、オンラインで薬剤師等の指導を受ければ、市販薬が買えるようになりました。つまり環境を整え、諸条件をクリアすれば、ゴルフ場や練習場でも市販薬をその場で買えるようになるわけです。今回は、この薬機法の改正について考えてみたいと思います。

ゴルフ施設で薬が買える

薬機法の改正について、神奈川の県西地域で薬局を4店舗運営している株式会社なかいまち薬局の代表取締役社長で薬剤師の漆畑俊哉先生にお話を伺いました。 「今回の薬機法の改正により、薬剤師等が常駐していない場所、例えばゴルフ場やコンビニ、駅や観光地などの施設でも、一定の案件を満たせば一般用医薬品の受渡しが可能となる、いわゆる『登録受渡店舗』に係る制度が整えられました。これによりゴルフ場や練習場などのゴルフ関連施設でも、この制度等を利用し、諸条件をクリアすれば市販薬を来場客にお渡しできます。キャディなど従業員の急な体調不良やケガにも即応できるので、メリットは大きいと思います」(漆畑先生) 具体的なイメージはこうです。ゴルフ場はあらかじめ同一都道府県内の薬局と提携し、その提携薬局が施設での市販薬の販売者となります。ゴルフ場内の売店やフロントなどの一角に、提携薬局から提供され、法令で取り扱いが認められた種類の市販薬を安全に保管。来場者が希望すれば、提携薬局の薬剤師等とオンラインで通話・相談しながら投薬(服薬)指導を受け、施設スタッフの仲介で市販薬を受け取ります。販売に関わる管理は全て提携する薬局側で行い、ゴルフ場は市販薬と代金の授受のみを行います。(図1) [caption id="attachment_90129" align="aligncenter" width="933"] (図1)「登録受渡店舗制度」による、ゴルフ関連施設での医薬品取り扱いイメージ
(資料協力:一般社団法人日本心不全薬学共創機構)[/caption] また、患者があらかじめ自宅などでオンラインによる薬剤師の投薬指導を受け、それを示す確認証(QRコード等)をメールで受け取り、それを提示して薬を受け取れる可能性もでてくるとのこと。(注3) この制度によるメリットは計り知れません。来場者や従業員の体調不良に即応できるだけでなく、「ゴルフ関連施設が健康・医療サービスを提供する場」になれるからです。

ゴルフ施設でニーズのある薬

薬局は全国でコンビニよりも多い6万2千店舗以上ありますが、それでも近くに薬局がなく、すぐに薬を買いに行けない「薬難民」も多いと聞きます。ところが地方や山間地ほどゴルフ場は多くあるため、薬難民救済の一助になり得ます。 ゴルフ練習場も同じです。むしろ住宅圏に近い練習場は、練習のついでに薬が買えたり、多忙で投薬(服薬)や健康指導を受けられない人にとって利便性が高いでしょう。 漆畑先生いわく、ゴルフ施設でニーズがありそうな薬は湿布や塗り薬などの外用鎮痛薬、足のつりや筋肉のけいれんを緩和する漢方薬である芍薬甘草湯。その他に胃腸薬、外傷用消毒薬、目薬などがスポーツ施設で需要が高いとか。 とはいえ、市販薬を扱うためにはいくつかのハードルがあります。 「薬機法で認められたとはいえ、都道府県への届出が必要で、施設側で陳列基準や温度管理などの保管基準などを満たす必要があります。また盗難防止や過剰摂取(オーバードーズ)、乱用対策など、薬機法で定められた厳格な管理体制を整備しなければなりません。何より同一都道府県内で管理店舗となる提携薬局と交渉・調整する必要があり、容易に出来るわけではないのです。薬による副作用や健康被害が生じた時に対応できる体制や、スタッフ教育なども求められるでしょう」(漆畑先生)(図2) [caption id="attachment_90130" align="aligncenter" width="788"] (図2)一般用医薬品の登録受渡店舗に係る制度の概要[/caption]

ゴルフ関連施設も蛻変を

先日、家電量販店を訪ねました。店名は「○○○電機」ですが、販売しているのは電化製品だけでなく、家具やインテリア、軽自動車まで。時代のニーズに合わせて進化してきた結果です。コンビニも同様。宅配便や公共料金の収納代行、銀行ATMの設置など、今や生活に欠かせないインフラに成長しました。 時代のニーズに合わせて、企業がサービス内容や業種、業態を変化させていくことを、私は「蛻変」と呼んでいます。蛻変とは、昆虫が卵から幼虫、蛹、そして成虫へと成長するにつれて姿かたちを変えていく様です。企業の成長も同じ。ゴルフ場も練習場も、ゴルフスクールも蛻変が必要です。その意味で薬機法の改正は、ゴルフ関連施設が「健康・医療サービスを提供できる場」に蛻変できる大きなチャンスです。 漆畑先生も期待を寄せています。 「法改正を機に、高齢化が進むゴルフ人口への安全配慮や利便性向上に寄与する新たなサービスモデルが創出されるのではと感じています。医薬品の提供・入手場所の拡大と遠隔管理による安全性の確保を両立させれば、スポーツ&レジャー産業とヘルスケア産業との多職種連携の広がりや、来場者の安心に大きく寄与するものと期待しています」 ゴルフは、参加人口の7割超が50歳以上のシニアスポーツ。そして今年、当連載で何度も触れた「2025年問題」が到来。怪我や疾患のリスクが高く、ケアが必要な年代層が多く利用するゴルフ関連施設で、タイムリーに薬が買える環境の整備は大きな安心につながります。薬機法の改正を機に、ゴルフ施設も「蛻変」することが求められます。 (注1) 一般用医薬品:薬局やドラッグストアなどで、医師の処方箋なしに購入できる医薬品のこと。カウンター越しに購入できることから「OTC(Over The Counter)医薬品」とも (注2) 医薬品医療機器等法(通称:薬機法)の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」 (注3) 改正薬機法に係る施行や要件等の詳細については今後変更になる可能性があります。具体的な事案は弁護士等の専門家に相談してください。 本記事に掲載したゴルフ関連施設での例などは、執筆時点での筆者の想定や見解を含みます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら