リコンセプト発想によるメンバーズラウンジの設置(ゾーニング) TPC社長 飯島敏郎

リコンセプト発想によるメンバーズラウンジの設置(ゾーニング) TPC社長 飯島敏郎
今回は、日本のゴルフ場におけるネーミング(名称)と実態のギャップについて考えてみたい。国内には2100超のゴルフコースがあるが、筆者は常々名称と運営実態の間に大きなギャップを感じている。 よく見かける名称には「〇〇カントリークラブ」「〇〇カンツリークラブ」「〇〇ゴルフクラブ」、さらには「クラブ」を「倶楽部」と漢字表記するものなど様々だ。しかし、名は体を表すものの、多くのゴルフ場経営者が自らの名称の意味を理解して、理念として組織運営に反映しているかといえば疑問がある。そこでまず、名称の由来と本来の意味を列記しよう。 ・カントリークラブ(Country Club)アメリカに起源を持ち、郊外にある会員制のスポーツ・社交の場のための施設。ゴルフだけでなくテニスやスカッシュなど複合的な交流の場として発展してきた。 ・カンツリークラブ:カントリークラブの和製英語的表現。意味は基本的に同一である。 ・ゴルフクラブ(Golf Club)イギリス式の表現で、純粋にゴルフ競技を楽しむための団体または施設をいう。 ・倶楽部:明治時代の翻訳文化から生まれた漢字表記で、格式や文化的重みを演出する意図があると解釈される。 しかし、これらの名称が意味する背景を知らずに「格式が高そうだから」「親しみやすい響きだから」といった理由で付けられている名称が多いのは、誠に残念だと筆者は思う。 以上の名称に加え「ソサイエティークラブ(Society Club)」もある。これは、特定の社会層を対象とした社交・交流を目的とするクラブであり、エクスクルーシブ(限定的)な性格を持つ。ゴルフも含まれるが、主眼は人間関係の構築にある。 日本のゴルフ場も、こうした名称の意味を十分に理解したうえで、ネーミングと運営が一致しているかを検証することが大事だと筆者は考えている。

日本のクラブ文化における社交性の欠如

現在の日本は階級社会ではないこともあり、クラブ名称が曖昧に扱われがちだが、それ以上に問題なのは、会員制を謳いながらも、会員同士の交流がほとんど見られないゴルフ場が大多数だという実態である。 予約が取れなかったバブル時代は「Tee Timeを確保するには会員になるしかない」という過度な需要があったが、現在はウェブで誰でも気軽に予約できる。さらにメンバーよりもビジター料金のほうが高いため、積極的にビジターを受け入れた結果、クラブ本来の社交性を軽視したパブリック的運営に陥っているゴルフ場も多い。 一方、近年評価を得ている新しい名門クラブは、エクスクルーシブな運営方針を取りながらも原点回帰の精神を保ち、バランスの取れた運営を行っている。ここで筆者が言う「バランス」とは、メンバーならではのメンバーになる意味を体現できるベネフィット(特権)が用意され、且つ、そのルールが厳格に守られゲストより羨望の眼差しを向けられるような環境のことである。 今後、ゴルフ場の価値を維持するためには、会員とビジターの明確な差別化が必要である。プレー料金の差だけではなく、社交性・特典・環境など、会員にしか得られない体験価値を提供することが、入会するモチベーションになるからだ。 近年は会員の高齢化により、休眠会員が増え、苦肉の策として「友の会」が普及している。友の会とは、年会費相当額を支払うことで、単年度ごとにメンバー料金に近い優遇料金でプレーできる制度である。メンバー向けの特典(ベネフィット)が明確に提示されていれば、休眠会員に代わって新たな入会者の予備軍となる可能性も十分に高いといえる。

リコンセプト発想によるメンバーズラウンジの提案

では、どのように実現するかだが、筆者は「メンバー専用ラウンジ」の設置を提案したい。クラブハウスには有効活用されていないスペースがあるが、そこを改装して、会員同士が自然に集い、挨拶やゴルフ談義、次回ラウンドの約束、クラブ競技や家族ぐるみの交流へと発展する場が自ずと生まれる。 また、交流の光景がビジターから見えることで「自分もあの場に加わりたい」という憧れを喚起できれば、新規入会の動機づけにもなる。 英米式のクラブでは、ロッカールームがそのような交流の場になっている。プライベート空間でありながら、同じクラブに所属している共通意識のもと、自然と信頼感が生まれる。R&Aのクラブハウスを訪れた際、そのロッカールームがまさに社交の場として機能していたことを鮮明に覚えている。 日本の場合はバブル期以降、ゲストとメンバーの「ロッカー差別」を撤廃する動きが顕著になった。接待する側が、会員となっているゴルフ場にゲストを招く際、会員のロッカーが贅沢なエリアで、接待されるゲストが質素なエリアでは、接待に不向きと思われたからだ。そのためホスピタリティ重視の制度・設備へと変化して、会員の「特別感」が失われた。 今後、クラブライフを充実させるためには、そのゴルフ場に入会する意味や価値を次世代に伝える必要がある。タイパ・コスパを重視する現代人にとって魅力的なクラブであるために、合理的かつ情緒的価値も提供できる施設が求められる。その意味でメンバーズラウンジの存在は、今後のクラブ運営において不可欠な要素になるはずだと筆者は考えている。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら