歩かないゴルフ:練習場での「ひたすらスイング」は筋トレになるか? 武蔵野美術大学教授 北徹朗

歩かないゴルフ:練習場での「ひたすらスイング」は筋トレになるか? 武蔵野美術大学教授 北徹朗

練習場での「ひたすらスイングの健康効果」に対する問題意識

一般的にゴルフ場での1ラウンドをカートに乗らずにプレーすると、おおよそ8〜10km程度になる。身長や歩幅にもよるが、1ラウンドの歩数は約13,000歩程度に相当し、適度な有酸素運動効果が得られる。このように、ゴルフの運動効果(健康効果)は、「ほぼウォーキング効果」である。 筆者の問題意識として、ゴルフ場のようには歩かない「練習場」で、ひたすら打ち放すことで何か健康効果が得られないものかと考えた。足の踏ん張り、クラブの重量、体重移動…等々を考えると、練習場でのスイングの反復は太もものエクササイズになるのではないか、そんなリサーチクエスチョンが思い浮かんだ。

加齢に伴い衰えるのが大腿筋群

太ももやお腹の筋肉は50歳頃以降、年1%ずつ減っていくとされている。また、下肢筋群の中でも、加齢によって最も衰えやすいのは太ももの前側の「大腿四頭筋」であることは多くの研究が明らかにしている。大腿四頭筋(大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋)は、主に膝の伸展で作用し、歩いたり走ったり、立ったりしゃがんだり、階段の上り下りなど、日常生活の様々な場面で役割を担っている(図1)。 [caption id="attachment_90558" align="aligncenter" width="660"] 図1.加齢に伴う筋量の変化(参考文献2より転載)[/caption] ただ、歩行の際に主に使われるのは下腿(膝から下)筋群であり、太ももへの強度はかなり低い。つまり、日常生活においては大腿部の筋肉はあまり使われておらず、歩くだけでは鍛えられない。そのため、スクワットなどの筋トレに代表される、下肢に刺激を加えるエクササイズを意識して行わない限り、大腿筋群は発達し難い。

ありがちな「太ももに効くおすすめ運動」はつまらない

前述の内容は一般的にもよく知られているため、簡易に行える太ももを鍛えるエクササイズが色々と推奨されるのを見かける。例えば、日常生活でできる「おすすめ運動」としてありがちな、椅子を使ったスクワットなど、これに類する手軽なエクササイズが多く提案される(図2)。 [caption id="attachment_90559" align="aligncenter" width="788"] 図2.ありがちな「おすすめ運動」の一例(作図:北 徹朗)[/caption] だが、こうしたエクササイズは効果があるにしても単調であるため、面白さは感じられにくい。

ゴルフ練習場での反復ショットは「爽快」「痛快」かつ「太ももの筋トレ」にもなる

以上の問題意識を踏まえて、2025年8月に群馬県のゴルフ練習場において、ショット練習時の筋活動データを収集・観察した。効果検証のために、代表的な自重トレーニングである「スクワット」と「フォワードランジ」(以下、筋トレ)のデータを収集し、その後、被験者(5名)のドライバーショット時のデータを収集した。具体的には、大腿直筋(ももの前側)と、大腿二頭筋長頭(ももの裏側)の筋電図データを収集した。 <大腿直筋(ももの前側)の活動> 筋トレ時の筋活動は図3のようであった。一般的に知られているとおり、動作の度にももの前側の活動が認められた。 [caption id="attachment_90560" align="aligncenter" width="788"] 図3.筋トレ時(スクワット/左、フォワードランジ/右)のももの前側の筋活動[/caption] 次にドライバーショット時のももの前側のデータを観察したところ、右脚の筋肉は殆ど使われていないが、フィニッシュで荷重する左脚には、筋トレには及ばないものの高いピークが認められた(図4)。 [caption id="attachment_90561" align="aligncenter" width="788"] 図4.ドライバーショット時のももの前側(大腿直筋)の筋活動[/caption] <大腿二頭筋長頭(ももの裏側)の活動> ももの裏側の筋活動は図5のようであった。データにも認められるように、筋トレだけではピークと積分が小さいことがわかる。このように、スクワットやフォワードランジはももの前側に特化したエクササイズであり、ももの裏にはほぼ効かない。 [caption id="attachment_90562" align="aligncenter" width="788"] 図5.筋トレ時(スクワット/左、フォワードランジ/右)のももの裏側の筋活動[/caption] 次にドライバーショットのデータを見ると、左右のもも裏ともにショットの度によく活動していた(図6)。 [caption id="attachment_90563" align="aligncenter" width="788"] 図6.ドライバーショット時のももの裏側(大腿二頭筋長頭)の筋活動[/caption]

まとめ

18ホール(約4時間30分)のうち、打っているのは2〜3分であり、その他の時間は、歩いて(移動して)いるか、考えているか、仲間のプレーを見ている時間である。そのため、ゴルフは「歩くスポーツ」と表現されることもあるが、ラウンドに伴う歩行動作においては下腿部の筋群が主に使われている。 ゴルフ練習場では歩行を伴わないものの、試行錯誤しながら夢中でひたすら打ち続けることで、下肢におけるエクササイズ効果が得られる可能性が高い。 具体的には、スクワットなどの筋トレと比べた場合、ももの前側においては、前脚(左脚)はスクワットなどには劣るものの、それに近い筋活動が観察された。例えば、ゴルフの練習法で左右打ちが推奨されることがあるが、これを実践することで、両足のももの前側もバランスよく鍛えられるのかもしれない。 また、ももの裏側の筋肉は、例えばレッグカールのような機械的負荷をかけないと鍛え難い部位だと思われる。その点において、ドライバーショット時の筋活動は、5名の被験者ともに筋トレ時よりも遥かにピークや積分が大きいことが観察された。 単調で面白さを感じられないエクササイズが多い中で、練習場でのショットの繰り返しは「爽快」「痛快」かつ「太腿の筋トレ」になる、優れたエクササイズであると言えるのではないか。

参考文献・参考資料

1)北 徹朗(2025)練習場での反復スイング練習は(大腿の)筋トレになるか?-表面筋電図による観察-、第1回日本ゴルフ学会関東支部サマーセミナー、2025年8月22日発表資料 2)福永哲夫(2024)貯筋®のススメ~使って貯めよう筋肉貯筋~、公益財団法人健康・体力づくり事業財団、https://www.health-net.or.jp/kensyu/library/pdf/r6_01_004.pdf(2025年9月18日確認)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら