「メディカルフィットネス」という言葉をご存じでしょうか。「メディカル(医療)」と「フィットネス(運動)」を併せた言葉で、1985年頃、ある医療機器メーカーが造語したそうです。現在このメディカルフィットネスは、「医療機関が運営するフィットネス施設」と「医療的要素を取り入れたフィットネス施設」の2つに大別されます。
前者は医療法第42条で定められた疾病予防運動施設(注1)で、医療法人が運営の母体となっている施設。後者は一般のフィットネスクラブやスポーツジム等に加え、整骨院や鍼灸院などの治療院、公共の運動施設などが医療機関と提携する等で医療的サービスを提供する施設です。
今回は「ゴルフ×医療連携」を考えるシリーズの第4弾。医療×運動を融合させたメディカルフィットネスを学んでみたいと思います。
メディカルフィットネスの研究や啓発活動を行う「日本メディカルフィットネス研究会」(以下、JMFS)という組織があります。公益財団法人日本健康スポーツ連盟(以下、健スポ)が運営しており、猫山宮尾病院併設のメディカルフィットネスCUORE(新潟県新潟市)のセンター長で医師の太田玉紀先生が会長を務め、13名の委員を中心に普及・啓発のためのフォーラムやセミナーを開催しています。(図1)
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(図1)公益財団法人日本健康スポーツ連盟主催で開催された「メディカルフィットネス・フォーム2025」[/caption]
2024年5月号の「インサイドストーリー」で、健康増進施設として国のお墨付きが貰える「健康増進施設認定制度」を紹介しました。健康増進施設は『健康増進のための運動を安全かつ適切に実施できる施設』と定義され、条件をクリアすれば厚生労働大臣に認定されます。健スポは、この「健康増進施設認定制度」の調査機関で、申請施設が条件を満たしているかを調査。認定された施設の中から、更に一定の条件を満たせば「指定運動療法施設」として認定され、医師の処方により同施設を利用して行った運動療法の費用は医療費控除対象となります。
今回お伝えするメディカルフィットネス施設は、この健康増進施設および指定運動療法施設の予備軍です。健スポは、厚生労働省が掲げる、国民の健康寿命延伸のための健康政策「健康日本21」に基づき、国民の健康推進や体力づくり、QOL向上に寄与する活動の一環として、メディカルフィットネス施設の普及に努めているというわけです。
その施設数は分かりませんが、健康増進施設は全国で373施設、うち指定運動療法施設は272施設(2025年8月12日現在)あるため、それ以上の数だと思われます。
ゴルフも学ぶべき協働診察
メディカルフィットネス施設運営の課題は、医師や看護師といった医療部門スタッフと、理学療法士や運動指導者などフィットネス部門との連携をスムーズに行うこと。この点について、外来心臓リハビリを専門とする「八王子みなみ野心臓リハビリテーションクリニック」(東京都八王子市)の院長、二階堂暁先生にお話を伺いました。二階堂先生は、JMFSの委員の一人で健スポにも関わり、医療とフィットネスをつなぐ活動に取り組まれています。
「多くの医療現場では、医師と患者が一対一で診療を行います。でも当院では、患者さん一人に対して複数の職種が同じ場に立ち会い、包括的に関わる『協働診察』を実践しています。協同ではなく協働、つまり協力し合って働くという意味です。医師や看護師は医学的知識やメディカル対応に強く、理学療法士や健康運動指導士は動作分析や運動プログラムの作成に長けています。
ただ、患者さんへの生活指導は運動や食事、日常生活上の工夫など領域が重なり合う部分が多い。よって『ここは自分の領域』『そこはあなたの領域』と線を引くのではなく、互いに専門分野・得意分野で患者をサポートしつつ、オーバーラップしながら関わっていきます。お互いが何をどう伝えているかを把握し、理解し、尊重し合い、齟齬がないようにしておくことが大切です」
そこで重要視するのがコミュニケーションだと、二階堂先生は語ります。筆者が診察を見学した際、その雰囲気は診察室というより座談会。患者が体組成計に乗り、体重や体脂肪率、筋肉量を測定。そのデータをもとに、前回からの生活習慣をスタッフと一緒に振り返り、改善策を患者本人と共に考えるスタイルです。
「このスタイルの最大の利点は、患者さんに必要な情報を、必要な時に適切な職種からタイムリーに伝えられるので、納得度も高く、行動変容が自然に生まれる。分業型だと『それは先生に』『理学療法士に』と縦割り行政的な流れになり、せっかくの好機を逃しかねない。それはとても勿体ないと思います」(図2)
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(図2)協働診察で医療情報を共有した理学療法士の指導の下で楽しく汗を流す(撮影場所:八王子みなみ野心臓リハビリテーションクリニック)[/caption]
患者さんにはメリットの多い協働診察。一見すると時間も人手もかかり、効率が悪いように見えますが、二階堂先生は逆だと指摘します。
「分業して情報を集め、あとで申し送りやカンファレンスをする方が、かえって時間も労力もかかり、情報の鮮度も薄れます。協働診察の方がむしろタイパが良いんです。さらに診察室そのものが学びの場になるので、わざわざ勉強会を開かなくても自ずと知識が共有され、スタッフ教育にも効率的な方法です」
最後に先生はこうまとめました。
「協働診察の本質は、病気だけを診るのでも、運動だけを診るのでもありません。その人の生活全般、そして人生に寄り添う姿勢を体現するスタイルなのです」
このスタイルは、練習場のゴルフスクールも参考にすべきです。練習場にはインストラクター以外にフロント、打席スタッフがおり、クラブ工房や飲食店を併設する施設もあります。各部門のスタッフが自分の持ち場だけではなく、連携し合い、包括的にサポートするのです。ゴルフスクールの役割は、ゴルフの上達だけではなく、お客様個々に寄り添い〝なりたい自分・ありたい自分〟に導き、健康で豊かな人生のお手伝いをすることなのですから。
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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