なぜゴルフは「18ホール」になったのか?
ゴルフはなぜ18ホールになったのか、の問いに対する有名な俗説に「1ホールにウイスキーをワンショットずつ飲みながらラウンドすると、18ホールくらいでウイスキーの小瓶の中身がなくなるタイミングだったから」と言うものがある。この説については否定論が一般的ではあるものの、逆に本当にそうではなかったことをしっかりと説明するエビデンスも示されてこなかった。
語り継がれてきた「ゴルフとウイスキー」を関連づけたエピソード
例えば、セントアンドリュース近郊には歴史あるウイスキー蒸留所が多いことや、「ハイボール」の語源についてもゴルファーがウイスキーをソーダで割って飲んでいた時、突然高く飛んできたゴルフボールがバーの屋根に当たったことが由来となり、ハイボールと呼ばれるようになったとも言われている(サントリーウェブサイト, 2025年10月30日確認)が、実際にゴルフとウイスキーが関連付けられるエピソードは幾つか語り継がれてきた。
日本語版では出版されていないが、2016年に出版された『Why are There Eighteen Holes?: St Andrews and the Evolution of Golf Courses 1764-1890』(Peter N. Lewis著)という文献に、18ホールの起源はウイスキー説であることを明確に否定するエビデンスが初めて示されているので、本稿においてその一部を紹介したい。なお、本稿の概要は第35回日本ゴルフ学会(2025年11月15日~16日、於:愛知県)で発表した。
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図1. 研究対象の文献
書名: Why are There Eighteen Holes?: St Andrews and the Evolution of Golf Courses 1764-1890(Peter N. Lewis著)
出版元: Royal & Ancient Golf Club of St Andrews(2016/3/1)[/caption]
著者Peter N. Lewis氏について
この文献によれば、Peter N. Lewis氏は、1988年~2009年まで、セントアンドリュースの英国ゴルフ博物館の館長を務め、その後R&A映画部門ディレクター、歴史研究部門ディレクターに就任している。こうした実務経歴に加え、イギリスプロゴルフの黎明期を調べたものやR&Aの歴史に関する書籍など、研究者としても多くの実績がある。
ゴルフが18ホールになったことの俗説
Peter N. Lewis氏は、なぜゴルフコースは18ホールになったのか、という問いに対して、通常よく見られる回答の1つ目としてウイスキー説を挙げ、この文献の中で次のように述べている。
1つ目の典型的な理由として、標準的なスコッチウイスキーのボトル1本には18ショットのウイスキーが入っており、ボトル1本分のウイスキーの量がコースのホール数と一致すると信じられていた。
そして、イギリス国内で発信されている情報を引用し、以下のようにも述べている。
www.lbc.co.ukでの典型的な回答では、1800年代にR&Aがオールドコースを18ホールに短縮したこと、そしてこれはスコッチのボトルに18ショットが入っていたためだ、という噂があることが読者に伝えられている。
同じサイト上の別の反応ではある年配の会員が「1858年のセント・アンドリュース・クラブ会員委員会の会話」を引用して話を誇張したとしている。この話はhttps://cybergolf.com/にも見られる。
R&A委員会の会議議事録の分析
Peter N. Lewis氏の調査では1857年と1858年のどちらの議事録にも、ゴルフコースのホール数について議論したR&A委員会の会議は開催されておらず、そのため「伝説のウイスキーのボトルについても言及されることはなかった」としている。
また、「ウイスキーボトルとオールドコースのホール数との関係について言及したR&Aの会議議事録は見つからなかった(一度もそのような話題が出されていない)」と論じ「ウイスキーボトルの話は歴史的事実にまったく基づくものではない」と断言している。
ウイスキー説は歴史的事実に基づいていない
著者(Peter N. Lewis氏)は、ゴルフが18ホールになった本当の理由(存在する史実に基づく公文書)としては「もともと22ホールだったセントアンドリュースのゴルフ場から4ホールが削られて18ホールが成立した」と言う経緯を挙げており、その裏付けとなるR&Aの議事録などを取り上げながら、ゴルフが現在の18ホールに至る複雑な背景を260ページ以上にも及ぶ著書において詳細に記述している。
こうした背景を論じる中で、『R&Aの会議においてウイスキーのボトルとオールドコースのホール数の関係について言及されたことは一度もない』ことと、『ウイスキーのボトルの話は歴史的事実に基づいていない』ことを明確に示している。
本書は国内外においてもあまり取り上げられてこなかったが、ゴルフが18ホールになった理由が「ウイスキーの小瓶の中身がなくなるタイミングだったから」と言う説を否定するエビデンスを示す唯一の文献である。
参考文献・参考資料
北 徹朗(2025)ゴルフが18ホールになった理由は「ウイスキーの小瓶の中身がなくなるタイミングだったから」と言う説を否定するエビデンス、ゴルフの科学Vol.38, No.1、pp.48-49
Peter N. Lewis(2016)Why are There Eighteen Holes?: St Andrews and the Evolution of Golf Courses 1764-1890、R&A/Royal & Ancient Golf Club of St Andrews
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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