ナショナルブランドのヤマハが、ゴルフ部品総合問屋の最大手・渡辺製作所と手を組み、ヘッドパーツ単体での販売強化に乗り出した。大手メーカーが完成品販売を主軸とする中、なぜ今、工房(リシャフトショップ)ルートへの本格参入を決めたのか。その背景には、ゴルファーの多様化するニーズと、それに応えきれない既存流通の課題があった。ヤマハ ゴルフHS事業推進部本村芳治部長、渡辺製作所 渡辺浩美社長に今回の提携の経緯と狙い、そして今後の展望について聞いた。
きっかけはGEWビジネス交流会 偶然の出会いから生まれた「必然」の提携

―この度は、ヤマハの『RMX(リミックス)』ヘッドパーツを渡辺製作所が取り扱うという、業界でも注目度の高い提携が実現しました。まずはその経緯からお聞かせください。
渡辺 きっかけは本当に偶然でした。ゴルフ用品界さんが主催されたビジネス交流会でのことです。たまたま席が近くなり、ヤマハさんからお声がけいただいたのが始まりでした。
本村 そうでしたね。実は我々としては、新しいことに挑戦しなければならないという強い危機感を持っていました。ヤマハは2013年からヘッド単体での販売を行ってきた実績がありますが、これまではその強みを十分に訴求しきれていなかったという反省があります。そこで、これまでお取引のなかった工房ルートに強みを持つ渡辺製作所さんに、「一度話を聞いていただけませんか」とアプローチさせていただいたのです。
渡辺 お話をいただいた時、私の中では「おっと、これは」と直感するものがありました。ヤマハさんがヘッド単体販売をされていることは知っていましたし、スリーブ販売も決定されていた。これをどう市場に広めていくかというタイミングでの出会いでしたから。
本村 おっしゃる通り、スリーブの機構が変わったことも大きな要因です。新しいスリーブを販売することで、過去のモデルを使用しているユーザー様も含めて、様々なシャフトを試していただきたい。ヘッド単体でお客様に最適なスペックを提供するという我々の特徴を広めるためには、工房様へのアプローチが不可欠だと判断し、スリーブ販売とヘッド単体販売の強化を決断しました。
「価値」伝達を新たな販路で

―過去にもヘッドパーツ販売はされていましたが、当時の課題はどういった点にあったのでしょうか。
本村 当初はヘッドとシャフトを別々に展示するという画期的な試みを行ったのですが、お客様が購入に踏み切れなかったり、ショップ側のオペレーションや仕入れが煩雑になったりと、なかなか浸透しませんでした。ヘッド単体の訴求の難しさに直面した、という感覚です。
渡辺 以前、他社メーカーさんが量販店でヘッド売りをした際も、ただ棚に置いてあるだけで店員さんの説明もなく、結局どう使えばいいのか分からずに市場から消えていった例がありました。しかし、工房は違います。工房の店主たちはゴルフのマニアであり、ヘッドの重量調整や特性について深く理解し、お客様に熱心に説明してくれます。
本村 まさにそこなんです。市場のトレンドが大きく変化しても、地クラブは根強い人気があるように感じています。それは工房様がお客様一人ひとりに合わせてフィッティングし、推奨しているからです。ヤマハのヘッドも、ロフト角やライ角の調整機能、豊富なカスタムシャフトへの対応など、本来は非常にマニアックな要素を持っています。この魅力は、従来の量販スタイルでは伝わりきらないのではないかと感じていました。
渡辺 当社の取引先である1500の工房様は、まさにそうした「街のシングルさん」たちが足繁く通う場所です。「このヘッドにはこのシャフトで、重さは何グラムで」とこだわる層が集まります。ヤマハさんのようなナショナルブランドが、そうしたコアなユーザーにアプローチできる販路として、私どものルートを使っていただくことは、非常に理にかなった「理想的な結婚」のような取り組みだと感じています。
業界随一のカスタム対応力と商品力

―具体的な商品展開についてお聞かせください。今回はドライバーヘッドがメインとなりますか。
渡辺 パーツとして販売するのはドライバーヘッドの『RMX DD』シリーズですが、フェアウェイウッドやユーティリティ、アイアンに関しても、カタログに掲載されている商品はすべて取り扱います。特に強調したいのは、ヤマハさんのカスタム対応の凄さです。
本村 ありがとうございます。実は我々の強みは、カスタムシャフトの対応幅と納期の速さにあります。現在、カスタムクラブは注文から最短3日で出荷しており、アイアンでも5日程度です。フジクラ、三菱ケミカル、USTマミヤ、グラファイトデザインに加え、アイアン用の日本シャフト、トゥルーテンパーなど。フレックスや重量を含めると300~400種類のシャフトに対応しています。これは業界でも最多クラスだと自負しています。
渡辺 この対応力は工房にとっても大きな武器になります。さらに素晴らしいのが、グリップの「同梱」対応です。通常、メーカーカスタムといえばグリップが装着された状態で届きますが、ヤマハさんはグリップを挿さずに同梱で送ってくれる対応をしてくれます。
―それは工房にとってはありがたいですね。
渡辺 その通りです。工房のお客様は下巻きテープの回数や巻き方にもこだわりますから、グリップが装着されていない状態で届けば、工房で最後の仕上げをお客様好みに完璧に行うことができます。ここまでわがままを聞いてくれるメーカーは他にはなかなかありません。
本村 お客様が届いたクラブのグリップをすぐに切って、自分の好きなものに交換するという話もよく聞きますからね(笑)。それなら最初から同梱にして、プロである工房様に仕上げていただくのがベストだと考えています。
カーボンフェースの進化と「楽しさ」の提供
―商品自体の性能についてはいかがでしょうか。
本村 今回の『RMX』はカーボンフェースを採用していますが、他社さんが4軸などのところ、我々は8軸のカーボンを使用しています。非常に細かく組み合わせることで反発エリアを広げています。また、フェースが軽くなることで余剰重量が生まれ、設計の自由度が高まりました。これにより、ウェイトポートの調整で性能を大きく変化させることが可能です。
―カーボンフェースというと、打感や打音を気にするユーザーも多いですが。
本村 そこは楽器メーカーとしてのこだわりで、徹底的にチューニングしています。言われなければカーボンだと分からない、チタンと同等の打感と打音を実現しています。また、個体差が出にくいのもカーボンフェースの特徴です。工業製品としての精度が非常に高く、全てのヘッドで高い反発性能を発揮できます。
渡辺 実際に工房様で試打をしていただいたお客様から、「とにかく楽しい」という声をいただいています。特に『DD2』などは、これまでスライスで悩んでいた方が「全くスライスしなくなった」と驚かれていました。「飛ぶ・飛ばない」以前に、スライスしないことがこんなに楽しいのかと。ゴルフを楽しくさせる、それが一番の魅力だと感じています。
本村 それは嬉しいですね。「楽しい」というのがスポーツの根底ですから。スライスに悩んでゴルフがつまらなくなっていた方が、このクラブでゴルフ愛を取り戻してくれるなら、メーカー冥利に尽きます。
新たな市場開拓と業界の活性化へ
―渡辺製作所としては、工房以外の販路も視野に入れているのでしょうか。
渡辺 はい。昨今増えているシミュレーションゴルフ施設や、インドアレッスンスタジオなど、これまで工房設備を持たなかった施設への訴求も考えています。ヤマハさんのヘッド単体やスリーブ付きシャフトの価格設定は、こうした施設でもビジネスとして勝負できる設定になっています。例えば、フジクラさんの『NX』シャフト単体の価格と、ヤマハさんのスリーブ・グリップ付きシャフトの価格差が非常に小さく、非常にお得感があるんです。
本村 価格設定については「間違ってるんじゃないか」とよく言われます(笑)。ですが、純正シャフトも含めて手は抜いていませんし、カスタムシャフトをお得に試していただきたいという戦略的な価格でもあります。インドア施設などでも、試打クラブを置いていただき、気に入ればその場でカスタムオーダーできるような仕組みが作れれば、市場はさらに広がると思います。
―最後に、既存の商流との兼ね合いや、今後の抱負についてお聞かせください。
本村 既存のお取引先様との関係はこれまで通り大切にしていきます。もし、既存のルートをお持ちのショップ様であれば、そちらを優先していただいて構いません。今回の渡辺製作所さんとの取り組みは、これまで我々の手が届かなかった場所、特に専門性の高い工房様や新しい形態の施設様に、ヤマハの価値を届けるための「新たな選択肢」が増えたと捉えていただければと思います。
渡辺 我々としても、既存の商流を横取りするつもりは毛頭ありません。あくまで選択肢の一つとして、業界全体で商品が回転し、活性化することが第一です。現在、海外ブランドが市場を席巻していますが、ユーザーの中には少し飽きがきている空気も感じます。円安の影響もあり、高品質な国産ブランドへの回帰のチャンスです。ヤマハさんのような技術力のあるナショナルブランドが、我々の顧客である「自分でいじりたい」「こだわりたい」という層に浸透すれば、必ずや定着すると確信しています。
本村 ありがとうございます。我々には工房ルートのノウハウがありませんので、渡辺製作所さんの力をお借りして、全国の工房様に「ヤマハのヘッドはいじり甲斐があるぞ」「面白いぞ」と伝えていきたい。そして、ゴルフ場や練習場で「このクラブいいんだよ」と語ってくれるコアなファンを一人でも多く増やしていきたいですね。
渡辺 我々もその期待に応えるべく、責任を持って対応させていただきます。これは単発の取り組みではなく、2年、3年、10年と続く長いお付き合いの中で、じっくりとファンを育てていきたいと考えています。
お問い合わせ:渡辺製作所
TEL03-5604-3361
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