2月25日、2020東京オリンピック・パラリンピックゴルフ競技の会場となる霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)が報道陣に公開された。
競技対策本部強化委員会の倉本昌弘委員長、小林浩美副委員長、企画準備委員会の中嶋常幸委員が東コースの3ホール(10、11、18番)をプレー。
組織委員会の担当者やグリーンキーパーらが出席して記者会見も行った。開催まで1年半を切った五輪ゴルフ競技。その現場を照らすと、様々な問題点が浮かび上がってきた。
頼みの綱は007
2月下旬ながら、この日の霞ヶ関は小春日和。倉本、小林、中嶋のベテランプロにとっては、暑からず寒からずの絶好のコンディションとなった。
わずか3ホールながら、3人は約100人の報道陣を前に「模範プレー」を披露。細葉高麗芝(ヒメコーライ)のフェアウェーに007(ダブルオーセブン)のグリーンも素晴らしい仕上がり。
かつて赤星四郎が設計陣の一人として名を連ね、名匠チャールズ・ヒュー・アリソンが改修したコースを惜しむ声が一部にはあるが、この日はそれが完全に封じられた。トム&ローガン・ファジオ親子が共同改修した東コースの仕上がりの素晴らしさばかりが、コース関係者からは強調された。
しかもIGF(国際ゴルフ連盟)の指示を受け、西コースの18番は大会用の練習場に改造された。東コースと同じヒメコーライの芝から打てる打席は横60ヤード、奥行き40ヤードもある。350ヤードのドライバーショットが練習可能だというからスゴイ。そのため従来の西18番は、現在パー3となっている。
すべては順調に進んでいるように見えるが、本番に向けて不安がないと言えば、それはウソになる。大会が行われるのは8月。間違いなく気温は40度超えとなるはずで、コース管理部のスタッフにとってこれが最大の敵となることは間違いない。
2017年7月23日付日本経済新聞サイエンス面に、埼玉県川越市が暑さ日本一の可能性があると報じられた。日本の最も暑い時期に、最も暑い場所で行われるのが五輪ゴルフだ。
品種改良が進み日本の猛暑にも耐えられる洋芝が育っているが、相手は生き物。自然との闘いに「絶対」はあり得ない。
コース管理部長で統括グリーンキーパーである東海林護氏の「期待半分、不安半分」の言葉がすべてを物語っている。残されている実践テストの場はひと夏のみ。厳しい戦いが待っている。
日本ジュニアがプレ五輪!?
運営サイドにとっては様々な実戦へのテスト、選手にしてみれば貴重な情報収集の場として、各競技に用意されるのが、俗にプレオリンピックと呼ばれるテストイベント。
自転車ロードレースのプレ五輪コースは一部短縮されたものになるが、それでも十分にタフなコースだという。リオでも同様のイベントが開催され、日本を含む15チームが参加。有名選手の多くが出場した。
屋外で行われる競技もマラソンは本番よりも約1か月遅れの9月15日、明治神宮外苑発着のマラソンGCで、トライアスロンは開催同時期の8月15~18日にお台場海浜公園での五輪予選大会がプレ五輪として行われる。
ところがゴルフは8月の14~16日とほぼ同じ時期ながら、日本ジュニア選手権がテストイベントとなるという。これには早くもブーイングが上がっている。実戦のテストにならないからだ。
芝に関してはテストイベントになるかもしれないが、もっと大事なものが試せない。対策を練らなければならないのは、酷暑の人体への影響だ。競技に携わる選手、キャディー、ギャラリー、ボランティアの健康いや命すら、確実に危険にさらされる。
特にギャラリー整理や駐車場の誘導など、過酷な条件で働くことが多くなりそうなのはボランティア。年齢層も幅広くなりそうで、よほどうまく暑さ対策をしないと、熱中症へまっしぐらだ。
しかし日本ジュニアがテストイベントとなると、はるかに規模が小さく、様々な問題をクリアするための参考になりようがない。
こうなってくると、酷暑の影響を表に出さないためにわざと大規模なイベントを回避したのではないか、と勘繰りたくもなって来る。この日、大会関係者はリオの時と違い、ほとんど欠場選手は出ない、とみていたが、本当にそうなのだろうか。
もしプレ五輪がここで行われ、その猛暑を体験したら、プレーを回避する選手が続出する可能性が高い。マスコミ関係者もその暑さを実感したら、こぞってその問題点を書き立てることだろう。
子供たちが危ない!
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猛暑といえばもう一つ、大きな問題がある。このクレージーな炎天下でのプレーを何年もの間、子供たちに強いている現実だ。
すでにシニアになっている日本ジュニア出場経験者もいる。倉本委員長はその代表だ。しかし当時と一つだけ違うことがある。地球温暖化が進行した今とは暑さが著しく違うことだ。
女子プロの辻梨恵などを育てた三觜喜一プロは自らのブログに「誰か死なないと分からないのか?」と題して、ジュニアゴルフの大会運営について批判の声を上げている。
「実は昨年、私の教え子がラウンドの途中で熱中症になり救急車で運ばれるという事がありました。日本ジュニアはカートを導入しているとのことですが、多くの大会で当たり前のように担ぎのプレーが行われています。毎年真っ赤な顔をして、汗だくで上がって来る現実を、協会のトップの人たちは分かっていない」と怒りを隠せない様子だった。
2015年8月5日に、60人が参加した霞ヶ関でのあるコンペでは、3人が熱中症で倒れた。この確率を当てはめれば当初関係者が語っていた1日2万5000人のギャラリーが入った場合、単純計算で1250人が発症することになってしまう。
そんな状況下、データも満足に取れないプレイベントを開催する意味はあるのか?