2020東京五輪ゴルフ競技「日本代表コーチの役割って何だ?」

2020東京五輪ゴルフ競技「日本代表コーチの役割って何だ?」
2020東京オリンピックゴルフ競技日本代表の女子コーチに服部道子(50)が決まった。代表のヘッドコーチ・丸山茂樹(49)とともに、地元開催の五輪でメダル獲得を目指すことになる。 だがコーチの役割を具体的に問われると「スポークスマン」だという。それならコーチなどと言わず広報官とでもいえばいいはずだが…。迷走が続く現場を照らす。

宮里藍の辞退から1年がかりでようやく決定

迷走。東京五輪・ゴルフ日本代表の女子コーチ選びは、この言葉通りの経緯を辿った。 宮里が候補に挙がったのは、2017年の引退直後。日本ゴルフ協会(JGA)オリンピックゴルフ競技対策本部の強化委員会委員長の倉本昌弘が、宮里に女子コーチ就任を要請すると明かしている。 ところが宮里は即答を避け、結局昨年の7月3日に辞退を表明。 「引退したばかりでコーチ経験がなく、まずはコーチングについて深く学んでいきたいと考えているところでの要請だった。今回はまだ難しいと判断するに至った」とその理由を説明している。 それから実に1年近く、女子コーチは決まらないまま時は過ぎた。6月26日になってようやく服部に決まり、正式に就任発表となったわけだ。 実は服部自身は、宮里のように返事を引き延ばしていたわけではない。小林浩美会長から要請を受けた翌日の夕方には、受諾を伝えている。
服部道子の話=小林会長からお電話をいただいて本当にびっくりして、内容を聞き返したくらいです。私で本当に良いのかと…。1日お時間をいただいたうえで、お返事をさせていただきました。コーチの役割は「スポークスマン」だと聞いております。しっかりとコミュニケーションを取って、選手がプレーしやすい環境を作りたい。
コーチがスポークスマン。それはコーチとは呼ばないのではないか?という素朴な疑問が湧く。 広報官でいいではないか。しかもこれ、宮里がコーチ就任を拒否した理由とも矛盾する。広報官でいいのなら、宮里がコーチングの勉強をするまでもない。だが男子の丸山ヘッドコーチまでが、同じようなセリフを口にするのだ。
丸山茂樹の話=リオの時と変わりなく、広報として、選手に求められることがあれば、即座に答えられるようにしたい。僕のモットーである、チームを明るく楽しく導くことだけは、頑張りたいと思っています。
実は女子コーチの必要性は、メダルゼロに終ったリオ五輪の大会中から、丸山が提唱していたことだという。女子選手と丸山のコミュニケーションは、ほとんど取れていなかったと、丸山自身が明かしている。
丸山茂樹の話=リオでは女子のコーチもやらせてもらったが、女性に対して、どこまで言ったらいいのか分からず、選手とのコミュニケーションが難しかった。リオでは小林さんに助けていただいたのですが、見きれない部分もあって、女子コーチが必要だと思いました。服部さんなら実績と言い、語学力の面でも問題なく、イチオシの存在だと思います。
つまりリオでは女子に対するコミュニケーション不足が露呈していたわけだ。その教訓を生かして女子コーチ探しを続けていたが、本命の宮里に逃げられ、実質五輪の開幕まで1年と迫った所で服部に落ち着いた。

実質的にコーチは必要ない構造

ゴルフは他の競技と違い、団体戦がない。個人戦でメダルを狙いにいくスタイルはリオと同じ。国としてメダルを争うという意識をほとんど持てない状況であることは確かだ。 しかも世界ランキングによって代表が正式に決まるのは大会の1か月前。世界の各ツアーが毎週のように行われるため、順位が大きく変動、代表選手がようやく絞られてくるのは来年の3月。 ポイントが僅差であれば、直前まで選手が入れ替わる可能性もある。五輪に対する準備期間など、ないも同然で、コーチが選手にできることなど、ほとんどない。この辺りの苦しい事情を、倉本強化委員長はこう明かす。
倉本の話=リオの時も沖縄で強化合宿を開いたが、そこに参加した選手の中から代表に選ばれてこなかった。選手には精神面とか、現場での対応でサポートして行くしかないと思っています。
結局のところ広報担当として機能していくしかない、というのが本音なのだ。
丸山の話=海外にいる松山(英樹)選手や代表に選ばれそうな選手とコミュニケーションを取るために、そう多くの時間を取れるわけではない。彼らを(五輪の会場の)霞ヶ関に呼んで、一緒にゴルフをするのは困難な状況。ぼくがテレビの解説などで海外に行ったときなどに、少しずつコミュニケーションを取る。それ以外の事をするとなると、相当キチッとしたスケジュールを立てないといけないので、難しいと思う。
地元開催で地の利を生かしてのメダル獲得が期待されるゴルフ日本代表チーム。だが結局のところは松山や畑岡奈紗をはじめとする選手たちの実力頼み。リオの二の舞にならないという保証は、どこにもない。 もしそうなった時、誰が責任を取るのか。その所在は、ハッキリしていない。実はリオの時も、メダルゼロの責任は、誰も取っていないのだ。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ用品界についてはこちら