2016年の5月号で産声を上げた当連載が、今月号で節目の50回に到達した。そこで今回は論客である大宅映子さんをお招きして記念対談が実現。
新型コロナウイルスの感染拡大により、今年のゴールデンウィークはステイホーム一色となった。その流れの中で「自粛警察」が生まれ「3密」とは最も遠いところにあるはずのゴルフが標的とされた。一体その根底に何があるのか。じっくりとうかがった。
練習場が自粛警察の標的に
小川:5月1日にJGA(日本ゴルフ協会)とJGRA(全日本ゴルフ練習場連盟)が、民放連に申し入れを行いました。自粛要請に応じないパチンコ店の入店待ちの行列と、盛況だった屋外のゴルフ練習場が満席となっている風景を結び付けて流す番組が多かったためです。
大宅:それはおかしいですね。ゴルフは(お互いに)くっついたら、危なくてクラブを振れませんよ。練習場は打席の間もあいているし、屋外であれば感染リスクは少ない。
室内の練習場は密室でプロから目の前でレッスンを受けるような場合は難しいと思いますが、屋外であればパチンコ店と結びつけること自体無理があると思います。
小川:それを似たようなものに見せるテクニックがあるんです。例えば打席で打っているゴルファーを手前から少しずらして撮影すると、ものすごく密集しているところで打っているように見えます。品川駅の映像もそうですよね。構内から出てくる通勤客を手前から取ると、前後の間隔は分かりませんから、ごった返しているように見えます。
練習場だけでなく、ゴルフ場の駐車場をヘリコプターから撮影して「満員です。こんなに来ています」とやってました。コースの方は上から見ればガラガラなのに。そもそもゴルフ場は自粛の対象から外れていますし、ゴルフ練習場も屋外であれば営業は可であるという判断が出ていました。一緒にすること自体に無理があるのは、制作する側も分かっているはずですが。
大宅:3月の頭でしたか、長女が「ゴルフに行くなんて、信じられない」って言いだしまして。うちの子供とは思えない(笑い)。オープンエアでやるんだし。お風呂に入らず、ご飯だってくっついて食べなければ、何の問題もない。そう言ったら「キャディーさんがクラブを何本も持って走るでしょ?」と来た。
霞ヶ関の会員が福井の感染第1号
小川:そのせいでセルフのスループレーが主流になりつつありますね。そういえばオリンピックの舞台となる霞ヶ関CC(埼玉)のメンバーさんが、福井県の感染者第1号になっています。福井県の上場企業の社長さんで、3月6日から8日まで出張で上京し最終日の8日に霞ヶ関でプレーしていました。その後12日に発熱して、出社もしていたのですが18日に新型コロナウイルスに感染していたことが判明。その日の夜に福井県知事が記者会見し、19日に霞ヶ関にも伝えられました。
3人の同伴競技者とキャディーさん1人が濃厚接触者として経過を観察されましたが体調を崩されるようなことはなかったとのことです。その後霞ヶ関は3月29日に雪でクローズしてからそのまま営業を見合わせていますが、コース側からは「これは感染者の発生とは関係がなく、あくまでこれからの感染者発生を防ぐための措置」と念を押されました。
名門の代名詞である関東7倶楽部(東京、程ヶ谷、霞ヶ関、相模、我孫子、鷹之台、小金井)はほぼ同じタイミングでクローズして行きました。
大宅:そういえば、夫も(霞ヶ関の)メンバーですが、ずっと行っていません(笑い)。そもそも世の中に100%安全というものはないわけです。危機管理というものは、リスクを最小限にするよう努力することです。ところがここのところ、蛇口を閉めてしまうようなことしかやらなかった。
これだけ共働きの人が多いのに、学校を閉鎖したらどうなるか、想像力が働かなかった? 子供が一日家にいることになったら、だれが面倒見る? 誰がご飯作るの? 給食やっている業者はどうするの? もう材料を仕込んでしまっていたのに。
小川:確かにこれが、混乱の源でしたね。私が取材した訪問介護の現場でも、看護師の方々が子供の世話をどうするか、困り果てた人が多かったと聞きました。
大宅:私たちの時代はクラスに60人もいたから、2部授業というのがあったんです。午前と午後に分けていた時代。
今回は密にしないように3部制という考え方も検討できました。クラスを3つに分けて、窓を開け放って、オーバー着て、ダウンジャケット着て授業をすればいい。そういうことを一切考えようともせずに、「誰も文句言わないだろ」っていうことでやってしまった。科学的リテラシーの低さを感じます。
私もゴルフを堂々とやりたい気はする。でもそうなると「大宅映子がゴルフをしてる!」となるから「やめておくか」という話になってしまう。
小川:難しいところですね。
一億総「仙人」
大宅:人間が動かなかったら、経済が動かないに決まっています。人間の一番大事なニーズであるところの人に会うこととか、話をする、移動する。楽しく過ごすなどを、今回安易にみんな投げ出してしまった。そのうえ、さあもっと縛って下さいって…。
私は自由が最も価値があるものだと思っています。オンラインで帰省して、親に会うなんて、冗談じゃないですよ。
小川:その通りですね。問題の根底にあるのは「外へ一歩も出るな」というところまで行ってしまったことのように思います。
大宅:これはもう、人間やめなさいって言っているのと同じこと。外もいけません、コンサートもいけません、映画に行ってもいけません、ゴルフしてもいけません、老若男女、1億総仙人。
コロナにならなくても、老人は家にいたら筋力落ちる一方ですよ。自宅の廊下を7万回、5キロ分歩いた方がいるそうですが…。そんなこと普通出来ないですよ。今の状況は「老人は早く死ね」と言われてるような気がしてなりません。
小川:楽しく歩くのにはゴルフが一番いいはずなのですが、どうしてゴルフはこんなに嫌われるのでしょうか。
大宅:不要不急の最たるもの、というイメージが一部にあるのは事実です。元々、日本のゴルフ文化は「社用」でしたから。会社のお金をお互い交互に出し合って、名門コースでプレーするのが、当たり前でしたよね。
誤球したら目くじら立てて怒るのに、OBのボールを平気でプレーしたり。会員権を高額で購入した人がいるとタイの人に話したら、ゴルフ場を買ったと思われました。
小川:ゴルフをやらない人には、そういうゴルフ文化が異様に映る。前に大宅さんも仰っていましたが、白いベルトをしたおじさんたちの、お金がかかるスポーツ、というイメージが根深いですね。
大宅:コードも緩くして、誰にでもできる身近なスポーツにしていく努力が必要です。もうちょっとアクセスが良い場所にあって、手軽にできるようにならないと。楽しいことだってわかってもらう努力をしないといけませんね。
小川:今回悪者になった首都圏の河川敷が、その条件に合いますね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。
訂正 6月12日7時50分
関東7倶楽部の「安孫子」は誤り、正しくは「我孫子」です。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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