移動に制限がかけられ、1か所に人を集めるイベントの開催も難しくなったウィズ・コロナの社会。毎年発表されている「都道府県魅力度ランキング」でも、観光意欲度が低下し、居住意欲度が上昇している。それはリモートワークの普及により、どこにでも住めるようになった証でもある。大都市への一極集中型から、地域分散型の社会に変化していくことも予感させる。郊外にあるゴルフ場に、さらなる追い風が吹く。
北関東3県の嘆き
すでにご存じの方も多いだろうが、「都道府県魅力度ランキング」について説明しておこう。
民間調査会社のブランド総合研究所が年1回行っているのがこのランキング。「地域ブランド調査」によるもので、47都道府県と国内1000の市区町村を対象に行われている。
その内容は認知度や魅力度、イメージなど全84項目からなる。調査期間は2020年6月24日から7月20日。全国の消費者3万1734人から有効回答を得た。
トップは北海道で12年連続。2位は京都府、3位は沖縄県と続く。しかしマスコミを賑わすのはどん尻グループで起きるドラマの数々。今年は栃木県が最下位に転落。前年まで7年連続で最下位に甘んじていた茨城県がついに脱出。42位まで浮上した。
今年は栃木県の福田富一知事がブランド総研に出向き、田中章雄社長に抗議。茨城の大井川和彦知事、40位と低迷が続く群馬の山本一太知事の北関東3県の「恨み節」が、多くのメディアに取り上げられている。
魅力度ランキングは、ゴルフ場が置かれている状況にもピッタリと当てはまる。栃木・群馬・茨城は、コロナ前から最も厳しい条件にさらされているエリア。首都圏のゴルファーにとっては帰りの渋滞もマイナス材料の一つ。遠出となれば4人で相乗りしてもガソリン代と高速代もかさむ。
ネット予約全盛の中、プレー代の安値競争が過熱。スループレーやセルフプレーを取り入れ、18ホールで3000円を切るコースまで登場していた。
しかしここまで来るとチキンレースも限界だ。3000円の中から人件費や光熱費、コースの維持管理費、ゴルフ場利用税、諸経費を差っ引いたら、いくらも残らない。経営を圧迫し、閉場に追い込まれるコースも少なくなかった。
ドーム型ホテルに泊まり、隣接する練習場は天然芝の上から打てる環境が充実していたスーパーゴルフCC益子C(栃木)や、サファリパークに隣接しグリーン脇から「ライオンが見えるゴルフ場」として知られていた21センチュリー富岡(群馬)などの名物コースも、惜しまれながら相次いでクローズしている。
そこにコロナウイルスの感染拡大である。4月、5月のゴルフ場の売り上げは4割減少が当たり前。広島の仙養ヶ原ゴルフクラブが6月1日に廃業を決めると、6月26日に埼玉の小川カントリークラブが民事再生法の適用を申請。岡山の日本原カンツリー倶楽部も6月30日に廃業に追い込まれた。一部報道では、いずれもコロナ禍が原因の一つに挙げられていた。
コロナが追い風になる
しかしここに来て、ゴルフ業界のコロナに対する「耐性」が注目を集めている。三密を避けられ、開放的なゴルフ場という空間でリフレッシュできる安全なスポーツとして見直されたのが原因だ。
実はもうひとつ、見逃せないプラス要素がある。移動距離の短さと、脱中心都市の動きだ。4月から5月にかけて起きていたのが「他県ナンバー狩り」という新種の〝自粛警察〟。商業施設の駐車場施設で他県ナンバーの車が、車体に傷をつけられる被害が発生していた。
だがゴルファーたちがプレーしているのは9割近くが自宅から半径30キロ以内であるという。これは日本ゴルフ場経営者協会(NGK)が行ったアンケートにより判明したもの。県をまたぐような遠出がはばかられるようになると、もともと地域密着型のレジャーであるゴルフに注目が集まったというワケだ。
しかもゴルフ場のほとんどが、都市部ではなく郊外に位置していることも追い風になる。冒頭に登場した都道府県魅力度ランキングの発信元・ブランド総研の田中章雄社長がこう語る。
「テレワークの普及によって、これからは脱東京という動きだけでなく、脱中心都市という動きが出てきます。東北で一人勝ちと言われる仙台だけでなく、名古屋、福岡などから、もっとノンビリと、過ごしやすいところに行きたいという傾向が表れています」。
すでにレジャーと仕事を両立させるワーケーション(ワークとバケーションを合体させた造語)の設備を整えているゴルフ場も増えてきた。山梨の小淵沢CCや長野のサニーCC、三重県の津CCなどは、すでにネット環境も整えて好評を博している。
前出の田中氏は、「魅力度ランキングへの影響度は、観光意欲度が一番大きかったんです。居住意欲度がその7掛け8掛けくらいの度合いで続いていました。でも今回、その差が縮まりました」と分析結果の一端を明かしてくれた。
観光という、移動が基本のレジャーにブレーキがかかった。その一方で住まいそのものを郊外に移し、仕事とレジャーを両立させる考え方が、改めて注目されていることの証明だろう。
首都圏のゴルファーにとって、ゴルフ場が遠いのは悩みのひとつ。郊外に住むことは、それだけゴルフ場との距離が縮まるということ。早朝や薄暮、スループレーなど、平日でもゴルフに出かけられる日常は、ゴルファーたちにとって理想の形であるに違いない。
北関東に住まいを移す人々が増えれば、首都圏からは遠距離であることで二の足を踏んでいたゴルファーが、コースに足を運ぶはず。企業努力の末に提示している低価格は、十分に魅力的なのだ。
そうなれば厳しい立場に追い込まれているゴルフ場が、息を吹き返すキッカケにもなるはず。
知事の皆様、都道府県魅力度ランキングにケチをつけている場合ではない。そんなことよりも首都圏から人々を移住させるために、インフラ整備と情報発信に注力するべきだ。
■小川朗の目
20代の未経験者が来ている、という声を、ゴルフ練習場の関係者からここのところよく聞く。
「グリップもアドレスも分からないまま、来ている若い人が多いですね」。感染リスクが低いスポーツという認識が、若い人々の間に浸透した
▼しかしせっかくゴルフに興味を持ってくれても、基本を教えてくれる人がいなければ、ろくに当たらずギブアップということも十分ありうる。興味を持って来てくれた20代を引き留めるためには、初心者向けの無料レッスンなど、思い切ったサービスが必要だろう
▼その一方で「70歳以上のゴルフ場への来場者数は、確実に減っています」(NGK・大石順一専務理事)。いくら感染の心配は少なくても、重症化リスクが高い年齢層は慎重にならざるを得ない
▼2025年には、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる。ゴルフ界を支えてきたこの世代が、今クラブを握らず、家にこもっていることは、ゴルフ界全体にとって大きなダメージとなる。デイサービス施設などにゴルフシミュレーターを増やしていくことが、団塊世代を元気にする近道に思える。
■プロフィール
小川 朗(おがわ・あきら)
山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、デイリースポーツ、日刊ゲンダイでも連載中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。「みんなの介護」にも連載し、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。自殺予防学会会員。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2021年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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