「あらゆるサービスを盛り込みます!」
全国139のゴルフ場を運営するPGMの田中耕太郎社長が宣言した。今年10月、銀座松竹スクエア(都内港区)に開業する「PGMゴルフアカデミー銀座(仮称)」のことだ。
2階フロアをすべて借り切り、面積は約180坪。郊外型のゴルフ量販店と同規模だから、銀座という土地柄を考えれば思い切った投資。
店内は一般用8打席、完全個室のVIPルームが2部屋のほか、最新のシミュレーター10台(ゴルフゾン製)と弾道計測器のトラックマンも2台導入する。
休憩ラウンジやプロショップ、クラブフィッティング関連の装備も揃える予定で、総力を傾けた店構えといえるだろう。田中社長の説明を聞こう。
「従来のインドアゴルフは、3種類に大別できると思います。具体的には①ゴルフバー、②レッスン集中型、③インドア練習場ですが、当社の銀座店はそうではなく、ゴルファーのすべての要望に応えられる施設を目指します。
初心者から上級者までのレッスンやフィッティングに加え、シミュレーションゴルフではグループでのラウンドを通じてゴルフ仲間づくりにも寄与したい。そういったコミュニティをベースにして、実際のコースでのコンペやレッスンも企画します。
また、系列コースのイベントや会員権情報の発信など、アンテナショップの役割も担います」
ゴルフ人口が減っているのは、誘い合う仲間がいないことも一因だが、昼間の人口密度が高い銀座で仲間づくりを応援するという。
同社は若手プロ50名(内女子プロ40名)と契約しており、彼らがレッスンを担当する。ゴルフインストラクター内藤雄士氏の協力を得て、独自の指導カリキュラムも作るという。
会員の3割超が70歳以上
ゴルフ場ビジネスは、コースへの来場者数と客単価が生命線。それがなぜ、銀座に直営店を開業することになったのか? 都市型ビジネスへの参入はリスクを伴うはずなのだが、踏み切った背景には深刻な高齢化があるという。
同社の系列139コースのうち会員制は約100コースで、総会員数は19万人。しかし、平均年齢は64歳と還暦を超え、さらに全体の3割超が70歳以上と深刻な高齢化に直面している。そのため、銀座への出店で「待ち」の商売から「攻め」に転じる必要があったという。
3割超の会員が数年後にゴルフをやめるとすれば、来場者は一気に激減する。これは悪夢などではなく、現実的な問題なのだ。
この点についてひとつの推論がある。ゴルフ産業研究を行う武蔵野美術大学の北徹朗准教授は、著書の「ゴルフ産業改革論」で次のように警鐘を鳴らす。
出生数が200万人を超えた年代は、団塊の世代(1947~1949年生れ)以降も、実は3年間(1950~1952年)にわたって続いている。
ゴルフ界に本当の危機が訪れるのは、出生数200万人台最後の年である1952年生まれの人が65歳を迎え、団塊の世代が健康寿命(71歳)に達する頃(2018年)以降になるのではないかと推測される。
出典:ゴルフ産業改革論
つまり、今年を皮切りにゴルフ人口が低減していくとの推測なのだ。
日本人の平均寿命は延びているが、肝心なのは健康でいられる「健康寿命」。その平均が71歳であり、これを超えると何らかの要因で健康を害してしまう。
ゴルフ市場は団塊の世代に支えられるが、この世代が健康寿命に達する今年以降が正念場になるという見方なのだ。
他の年代に比べて人口が多い団塊の世代は、仕事の一環としてゴルフを学んできた。カラオケ、麻雀、ゴルフがサラリーマンの「三種の神器」と言われ、上司が中古のクラブを部下に与え、レッスンやゴルフ場でのマナーも教育した。要するに「社会構造」そのものがゴルファーを育てた経緯がある。
その「システム」が崩れてしまい、近年ではパワハラが問題視されるなど、上司が部下にゴルフを強要できなくなった。そこでゴルフ界は自力でゴルファーを生み出そうと様々な創造策を講じてきたが、目立った成果はあげられていない。その意味で、PGMが出店する銀座店はゴルファー創造に向けた新たな挑戦に位置づけられる。
PGMの全包囲網型サービス

実は、同社はこれまで様々な施策を行っている。2016年10月にはインペリアルCC(茨城県)に屋外練習場を設けて底辺の拡大に挑戦しており、
「これ以外では日本一の規模を誇る桂ゴルフガーデン(北海道)でもスクール事業の強化と統一カリキュラムの作成を急いでます」(田中社長)
美浦GC(茨城県)でもウエッジのフィッティングを手掛けるなど、サービスの総合化を進めてきた。ゴルフ場の役割を多様的に捉え、ゴルファーの悩みをトータルで解決するための施設に脱皮しようと試みている。
今秋開業する「銀座店」は、その総本山の役割を担う。詳細は詰めている段階だが、極力敷居を下げる方針で、会員以外のスポット的な利用にも随時対応していく構えだという。銀座を拠点に集客して、系列コースに顧客を誘導することも念頭に置くことから、「ハブ空港」の位置づけでもありそうだ。