ピンといえば「元祖フィッティングメーカー」。本社は米アリゾナ州フェニックス、砂漠の街である。
西海岸に拠点を構えるキャロウェイやテーラーメイドに比べて地味な印象は拭えなかった。
それがここにきて、特に日本市場で破竹の快進撃を続けている。今年上半期、ツイストフェースの『M』シリーズやジェイルブレイクの『ローグ』が注目を集める中、一歩も引けを取らない強さを発揮した。
ピンゴルフジャパンの岡田健二副社長によれば、
「今年上半期、ピンは世界的に好調でしたが、日本の実績は前年同期比210%。予想以上の好調だし、他国と比べてもずば抜けていい」
同社は2017年度まで9期連続で増収を継続しており、よほど不測の事態が起きない限り「10期連続」は堅いといえる。その余勢を駆って7月中旬、都内会場で国内ツアー12勝を達成した『i200』の後継機種『i210』、飛び系ブレードアイアンの『i500』などを発表した。まずはその様子をショート動画で。
岡田副社長も驚いた上半期の快進撃
『G400』が起点となった210%
岡田副社長は「210%越えは予想しなかった結果」と前置きしながら、快進撃のスタートは昨年9月発売の『G400』シリーズが起点だったと分析する。『G400』シリーズは発売直後から好調に推移したが、3ヶ月後には一時需要が落ち着く。
そのタイミングの3月に『G400 MAX』ドライバーを追加発売したことによって『G400』シリーズが再度注目を浴び、6月には発売後10ヶ月目にして、『G400』シリーズのドライバーがトップシェアを奪取。それに加え、4月に飛び系アイアン『G700』を投入したことも追い風になったという。
『i200』はやっぱり愛ちゃん効果
実はもうひとつ『G400』『G700』とは異なる流れもあった。昨年3月に発売したアイアン『i200』の存在だ。同社契約プロの鈴木愛が昨季賞金女王を獲得。それがメディアでの登場頻度を高めたという分析。つまり「愛ちゃん効果」である。
それもあってか、『i200』は発売後9ヶ月目の昨年11月に発売月を超える本数を出荷。「旧兵」の活躍が今年上半期の好調に寄与したという。
今期プラス成長なら10年連続
価格競争に陥らない長期にわたるフィッティングビジネス
ところで、「10期連続」の昨対アップとなれば、ゴルフ業界だけではなく、他業界にもあまり例がないのではないか。総じて上り調子のIT系ではなく、物作りのメーカで10年連続を視野に入れることの意味は大きい。
米ピン社は、非上場のファミリーカンパニーであり、現在は三代目のジョン・k・ソルハイムCEОが経営の舵取りを担っている。外部株主の声を気にすることなく、長期的な視野で開発に取り組めるのが持ち味だ。短期の業績に一喜一憂する必要がない。
日本市場においても、取引店の販売員を公認フィッターとして育成し、カスタムフィッティングの拠点を地道に増やしてきた。国内の専門店は長引く値引き競争に辟易しており、値引きよりもフィッティングによる適正利益の確保に懸命。
そんな市場トレンドも同社にとって追い風となった。
流通販路を一気に広げないコツコツ戦略のピン
とはいえ、そんなコツコツ作戦も、この機を捉えて拡大戦略に転じたい誘惑はないのか? 市場シェアを高めれば、価格設定の主導権を含めて流通戦略を有利に進められる。この点について岡田副社長は……。
新ジャンルと謳う飛び系ブレード『i500』は市場の穴を見つけた!?
ライバル不在の飛び系ブレード『i500』
今回の注目商品は同社が「新ジャンル」と強調する「飛び系ブレードアイアン」の『i500』だ。
「他社の飛び系はキャビティ構造。シャープなブレードタイプでの飛び系は市場にありません」
これが新ジャンルを主張する理由だとか。中空構造ながらシャープな見た目で、マッスルバックに馴染んだ中高年層の「若返りアイテム」に位置づけている。開発の背景には、同社が予想しなかった大型ヘッドの飛び系アイアン『G700』の販売動向を分析した上での気づきがあったことに加え、本社の三代目社長が日本に3年ほど常駐し、日常生活から日本の文化を学んだことも大きかったという。
日本の社長も務めた三代目が「八百屋」で学んだこと
ピンは、創業者のカーステン・ソルハイム氏が自宅のガレージで箱型のパターを製作したことに発祥する。
「周辺重量配分設計」に着目したもので、以来同社は、機能的だが武骨な形状が特徴で、スタイリッシュな物作りとは無縁だった。
ところが近年はデザイン性にも注力しており、昨年米本社のトップに就任したジョン・K・ソルハイム氏が日本で学んだことを注入しているのだとか。三代目は日本で何を学んだのか?