日本シャフトのスチールシャフトブランド『N.S.PRO MODUS³』(モーダス3)シリーズが今年、累計販売本数1000万本を突破した。今や世界中のプロ、アマチュアゴルファーに支持される同シリーズだが、どのような道程を歩んできたのだろうか?
同社の沖田暢善専務を始め、ピンゴルフジャパンの安齋伸広氏、小池ゴルフ製作所の小池義幸氏の3名に、それぞれから見た『モーダス3』のブランドストーリーを聞いた。
日本シャフト 取締役専務執行役員 営業部 部長 沖田暢善氏
沖田専務は『モーダス3』シリーズ誕生の立役者だ。いかにして同ブランドを大ヒットに導いたのだろうか?そのエピソードを聞いた。
まずは『モーダス3』誕生の経緯を教えてください。
「始まりは2007年、私は親会社の日本発条から日本シャフトに異動しました。1年間の研修を経て翌年7月に営業部長を拝命するわけですが、当時の社長から言われたことが『どれだけ予算投下しても良い。米国市場、とりわけ競合他社を含むスチールシャフト市場を徹底調査せよ』ということでした。その1か月後に渡米、調査会社への本格的な調査依頼と共にクラブメーカー、代理店やショップを全て回って、北米のスチール市場をデータ化したのです」
当時の御社(NS)のシェアは?
「たった8~9%。一方、トゥルーテンパー(TT)の『ダイナミックゴールド』(DG)は80%。PGAショーでは日系メーカーでさえNSを挿したクラブを展示していないという有様でした」
ほぼゼロからのスタートですね。
「ただ、現地のゴルファーに『DG』を使っている理由を聞くと、『子供の頃から使ってきたから』という答えでした。つまり選択肢がなかっただけなんです。現実的な数字を突き付けられた一方、これはチャンスだと思いました。
帰国後の10月、駒ケ根工場にアメリカ、イギリス、オーストラリアの全代理店に集まってもらい作戦会議をしたところ、『製品は良いが売り方が下手』とボロクソに言われましてね。実はそれ以前にも重量帯スチールで北米市場に挑戦したことがあったんですが、戦略がないのでうまくいかなかった経緯があるんですよ」
コンセプトが明確じゃなかった?
「はい。そこで当社が行きついた結論は、PGAツアーでの認知度をどれだけ上げるかがポイントで、そのためには優秀なツアーレップを雇う必要があるということでした。翌年2009年の6月、外資メーカーのツアーレップ経験のあるベテランのリー・オイヤー氏と面接。これが『モーダス3』ブランドが成功した第一の要因でした」
その時話した内容はどういうものだったのですか?
「私がリーに伝えたことは、『2年以内に30人のPGAツアープレーヤーを獲得してほしい』ということ。そうしたら彼から『PGAを舐めるな!』と一喝されましてね(笑)。ただし1年目は3人、2年目は10人までだったら約束できると言われました。その正直な人柄が信用できると思い、採用することになったのです。
そして7月に130~135gの一番重いシャフトをPGAツアーに持ち込みテストしてもらいましたが、リーから、硬くて重いだけのシャフトは使われないと一蹴されましてね。そこで、5~6種類の様々な剛性分布の試作品を作り、何度も持ち込みました。約1年間のテストで提供したシャフトは実に2万本に及んでいました」
それだけ作ってもほとんど納得してもらえなかった?
「はい。その時の試作品はまだ倉庫に眠ってるんじゃないかな(笑)。ただ、その中で最も変わったEI曲線の、コードネーム『DP』(デュアルプロファイル)と呼んでいた試作品があったんですね。私達も作ったはいいけど、変なシャフトだと思っていたんです。
ところがこれが受けましてね。中間が軟らかいのに先が異常に硬い。リストターンでもボディーターンでもどちらのスイングタイプにもフィットして、ヘッドスピードが遅くても速くてもそれなりの弾道が得られる。まさに『二面性』があると。リーも『これは世界で日本シャフトにしかできない技術だ! 絶対に売れるから商品化してくれ』と太鼓判を押してくれました。日本からは反対の声もあったのですが、彼の言葉を信じて商品化に踏み切ったわけです」
それが、『モーダス3 ツアー120』(モーダス120)というわけですね?
「はい。ブランド名やロゴも紆余曲折あったのですが、『左右』、『縦距離』、『スピン量』の3要素を自在にコントロールできるシャフトと言う意味で『モーダス』(ラテン語で『モード(要素)』の意)と名付けました」
この『モーダス3』の「3」の表記が小さいのはどうしてですか?
「これは3乗という意味なんです。つまり3つの要素を3次元で実現できるという意味を込めています。ロゴも日本のシャフトメーカーということを意識して、赤を使い派手なデザインにしました。その後、11月にアメリカで発売、翌年の2011年3月にジャパンゴルフフェアで『PGAツアー御用達』と銘打ってお披露目したという経緯です」
その後、徐々に北米で広がっていったというわけですね。
「はい。それと同年9月には、英国代理店からの紹介で、マイク・ペリーというヨーロッパのツアーレップを採用できたことで、『モーダス3』を欧州にも広げることができました。これも一つ大きな要素ですね」
全5モデルの完成
「2012年の全米オープン会場で、リーから『高弾道&低スピン』のシャフトがほしいと言われました。PGAのプロはスピンがかかり過ぎてしまうとグリーンに着弾後にバックスピンで戻ってしまうので、スピンは抑えつつも、高さで止めたいという逆行する要望でした。これも幾度となくテストを繰り返し、実現させたのが『モーダス130』です。このモデルは2017年のマスターズ優勝プロも未だに愛用してくれています」
『130』は「逆輸入!」の触れ込みでしたね。
「はい。次に当社が挑戦したのは『DG』にガチンコでぶつけるモデルの開発でした。これは同時に日本の男子プロをターゲットにしたものでもありました。当時の男子プロは圧倒的に『DG』で、『モーダス3』はまだ3~4名ほどしか使用していなかった。ですので、EIも『DG』に近づけ、さらにそこに当社ならではの味付けをしたモデルを投入したのです。
味付けとは?
「シャフトの好きな箇所の硬度を自由に変えられる熱処理技術『MHTテクノロジー』がそれです。同時に男子プロに精通したツアーレップの江見和宏氏と契約し、池田勇太始め男子ツアーに広がっていきました。実際に使用プロからは、『逆球が出ない』、『自分の思う球が打てる』と好評でした」
それが『モーダス システム3 125』ですね。男子プロの今のシェアは?
「男子ツアープロで、30%のシェアを獲れています」
順風満帆ですね。
「そう見えますが、実は2008年のリーマン・ショックやそれに起因する円高による輸出停滞の影響で、2011年~2014年の売り上げはかなり低迷していました。そんな危機的状況の中で、転機になったのが2015年発売の『モーダス105』のグローバル採用でした」
PINGがアイアン2種で採用しましたね。
「はい。北米での初プロパー採用ということで社内も湧き上がりました。翌年の2016年には『120』の使用プロが全英オープンを制覇、池田勇太の賞金王、2017年には前出の『130』使用プロがマスターズ制覇、日本の使用男子プロが賞金王と嬉しいニュースが重なり、2017年には過去最高の売り上げを達成。2018年、2019年とほかの外資メーカーからも受注できました。『105』によって、一般のユーザーにも『モーダス3』を浸透させることができたのは大きかったですね」
そして今年発売した『115』は『モーダス3』の「集大成」の位置付けだと聞きました。
「はい。『モーダス3』には『120』、『130』などの特徴的な挙動をする『0シリーズ』と、『105』や『125』のトラディショナルな特性の『5シリーズ』があります。ドライバーシャフトの主流が50〜60g台になってきた中で、『115』はまさしくそこにマッチする重量帯のスタンダードという意味で『集大成』と位置付けました」
これからの『モーダス3』
今後の『モーダス3』について聞かせてください。
「昨年、米国で行われたある外資メーカーのフィッティングセレモニーで、嬉しいことに現地の一般ユーザーから『NSのシャフトが入ったクラブをなぜ出さないのか?』という質問があったようです。それだけ当社のブランドが浸透してきたということ。北米でのシェアは2019年時点で18%まで達していますが、これを2023年度末までに25%まで持っていくのが目標です。
また、まもなく『950GH』が累計販売数4500万本に到達しますので、同様に『モーダス3』もロングセラーシャフトにしていきたい。日本市場においては、当社のスチールが75%のシェア(GFK調べ)を獲れていますが、まだまだ拡大する余地があると思っています。
それと、生産キャパを拡大するべく、2023年度中を目標に駒ケ根工場を増設します」
新しいモデルの予定はありますか?
「まだ詳しくは言えませんが、2~3年前から取り組んでいる特許申請中のモデルがあります。今、PGAのフィードバックを集めている最中なので、その声次第では商品化を考えています。それと、今年末から来年頭にかけて、あるクラブメーカー限定のモデルを出す予定です。これも非常に面白いシャフトになっているので注目してほしいですね」
最後に、『モーダス3』が御社とゴルフ業界にもたらしたものは何だと思いますか?
「ゴルフ業界に対してはシャフトブランドを使って新製品を売るという考え方をもたらすことができたのではないでしょうか?
社内的には2015年以降右肩上がりの業績を牽引するブランドに成長してくれたことと、部品メーカーにとっても『ブランド力』が重要だということを親会社やグループ会社、社内に浸透させられたと思います。ブランドに対する取り組み方は『ゼロス』や『neo』シリーズにも活きています。今後も、ブランド力をグローバルで広げつつ、日本シャフトなら品質含め問題ないという信頼感を大切にしていきたいですね」
ピンゴルフジャパン プロダクト マーケティング マネージャー 安齋伸広氏
PINGは『モーダス3』を外資メーカーで初めて北米展開でプロパー採用した。同社は一貫してフィッティングを重視しており、ヘッドとシャフトのマッチングに早くから注力してきた。ヘッドメーカーにとって『モーダス3』はどう映るのだろうか? 同社の安齋氏に聞いた。
まずは『モーダス3』上市時の印象を聞かせて下さい。
「当社は2015年秋に『モーダス105』を採用するわけですが、実はそれ以前から、ツアー選手の間で『105』が話題になっているという情報を得ていました。当時のPGAでは重くて硬めのスチールが主流でしたが、同シャフトは軽量かつツアー向けモデルで、求める弾道が打てるシャフトとのこと。既に20名以上の選手がテストしているため、アメリカの開発チームの間でも注目していました。早速、新商品でテストしたところ結果が良く、迷わず採用したという経緯です」
決め手は何だったのですか?
「当時、『105』に加えて『120』も採用になったのですが、この2モデルは全く性質が異なっていて、フィッティングをする中で性格の違いを出してくれたのです。ヘッドスピードやレベルというよりも、スイングタイプに応じて棲み分けできるので、結果的に両モデルで万人をカバーできる」
御社なりの棲み分けは?
「一例ですが、切り返しが速い、上から打ち込むなどのタイプは『105』。ドライバーのシャフトが軟らかめ、ウッドとのマッチングを重視するなどの方は『120』といった形です。当社はハイブリッドのフィッティングも注力しますが、ウッドからの流れでいくか、アイアンからの流れでいくかはゴルファーによって違います。『モーダス3』はその両方に対応できるモデルをラインアップしているので信頼できます」
『モーダス115』についてはいかがでしょう?
「『105』と『120』の間に位置するモデルという認識です。フィッティングした結果、選ばれるシャフトの比率はカーボン25%に対して、スチールが75%。その内『モーダス3』シリーズは2割弱を占めます。中でもアイアンセットに選ばれるのはダントツで『105』ですが、『115』はスインガータイプや、ショートアイアンに安定性やコントロール性を求めるゴルファーに選ばれています。その証拠に『115』をウエッジに挿す方が多いんです。当社のアイアンのヘッドタイプもバリエーションが増えている中で、そこにしっかりと入ってきてくれるのはありがたいですね」
『125』や『130』が標準採用になっていませんが、御社の中での位置付けは?
「重量面の理由が大きいです。この2モデルはやはりトップアマやツアープロの人気が高く、特に『125』は当社契約のPGAプロも多く使用していますね。とは言え、フィッティングして合う方にはアップチャージでカスタム対応もしていますし、将来的には標準バリエーションとして対応していくことも検討しています」
今後、こんな『モーダス3』が欲しいというような要望は?
「現時点で既に豊富なバリエーションがありますので難しい質問ですね。軽量帯は『950neo』などがカバーしてくれています。『モーダス105』と『950neo』の2モデルで、多くの幅広い方にマッチングできますので」
最後に御社から見た日本シャフトについて聞かせて下さい。
「以前、駒ケ根工場を訪問したことがありますが、品質や精度の高さを改めて目の当たりにし、安心して提供できると思いました。市場や一般ゴルファーを日本シャフトさんなりに分析し、独自性の強い製品を出している。それと、コロナという今まで経験したことのない状況の中でも、供給面含め最大限サポートしてくれました。今後もパートナーとして、良い関係で協力体制を築いていきたいと思っています」
小池ゴルフ製作所 ゴルフクラブアドバイザー 小池義幸氏
埼玉県行田市にある小池ゴルフ製作所の小池義幸氏は工房マン歴56年の職人だ。工房として数多くのスチールシャフトに接してきた大ベテラン。その目に映る『モーダス3』を聞いた。
まずは小池さんが見てきたスチール市場の変遷を聞かせて下さい。
「工房マン歴50年以上の中でスチールシャフトを見ると、やはり当初はステップダウンという考え方で『ダイナミック』が支持され、40年以上天下を取っていたという印象です。その間、日本シャフトも『オレンジ』や『ブルー』という重量帯を出しましたが、やはり『ダイナミック』には勝てなかった。一方、TTもスチールを薄くして軽量化を図った『DGプラス』という軽量帯を出しましたが、使うと結果が出ない。結局、スチールは『ダイナミック』に落ち着いていました。
そんな時に出たのが『950GH』でした。日本シャフトは単に薄くするだけではなく、材質の改良と変化で軽量化した。これが易しくてバネと粘りがあって今までと違うということで、次第にスチールのシェアを占めていきました。日本シャフトの技術の勝利ですね。どうして20年前に出さなかったんだと当時は思ったものですよ」
とは言え、相変わらず重量帯は『DG』一択だった。
「ところが今度は日本シャフトが『モーダス120』を出してきたんですね。重めだけど、軟らかくて『950GH』と同じ粘り感を入れてきた。さらに重めで力のある方に『130』、『DG』に近い特性の『125』と立て続けに出した。これで選択肢が一気に広がりましてね。何せ『950GH』の繋がりもあって受け入れられやすいイメージの重量スチールだったから支持された。特に『120』は中間が軟らかくて先と元が硬いから、合う方が多いんです。私はこれを『スイングで打てる』と言っているんですが、粘りがあって軟らかくて易しい」
「スイングで打てる」とは?
「ボディーターンやボディースイングで打てるということです。手が遅れて、シャフトが後からついてくるスイングで、流れでスムーズに振れる。一方、『DG』はインパクトでガーンと打つ方でないと厳しい。後に『105』が出た時に、『120』は消えるかなと思いましたが、未だに長く支持されています。
それで、カルカタの『105』ですが、これも軽いから振りやすいということで支持されました。ただ、力がないと飛距離が出にくいという声が一定数あった。そこを突いてきたのが『115』です。『120』と『105』の中間をうまく取ったシャフトで、このモデルが出たことでさらに選択肢が増えました」
スチール全体の販売状況は?
「当店の場合、スチールの7~8割が日本シャフトです。その中でも『モーダス3』がスタンダード。TTも対抗して『DG95』や『DG120』を出してきたけど、スチールを軽くしているだけで、どうもひ弱い。『950GH』で、軽い中に粘りを入れてきた日本シャフトと、研究の元が違うから、なかなか対抗は難しいですよね。それに『モーダス3』は納期が遅れないから、余計にこれ一択になる」
今後、こんな『モーダス3』が欲しいというような要望は?
「今の80g台のスチールは軽いだけで物足りないので、80g・90g台でしっかりしつつ粘りのある『モーダス3』があったらいいですね。『105』を選ぶゴルファーの選択肢も広がりそうです」
最後に工房として日本シャフトに求めることは?
「『モーダス3』はカーボンの主流である70~80g台と、『DG』の120g台の間に、うまく食い込んだシャフト。PGAの試合をTVで観ていても、赤のロゴが目立つから『モーダス3』を使っているプロが本当に多いことが分かります。あとは、カーボンの『レジオフォーミュラ』シリーズですよね。『DG』のスチールと同じ現象で、日本シャフトのカーボンは硬い所からスタートしてるから、軽量帯が少し苦手な印象。ここにスチールで培った粘りが入ってくると良いですね。
それと『モーダスハイブリッド』は良いシャフトだけど、少し高いからお客さんに勧めにくい(笑)。『950ハイブリッド』もあるけど、軟らか過ぎるから苦肉の策で『モーダス105』を入れていますが、ハイブリッド用としては少し重いんです。なので、軽くて強めのハイブリッド用スチールがあったら嬉しいですね。
いずれにしても日本シャフトの製品管理はすごいですよ。これからもそこは大切にしてほしいですね」