「かっこいい」だけじゃないゴルフシャフトが生まれた デザインチューニング×渡邉愛が挑む新境地

「かっこいい」だけじゃないゴルフシャフトが生まれた デザインチューニング×渡邉愛が挑む新境地
ゴルフシャフト市場にこれまでなかったデザインの商品が登場した。株式会社デザインチューニングが手がけるシャフトブランド「メビウス」シリーズの最新作「MOBIUS AFRICA(メビウス アフリカ)」がそれだ。 アフリカの動物をモチーフとした愛らしいキャラクターを纏ったそのビジュアルは、従来の「男性的でかっこいい」というゴルフ用品の文法を意図的に外れ、新しいユーザー層への扉を開こうとしている。デザインを手がけたのは、株式会社渡辺製作所専務取締役でデザイナーの渡邉愛氏。 ゴルフ用品卸を家業に持ちながら、アパレル素材のデザインで腕を磨いてきた異色の経歴の持ち主だ。2026年6月の発売にあわせ、デザインチューニング取締役クリエイティブディレクターの久保田英稔氏と渡邉愛氏の2人に話を聞いた。

デザインとゴルフ用品の卸 ― 二つの世界がつながるまで

― まず、それぞれの会社とその業務内容について改めてお聞かせください。 久保田 デザインチューニングは、デザインの開発・設計の受託と自社製品の販売という2つの大きな柱を持つ会社です。私はデザイナーとして、各メーカーさんの新製品開発のデザインやブランディングを担当しています。それとは別に、私たちのデザイン技術を使って、メーカーさんではなかなか採用できない実験的なブランドを世に出してみようということで、〝カラースチールシャフト〟という形でスタートした経緯があります。私は以前、代表として経営を担っていたのですが、自社製品の販売がある程度軌道に乗り、規模も大きくなってきたので、代表を譲って、私は逆にクリエイティブの方に専念しています。その中でさまざまなメーカーさんとのコラボを現在進行形で複数進めており、今回の商品もその1つです。 渡邉 当社はゴルフ用品の卸をやっておりまして、ずっと家族経営で続けてきました。父が代表で、母が専務を務めていたのですが、5年ほど前に母が引退し、私が入りました。現在は人事総務が中心なのですが、会社に入る前にもともとデザインを勉強していたこともありまして、いつかそういったところも何かやりたいなと思っていたところに、たまたまデザインチューニングさんからお話をいただきまして。こういう形でシャフトのデザインをしてみたらということで生まれたのが『アフリカ』という感じです。 ― どういった経緯でコラボレーションに至ったのでしょうか。 久保田 渡邉さんが会社のノベルティとして作られていたアパレルブランド「カウチポテトズ」のポロシャツやTシャツを見たのがきっかけです。動物をモチーフにした可愛らしいデザインで、私はずっと多くのメーカーさんのデザインをやってきて、ゴルフではどうしても『かっこいい』ものばかりの世界で生きてきた。男性・女性という性別に関係なく、ああいった柔らかいデザインはなかなか自分ではできないな、と感じて……。新しいゴルフのターゲットとして取り込めないかとずっと考えていたんですね。そこに商談で渡邉さんと知り合いになり、実はデザインの勉強をしていましたという話になって。それを眠らせておくのはもったいないので、ぜひ商品という形で何か新しいことができないかなというのが、今から2年ほど前のことです。 渡邉 私が最初に見たとき、『可愛い』と感じてもらえるかどうか正直不安だったんですが、久保田さんが見てすぐに反応してくださって。何かを表現することの怖さもあるんですが、出してみることで新しい出会いがあるんだなと改めて感じました。

スペック表示の「外側」から攻める ― 動物の重さ=シャフト重量という発想

― 「アフリカ」というコンセプトに至った経緯を教えてください。 渡邉 「カウチポテトズ」のTシャツも動物をモチーフにしていたので、お話をいただいたときに『何か動物が入ったデザインがいい』とご提案いただいて。何がいいかなといろいろ考えたときに、アフリカの動物はどうだろうというところからスタートしました。ゴルフってこれまで『かっこいい、強い男のスポーツ』というイメージが強かったと思うんですが、私がもともといたアパレル素材のデザインの世界では、男性でも柔らかいデザインが好きな方が多く、今の若い人はユニセックスなデザインを好む傾向があります。ゴルフでもそういうデザインがあったらいいんじゃないかと。アフリカの動物を突き詰めていくと、強い面だけでなくどこかとぼけた、柔らかい一面があるので、そこにフォーカスしたら面白いんじゃないかと思いました。 久保田 私の方では、もう1つ大きな狙いがありました。シャフト市場はグラム数、フレックス、調子係数といったスペック表示が非常に強い市場ですが、もっとフレックスではない表現、重さではない表現というものをずっと模索していたんですね。そこで動物というテーマと対話する中で、『動物の重さとシャフトの重さをリンクさせることができないか』というアイデアが生まれました。一番重い動物はサイにしようというのがまず決まって、そこからアフリカという舞台の中で中間の動物を逆算的に絞り込んでいく作業を半年以上かけてやりました。 ― 3種類の動物(シママングース、ガゼル、サイ)はどのように決まったのでしょうか。 久保田 最初はヒョウなども出てきたんですが、ヒョウや虎はかっこよくなりすぎるし、他のシャフトメーカーでもテーマとして使われがちなんです。何かもっと違うものがないかなというところで。 渡邉 シママングースは調べていくうちに、独特の生態がわかってきて。いろいろな家族が群れで集まって暮らしていて、自分の家族かどうかに関係なく全員チーム制で行動しているんです。群れの子たちがごはんを取りに行く間、見張り担当がいて、それがまるで朝の旗振り当番のお父さんのようで(笑)。そういう可愛らしい一面があるので、今回のイメージにぴったりだと思いました。ガゼルは超神経質で300度以上の視野を持つという愛嬌のある特徴が決め手です。サイは基本穏やかで1人が好きなマイペースなのに、見た目は戦車っぽいというギャップが面白くて。 久保田 ガゼルもシママングースも、ガゼルはまあまあメジャーかな、シママングースはちょっとマイナーですよね。でもそれがいい。サイが一番重くて、シママングースが一番軽い、というのは見ただけで伝わる。グラム数や硬さではなく、アイコニックなもので差別化表示ができないかというところに非常に注力しました。

「強さの奥にある愛らしさ」― キャラクターデザインへのこだわり

― デザインで特にこだわった部分、苦労した部分を教えてください。 渡邉 キャラクターの表情にはこだわりました。男性が使っても、ただ可愛らしいだけじゃなくて、少し親近感が持てるような表情で表現したくて。シママングースは「Africa」のロゴを食べ逃げしているシーン、ガゼルは後ろからそっと追いかけてくるジープにすぐ気付いてちょっと振り向いているシーン、サイは魚釣りをしていたらワニが釣れてしまったシーン―デザインだけで1コマ漫画のようなストーリーが語れるように作りました。 ― その「1コマ漫画」的なアプローチはどこから生まれたんですか? 渡邉 最初は動物単体をカラーでリアルに描くというところから始めたんですが、なかなかまとまらなくて。面白さ、可愛さをどう表現するかを探る中で、もっと工夫ができないかということでストーリーを入れるというところにたどり着きました。ストーリーの内容は私が全部提案していった感じです。 久保田 ゴルフ業界だけで仕事をしている人にはなかなか思いつかないアプローチで、非常に面白いと思いました。シャフトの中にストーリーができている。色にしても、地面の色、曇り空の色、土の色、空の夕焼け・朝焼けみたいな色―風景を色として表現しつつ、くすっと笑えるようなストーリーも展開されていて。フルカラーでよりリアルな動物を試したりもしましたが、最終的にはこのイラスト調の表現が一番しっくりきました。 ― 色についても教えてください。 渡邉 色味はアフリカの風景―土の色、草原の色、夕焼け・朝焼けの空の色―からインスパイアされたアースカラーを基調にしています。3本並べたときにまとまりがありながら、隣同士のシャフトが互いを引き立てるよう、ほんのわずかな色の違いを丁寧に調整しました。ピンクなどわかりやすく女性的な色も最初は候補にあったんですが、デザインを追い込んでいく中でユニセックスな色の方が今回の世界観に合うと判断しました。 久保田 この施策はゴルフ業界ではほぼ見たことのない色なんですよ。インクの部分からメーカーさんに特注して、何度もやり直してもらいました。普通の倍ぐらいの時間をかけています。

ベースとなるメビウスの性能 ―「まっすぐ飛ぶ」というシンプルな軸

― 性能面についても聞かせてください。 久保田 「MOBIUS AFRICA」は、弊社の「メビウス LIQUID」をベースに改良を加えたデザイナーズモデルです。メビウスの最大の特徴であるヘッドスピードを上げ、しなりで飛距離を伸ばす性能はそのままに、自分に合ったキックポイント=スイング挙動で打ち出すボールは、最適な弾道とサイドスピンの軽減で飛距離をさらに伸ばします。コンセプトとしては、いつものスイングでまっすぐ飛ばせる、ミスをなくしたいという意思を持った設計です。男性・女性を一切問わず、幅広いゴルファーにフィットできるよう設計しています。 ―ターゲットユーザーについてはどのようにお考えですか? 久保田 初心者というよりは、『リシャフト初心者』と言った方が正確かもしれません。ゴルフにハマりつつあって、リシャフトというものがあるらしいとは知っているけれど、どれも似たようなデザインで面白くないと思っている人に対して、『こんな可愛いシャフトもあるよ』という入口から入ってもらえたら。もう一つは、新品や中古でクラブを購入して使っているものの、シャフトを変えられるということ自体を知らないユーザーに、その可能性を知ってもらうということです。シャフトのデザインを入口に、リシャフトというチューニングの世界を体感していただければと思っています。

社内の反応 ―「いいか悪いかがわからない」が示すもの

―社内からの反応はいかがでしたか? 久保田 うちの営業部隊は今まで本当にかっこいいゴルフシャフトしか販売してこなかった人間ばかりなので、これを初めて見たときに、なんかいいか悪いかがわからないような反応でしたね。どうやって売ろうかというところから考えなきゃいけないという感じで(笑)。 渡邉 弊社でも同様で、ゴルフをやっている社員たちが最初に見たときに『あっ……』という感じでした(笑)。ただ、デザインのポイントを一つひとつ話していくと、結構興味深そうに聞てもらえているので、続けていけばもう少し理解を得られるかなと思っています。今までのゴルフ用品に対する固定観念がない人の方が、ハッと見てスッと受け入れてくれるんだと思います。 久保田 作る側もそういった固定観念でやっているんじゃないかというところがあって。それをなんか新しいアプローチで崩せればというのが私たちの狙いです。実は釣りの分野では似たような動きがすでに起き始めていて、サファリをテーマに海外の釣り用品メーカーが同様のアプローチを取り始めています。方向性としては間違っていないはずだと思っています。

今後の展開 ― コラボの輪を広げ、ゴルフカルチャーを再定義する

― 今回をきっかけに、今後やってみたいことはありますか? 渡邉  機会があればキャディバッグとかゴルフ周りの小物など、いろいろ挑戦してみたいですね。あと製品だけじゃなくて、ゴルフのイベントなどもデザインしてみたいなという思いもあります。私自身、今まであまりゴルフに興味がなかったんですが、自分でシャフトを作ってみて、やってみたいという気持ちが生まれました。私みたいな人がもう少しゴルフに興味を持ってほしいなというところで、デザインを通じてゴルフ自体に興味を持ってもらえるよう、何か力になれたらと思っています。 久保田 渡邉 さんとの次の企画は、まだ何をするか全然決まっていないんですが、ちょうどキックオフ的な話は少し始まっています。それとは別に、このプロジェクトをきっかけに渡邉 さんがいろいろなメーカーさんから声をかけてもらえるようになってほしい。自分にないものを持っているデザイナーに声をかける―それが良い仕事に繋がると思っているので。また、コラボしたいアーティストやクリエイターの方がいらっしゃれば、シャフトに限らずゴルフ用品で何かやってみたいというご相談にも乗れますので、ぜひお声がけいただければと思います。 ― 最後に、ゴルフ業界の販売店・工房の皆様に一言お願いします。 久保田 既存の工房さんやプロショップの常連のお客様には、もしかしたらなかなかハマりにくい部分もあるかもしれません。でもまさに、今まで来たことのない新しい客層へのアプローチとして使っていただきたい。私たちはSNSをはじめいろいろな媒体で、ゴルフ雑誌を読まないような層にも露出を広げていきますので、そういった方々が足を向けやすいような商品展開をしていただければ、非常にありがたいです。 渡邉  デザイナーとしては、こういったテイストのデザインはゴルフ業界ではまだ珍しいと思っています。最初は刺さらない方もいるかもしれませんが、何度か目にしていただくうちに少しずつ受け入れてもらえるようになって、ゴルフの中で新しいカルチャーを提案できたらいいなと思っています。若い方にゴルフに興味を持ってもらうきっかけになれば、それが一番うれしいです。 MOBIUS AFRICA シリーズ メーカー希望小売価格:各66,000円(税込) ラインアップ:30(シママングース)/40(ガゼル)/50(サイ) 問い合わせ:株式会社デザインチューニング TEL:03-5821-6170 久保田英稔(くぼた・ひでとし) 株式会社デザインチューニング 取締役 クリエイティブディレクター ブランド統括。各メーカーのゴルフ用品デザイン・ブランディングを手がけるかたわら、自社ブランドの商品開発・コラボ企画を主導する。 渡邉愛(わたなべ・あい) 株式会社渡辺製作所 専務取締役 デザイナー。ゴルフ用品卸を家業に持ちながら、学生時代にデザインを専攻。アパレル素材のデザイン経験を経て家業に参加。今回「MOBIUS AFRICA」にてゴルフ用品のデザインに初めて挑戦した。 お問い合わせ:渡辺製作所 TEL03-5604-3361