総合建材卸売業のジャパン建材などをグループ会社に持ち、年商約3400億円を売り上げるJKホールディングス(東証一部上場)。「快適で豊かな住環境の創造」を企業理念に掲げる同社はSDGsの取り組みに本腰を入れている。従来の「卸業」という枠にとらわれず、新たな企業への進化を目指す。
事業をSDGsとリンクさせる手法とは? 同社代表取締役社長の青木慶一郎氏にこれからの企業像を聞いた。
(聞き手:片山哲郎/構成:浅水敦)
青木 松山英樹選手のマスターズ制覇をライブ中継で観ていました。ウイニングパットを沈めた瞬間、自然に涙が溢れてきて。本当にこんな日が来るなんて‥‥。
G 社長自身もゴルフ部出身ですし、競技を超えたプレッシャーと期待の中での勝利は感慨深かったでしょう。ゴルフは人格形成に寄与するんですかね?
青木 すると思います。ゴルフも仕事も似たようなところがあって、掲げる目標により様々ですが、上手くなりたかったら努力が必要だし、理論も必要です。あとは心のマネジメント。特にアンガーコントロールは必須条件ですから。
G 今回の松山はアンガーマネージメントができていましたね。
青木 そうですね。意識的にやっているように感じました。
G 社内にゴルフ部があるそうですが、まずはその理由から教えてください。
青木 わかりました。我々は建築資材の卸を生業としていて、主な取引先は小売店や工務店になります。ゴルフを通じたメーカーとの親睦会も旺盛で、バブルの頃と比べて減ったとはいえ、この業界はゴルフ好きが非常に多い。約5時間のラウンドで同伴者の性格が見えたり、距離も一気に縮まるから仕事でも大切なツールの一つとして捉えています。ゴルフ部は今から16~17年前に設立しました。
G 部員数は?
青木 グループ会社を含めると約100名が在籍しています。健康増進はもちろんですが、社内でのコミュニケーションが取りやすくなったという声も聞きますね。東京と大阪の2箇所でそれぞれ活動しており、就業後の合同練習やプロを呼んでレッスン会も行っています。大阪にはグループ会社が9社あって、接点がない人たちともコミュニケーションが取れるので非常に良い場だと感じています。
木材・合板シェア1位合板はシャフト作りと類似点が多い!?
G 事業内容について教えてください。
青木 現在、JKホールディングスの事業は「総合建材卸売事業」「合板製造・木材加工事業」を中心に構成され、傘下のグループ企業がこれらの事業を担っています。その中核が総合建材卸売事業のジャパン建材で、住宅分野の専門商社といえばわかりやすいでしょうか。JKホールディングスが財務・経理などの管理部門を統括しています。
G 売上が約3400億円、従業員約3000人、連結で関連会社が約60 社。M&Aも意欲的に行っている。
青木 はい。元々は建材の卸業から始まっていますが、当社に限らずどこも後継者問題に悩まされていて、我々の取引先も同様です。そこを我々がカバーしていった結果、木材加工、流通など事業領域が拡大して、会社が成長した一因になっているんですね。住宅市場は年々減少傾向ですが、それでもグループを業界内で広げていくことにより成長を続けています。
G 合板のメリットとは?
青木 合板はもともと家具用材で引き出しの底板などに使われていました。木の丸太を大根のかつら剥きのように剥いて作った薄い板を「ベニヤ(veneer)」と呼びますが、これを接着剤で積層したのが合板です。何枚かのベニヤを繊維方向が交互になるように接着すると強度が増します。
コンクリートを流し込むときのコンクリート型枠としても使用されます。コンパネ(コンクリート型枠用合板)がそれです。住宅を作る際、従来は柱梁を基軸で組みましたが、柱梁だけでなく、近年では合板が構造用面材として床、壁、屋根にも使われ、耐震性に優れるのが特長で、需要は年々高まっています。
G どちらかというと脇役的な存在?
青木 ですが、昨今は国産材を積極的に使う国の政策もあって、杉をはじめヒノキや落葉松など、国内に生い茂っている木を伐採し加工を行っています。以前は東南アジアからの輸入に頼っていましたが、国内の木材自給率を上げていく中で貢献している商材が合板なんですよ。
G 木材の端切れを集めて接着剤でつける再利用のイメージでした。
青木 一般の人はそう思いますよね(笑)。合板は2m幅の丸太を専用の加工機械により、大根のかつら剥きの要領で板を生成していきます。その板を畳一枚ぐらいのサイズに切って、繊維方向により互い違いに接着。合板にすると大きい面積の板が完成します。
G ゴルフのカーボンシャフトと同じ構造ですね。
青木 基本的には一緒です。その厚さを変えることにより、構造用の建築用材としての需要が高まっていますが、国産木材を使うことで二酸化炭素の抑制に貢献できる。つまり、伐って植えて、伐って植えてを繰り返すことで、CO2の削減効果が期待できるのです。
CO2排出量を抑制できる木質化を政府が推奨企業イメージ向上に一役
G 木材を使うのは一種の流行ですか?
青木 流行というか、従来は住宅用途が主でしたが、今後は非住宅の木造化が加速すると見られます。鉄骨やコンクリート造りから木造への転換は政府の方針でもあり、公共施設をはじめ学校の校舎や体育館などは木質化を推奨しているんです。
G 柱や鉄骨をやめて?
青木 そうですね。柱や梁も集成材やLVL(単板積層材)、CLT(CrossLaminated Timber)といった木材の弱点を補った木質素材が注目されています。今、流山(千葉県)で小学校と中学校を造っていますが、木造規模では国内最大級の校舎になります。当社は設計段階から参画し、木材の選定や該当部の請負工事まで行っています。
G 商社機能だけでなく、設計から施工まで手掛けていると。
青木 その通りです。一連の木材を採用した事例は民間企業での採用も増えていて、コンビニ業界では、ミニストップがいち早く店舗に採用。これは、環境問題への対応という面があって、企業イメージの向上にも一役買っています。
G 合板の市場規模は?
青木 国産材を使った合板で月に25万㎥出荷されており、住宅資材では数兆円規模になりますね。その中で当社のシェアは、商材にもよりますが、住宅資材では10%弱でしょうか。
G 業界順位でいうと最大手?
青木 建築資材の卸販売としては業界最大手になります。
G 企業理念に「快適で豊かな住環境の創造」を掲げて、3~4Fのフロアには「木材・合板博物館」がありますね。
青木 合板、木材をもっともっと認知してもらいたい―。ここには一般の方はもちろん、地元の江東区の小・中学生が社会科見学に訪れます。体験コーナを充実させるなど、子供たちに木材へ親しみを持ってもらう目的で始めた公益事業です。
レッスンプロのビジネスモデル!?工事事業で職人をネットワーク化
G 長期経営目標でグループ5000億企業を掲げていますが、現状からの5割アップはどのような方法論で?
青木 まずはシェアの拡大です。扱えていない商材やシェアを伸ばせてない製品が当社の中でもまだまだありますから。
それ以外では「工事事業」への参入ですね。少子高齢化で職人さんが年々減っていく中で、これまではキッチンならキッチン、フローリングならフローリングを仕入れて売ればよかったわけですが、今後は当社で職人さんを手当てして「工事込みで施工できますよ」と。それを実現するには職人さんのネットワーク化が必要です。
G コロナ以降、ワーケーションを含め田舎暮らし推奨の流れがあります。中古住宅をリノベするときには地域の工務店を使いますが、そこには職人が集まっている。それをネットワーキングする?
青木 そうです。職人さんは基本的に個人事業主で、工務店に紐づいている。仕事量は一定ではなく、暇なときは「ほかの工務店へ行って仕事をしてください」と。でも、職人さんは営業が苦手じゃないですか。なので当社がマッチングするイメージです。
G ゴルフ業界だと、レッスンプロが個人事業主です。どこにも所属せず、自分でお客さんを集めている。それをWEBサイトで一元化して、練習場の空き時間があるところに派遣するビジネスがありますが、それと似ていますね。
異業種から見たゴルフ業界の印象SDGsへの取り組み方
G ゴルフ業界、どんなイメージですか?
青木 楽しそうに見えますよ(笑)。クラブは毎年新しいモノが出て進化を感じますし、最近はゴルフ場・練習場も混んでいて、特に若年層の参加率が高まっている印象です。
G 現在のゴルフ人口は800万人規模でバブル時代はゴルフ場・練習場・用品の3業種で3兆円弱ありました。今はその半分ぐらい。かつて1200万人のプレー人口が長期低落で減りました。
青木 そうですか。我々プレーヤーからすると、ゴルフが本当に楽しくて、ゴルフ場で吸う空気は格別ですよ(笑)
G 実はゴルフ場はエコに貢献していて年間400万トン程度のCO2をゴルフ場の森林が吸収している。火力発電で考えると、205万世帯分電力消費で発生するCO2の吸収効果があるといわれています。
青木 そこまで計算できているんですか。
G 九州大学の懸和一名誉教授の研究で発表されました。ただ、昔の乱開発のイメージが根強く残っていて、一般には富裕層が35万坪を占有する特権階級のスポーツだと。そんなイメージはないですか?
青木 私が学生の頃は高貴なスポーツのイメージがありましたね。若い子がゴルフをしていると色眼鏡で見られたから、徹底的に挨拶やマナーを仕込まれました。今みたいにウエアもお洒落じゃなかったですし。
G 泥臭い世界ですねぇ。
青木 私の出身高校、大学のゴルフ部は応援団と一緒で上下関係が厳しかった。今、そういうのは一部の学校だけでしょうね。当時から礼儀やマナーといったようなことを相当意識していました。
G 体育会系ですからね。あと、里山の保護にもゴルフ場が貢献していて、日本古来の絶滅危惧種を保全するなど生態系にも寄与している。ゴルフ界はそのあたりのPRが下手ですね。SDGsの話でいうと、御社の活動は如何ですか?
青木 積極的に取り組んでいて、具体的には循環型社会の実現に寄与すること。当社にはエコ商品の『JGREEN』という商材があって、二酸化炭素の固定に加えて、こうした木材の扱いを増やせば社会貢献にもつながります。他にも、当社が輸入する合板や木材には森林認証材を積極的に調達しています。
G そういった認証は紙にもあります。パルプ専用の植林をして、環境保全に寄与します。紙資源の抑制とかいわれますが、実は循環型になっています。
青木 その部分はSDGsへの相互理解を深める努力が必要ですね。
G 知らないで批判するのは問題ですから。ところで、社内にSDGsのプロジェクトチームはありますか。
青木 はい。先ほどの「森林認証材」は社内の事務局が中心に管理や啓発活動を行っています。また、植林についても積極的に増やしていく計画です。SDGsは環境保全だけではありませんが、当社の企業理念が「快適で豊かな住環境の創造」なので、企業体質としても密接につながっています。これをやらないと、企業の発展も望めませんから。
事業をSDGsとリンクさせる手法
G 住宅環境の激変という意味で、空き家問題があります。空き家の総面積が九州全土の面積を超えてしまった。
青木 とうとう超えましたか。
G 御社でリノベして新しい空き家活用をしてみてはどうでしょう?
青木 空き家リノベーションに関しては当社の取引先がされていることもありますので、さらに加速させる後押しを進めております。空き家問題以外では、所有者不明の森林が全国に相当数あるんですよ。国が管理する動きがある一方で、民有林をどうやって管理したらよいか困っているところもあります。そこで我々のグループ会社が市町村に対し「長期的に森林を管理し伐採、製品にして活用(建設)しませんか」というコンサルティング事業に着手したところです。
G おもしろいですね。
青木 国と自治体の多くが、公園の維持管理を民間企業に任せるケースが増えていて、2年前から豊洲ふ頭にある「豊洲ぐるり公園」の維持管理事業もそのグループ会社が行っています。
G それでどうするんですか。
青木 公園ではバーベキュー事業者を誘致したり、先ほど話した国産材の活用ということで、北海道の山から伐り出した木材をグループ会社で製材・加工し、さらにグループ会社で設計・施工して多目的な非住宅建設を一気通貫で行いました。その建物をレストラン事業、ウエディング事業を行う九州の企業さんへ貸出し、その収益を得て公園を管理しています。
G 儲かりますか?
青木 いやあ、微々たる収益にすぎませんが(苦笑)
G でも、そういった活動は大事ですね。守銭奴的にガツガツ儲けを狙うより、思想的な価値が働き甲斐や企業ブランドの価値を高める。資本主義の限界点でSDGsが出てきたし、特に11番目は「心地いい住環境」になっていますから。
青木 そのあたりをカーボンニュートラルの観点でいうと、太陽光パネルを使って自家発電して蓄電する住宅が増えてますが、今後は設計段階で数値化できる仕組みを構築します。たとえば「高気密・高断熱」という家があって、でも、どのくらい高気密なのかを計算上キッチリさせる必要があるんですね。我々の得意先は中小の工務店が多いのですが、そういった細かい部分が苦手なところが多いんです。そこを我々が代行して、工務店さんには受注に専念してもらおうと。これも大事な部分です。
G 地域の工務店は小規模ですから。全国で工務店はどれくらいあるんですか。
青木 数万店規模です。メジャーなハウスメーカーがある中で、実は地域の工務店さんが担う役割は非常に大きい。
G 地域密着で、屋根の修理とか困りごとを解決する。
青木 ですから、全国の工務店を支えるのも我々の使命だと思っています。カーボンニュートラルに向けて法規制は益々厳しくなるでしょうし、工務店の活性化は地方創生にもつながりますから。
下関GCへ木材を納入SDGsなクラブハウスで新境地の開拓も可能性あり
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JKホールディングスの木材で施工、下関ゴルフ倶楽部(山口県)のクラブハウス[/caption]
G ゴルフマーケットへの参入意欲はありますか?
青木 参入というか、実はプロゴルファーのサポートをどうするか、少し悩んでいる最中です(笑)。当社の課題のひとつは知名度で、業界内では有名ですが、BtoBの事業なので、外部ではあまり知られていません。人材確保の面でも知名度アップは大事なので、ゴルフを通じて高められないか、そんなことを考えています。
G プロ契約というよりも、御社ならではのやり方があると思うんですね。
青木 つまり?
G バブルから30年経過して、クラブハウスが寿命なんですね。建て直しをするにしても、単なる建て直しではゴルフ場ごとのカラーが出せません。そこで、御社が植林して作った合板でSDGs的なクラブハウス。そのあたりの技術や知見は豊富でしょうから、いろいろやれると思います。
青木 そうですねぇ。実は、下関GC(山口県)のクラブハウスを立て直す際、当社から屋根部分の材料として木材(LVL:単板積層材)を納入しました。これは、当社が調達した国産カラマツを使用した製品です。施工は清水建設が行い、屋根部分はLVLとS造(鉄骨造)で構成、システム化されたダイナミックなLVL木造大屋根に仕上げてもらいました。また、フロント前の壁から洗面所に至る空間はLVL内装材で木のぬくもりを与えています。ジャストアイデアですが、コースにある木を加工して、クラブハウスに利用することもできる。だとしたら、ニーズもあるかもしれませんね。
G 今ならブルーオーシャンです。
青木 そうですか(笑)。その中で新しい発想をどうやって発見するかが勝負どころ。ゴルフ場数は、
G 約2200です。
青木 すると、クラブハウスも2200棟あるわけね。
G それが総じてヘタっている。新規事業のイメージわきますか?
青木 はい。木造木質化もひとつのコンセプトですが、リフォーム全般も当社でやれますし。
G ぜひ、参入してください。ところで個人的に好きなクラブハウスはありますか?
青木 大洗GCですね。あの風格は格別で他のゴルフ場にはないですよ。あとはコンパクトでアメリカンチックなブリック&ウッドのクラブハウスも好みです。
G 木材や自然エネルギーを使えば環境にもいい。カジュアルコースなら無駄を取り払ったシンプルな機能美とか。参入しませんか?
青木 たしかに面白そうですね。SDGsなクラブハウスの提案を、新規顧客の開拓先として考えましょう(笑)
G 最後にゴルフ界へのメッセージを。
青木 ゴルフは、格式やマナーを重んじる紳士・淑女のスポーツですね。だから名門クラブはそのままで残してほしいと思っています。その一方で、カジュアル感覚でまわれるコースが増えて、個人的には犬の散歩をしながらゴルフをしてみたいんです。
G 愛犬の種類は?
青木 ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグです。
G ‥‥‥まったくわかりませんが、
青木 そうですか、ポルトガル原産の漁用犬で本当に可愛いんですよ。ゴルフのほうは年間80回ほど、コロナの前は60回ぐらいでしたが、一緒にラウンドするのは仕事関係の人が多いですね。ホームコースは箱根CCで研修会にも出ています。
G 80ラウンド!?
青木 東北の得意先は200回とかザラですよ(笑)。
商号 JKホールディングス株式会社(JK Holdings Co.,Ltd. )[東証一部上場]
創業 1937年10月
代表者 代表取締役社長 青木 慶一郎
資本金 31億9,500万円
売上高/連結 3,684億7,900万円(連結・2020年3月期)
事業の内容
1)総合建材卸売事業:13社
2)合板製造・木材加工事業:10社
3)総合建材小売事業:21社
4)その他:16社
従業員数 3,103名(連結)(2020年3月末時点)
所在地 東京都江東区新木場1-7-22
TEL 03-5534-3800(代表)
https://www.jkhd.co.jp