ゴルフ界で進むSDGsとエコ対策(1)

ゴルフ界で進むSDGsとエコ対策(1)

ゴルフ場は温暖化防止に貢献している

あれほど角を突き合わせる米中の二大国が、環境問題では同一歩調をとりつつある。当然だろう。2030年までに温暖化を止めなければ「地球が勝手に加熱しはじめる」という危機感の中では、民主主義も専制主義もありはしない。 政府は4月22日、2030年までに温室効果ガスを46%削減する目標を掲げた。二酸化炭素(CO2)の排出量と森林の吸収量を差し引きゼロベースにする「カーボンニュートラル」も2050年までに実現したいなど、環境問題への意識が高まっている。 青森山田学園の岡島成行理事長は、環境問題の専門家。現状の深刻さを次のように話している。 「温暖化問題のタイムリミットは2030年と言われています。ここまでに一定の成果をあげないと、今度は地球自体が温暖化を加速させて、人間の努力では止められなくなってしまうからです。代表的なのがシベリアの永久凍土で、これが溶け出すと地中のメタンが噴出して、温暖化が一気に進むのです」 メタンはCO2の21倍とされる温室効果があり、すでに噴出がはじまっている。地表にはそれを表わすクレーター状の穴が開き、同時に地中から未知のウイルスも飛び出してくる。温暖化で地表が乾けば大規模な森林火災が発生するなど、地球は悲鳴をあげはじめた。 読者の中には、このような問題をゴルフ誌で扱うのは手に余る、と思うムキがあるかもしれないが、それは違う。各国政府は方針を示しているが、実行するのは市井の人々であり、その積み重ねが大きな効果を生むからだ。 ゴルフクラブのOEMを主業務とするササキ(栃木県)の佐々木恭太郎専務がこう話す。 「当社は一昨年、環境関連のISOを取得しましたが、全社員に環境目標を明記したカードを配り、意識の向上に努めています。特にゴルフ産業は環境問題と取り組みやすい。自然から恩恵を受けているスポーツなので、プロ・アマ合同で環境改善のイベントを行なうなど、様々なやり方があるはずです」 同社の場合、製造拠点の脱中国を意識して「国内製造回帰」を促進する流れから、大手メーカーの受注を取るためにISO取得に踏み切った経緯がある。それが今の時流と合致して、社員の環境意識を高めることにつながっている。コンプレッサーはフロンガス非排出で、製造工程で出る鉄資源はリサイクルとリユースを徹底している。 ゴルフが環境問題とコミットしやすいと考える業界関係者は多い。藤倉コンポジットの渡辺貴史部長も、 「ゴルフは緑地で行うスポーツなので、活動エリアが増えればCO2が間違いなく削減できます。そのような観点で社内では、ゴルフ推進活動やスナッグゴルフの普及に取り組んでおり、これらは重要な仕事の一部だと考えています」 ゴルフは「自然との闘い」と言われるように、自然との関係は濃密だ。逆説を言えば自然環境の悪化はゴルフ産業に痛打を加える。酷暑でプレー人口が減り、熱中症でシニアの死亡が多発すれば「危険なスポーツ」のレッテルを貼られかねない。 その一方、ゴルフ界でもあまり知られていないが、ゴルフは環境保全に大きく貢献するというエビデンスがある。 2014年、九州大学の縣和一名誉教授が発表したもので、国内のゴルフ場森林がCO2を吸収固定する量は、年間411万トンで、火力発電が排出するCO2の量に換算すれば、205・6万戸の標準世帯が消費する年間電力量に相当するという計算だ。 生物多様性の観点でもゴルフ場の「里山保護」が寄与している。ゴルフ緑化促進会(GGG)の資料によれば、国内のゴルフ場総面積は21万8000ヘクタールで、これは都市公園等の面積の1・9倍。 希少な動植物の生息地にもなっており、ニホンイシガメやヤマアカガエルなど多くの小動物の生息が確認されている。これを受けてGGGは「生きものや自然資源を活かす管理計画」をゴルフ場に配布するなど、環境意識の向上を目指す。

ゴルフ場で始まる「廃プラ」の動き

ゴルフ関連15団体で構成される日本ゴルフサミット会議は一昨年、ゴルフ場での「廃プラ」を活動目標のひとつに掲げて啓蒙ポスターの作成等を行ったが、新型コロナの襲来で具体的な活動が止まった印象はある。 ただ、個々には浴場のビニール袋、簡易髭剃りや歯ブラシの廃止などが進んでいる。 国内145コースを運営するPGMも同様の活動に注力している。今後はSDGs(17項目)の取り組みを強化する方針で、中でも6(安全な水とトイレ)、12(つくる責任、つかう責任)、13(気候変動対策)、14(海洋資源)、15(陸資源)を意識して、活動を組み立てる予定だとか。同社広報部の説明によれば、 「今はプラスチック製品の削減を議論しており、具体的にはストロー、風呂用ポリ袋、買い物袋、マーカー、歯ブラシは本年度中に具体策を実現します。中長期的なイメージとしては、主要エネルギーを電気に変える中で風呂ボイラー、厨房ガスレンジ、乗用カート、コース管理機器も課題になると思います」 食材廃棄も重要な課題で、分量指定制でA、B、Cの3段階に分け、食べられる量だけ提供する。瓶・缶提供の飲料はグラス提供に変更し、水に沈まない高性能ボールの開発もメーカーと共同で進めたいなどの構想を描く。 練習場業界はどうなのか?全日本ゴルフ練習場連盟(JGRA)の横山雅也会長は、 「我々の業界でエコ問題は、今のところ考えにくいかもしれません」 と前置きして、こう続ける。 「LED照明の導入は進んでいますが、これは電気代が半分になるコスト効果が中心なので、結果的に環境問題に寄与したとしても、そもそもがエコ目的ではないんです。ただし、今後は何らかの形で考える必要はあるでしょう。ふと浮かぶのは、ボールやマットなど消耗品で地球環境に優しい製品が登場したら、連盟として認定・推奨品にしていくとか。そういった形は現実味があると思います」 JGRAで調査研究委員長を務める橋本幸治氏は、新御堂ゴルフセンター(大阪府)の社長という立場から、こんな話を打ち明ける。 「実は以前、施設内の無料オシボリを廃止したんですが、来場者から大ブーイングが起きましてね、1か月で撤回した経緯があるんです。エコとは直接関係ないかもしれませんが、無駄なサービスをなくす、自分のタオルを持参するという意識の広がりが、結局は環境問題につながるのでしょう。一人ひとりの意識が本当に大事だと思います」 JGRAの調査研究委員会として、その点の調査をする必要性は? 「検討すべきテーマかもしれません」 同委はこれまで、大型台風による鉄柱倒壊を受け、設備に関わる調査を行なったり、昨年はコロナ禍における感染対策調査など出番が多い。いずれも急を要する課題だったが、エコ対策に関わる意識 調査も望みたいところ。 (つづく、毎週月曜掲載) [surfing_other_article id=67893][/surfing_other_article] [surfing_other_article id=67895][/surfing_other_article] [surfing_other_article id=67897][/surfing_other_article]