「ゴルフ産業Q&A」ゴルフは悪者なのか? 倫理規程が「禁止」を求める根拠

「ゴルフ産業Q&A」ゴルフは悪者なのか? 倫理規程が「禁止」を求める根拠
Q1 「国家公務員倫理規程」でゴルフはなぜ「禁止行為」? 菅首相の長男が関係省庁の役人との接待で問題視されましたが、その際「倫理規程」でゴルフが禁止行為だと知りました。つまり国が、ゴルフを良からぬものとして認定しているわけですが、なぜでしょう? A1この件は、ゴルフ業界として非常に残念なことです。むろん、業界は黙認しておらず、業界団体が連携して「国家公務員倫理審査会」に対し政治家等を通して「削除」を働きかけていますが、なかなか実現しません。その理由は後述します。 振り返れば1998年の「大蔵省接待汚職事件(金融機関からの過剰な接待)」を契機に、2000年に「国家公務員倫理法」が施行されました。「国家公務員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではない」として、16条からなる「国家公務員倫理規程(以下倫理規程という)」が政令として制定されたわけです。 「倫理規程」では、許認可・補助金交付・立入検査、監査・行政指導等の事務を行う職員が、利害関係者と行ってはいけない9項目の行為を定めており、第7項目に「利害関係者と共に遊技又はゴルフをすること」と明記されます。2020年国家公務員倫理審査会が作成した「国家公務員倫理規程論点整理・事例集(152頁)」には、利害関係者とのゴルフを禁止する趣旨として「特にゴルフに関しては、倫理法・倫理規程が制定される契機となった不祥事において、実際にゴルフを介した事業者等からの接待が多くあったことから定められたものである」とされています。 つまり「特にゴルフ」が不祥事の温床となった「接待に使われた」事実認定があり「共にゴルフをする」ことについても、該当例と非該当例を具体的に示しているのです。 以上のように、152頁に及ぶ教育資料があるにも係わらず、最近、総務省接待事件が起きました。 私が知っている、民間企業の社長から公的金融機関の最高責任者に就任された方は、就任と同時にゴルフ仲間の車には同乗せず、公共交通機関を利用してゴルフ場へ行くようになりました。正に「李下に冠を正さず」を実行されたわけです。 接待された公務員は処罰を受けましたが、接待する側への世論の批判が低調なのには驚くばかりです。6月4日、総務省はNTTなど複数企業から延べ78件の接待を受けていたと発表し、倫理規程に抵触するとして32名を処分。 また、接待側として最も多かったNTTグループも社内処分を発表しましたが、以上のような事案があるたびに、処分者にはゴルフの神髄(ゴルフは自己判断を基本としたスポーツであり、正直さ・責任感・礼儀・判断力・忍耐力・尊敬など社会生活で大切なライフスキルが身に付くスポーツ)を学んでもらいたいと思っています。 さて、なぜ「倫理規程」からゴルフの3文字が削除されないのか。端的に言えば、私はゴルフの普及過程において「ゴルフは富裕層の娯楽という誤った認識」が定着したからだと考えています。 Q2  倫理規程でゴルフはイメージダウン、その影響は? ゴルフ産業の活性化にはプレー人口の増加が必要ですが、9割以上の国民はゴルフをしません。遠い、高い、長時間のほかに、倫理規程での「禁止行為認定」も負の印象を与えます。イメージは大きな空気感だけに覆すのは大変で、その空気感が障害になっていると思えますが? A2前回、この連載で「ゴルフ場利用税」が撤廃されない問題について書きました。「倫理規程」もこれと同根で、ゴルフが「一部富裕層の娯楽」だと国民から思われているイメージの問題があります。ただ、ご質問の「イメージダウン?」は、国民の一人一人がゴルフをどのように見ているかにもよるでしょう。 ゴルフを「健康維持、精神的ストレスの解消」の手段として楽しむ人は、倫理規程によるイメージ悪化でゴルフをやめよう、とはなりませんが、ゴルフを富裕層の贅沢な遊びと毛嫌いする人は、倫理規程が負のイメージの象徴となります。 そのイメージがゴルフ普及の足枷になるなら、ゴルフ界が団結して「ゴルフやゴルフ産業の持つ社会的効用(健康維持・環境維持等)」を国民に示し、「倫理規程」から「ゴルフ」の3文字が削除されるよう、国民の賛同を得る活動が最も大事だと考えます。地味だし時間はかかりますが、粘り強く進めることです。 現状、「ゴルフ場利用税の撤廃」や「倫理規程から『ゴルフ』を削除する」ための陳情行動は、国民の理解を得られていません。国家公務員倫理審査会が市民1000人の意識を調べたところ「倫理規程の改正は必要ではない」との回答が7割を超えており、そのため業界の陳情が批判の的になる恐れもあります。 ただし、ゴルフの持つ「社会的な効用」は確実にあります。ゴルフ場の森林が大量のCO2を吸収したり、里山保護に役立っている調査結果もありますが、同時に、SDGs(持続可能な開発目標)とゴルフの良好な関係も業界が主張すべき価値になり得ます。流行り言葉のSDGsに便乗するという意図ではなく、もっと本質的な価値観の話です。 2018年、世界保健機関(WHO)は「身体活動に関する世界行動計画2018−2030」を発表しました。その内容は「定期的に運動を行うことは、非感染性疾患(心疾患・脳卒中・糖尿病等)の予防と治療に役立つほか、高血圧、過体重、肥満の予防やメンタルヘルス、生活の質及びウェルビーイングの改善に効果がある」としたもので、ウォーキング・サイクリング・スポーツ・アクティブなレクリエーション等の身体活動を推奨しています。 これらの活動は単に健康面だけではなく、社会・経済面に倍数的なベネフィットをもたらし、同時にSDGsの達成にも寄与します。 SDGsは17の目標を掲げており、WHOは先述の身体活動がSDGsの3番目「すべての人に健康と福祉を」に寄与、さらに他の12項目についても貢献できると明記しているのです。10番目の『人や国の不平等をなくそう』では「身体活動やスポーツは公平性や包含性などの価値を高め、排他的行為や差別のない社会を創造する媒介手段になり得る」とあり、5番目の『ジェンダー平等を実現しよう』では「スポーツを通して意識改革を進め、差別を招く考えを防止、あらゆる形態の男女差別を終わらせる」とあります。 有益な身体活動のひとつであるゴルフを禁止行為に指定する「倫理規程」は、これらを否定することになりかねません。屋外での身体活動を通じて環境変化や自然保護の大切さを体感する機会も減じてしまう。そのような論理でゴルフの「効用」を確立・訴求することができます。 コロナ禍により心身の健康を身体活動で維持する価値観が増大中。その価値が再認識される今だからこそ、ゴルフの「ベネフィット」を国民にアピールする。その結果、倫理規程の改正につながると考えます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら