1. ゴルフとSDGs

2030年までにゴルフ界がすべきこと

ゴルフとSDGs 市場考察 大石順一

Q1 ポストコロナ社会でゴルフを普及するには?

この連載の第1回で、大石さんは「ゴルフ界全体でゴルフ普及活動の中長期ビジョンを策定する必要がある」と提案されました。「中長期」とは、具体的にいつ頃までのイメージですか? その根拠も併せて教えてください。

A1 今回のコロナパンデミックを見るまでもなく、世の中には不測の事態が沢山あり、事業計画が狂うことは珍しくありません。とはいえ物事を進めるには時間軸を意識したビジョン策定が必要であり、「ゴルフの普及活動」を考える際、私は2つの理由から「中長期ビジョンの策定期間」は2030年までが妥当だと思っています。

第1の理由は、ゴルファーの約5割は60歳以上ですが、この層が2030年には70歳以上になるからです。特に、1960年代後半以降のゴルフブームを牽引した「団塊の世代」は80歳以上となってしまい、加齢によるゴルフリタイアが増加します。ゴルフ界はその前に、具体策を実施していく必要があります。

策定期間を2030年までと考える第2の理由は、持続可能な世界を実現するために世界的な目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」の最終年度が、2030年だからです。CO2の排出・吸収量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルは、2050年が世界的な目標ですが、その流れで日本も2030年に温室効果ガスを2013年度比46%削減すると表明しました。

国内のゴルフ場森林は、年間460万トン以上のCO2を吸収・固定することから、緑化施設としてのゴルフ場も、積極的に貢献すべきと考えます。これによってゴルフ全体のイメージが向上すれば、普及の下地作りが期待できます。

Q2 ビジョンを立案するための視点とは?

ゴルフ界は2030年までのビジョンを示すべき、との考えはわかりました。問題は、何をどのような視点で示すのか、だと思います。ゴルフ界はこれまで宮里藍、石川遼などのスターが生まれ、その都度、プレー人口が増えると期待されましたが、いずれも一過性のブームに終わりました。今回の「ポストコロナ社会におけるゴルフ」の普及・活性化は何がキーワードになるのか具体的に教えてください。

A2 2030年までに我々ゴルフ界が実施すべきことは、かつてのスター待望論とは本質的に違い、ゴルフが果たす社会的役割の観点で考える必要があると思います。私は連載の1回目にゴルフ界が取り組むべき3つの視点を紹介しました。1)「新型コロナウイルス感染症に起因する視点」2)「社会構造の変革に起因する視点」3)「SDGsに起因する視点」です。これらは独立した視点ではなく、相互に連携し合っています。そこで今回は1)の視点で「ゴルフ普及策」の立案を考えてみましょう。

新型コロナによって我々の生活は一変しました。「緊急事態宣言」の発出や「外出自粛」「テレワーク・ズーム会議等による働き方の変化」が起き、同時に人々の価値観が大きく変わりました。今まで安全だと思っていた日常生活が、突如、ウイルスの脅威に晒されて、感染を忌避する行動が価値観の変化を促したのです。その結果、ゴルフプレーに求めるベネフィットも変化しました。長引く在宅勤務は、運動不足による体調不良や孤独感等の精神的ストレスを増長させ、コロナ前に比べてうつ症状を発する事例も増えています。コロナ禍におけるゴルフ場・練習場の来場者増加は、それらを解消する側面から生じたこともあるでしょう。

そこで一度、コロナ禍での価値観を整理してみます。私は「衛生面への関心」「健康であること」「人とのコミュニケーションの必要性」等が改めて見直されたと思いますが、皆さんは如何でしょう。

上記のことに連なって、「日常生活がいかに脆いか」「生きる力や逞しさが必要」「家族や仲間との時間が大切」「競争社会よりは助け合って暮す」「身の丈に合った暮らし」を望む傾向も強まっています。

米国の心理学者アブラハム・マズローは「欲求五段階説」を提唱しています。いわく、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」として、人間の欲求を次の五段階で理論化しました。
第1段階 生理的欲求
第2段階 安全欲求
第3段階 所属と愛の欲求
第4段階 承認欲求
第5段階 自己実現欲求

自己実現に向かう成長過程は「欲求」の上昇に置き換えられるかもしれませんが、コロナ禍の現在はむしろ「第1段階」と「第2段階」で、自分の基本的な生活維持に欠かせない物事への欲求にシフトしている様子が伺えます。理想的な自分を志向するなどではなく、もっと根源的で身近な欲求が再認識され、これによりスポーツによる健康維持への理解も大きく前進したと思われます。同時に、運動やスポーツをいつでも楽しめる「場」の確保が、人々の生活に重要となっています。

その際、スポーツを楽しむ「場」が安全な環境(感染症対策、身体的機能の正しい理解等)であるかが厳しく問われています。ゴルフは三密を回避できるスポーツであり、加えて、多くのゴルフ場がコロナ対策に積極的に取組んでいることが評価された結果、昨年8月以降のゴルフ場はコロナ前を上回る入場者を記録しています。

まとめれば、コロナ禍においては健康や安全への危機意識が生まれ、肉体的・本能的な「生理的欲求」や安全・安心な暮らしを重視する「安全欲求」など、「低次の欲求」が主体となり、自己実現欲求等の「高次な欲求」は後回しになっています。コロナ感染症が収束するまでの2~3年は、フィジカルとマインドの健康を重視する価値観に基づいた行動が多くなると考えられ、マーケティング施策の立案もこの点を考慮する必要があると思います。

問題は、コロナ感染症が収束すると、人々の価値観が「承認欲求」や「自己実現欲求」に戻ると考えられることです。これを想定して、今から人々の欲求の方向性を研究しなければなりません。ゴルフプレーから得られるベネフィット「ライフスキル取得」や「人と人との分断を解消できる」等をマーケットに訴えかけることを、ゴルフ界全体の統一行動につなげることが大切でしょう。

各ゴルフ場は、コロナ禍において得られた個別のマーケット情報を一過性のものとせず、個性豊かな経営に活かすこと。ゴルフ場業界はややもすれば「金太郎飴」的な経営になりがちでした。ポストコロナでは「昼食時間を取らないスループレーを主体とする」「シャワーのみを提供」「非接触型の接客を推進する」等、緊急避難的に実施した施策を個性あふれるものに進化させることが必要です。

ゴルファーの価値観は多様化しています。提供側のゴルフ場もステレオタイプな考えから、柔軟で多様な発想に脱皮する必要があります。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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ライター紹介 ライター一覧

大石順一

大石順一

1949年東京都生まれ。1972年年成蹊大学経済学部後、安田生命保険相互会社(現 明治安田生命保険)を経て、1984年八王子カントリークラブに入社し、1997年総支配人に就任。2011年に一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会専務理事就任。1997年以降、日本ゴルフ場経営者協会税労務委員長、東日本ゴルフ場支配人会常任幹事・税対策委員長として固定資産税・ゴルフ場利用税の税制見直し等を総務省と折衝。

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