クラブ返礼品で1億5千万円、兵庫市川町のゴルフで町興し

クラブ返礼品で1億5千万円、兵庫市川町のゴルフで町興し
兵庫県の市川町役場は7月、指定管理業者に運営を委託している滞在型レジャー施設「リフレッシュパーク市川」に、シミュレーションゴルフを1台導入した。ただそれだけの話だが、背景には人口減に悩む地方都市の熱い物語がある。 元は刀鍛冶の集落であった市川町は、その流れで国産のアイアンクラブを初めて作った「アイアン発祥の地」だが、そのことは世間には知られてない。そこで役場と町内のゴルフ事業者が協力して毎年「ゴルフ祭り」を開催して町興しを目指しているが、地元メーカーのクラブを一堂に集めて試打する場所はなかった。 そこで今回「リフレッシュパーク市川」にシミュレーション打席を設置して、ふるさと納税の返礼品となるクラブを中心に、地元7社合計43本の試打クラブを取り揃えた。 「7月16日からシミュレーション打席の利用が始まり、1か月で20人程度が楽しみました。その多くが県外からの来場者です」(地域振興課・金丸武史課長補佐) リフレッシュパーク市川は、キャンプ場や宿泊施設のほかに「森の遊具広場」など、季節ごとに5つの催事を行っている。夏休みは森の中にネットを張ってカブトムシ1万匹を放す「かぶとむしど~む」が人気で、多くの親子連れが訪れる。その親がゴルフ好きのケースが多く、企画制作課の青木久典係長によれば、 「シミュレーションで試打した利用者のほとんどが、カブトムシ目的の来場者の親御さんです。なので、夏休みが終わる今後が問題なんですよ」 同施設の来場者は年間3万人ほどだが、7月中旬からの1か月で約半数の1万4000人が「かぶとむし」を目当てに来場する。夏休みを過ぎると来場者が激減するから、それにつれてシミュレーションゴルフの利用者も減ってしまう。すると、 「施設に並ぶ、町内ゴルフ事業者さんの製品に触れてもらう機会も減ってしまいます。もっとPRしなければ…」   と思案投げ首の様子なのだ。 この悩み、実は根深い。同町の税収は年間60億円程度だが、そのうち令和3年度はふるさと納税の税収が4億5000万円ほどで、地元メーカーのゴルフクラブの返礼品が2452件で1億5454万9000円と、ふるさと納税の3割以上を占めている。 長引く人口流出で住民税が減少する中、地元業者のゴルフクラブは涙が出るほどありがたいのだ。 「施設への集客を増やすには『発祥の地』をPRして認知度を高め、町内ゴルフ事業者の返礼品(クラブ)を体験してもらって税収を増やす。この一連の流れを作りたいのです」 ところがクラブメーカーの事情もある。その多くが自社製品やOEM製品を作る小規模めーかーだが、輸出品も多く、ゴルフバブルの韓国からは「もっと作ってくれ」と矢の催促が日々届く。目の前にオーダーを優先するから返礼品にまで手が回らない。青木係長は、 「ですから、ふるさと納税用のゴルフクラブが2億円、3億円と拡大するのは難しいと思います。そこがネックでもあるんです」 起死回生の策はないのか? 「実は、寄付頂くのはリピーターと新規の方が半々なんですね。特に新規を増やすためには、来期から稼働する『ウイングトラック』の全国行脚で知名度を上げるしかありません」 同町は来夏から、積載量8tのウイングトラックに、ふるさと納税に出品するクラブや地元産品を載せて全国行脚する計画で「アイアン発祥の地」を全国にPRする。地味だが根気強い市川町。国産アイアン発祥地の挑戦は続く。