「ゴルフ産業Q&A」SDGsを意識したゴルフのイメージアップ

「ゴルフ産業Q&A」SDGsを意識したゴルフのイメージアップ

Q1 ゴルフのイメージアップとSDGsとの関係

大石さんはこの連載で、3つの大きな視点から「ゴルフ界全体でゴルフ普及活動のビジョンをつくろう」と提案されています。 前月号では「経営効率化とSDGs」との視点で書かれていましたが、今月号では「ゴルフのイメージアップとSDGsとの関係」について、大石さんの考えを教えてください。 A1 わかりました。まず、WHO(世界保健機関)はSDGsの3番に示される「全ての人に健康と福祉を」を達成するものとして、 「運動とスポーツを行うことは、アクティブなライフスタイルと精神的な安定をもたらす。スポーツは、世界的な課題に取組んでいくために必要不可欠なツール」 と記しています。したがって、ゴルフの普及活動は3番の「全ての人に健康と福祉を」に該当すると思いますが、ここで重要なのが「健康寿命」という考え方です。 「健康寿命」は、2000年にWHOが「人生において健康な期間をどれだけ伸ばせるかを考えよう」と提唱し、日本では2010年から3年ごとに調査発表しています。昨年の暮れに厚生労働省は、2019年の「健康寿命」について男性72・68歳、女性75・38歳と発表しました。これは、2016年に比べて男性が0・54歳、女性が0・59歳延びたことになります。 最近では、疾患や怪我などで自立した生活を送れなくなるリスクが、より重要視されています。2019年の平均寿命は男性81・41歳、女性87・45歳ですから、「平均寿命」から「健康寿命」を差引いた「日常生活に支障がある期間」は男性が8・73年、女性が12・06年で、調査を開始した2010年と比較すると男性が0・7年、女性が0・6年短縮しています。 ちなみに2016年の日本の「男女平均の健康寿命」は、シンガポールの76・2歳に次いで世界第2位の74・8歳でした。「日常生活に支障のある期間」はシンガポールが6・7年、日本は9・4年で、シンガポールの人達は、日本人に比べて自立した生活を2・7年も長く送っていることになります。 「健康寿命」をさらに延伸させ、自立した生活ができる社会の実現が求められており、厚生労働省は2019年に「2040年までに健康寿命を男性で75・4歳、女性で77・9歳以上とする健康寿命延伸プラン」を発表しました。このプランでは、 「有酸素運動と筋肉に負荷をかける運動によって、生活習慣病を起こすリスクが低下する。加えて、活動や意欲の低下原因となる転倒や骨折を防止できる」 として身体活動・運動を推進して健康への意識を高める環境を整備するとしています。第7回の連載で、 「健康寿命の延伸には、若い時から適度な身体的負荷のスポーツを継続することが重要で、無理せず長続きするためには、仕事とプライベートを両立する必要がある。それに適合するのが、ゴルフ」 と書きましたが、国の健康寿命延伸プランにもマッチしています。

ライフスキルはゴルフで学べる

また、WHOはライフスキルについても次のように定義しています。 「日常の様々な問題や欲求に対して、より建設的かつ効果的に対処するために必要不可欠な能力」 具体的には、社会人に必要な「自己認識スキル」「コミュニケーションスキル」「意思決定スキル」「目標設定スキル」「ストレスマネジメントスキル」で、第7回の連載に記した通り、これらは全てゴルフから習得可能なスキルです。 したがって、教育現場や地域と連携したゴルフの普及活動は、3番の「すべての人に健康と福祉を」、4番の「質の高い教育をみんなに」、8番の「働きがいも経済成長も」、11番の「住み続けられるまちつくりを」に該当します。 近年、多くの地方自治体が地域の活性化を目指して、SDGsをキーワードとした様々な取組みを行っています。特に、学校や地域の人達にゴルフ場を開放するイベントや、災害時の避難場所としての提供(事前協定の基に)は、ゴルフの普及に加えて、ゴルフ場の地域貢献につながるため「ゴルフとゴルフ場のイメージアップ」になると思います。

ゴルフ界は「多様性と包摂性」を!

昨年開催された東京五輪・パラリンピックの最大のレガシーは、日本社会に多様性と包摂性について考える契機を与えてくれたことです。 1896年の第一回アテネ大会では、女性の参加が認められていませんでしたが、第三十二回東京大会では女性選手が過去最高の49%を占めました。また、新競技としてアーバンスポーツといわれる種目が、スケートボード、スポーツクライミング、3×3バスケットボールなど5種目採用され、男女混合種目も水泳、柔道、陸上など7種目で採用されました。さらに、LGBTQ(性的少数者)を公表している選手が160名以上参加し、重量挙げ女子にはトランスジェンダーの選手が初めて出場する大会でした。 半面、大会組織委員会前会長の女性蔑視発言に端を発した騒動は、日本が多様性の第一歩ともいえるジェンダー平等との課題について大きく後れていることを、世界に露呈する残念なことになりました。 ゴルフは、男性中心のやや閉鎖的な環境で発展したために、施設や運営に「強者の論理」に重心を置くケースが多いように感じられます。 ゴルフ界にとって最も重要なことは、東京五輪で示された多様な価値観を受入れる包摂性を持つことだと考えます。具体的には、女性、高齢者、初心者などを受入れる施策が重要で、体力や飛距離に応じたプレー習慣(色別ティーマークの廃止)・男女混合競技・男女差を極力減少させた設備などの展開が必要です。 多様性と包摂性は、SDGsの最も重要なキーワードで、17目標の全てに関係する概念です。 以上、SDGsに掲げられた目標を克服する取組みは、「ゴルフのイメージアップ」となり、経営上の課題解決の糸口になると考えます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら