江戸川エコセンター
2000年、東京の江戸川区と市民が共同でNPO法人「えどがわエコセンター」を設立しました。私が初代理事長でした。小さな団体ですが今もユニークな活動をしています。会の構成は他のNGOとやや趣が違って町内会長や商店会、中小企業の代表などが集まっています。環境に熱心な人だけでなく、一般市民にも参加していただいて、環境保護を区民みんなで進めようというのです。
当初は荒川周辺の自然を調査し、できるだけ自然を残すよう区民に訴えました。次に、区内の家庭ごみの減量を実践し、中小企業の環境意識を高める活動をはじめました。
家庭ゴミの減量のため、ベランダでもできるコンポストを開発し、エコバッグの普及に取り組んだりしたのも、簡単にできることから始めようという理事たちの意向でした。
環境保護を目指す団体は、熱心な人が集まるため、とかく過激になりがちですが、江戸川エコセンターの理事たちは下町のおじさんおばさんが主力ですので、大人の知恵が加わります。「そんなこと言ったって、誰もまじめにやりませんよ」「建前はだめです。誰かがまず動かなくっちゃ」といった声が続き、現実的な路線が決まっていく。実際、次々と計画が動いていきました。
SDGsの実践
中小企業向けのエコ認証制度を作ったのも、誰でもエコ活動に参加でるように、という意図からでした。そのころ、ISO14001という環境認証制度が企業間で実践されていましたが、この認証を取得するには百万円単位の資金が必要で、手続きも複雑だったため、中小企業に転用するのは難しかった。そこで、えどがわエコセンターで手作り認証制度を作ろうと思い立ったのでした。
電気代、水道代、ガス代を削減すればエコ認証するということにしたのです。認証プレートを作って、それを店や工場の玄関に置けば、その店や企業は環境に熱心な経営をしていると認めます、という制度です。
これならだれでも参加できるし、環境の名の下に経費節減ができるというのがミソでした。結果的には環境保護のための資源の節約につながったのです。その後、エコ認証は「節電・省エネ、紙減量、エコ活動、自動車対策などを行う」に変化し、さらに認証を受ければ区の斡旋融資の支援が得られるなどの特典もつくようになりました。
私はSDGsの実践もこのように誰でもすぐ取り組めるようなところから始めれば良いと思っています。17項目の目標は理想形であって現実には進まない項目もあります。でもそれに向かって一歩一歩進む、という実践が大事なのです。
企業の地球環境対策
今ではどの企業も地球環境を守ることを重要テーマにあげていますが地球環境が人類の課題になり始めた1980年代後半には、まだどこも環境問題に関心がありませんでした。それが大きく変化したのは、先に書いた通り平岩外四さんが経団連会長の時に作った経団連地球環境憲章でした。そして1992年のリオ・サミットを経て経済界の急激な変化が生まれました。
企業はこぞって環境室や地球環境部などを設置しました。それまでは各地に公害があり、企業は多かれ少なかれ加害者の立場にありましたから、環境という言葉にはある種のアレルギーがありました。
しかし、地球環境問題はちょっと違う。企業も市民それぞれ加害者であり被害者でもあるという状況を前に、企業は地球環境問題や温暖化などの課題に前向きに取り組み始めるようになったのです。
ところが大変だったのは、観光室長や地球環境部長といったところに派遣されたサラリーマン達です。昨日まで営業第一課長といった部署にいた人がいきなり環境室長に任命されたのです。皆さん頭を抱えていました。何をしたらいいのかわからない、という方が多かった。私たち環境ジャーナリストは各企業から頼まれて、いろいろ情報を提供したり、基本的な課題について解説し、それぞれの企業がどの分野に力を入れたら良いのか、などを説明して回りました。もちろんボランティアです。
いつしか初代環境室長や地球環境部長らが集まるようになりました。ほとんどの話題は社内の無理解に対する憤慨と対応策でした。大手町、新宿、渋谷と飲み歩きました。
それから30年経って、今では大学より企業の方が地球環境や温暖化についての専門人材が多いというような状況に変わっています。
ゴルフ業界取り組み
[caption id="attachment_73960" align="aligncenter" width="468"]
山口県の湯田カントリーの「100円まかない制度」のメニュー。[/caption]
ゴルフは自然の中でのスポーツであるし、ICTの進化に対する感性の復権という意味でもこれからの人間に必要な存在であるのは間違いありません。
SDGsへの取り組みも簡単なことから始めると良いでしょう。山口市の湯田カントリー倶楽部では2017年からSDGsに取り組み始め、仕込みすぎと廃棄直前の食材(賞味期限内の食品)を利用した「100円まかない制度」など積極的な活動を続けており、ゴルフ場として日本で初めて外務省の優良事業に認定されました。
GEWや業界団体などが音頭をとって、ゴルフ業界が簡単に参加できるようにアレンジした環境基準やSDGs達成基準を作り、誌上や店頭で表彰したり、世間にアピールしたら面白いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
つくる責任・つかう責任
SDGs12番に、「つくる責任・つかう責任」という項目がある。これは、企業活動と市民社会がお互いに責任をもって世界を考えよう、という趣旨です。①食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる②廃棄物の削減、再利用により、廃棄物を削減する③持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする④雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対する手法を開発・導入するなど11項目が掲げられています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら