連載SDGs 第20回 最新温暖化情報

連載SDGs 第20回 最新温暖化情報
植村直己さんと北極 ひと昔前、1978年4月29日、植村直己さんが犬ぞりで北極点にたどり着きました。単独行としては、世界初の快挙でした。 この時私は、日本大学隊とともに読売新聞記者として犬ぞりで北極点を目指していました。日本人の北極点初到達競争だ、と話題になりました。結果は私たちが先に北極点に到達し、日本人の北極点初踏破は日大隊が先行しました。私はジャーナリストとして世界で初めて北極点に立つことができました。 わずか一日の差で後れを取った植村さんはとても悔しがったのですが冷静に考えれば、単独で世界初の北極点到達をした植村さんと、チームでしかもエスキモーたちに引率された日大隊とは難しさが比較になりません。日本人初という点で、日大隊が一歩早かったということです。 しかし今回はそんなことより、当時の北極の様子を伝えたい。カナダ最北部の出発点からずっと北極点まで氷が続いていました。氷がせめぎあって盛り上がる乱氷帯が行く手を阻み、犬ぞりを押し上げるのにひどく疲れたのです。また時には氷の割れ目が長く続き、何日も遠回りをしなければなりませんでした。 氷点下50度以上の極寒の中で一日中真っ暗な時を過ごし、そして後半は逆に一日中昼間のような時期が続くような世界でした。今のようにスマホがあるわけではなく、自分たちの位置は六分儀を使って計算するといった時代でした。

温暖化は進む

  あれから44年経って、今では北極海に氷が少なくなってしまい、犬ゾリで北極点に行くことが難しくなりました。 私の経験から考えるとうそのような話です。あの果てしない北極海の氷が溶け続けている。植村さんが北極点の後に向かったグリーンランドの氷も激しく溶けています。 50年にもならないのに北極周辺は大変な変化をきたしています。悪夢を見ているようです。 これまで何度も温暖化の危機について述べてきましたが、今回はもう一歩掘り下げて、人類は今何をしようとしているのか、国際会議を通じて少し説明したいと思います。 温暖化の進展を阻止しようと世界の頭脳が集まって様々な研究をしています。また政府間会議である「国連気候変動枠組条約締約国会議」も毎年のように開かれています。 この締約国会議をCOPと言いますが、これは英語のConference of the Partiesの略語で、様々な条約の「締約国会議」という意味です。COPを「コップ」と発音します。 「気候変動枠組み条約」は、温暖化防止を目指し、1992年、リオデジャネイロの地球環境サミットで採択され、1994年に発効しました。現在198か国と地域が加盟しています。 1993年にドイツで第1回のCOPが開かれました。95年には、日本の京都でCOP3が開かれました。それから、途中中断もありましたが、連綿と会議を続け、この11月に27回目のCOPがエジプトのシャムエルシェイクという都市で開かれました。 京都会議では2020年までの大枠をさだめた京都議定書がつくられ、その後のCOPの展開に大きな影響を与えました。次のエポックは、2015年のCOP21パリ会議で採択された「パリ協定」です。 パリ協定では、今世紀末までの世界平均気温の上昇を産業革命前(1850~1900年)と比べて1・5度に抑える努力をするという目標を決めました。

エジプト会議の成果と課題

昨年のCOP26(イギリス、グラスゴー)では、パリ協定でさだめられた「1・5℃努力目標」に向けて、排出削減をおこなった量を「クレジット」として国際的に移転する市場メカニズムの仕組みが合意に至りました。パリ協定の詳細規定がようやく完成したのです。 この決定を受けて、今年のエジプト会議COP27が行われました。課題の一つは、ロシアのウクライナ侵略が世界の石炭需要に拍車をかけていること。二つ目は、異常気象によって甚大な被害に見舞われている途上国への支援策。パキスタンでは今年の夏、大洪水が発生し、国土の3分の1が水没し、アフリカは干ばつ、フィジーは海面上昇と、途上国では異常気象による被害が頻発しています。そして三つ目は、各国がどれだけ排出目標を引き上げるか、でした。 COP事務局は10月下旬、各国が現在設定している温室効果ガスの排出削減目標を達成しても、今世紀末までに2・5度前後上昇する恐れがあるとの報告書を公表しています。 これに対し、今回は、ウクライナ問題は長期的には大きな影響はないことを認識し、途上国支援では初めて具体策を打ち出し、「最も脆弱な国」を対象とした新たな支援基金を創設すること、さらに、1・5%の削減と石炭火力の制限を強化すること、などの成果がありました。 しかしまだCOP事務局が言うように不十分です。先進国も途上国も一緒に温暖化対策を強化していかなければなりません。 温暖化の危険性をだれもが感じてほしい。ゴルフ関係者の皆様も私たち誰もが同じ地球という船に乗っているのですが、その船の底に穴が開き始めているのです。

「気候変動による将来への影響」

1)温室効果ガス排出量変化について複数のシナリオを検討した結果、地球の気温は2040年までに、1850~1900年の水準から1.5度上昇する 2)全てのシナリオで北極海は2050年までに少なくとも1回は、ほとんどまったく氷がない状態になる 3)気温上昇を1.5度に抑えたとしても、猛威をふるう異常気象現象が頻度を増して発生する 4)2100年までに、これまで100年に1回起きる程度だった極端な海面水位の変化が少なくとも1年に1度は起きるようになる。(IPCC報告書)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら