豊かな自然の中で
6月中旬、私は青森県十和田市のゴルフ場で友人3人とプレーを楽しみました。北海道のお医者さん2人、そしてスポーツ用具メーカー・ミズノの元会長・水野正人さん。お医者さんのお二人は87歳と75歳、水野さんは80歳、私が79歳ということで、後期高齢者軍団でした。アマチュアですので当然ゴールドからのスタートです。
スタートでは一度失敗しても打ち直しができます。様々な特典を利用しながらなんとか良い点を挙げようと皆さん力いっぱいマン振り。当たる訳がありません。首を振りながら「おかしいなあ」の連発です。
それでも八甲田山の雄姿に見とれ緑を愛でるのを忘れません。山々の背後には白雲が流れ、池ではカエルが鳴いています。
「ゴルフはいいねえ、歳をとってもできるし」と水野さん。残る3人も、冗談を言いながら自然の中でのプレーを喜んでいました。街中の練習場とは違います。本当の自然に囲まれて空気がさわやかだし、気持ちも穏やかになる。
ゴルフは他の屋外スポーツに比べて、自然の影響を受けやすいのではないかと思います。風の向きや強さまたはティーイング・エリアと上空との風の巻き方の違いなど、小さなボールで距離が長い分だけ繊細な技術が要求されます。
ゴルフはスコアで勝ち負けが決まるスポーツですが、スポーツ的要素より、むしろ日頃の忙しさからの脱却や精神的負担を軽くしてくれる要要素が大きい。それに友人知人と5時間、6時間と長時間にわたり一緒に遊ぶことができます。
ゴルフの伝統
ゴルフの発祥については諸説あるようですが、ゴルフを育てたのはイギリスです。必然的にイギリス紳士の息吹が今にも伝わっています。古き良き時代の毅然たる振る舞いもまた生きています。
20世紀に入って行き過ぎた拝金主義がはびこり、第二次世界大戦を経てさらにお金中心の世界になり、精神的豊かさより物質中心の世の中になってきました。これに対しゴルフには「人間らしさを確保した上で」プレーを楽しむ伝統が流れています。
これはまさに、SDGsの12番目の目標「つかう責任つくる責任」のターゲット12にある「2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」ことに呼応する考え方ではないでしょうか。
これからの人の流れ
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駅のテレワーク・ブース。今やほとんどの駅に設置されているIT仕事部屋。
PCがあればどこでも仕事ができる時代です。[/caption]
私は、ゴルフの伝統の中にしっかりと根を張っている「自然の中で豊かな人生を育む」という姿勢を大事にしていくべきだと考えます。
インターネットが発達し、仕事場と家庭生活を営む場所とが離れていても仕事が可能になれば、どういったところに人は住みたがるでしょうか。多くの人は、医療や買い物、趣味の場所がある程度確保されていれば、自然が豊かでゆったりとした間取りの家が良いと思うでしょう。
そういった状況がまさに可能になってきそうです。大都会には月に一度か年に数度出ていければ、最先端のファッション、スポーツの試合、音楽会などを楽しめます。住む場所を、いわゆる田舎においても十分世界最先端の知識が得られるようにもなるでしょう。
若い時に東京をはじめ世界の先端都市で様々な経験を積んだ後に故郷に戻ることも可能になるでしょう。
ところが、現在各地に残っている自然をコンクリートで埋めてしまえば、豊かな自然に囲まれて生きる、といった夢は消えてしまいます。深い山、人間と自然が交差する里山、そして都市など人間が住むところのバランスを崩してはいけません。以前に書いた「30 by 30」はまさにこのような状況を保全しようという動きなのです。
人類の歴史上の大転換期については、直立歩行した時、農耕を始めた時などいくつかの時期が指摘されていますが、現在はまさにインターネット革命とも呼ばれる新たな大転換期に入り始めているのではないでしょうか。これからはこれまで当たり前だったことが逆転したり、価値が認められなかったことが急激に重要になったりするでしょう。
ゴルフは世界を救う
こうしたことをゴルフ関係者が積極的にかかわってくださるようになると、ゴルフは世界を救うと言われるようになるでしょう。
しかしまだまだ不十分です。大きなことをしてほしいとは言いませんが、①古いクラブの再利用や途上国に寄贈する②ゴルフの歴史を伝える③キャディさんはじめゴルフ場の従業員にゴルフ場の樹木や鳥や小型野生動物などについて教える、など実践的な活動を始めてほしいと思っています。
ところで、我ら4人の高齢者チームは冗談を言い合いながら楽しい時間を過ごしましたが、次の世代のゴルフ事情に話が及んだ時、いつも柔和な水野さんが「東京オリンピックの招致でも環境やSDGsの考えを明確にする必要がありました。ゴルフ業界も例外ではない」と真剣な眼差しでした。
「つくる責任つかう責任」の項目には169のターゲットと232の指標があります。
その中で特に紹介したいのは、本文でも触れた12・8「これからの生き方」とともに次の2つのターゲットです。
12.a「開発途上国に対しより持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化を支援する」
12.b「雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する」
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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