連載SDGs 第30回 温暖化の本当の危機

連載SDGs 第30回 温暖化の本当の危機

北極圏のメタン

先日、NHKBSの番組で、北極圏周辺の永久凍土が溶け始めてメタンが噴き出している状況が報告されていました。実はこれは大変な危機的状況なのです。 メタンは二酸化炭素の25~30倍と言われるほど温暖化を促進する。それが続くとさらに温暖化が進み、気温は急激に高くなっていく恐れが指摘されています。メタンが出る、そして温暖化が進む、そしてさらにメタンが出てくる、という悪循環に陥る可能性があるのです。 [caption id="attachment_79666" align="aligncenter" width="486"] アラスカのビッグトレイル湖に現れたメタンの泡。 NASA / Sofie Batesより[/caption] 他の温室効果ガスも増え続けるといつかは地球が勝手に温暖化し始めてしまう。そうなるともう人間の手に負えなくなります。その前になんとしても温暖化を食い止めなくてはなりません。 メタンについては、30年ほど前から指摘されていたことです。私は、新聞記者時代、環境問題の専門記者だったのですが、この話は一度も書いたことがありませんでした。あまりにも衝撃的で、センセーショナルな取り扱いが横行してしまっては困る、と感じたからです。もっと確実になるまでは待とう、と思ったのです。

オウム真理教

[caption id="attachment_79665" align="aligncenter" width="548"] 出典:日本震撼、オウム事件全史 写真特集:時事ドットコムより[/caption] その頃、オウム真理教事件があり80年代後半から90年代中ごろまで、様々なことが起こりました。私が衝撃を受けたのは、何人もの逮捕者が出た中で、複数の人間が「地球温暖化などで、もう自分たちの将来はない。だから世の中を変えるためにオウムに入った」といった趣旨の供述をしていたことでした。 皆かなりの高学歴の若者でした。私はこれを知って考え込んでしまいました。地球環境問題を懸命になって報道したことが、若い世代に絶望感を抱かせてしまったのではないか、と大きな責任を感じました。 多くのメディアは科学的データを踏まえた上で、慎重に取り扱っていたのですが、一部のメディアが面白おかしく過激報道を続けたために、若者に絶望感を与えてしまったのかもしれません。 いずれにしろ、自分たち人間の傲慢な生き方が温暖化を招いた、だから、人間が自然・地球を壊さないような生き方をすべきだと説いていたのですが、若者に誤解と恐怖を与えてしまったのも事実だと思います。過激報道に、もっと冷静な報道をするように働きかけていても良かったのに、という思いでした。 しかしここ数年、北極圏周辺でのメタン噴出についての報道が出始めました。厳然たる事実としてそこまで進んでしまったので、メタン報道が動き出したのです。

時間がない

[caption id="attachment_79667" align="aligncenter" width="548"] ハワイのマウナロアにあるNOAA(アメリカ海洋大気局)の研究センターは世界のメタンの量の計測を行っている。(Image credit: NOAA)[/caption] メタン噴出の報道がでてくるまでに、温暖化の影響についてはさまざまな報道がなされてきました。しかしそれらは「まだ先の話」と受け取られていたようです。事態を甘く見ていたのではないでしょうか。 グリーンランドの氷床が溶けて川ができている。山火事が増え、オーストラリアの大きな山火事では30億匹と言われる動物が死んだ。カリフォルニアでも山火事が頻々に発生している。 台風やハリケーンがだんだん大型化してきたり、集中豪雨が増えてきたり、既存の堤防やダムでは処理しきれなくなっています。異常気象による様々な被害が増加する中でもなお、私たちはこれといった有効な対策を打ち出せていません。 メタンだけではありません。シベリアの永久凍土が溶けて、古代のウィルス「モリウィルス」が発見されたのです。これはコロナ以上の強い細菌で、地上に現れるようになったらとてつもないパンンデミックが起こるだろうと言われています。 要するに、温暖化によって何が起こるかわからない。今すぐにでも抜本的な対策に世界が取り組むべきなのです。 メタンの噴出は地球からの深刻なメッセージかもしれません。この30年間「まだ先のことだ。大げさだ」と言い逃れてきたのですが、いよいよ差し迫った危機として温暖化がモンスターのような姿を現し始めたのです。戦争などしている暇はないのです。

世界が一緒に取り組む

[caption id="attachment_79668" align="aligncenter" width="548"] 温暖化に対し、世界中の若者が立ち上がりつつある。「私たちの家は火事だ」というスローガンを掲げる数百人の学生たち。アメリカ・オレゴン州で。オレゴニアン紙より。[/caption] 世界の研究者が2030年前後の10年間を、最も重要な10年だ、と指摘しています。この10年に方向転換しないと、取り返しのつかないことになると警鐘を鳴らしています。このままでは温暖化どころか灼熱地球(Hot House Effect)という状況になる、という指摘さえあります。 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、2030年までに温室効果ガスを現在の半分に、2050年までにゼロにすべきだとしています。私たちは今すぐにでも「脱炭素社会」に大きく舵を切るべき時期なのです。 実践には多大な困難が伴います。途上国は歴史的な先進国の責任を問い、先進国は支援に積極的ではありません。 しかし、私たちは大きな決断をすべき時を迎えています。そのためには国際政治を始め、行政、産業界、家庭生活などすべての人々の意識改革が必要です。世界中の人々が現在の状況をしっかり受け止めなければなりません。広い意味での環境教育を進めるべきでしょう。 SDGsは、そのための具体的行動をわかりやすく示したものだと言えるでしょう。

SDGsの13「気候変動に具体的な対策を」の項から抜粋

13.2 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。 13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。 13.b 後発及び小島嶼の開発途上国において、女性や青年、地方及び社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当て、気候変動関連の効果的な計画策定などの能力を高める。 追記 国連気候変動枠組条約が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら