連載タイトルと話題提供の観点
「サステナブル」や「サステナビリティ」という用語が世界に広まるきっかけは、1987年の「環境と開発に関する世界委員会」が公表した報告書であるとされており、用語の本来の意味は開発行為における環境問題を指す。近年では「経済システムの持続可能性」や「気候変動の問題」、「人権問題」等々、その対象は広く用いられている。
サステナブル(Sustainable)という単語は形容詞であり、直訳すると「持続可能な」となる。サステナビリティ(Sustainability)は名詞形であり、一般的に「持続可能性」と訳される。
そこで、本連載のタイトルは『ゴルフサステナビリティ』(ゴルフの持続可能性)とし、主に以下の6つの観点から話題提供することとしたい。
観点①:サステナブルな日本のゴルフ人口
レジャー白書によれば、日本のゴルフ人口は1992年の1480万人をピークに右肩下がりを続けている。ゴルフ人口1000万人の大台を割った2000年台半ば頃に「2015年問題」が言われ出し、次に来るゴルフ人口激減の高波が危惧された。だが、様々な提言や施策は奏功することなく、その後もゴルフ人口減少は続いてきた。
2023年10月に刊行された「レジャー白書2023」では、最新データとして「日本のゴルフ人口は過去最低の510万人」と発表されている。このように、日本のゴルフ業界は30年以上にも渡り、ゴルフ人口減に伴う「ゴルフの持続可能性」を憂い続けてきた。
本連載では、まずはこの現状を前提として「サステナブルな日本のゴルフ人口」と言う観点に軸足を置く。
観点②:サステナブルなゴルフの環境
『ゴルフの環境』には、暑さや寒さあるいは気候変動といった「自然環境」の問題と、ゴルフ場への交通あるいは用具の問題、価格やプレーフィーなどの経済状況といった「プレー環境」という意味合いもある。
2023年は暑さだけでなく日本に降り注ぐ紫外線レベルも急上昇した。日本では「気候変動適応法」が改正されるなど温暖化は深刻さを増しており、暑熱と紫外線の低減策が急がれる。例えば、筆者が従事する大学業界では「前期(4月~8月)には体育・スポーツの授業を屋外では行わない」ことを決めた大学も出始めている。
また、この観点からは、新規にゴルフを始めたいが状況が整わないといった「プレー環境」の問題も取り上げたい。
観点③:スポーツ・クリエーション
ゴルフは単なる遊びであるにもかかわらず様々な制約があり、堅苦しいイメージを与え続けている。近年、フットゴルフやゴルフトライアスロンなど、ゴルフ場を利用した新しい遊び方が出現し始めているが、「ゴルフ場の持続可能性」という立場からは、もっと色々な用具や遊び方が提案されるべきである。
日本のゴルフ場数は減少傾向とは言え、現在も2100カ所をも超える数が維持されていることは素晴らしい。従来のプレースタイルを頑なに変えずに、遊び方が1つだけのままで閉鎖に追い込まれるか、新たに多様なプレースタイルやサービスを導入して、将来も持続的に運営できるゴルフ場化に舵を切るか、スポーツ・クリエーションの観点からゴルフ界への提言をしたい。
観点④:健康効果検証研究の展望:「ゴルフが主」で「健康効果は副」
「健康のため」にゴルフに親しむ人は多い。それ自体はとてもよいことである。だが、ゴルフ事業者や業界団体を挙げて「健康のためにゴルフを!」というキャンペーンを打つことには共感が得られにくい。そもそも「●●のためにゴルフを」という、何か別の目的での訴求の仕方は、過去30年に渡り多数の事例があるが、世間の人々には響かなかった。
古くは、ヨハン・ホイジンガ(1973)が「遊びの目的は行為そのものの中にある」と定義し、遊びはその遊びそのものが目的であることを記しているように、「ゴルフそのものの特性」や「楽しみ方の本質」を追求するべきである。
例えば、ドレスコードを厳しく規定することが、ゴルフ遊びの本質にどの程度の影響を及ぼしているのか。また、初心者や高齢者には適応し難いルールや環境であるならば、彼らが「楽しい!」「またやってみたい!」と思えるように改善・適応するべきではないか。
「ゴルフと健康」を掲げる対策を考える上で、「ゴルフは楽しい!」と夢中になること(ゴルフが主であること)が重要であり、その結果として健康効果(副)が付随する。主と副が逆転して
「健康のためにゴルフをやろう」というのでは本質的ではなく有効性にも乏しい。
人々がゴルフを楽しみ、ゴルフにハマるような環境やルールにカスタマイズしたり、アダプテーションする必要がある。
観点⑤:世界のゴルフエビデンス
筆者がゴルフサステナビリティに関連すると感じた国内外の研究を紹介する。「何がエビデンスなのか」をしっかりと理解できれば、まずはゴルフ事業者自らの持続可能性のために、一歩を踏み出しやすくなるのではないか。それぞれの積み重ねが、結果として日本のゴルフ界全体の持続可能性を高めることに繋がって行く。
観点⑥:教育機関におけるゴルフの考察
日本のゴルフ産業界では、従来、初等中等教育(体育授業)へのゴルフ導入の期待がある。筆者は大学でゴルフ授業を担当し、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会を創設した。大学に限らず、教育機関におけるゴルフや授業の在り方、そしてその現状についても調査・研究をしているが、幼児から高齢者までの「ゴルフ教育」についての話題にも触れたい。
参考文献
・外務省(2015)持続可能な開発(Sustainable Development)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/sogo/kaihatsu.html(2023年12月13日確認)
・公益財団法人日本生産性本部(2023)レジャー白書2023―余暇の現状と産業・市場の動向―
・ヨハン・ホイジンガ著、高橋英夫訳(1973)ホモ・ルーデンス、中央公論新社
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら