連載SDGs 第31回 二酸化炭素の排出権取引

連載SDGs 第31回 二酸化炭素の排出権取引

カーボン・クレジット市場

東京証券取引所は10月11日、二酸化炭素の排出権を取引する「カーボン・クレジット市場」を開設しました。 これだけだと良く分からないですが、地球温暖化を止めるため、二酸化炭素の排出量を、国ごとに減らしていくための手段の一つです。日本政府は、2030年度までに温室効果ガスの排出量を2013年度に比べて46%削減し、2050年には実質ゼロにすることを目指しています。これまでは国民の多くは「いずれそういう事態が来るだろう」といった程度の関心しかありませんでしたが、最近の異常気象でぐんと現実味が増してきたようです。 「本気で二酸化炭素などの温室効果ガスを減らさなければいけないのかも」といった空気が各方面で出てきたようです。カーボン・クレジット市場が開設されたのも、その表れでしょう。 日本政府は、2026年から本格的に排出権取引を実施する予定ですが、今回の市場開設はその前段として開設されたのです。 こうした排出権取引をすでに実施している例があり、EUやアメリカ、韓国などでは、排出量取引の多くは、国が企業や自治体などの排出量の上限を決める方式で、上限より少なく排出した場合は少なくした分を売ることができ、上限をオーバーした場合はその分をよそから買ってこなくてはならないという制度です。

先駆者

[caption id="attachment_80073" align="aligncenter" width="213"] 後藤康夫さん[/caption] 東証に排出権取引市場ができる、と聞いた時、真っ先に頭をよぎったのは旧安田火災(現損保ジャパン)の後藤康夫会長でした。後藤会長とはリオ・サミット(1992年)の数年前からのお付き合いでした。 後藤会長は常々「保険という商品は目に見えない。では、お客様は何を信用して保険に入るのですか。それは、売る人を信用するんです。だから社員教育や代理店教育が大事なんです」と話していました。 そして「これからの世の中、どんな人が信用されるのか、考えてみましたが、環境問題を解決しようとする人だと思うんです」と付け加えるのでした。 リオ・サミットに経団連の代表として参加した後は、会社を挙げて環境教育に邁進しました。私が役員を勤めていたNGOとコラボして新宿の本社で「市民のための環境講座」を開設され、経団連の自然保護基金を創設し、その運営協議会の委員長にも就任されました。いずれも現在まで続いています。 後藤会長は海外の様々な方とお会いし、特に地球環境問題に興味を持たれ、排出権取引についても当時から強い関心を示しておられました。 「岡島さん、これは良い考えだよ。日本でも早く取引できるようになるといいんだが」と排出権取引の実現を期待されていた。 その夢を追って、社内にESG(環境、社会、企業統治)にフォーカスしたファンドを設立しました。いわゆる「エコ・ファンド」です。 時が移り、損保ジャパンは今年、ビッグモーターの問題で大きく揺れています。後藤さんはどんな思いでこの事件を見ているのでしょうか。 そういえば、後藤会長はゴルフが大好きでした。

海外の動き

EU(ヨーロッパ連合)では、2005年から制度が始まり、大手鉄鋼メーカーなど大規模な事業者の参加が義務づけられています。参加する事業者の排出量は、EU全体の排出量の4割以上を排出しているそうです。だからこの制度はかなり有効です。 一方、今回の排出権取引市場は、企業などが自主的に削減量の目標を立てます。政府による規制ではなく企業みずからが率先して二酸化炭素の削減に取り組むというかなり野心的な方法です。 しかし、これでは規制として緩すぎるのではないかという声もあり、日本政府は2026年の本格運用までに実態調査を行い、さらに厳しい規制にするか決める予定です。 排## 出量の計算方法と値段 でも、排出量はどう測るのか、また取引価格はいくらなのか、といった疑問が出てきますが、これはかなり厳密な計算をします。詳しくはここでは解説しませんが、環境省、経済産業省や林野庁のホームページに載っています。 ところで、11日の開設当初の取引では、金融機関や自動車、電力、地方自治体など188の参加登録者があり、3689トンの排出権が売買されました。価格は1トン2480円から9900円でした。

森林整備の役割

こうした中で、森林整備の役割が結構大きいのです。そして、ゴルフ場もこの分野ではかなり役に立てそうです。 ゴルフ場の森林を整備したり、地域の森林所有者に呼びかけて荒れた山林を手入れし、若木を植えるなどして二酸化炭素を吸収すればその権利を売ることができます。森林整備程度の費用は出るでしょう。 以前、30by30についてゴルフ場も参加したらどうかと書いたことがありましたが、30by30とともにこの排出権取引に参加することによって相乗効果も生まれるでしょう。 SDGsで言えば、地域を豊かにすることとパートナーシップで共同作業を進めることに繋がります。

カーボン市場の目的

西村経済産業相は11日午前に開かれた式典で、「カーボン市場が重要なインフラ(社会基盤)として発展することで、排出量削減と経済成長の両立につながることを大いに期待したい」と述べた。カーボン市場では、企業が再生可能エネルギーや省エネ製品を導入したり、森林を守ったりすることで、自社が定めた目標以上に削減したCO2の排出量を権利として売ることができる。権利は、国が「J- クレジット」として認証する。目標が未達の企業は、権利を買える。売り手は利益が得られ、買い手は目標が達成できる利点がある。 これまでも企業が排出削減量を売買する仕組みはあったが、相対取引が中心でほとんど活用されていなかった。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら