連載SDGs 第32回 平和と公正を全ての人に

連載SDGs 第32回 平和と公正を全ての人に

皇居の森

読売新聞記者時代に「皇居の森と動物たち」という連載記事を書いたことがあります。皇居のうち、東御苑は一般に開放されていますが、他は入場が制限されています。関係者が入場できるだけで、一般の人は決められた時以外は入れません。 このため東京のど真ん中にある割には動植物も豊富で、自然は武蔵野の面影を残しています。特に吹上御殿は当時、手付かずの森のようになっていました。 カラスが増えて困った時期に、職員がカラスの巣を叩き落すことができませんでした。何事も自然のままにしておきなさいと言う陛下の命令があったからでした。 取材に応じてくださった本田正次東京大学教授は、ある時、吹上御所を散歩中、陛下から「これは何という名の花か」と尋ねられ、「ただの雑草です」と答えたところ、陛下が「本田、雑草という名の草はない」とおっしゃったそうです。本田先生は 「あの時ぐらい恥ずかしかったことはありません」と話しておられました。 「雑草という名の草はない」というお言葉について、牧野富太郎博士が天皇陛下にお話ししたというのが本当だ、という話がありますが、私は本田先生からこの話を直接聞いています。おそらく牧野博士が陛下にお話しになって、それを本田先生に話されたのではないかと思います。 いずれにしても、昭和天皇が豊かな自然を維持されておられたことは確かです。 ところで、戦前にはこの森はゴルフ場だったそうです。陛下はとてもゴルフがお好きで、赤坂離宮や沼津や那須の御用邸にもゴルフコースがありました。

日英皇室による親善ゴルフ

昭和天皇はゴルフがお好きで、お若い頃は日曜日ごとにプレーをされていたこともあったようです。その中でも有名な話は、1922年4月、英国皇太子・エドワード殿下(英国王エドワード8世)との間で行われた親善ゴルフマッチです。 現在の駒沢公園にあった東京ゴルフ倶楽部で9ホールのマッチプレーを楽しまれました。結果は、英国が1点差で勝ちました。 ゴルフを最高レベルの場に活用され、1点差で相手に花を持たせるという見事なお相手ぶりでした、と言われていますが、私は、お二人はお互いを尊敬しつつ正々堂々とプレーをされたのだと思います。 エドワード8世は後にこのマッチプレーを「歴史に残る東洋と西洋との出会いであった」と書いておられます。このプレーが思い出に残っていたのでしょう。

ゴルフ中断

昭和天皇は16歳のころからゴルフを始められ、長く楽しまれたのですが、戦火が厳しくなる昭和12年ごろにおやめになった。 野球が敵性スポーツだと排斥されるようになった空気が影響したのでしょうか。 戦後、昭和天皇は吹上御所を人間の手付かずの森として扱われたのですが、どのようなご心境だったのでしょうか。今となっては誰にも分かりません。第二次世界大戦という大変な人類の不幸を、身をもって体験され、深く思うところがあったのかもしれません。 本田先生はその点については何も語りませんでしたが、「昭和天皇のお話からは、自然について、小さな花も樹木も、ともに生きているのだから、という思いが強く感じられました」と話していました。

戦争とゴルフ

スポーツは平和が前提です。ゴルフも戦争が始まれば、できなくなります。それどころではない、ということです。地震や津波など大きな災害の時もそうです。 しかしながら現在、人類はウクライナで、ガザで、戦争を続けています。一か所で戦争が始まれば、世界のバランスが崩れ、あちらこちらへと戦火が広がります。 戦争は最大の環境破壊だと言われています。また、世界の軍備に係る費用の1%でも環境保全に回せば、保全活動は大きく前進するという指摘もあります。 地球温暖化が進み、地球上の全生物の危機が迫りつつあるのに、人間は膨大な費用と時間をかけて、地球を破壊する行為を続けています。一方で温暖化防止に懸命になっているのに、一方で地球を傷つけ破壊し続けているのです。何かがおかしいと思います。 近代文明は、自動車を発明し、飛行機を作り、病気を大きく削減したのですが、その反面、人間以外の多くの生物を絶滅に追い込み気候変動を引き起こしているのも事実です。 これは人間の生き方、価値観の問題とも言えるでしょう。宗教が長い間人間の過剰な行動を戒め、規律を作ってきたのですが、第二次世界大戦以降はその宗教の影響力は徐々に弱まっているようです。 人間の欲望は限りがありません。地球環境の危機に面して私たちは、この欲望のコントロールを再度考えてみる必要があるようです。環境思想や環境哲学というものを構築していく必要があると思います。

SDGs16条「平和と公正を全ての人に」の主な目標

1)あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。 2)子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。 3)国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する。 4)グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら