ゴルフ界のジェンダー
これまでSDGsの話をいろいろ書いてきましたが多くは環境問題の話題でした。しかし、実はSDGsの半分以上は環境問題以外の世界平和や経済格差、教育、人権、ジェンダーなど世界の人々が平等に、豊かに生きていくことを訴えています。
世界では、多くの人々はその日の食事に困っています。女性差別が依然として残っている。戦争が多発しているなどの課題もあります。もう一度、図を見ながらSDGsの基本について考えてみましょう。
こう書き始めたところに古江彩佳選手がエビアン選手権で優勝したというニュースが入ってきました。メジャー優勝は史上5人目で、松山選手を除くと残る4人はみんな女子選手です。6月には笹生優花選手が全米女子オープンで2度目の優勝を飾っています。凄いと思いませんか。
SDGsの思いの中で重要な課題の一つにジェンダーありますが、今回は古江選手の活躍もあり、ゴルフ界のジェンダーについて、2022年11月号に続いて再度考えてみたいと思います。
古江選手は身長153cmでやや小さめの体格です。日本人のほとんどの男性は古江選手より大きいと思いますが、どうして古江選手のように飛ばないのか、また、うまくなれないのか、不思議な気がします。
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小柄ながら大記録達成の古江選手(ブリヂストンスポーツ
契約発表)。[/caption]
もちろん古江選手をはじめ女子プロの方々は小さい時から血のにじむような練習を続けてきたからよく飛ぶし、技術も素晴らしいのだと頭では理解しているつもりですが、アマチュアのおじさんたちはなかなか飛距離が伸びない、上達しない、という悩みを抱えているので彼我の差を簡単に受け入れることが難しいのかもしれません。
日本の女子プロは強い、そして世界に通用する選手が続々と出てきています。人気も男子よりずっと高いのです。でも、女性のゴルファーは少ない。どうしてでしょうか。
紳士のスポーツ
ゴルフ場で女性が冷遇されているといったことを22年11月号で書きましたが、まだまだ改善のスピードが遅いようです。中年のおじさんが幅を利かせているゴルフ愛好家の中では女性の待遇改善について話題になりにくいのかもしれません。
ひとつにはゴルフは「紳士」のスポーツだ、という精神を取り違えている男性が多いようです。「紳士」のスポーツを「男」のスポーツと間違えているのではないか。プレー中にたばこを吸ったり賭けゴルフをしてみたり、プレーファーストができない自分勝手なしぐさなど紳士にあるまじきゴルフをしている方々は紳士ではなくただの男です。
こうした状況に対し、女性を受け入れる時に「紳士・淑女」のスポーツと考えればいいのです。今はまだ古い時代の男尊女卑的な考えの中で紳士の雰囲気だけを盾に「ただの男たち」が女性の参加を阻んでいるとすら思えます。
世界では女性の総理大臣、社長もたくさん出ています。昔は体力のない女性は家にいて家事をこなすのが主流でしたが、今は21世紀、コンピューターの時代です。ほとんどの職業に男女差はありません。スポーツの世界でも、記録的には男女差はありますが、選手の扱いに差はありません。
イギリス発祥のスポーツの多くはフェアープレイを基本に置いています。ラグビーの基本は前に投げてはいけないことです。ゴルフでは成績が自己申告です。卑怯なことはしない、正々堂々と戦うことが基本。それ故、世界に広まっていったのではないかと感じています。その精神には男も女もありません。そういった基本を忘れて、形だけ真似をしている「紳士」がゴルフ界に少なからず存在するのが問題です。
もっと女性を
ビジネスから見ても女性ゴルファーは未開拓の分野です。ゴルフ場でもメーカーでもお客を増やすチャンスなはずです。このブルーオーシャンになぜ真剣に取り組まないのか不思議です。
7月号でも「船中八策」で倉本昌弘氏が、ゴルフの普及活動に対してJGAなどにもっと力を入れるべき、と提唱していましたが、同感です。ここはゴルフ界を挙げて突き進まないと、ゴルフという遊びは忘れられていく恐れがあります。ゴルフ界の方々が他のスポーツや企業、社会の様々な分野に目を向ければ、ゴルフ界の女性進出が遅れていることに気がつくはずです。
日本は世界でも女性の社会進出が遅れていると言われていますが、少しずつ変わってきています。ゴルフへの女性参加が少ないことを社会のせいにしないで、むしろゴルフ業界が率先して女性参加の先進事例を創造していったら、どうでしょう。
例えば、ある条件を満たせばプレー費用を半額にするとか、貸しクラブを増やし、電車でもゴルフ場に行かれるようにする。女子プロ選手のテレビでの露出を奨励し、社会活動に積極的に送り出す仕組みを作るなど、画期的な変化を起こすような作戦を業界あげて作ったらどうでしょうか。
「貧困をなくそう」
SDGsの第1章は「世界中の貧困をなくす」です。ジェンダーそのものに対してはまた別な項目がありますが、この貧困の項目でも女性の地位向上は重要な位置を占めています。
五つのターゲットでは、2030年までに、極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。貧困状態にある人々の割合を半減させる。各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、貧困層に対し十分な保護を達成する。国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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