連載SDGs 第44回 SDGsは未来を語る 日本環境教育フォーラム会長 岡島成行

連載SDGs 第44回 SDGsは未来を語る 日本環境教育フォーラム会長 岡島成行

アメリカ大統領選挙

[caption id="attachment_87201" align="aligncenter" width="788"] 世界を動かす司令塔でもあるホワイトハウス[/caption] アメリカの次期大統領に決まったトランプ氏は現在の改善を図ることに重点を置き、敗れたハリス氏はこれから先の課題を念頭に置いた課題解決策を主張しました。例えば、移民対策や経済改善など今直面する課題対策を訴えた共和党に対し、地球環境問題やAIの危険性など未来に繋がる危険性に力を入れる民主党といった構図だったとも言えるでしょう。現在と未来のどちらに重点を置くかの選択だったといえる側面があったのではないでしょうか。 SDGsはどちらかというと民主党の主張に近いでしょう。現在の課題を未来に向けて改善するための具体的な方策を掲げているのがSDGsです。ですから現実に困っている人、戦っている人達には、SDGsに掲げられた対策は空虚に感じられることがあります。SDGsは、将来のことより今の状況を改善してほしい、という切実な声にかき消されてしまうことが多いのです。 トランプ次期アメリカ大統領は、気候変動枠組み条約を脱退するでしょう。環境問題よりも今の課題、すなわち経済成長やアメリカの利益を優先し「強いアメリカ」というスローガンのもとに、世界の課題よりアメリカを優先し、将来の課題より今の課題に集中するようです。 アメリカ大統領選直後、アゼルバイジャンのバクーで開かれた国連気候変動枠組み条約29回締約国会議(COP29)では、先進国首脳の参加はイタリアとイギリスの首相だけでした。アメリカがこの会議から抜ければ、気候変動の対策はさらに停滞するでしょう。

人類の課題

[caption id="attachment_87200" align="aligncenter" width="788"] 11月、アゼルバイジャンのバクーで開かれたCOP29のポスター[/caption] 最近売り出し中のドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏(ボン大学教授)は、これからの人類の課題は「地球環境問題とAIだ」と語っています。まだ44歳の気鋭の学者は自分たちの世代の将来について鋭い目を向けているようです。 2024年11月16日付けの読売新聞でガブリエル氏は「気候変動の影響を私たちは日増しに強く実感している。地球環境は危機に瀕し、人類の運命を左右する重大な脅威となっています」と話しています。 人間のあり方を考える哲学者が今人類の危機を訴えているのです。地球全体の課題を考えている人がいる反面、「今」しか考えられない、そして自国の利益だけを主張する人もいる。それが世界の運命を左右するほどの力を保持するアメリカの、今回の選択です。 ガブリエル氏はまた、AIについても大きな警鐘を鳴らしています。「AIを用いて悪意の国家や党派や狂信者らが虚偽情報を生成し、SNSで拡散して民主主義を損なう事案が続出しています」(先の読売記事)と言っています。未来を見据えつつ現在を論じなければ、人類に希望はありません。

SDGsの主張

SDGsの17の項目をいくつかに分けてみましょう。1番から3番、6番が主として「途上国の貧困」の問題です。7番、8番、9番、11番から15番までが「地球環境問題」そして4番は「教育」5番は「ジェンダー」10番は「不平等」。16番「平和」と17番「パートナーシップ」は基本課題と言えるでしょう。 これが実は、世界を取り巻く重要課題です。そしてSDGsでは近未来にこうした人類共通の課題を改善すべく、具体策を提示しています。ともすると、SDGsは環境問題が主役のように思われますが、現在から近未来にかけての人類の課題をほとんど扱っています。 ここのところをしっかりと理解、協力し、実行していただきたい、というのが国連の考えです。

ゴルフ界も協力を

SDGsの基本的な考え方を理解した上で、ゴルフ界が具体的にどんな協力ができるか、それを皆さんで考えていただきたいのです。 おかげさまでゴルフ界にも理解者が増えているようです。具体的な実践活動もたくさん出ています。時代の流れを的確に読んで、SDGsを経営の柱に取り入れているゴルフ関連企業が増えています。 これからの課題を早く理解し、新たなブルーオーシャンを見つけることは経営の要諦でしょう。排出権取引も市場ができはじめています。温暖化が進めば進むほど、新しいマーケットが出現するはずです。 環境だけでなく、途上国支援やジェンダー教育などの分野でもAIを活用した新たな展開が見られるでしょう。 ゴルフをめぐる様々な事業も同じです。この流れを見据えて舵を切るべきだと思います。現在、直面している課題に全力を注ぐのは当然ですが、人類が抱えている課題を改善することを企業のミッションの一つに加えることも重要です。 インドアゴルフは新しい波です。さらに、暑さ対策はどうか。若者をどうやってゴルフに誘うか。課題は多いですが、例えば温暖化対策を考え、20年後、30年後の世界を見据えたゴルフ振興策は必ず若者が関心を示すでしょう。 アメリカ大リーグでは顕著な社会貢献を行った選手に送るロベルト・クレメンテ賞があります。日本のゴルフ界にもSDGs賞のようなものがあればいいですね。

平和と公正をすべての人に

SDGs16のターゲットは1)あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる2)子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する3)国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する4)国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する⑤持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する・・・などが主張されている。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら