連載SDGs 第45回 ゴルフを教育に活かす 日本環境教育フォーラム会長 岡島成行

連載SDGs 第45回 ゴルフを教育に活かす 日本環境教育フォーラム会長 岡島成行

人を育てること

青森勤務が終り、時間ができたので庭の手入れを始めたら想像以上に荒れていました。10年間放っておいたから当然です。ツツジの生垣に落ち葉が詰まっていて取り除くと枝が傷ついている。中は枯れかかっていて触るとポキポキ折れる状態です。 考えてみると人工的な林や庭は人間が手入れをしなければ荒れるに決まってます。庭の手入れをしながらふと、教育も同じではないかと思いました。 今の教育は小学校から大学まで、手入れが行き届いていないのではないだろうか。知識のようなものは教えますが、人間としての基本をおろそかにしている。庭木の手入れをしていて日常の手入れの必要性を感じたのですが、教育でも、人としての生き方を丹念に教えることがなくなり、見栄えのする知識だけを教えているように思えてなりません。 命の尊さ、自然の不思議、愛情、謙虚、人助け、協力……様々な生きる基本がおろそかにされているようです。 私は長く子どもたちの自然体験の重要性を訴えてきていますが、正義感やフェアープレーの重要性も大切です。そう考えてみると、ゴルフは実はその両方を備えているように思えるのです。

学校のクラブ活動にゴルフを

中学、高校、大学と、学校のゴルフ部は少ないですね。何となくお金持ちのおじさんのスポーツというイメージが染みついてしまって、金のない若者には無縁のものと思われてきたからか、いずれにしても、もったいない。 野球やサッカー、音楽などのクラブはプロを目指す本格的なものもあれば同好会やインターカレッジと言ってどこの大学でも構わず入れるクラブがあったりします。 ゴルフもプロを目指す名門大学がありますが、もっと手軽な同好会などがたくさんあっても良いと感じています。ゴルフはまだ若者には浸透していません。 これを放置しておくことはないと思います。キャディのアルバイトとトレーニングなどが一緒にできないでしょうか。ゴルフ場がインターカレッジのようなクラブを設置したらどうか。 学生が安くゴルフを楽しめる方法を開発したらよいと思います。週末にお手伝いしたらウイークデイに午後から無料でプレーできるようにするなどの制度もいいでしょう。ゴルフの技術指導やインターカレッジ競技大会などの支援もいい。

山の先輩

[caption id="attachment_87698" align="aligncenter" width="788"] 見知らぬ若者にも支援を惜しまなかった泉靖一先生(1915-1970)[/caption] 私は中学から大学まで山岳部で活動していました。大学山岳部は日本山岳会の傘下にあって、各大学が日本山岳会の図書館や部屋を借りてミーティングを開き、先輩たちの指導を受けていました。その時は大学の区別はなく、全員が同じ大学のような雰囲気です。 それが卒業後も続き、連綿と繋がっています。柔道やボーイスカウトなども似たような雰囲気があって国会議員のOB会もあります。 この連載でも書いたように、橋本龍太郎さんや堂本暁子さんは日本山岳会の先輩で、私は彼らの後輩であるので親しくさせていただきました。 私は大学を卒業するころになって文化人類学の先生になりたくなり、東大の泉靖一先生を訪ねて大学院進学の相談をさせていただきました。 泉先生は見ず知らずの私に会ってくださったのも大学山岳部の人間だったからです。大学院が受からなかったらどうしたらいいかお聞きすると、先生は大学を卒業してから3年生に編入する学士入学というのがあるからそれを受けなさい、と言う。山ばかり登っていて勉強には自信がなかった私は、それも落ちたらどうしたらいいかと聞いたところ、先生は大笑いしながら「全部だめだったら俺の研究生になれ。そして2年間勉強して大学院に入れなかったら諦めろ」と言うのです。 初対面の若者にこうまで面倒を見ようとしてくれる。自分の直接の後輩ではなくても同じように接してくれる懐の深さです。さらに京大の梅棹忠雄先生を紹介してくれました。 試験は全部落ちて泉先生の研究生となりましたが、4月からは学生紛争が激しくなり大学の授業はほとんどなくなって進路変更で、読売新聞社に入社することになったのです。

ゴルフの教育力

[caption id="attachment_87700" align="aligncenter" width="788"] 市原市はジュニアゴルファーの育成にも力を注いでいます。市原市ホームページより。[/caption] SDGsの「質の高い教育をみんなに」と言う項目にはより良い教育の課題が書かれています。すなわち人間としての基本を教えることも含まれているはずです。 ゴルフはフェアープレーの精神が基本です。スコアは自己申告です。プレー相手を尊敬します。人間の基本が詰まっています。まともな人間を育てるには格好のスポーツです。自然を楽しみ、自然のありようによってプレーが変わります。 もっともっと若い人たちに広げて良いスポーツです。私の山岳部での経験のような繋がりはできないでしょうか。ゴルフ界挙げて若者獲得に知恵を絞るべきだと思います。

4 質の高い教育をみんなに

すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。そのターゲットは 1)2030年までに、全ての子供が男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする 2)2030年までに全ての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする 3)2030年までに、開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国における教員研修のための国際協力などを通じて、質の高い教員の数を大幅に増加させる など10項目が掲げられている。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら