ボールを打たずに2ヶ月半が過ぎた。新型コロナウイルスの感染を抑える〝3密〟を忠実に守ったのと、この感染症の恐ろしさも理由の一つだ。
アメリカツアーも日本のツアーも中止になった。いつもならTVに見入っているのに、毎日の過ごし方が大きく変わってしまった。退屈しのぎに古いアメリカのゴルフ雑誌を読んでいたとき、ライダーカップの戦績に目が止まった。
ライダーカップが、イギリス対アメリカの対抗戦で始まったのは、1927年のアメリカ大会(マサチューセッツ州ウォーセスターCC)からで、1年おきの開催だ。第1回大会から両陣営の熱戦で盛り上がった。選手が18番グリーンに上がってくるたびに、大きな歓声が沸き起こる。
そのライダーカップは、新型コロナウイルスの感染が収まれば、今年は9月25日からアメリカのウィスリングストレイツCC(ウィスコンシン州)で行われる。実現すれば世界のゴルフ界再興へ、大きな弾みになるに違いない。 (実際には2021年に延期された)
アメリカの勝利から始まった対戦は、44回大会まで交互に2勝2敗で進み、その後のライダーカップ戦に大きな期待を残してのスタートとなった。
しかし、続く1935年大会から1955年(1935、1941、1943、1945年の大会は中止)まで、米チームは7連勝と勝ち進んだ。次の1957年はイギリスに敗れたものの、その後の1959年からもアメリカの連勝が始まり、1983年まで13連勝。あまりのことにイギリス陣営は、1973年から新しくアイルランドを加えたが、アメリカの勢いを止めることはできなかった。
勝てないイギリスの弱点
なぜイギリスは、アメリカに勝てなくなってしまったのか。
1966年、米ゴルフ雑誌にイギリスがライダーカップに勝てない原因として、アメリカツアープロ出身の評論家ビクター・イーストが、それは両チームのスウィング技術の差にあるとして、その記事を掲載している。興味深いポイントなので、比較している内容の一部をご紹介しよう。
バックスウィングスタート
(米)両腕と体を一体にして、クラブフェースをスクエアにキープしながらテークバック。
(英)両前腕を右へ回しながらオープンフェースでスタート。
ダウンスウィング
(米)スクエアフェースのまま、ボールへ振り下ろす。目標へ低く長く、自然の動きで振り抜く。
(英)両腕を捻り戻して、スクエアなフェースにしてインパクト。
インパクト
(米)両手首を返さず、両腕を伸ばしたまま高いフィニッシュへ。
(英)インパクトでは、手首を返して、左手の上に右手が重なる動きで打つ。低いフィニッシュ。
これが米・英のスウィング技術の比較のほんの一部である。
この時点でアメリカの手首を制御し、ボディターンとスウィング軌道を重視した打ち方に対して、オープンフェースのバックスウィングから、ダウンスウィングでは再びスクエアに戻すリスト中心の打法という、英国型の打ち方の差が浮かび上がる。
やはり「遠く、正確に」という永遠の目標に近づくという点では、アメリカが一歩も二歩も先行している感じが否めない。
こうした分析の結果で「この差がライダーカップに現れた」とV・イーストは発表したのである。
進化を続けるアメリカ打法
またアメリカのプロゴルフ協会は、1972年にレッスンの教科書として「METHODS OF TEACHING」を発表。その中でスウィングをモダンタイプとクラシックタイプの二つに分け、進化前と進化後のスウィング分析を行っている。指導者たちに技術の進化を理解させ、レッスンに際して正しい方向性を指示したものとみられる。ここでは新旧57項目について対比させているが、その幾つかを取り上げてみよう。
バックスウィング
(新)極端に少ない両脚の動き。
(旧)両脚はテークバックとともに右へ回して、回転を助ける。
トップ オブ スウィング
(新)シャフトが飛球線と平行。
(旧)シャフトが目標の右に向いて、飛球線と交差する。
ダウンスウィング
(新)両肩をトップの位置に残し、下半身を左へ平行に移行。
(旧)体重移動よりも両腰をほぼその場で回転。
この対比を見ると1966年のビクター・イーストの研究発表よりも、さらに進化した内容が読み取れる。
例えばバックスウィングの新しい方法では「両脚の動きを少なく」とあるが、これなどは進化した現在の「下半身を止めて上体を捻ることによって、コイルの強さをアップさせる」という基本につながる動きといえる。
このことはまたトップで両手が高く上がりすぎ、ミート率に問題を残すロングスウィングから、より正確さを求めるショートスウィングへ道を開くポイントになったとも考えられる。
ライダーカップは米国対欧州連合になった1979年から前回の2018年まで、欧州12勝、アメリカ8勝という結果を残している。さすがに多国籍の前には、アメリカも苦戦かと見える。
だが、近年ではゴルフもグローバル時代を迎え、イギリスを始め欧州の選手たちも米ツアーに参加。アメリカの新技術に追いつけ、追い越せと、技を磨く機会が多くなった結果とも考えられる。技術革新への道は年々激しくなる一方だが、日本も遅れてはならない。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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