スポーツ量販最大手のアルペンは8月、今年6月で締めた前期決算を発表した。売上高は2276億円超(前期比3・5%増)で、ゴルフ事業が牽引した格好だ。
その要因を同社執行役員の岡本眞一郎ゴルフ商品部長は、外資系大手の独創的なクラブがヒットした結果と分析。同社はアルペン(59店舗)、ゴルフ5(207店舗)、スポーツデポ(149店舗=各前期末時点)を展開するが、ゴルフ5の売上構成比は久し振りに35%を超えたという。
外資系大手2社(キャロウェイ、テーラーメイド)の好調は、斬新な商品開発だけではないという。発売前の早い段階で小売側に情報を提供し、ショップの意見を生産計画に反映させる。一方の国内メーカーは、情報提供が遅いため売場として身動きが取りにくい。このあたりも影響したと考察する。
ただし、岡本部長は今後について危機感を募らせ、「改革の必要がある」と強調。課題は3つ。大型店舗の在り方の見直し、ECの販売構成比が3%と極端に低いこと、そしてレディスアパレルに代表されるソフトアイテムの強化である。
そのため、当期を売場改革の重要年度と位置づける。どのような手法で改革するのか。まずは動画で岡本部長が熱く語る。その後、ゴルフ5が抱える課題と解決策を詳述しよう。
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<h2>切り札はカスタム専門の「プレステージ」</h2>
ゴルフ5は売場面積別に6タイプある。90坪(7店舗)、150坪(10店舗)、300坪(120店舗)、450坪(58店舗)の4タイプに加え、スポーツデポとアルペンの店内に100~300坪のインショップが10店舗。さらにカスタム専門店の「プレステージ」が2店舗だ。
特に注力するのが150坪規模の「プレステージ」で、一昨年10月に都内日本橋に1号店、今年6月に新宿店、年内を目処に広尾に3号店を開業する。カスタム重視のコンサルティングセールスへ舵を切り、適正利益を確保する狙いがある。
「あくまで物件ありきですが、購買力が高い100万都市へ半年に1店舗のペースで出すのが理想的です」(岡本部長)
ゴルフ5全体の6割を「300坪店」が占めているが、
「我々が得意だった初心者向けの低価格品やクローズアウトが厳しくなっているんです。初心者が減って成熟ゴルファーの構成比が高まると、新たな付加価値が重要になる。300坪は22年ほど前の浦和店が皮切りなので、賞味期限切れといったら言い過ぎですが、事業モデルとしては弱くなっています。
300坪の売場を確保するには、必然的に郊外になる。果たして、初心者がクルマを運転してまで来るだろうか。すぐにどうこうの話ではありませんが、将来を見据えると転機かもしれません」
このような話は、同社に限ったものではない。首都圏を中心に22店舗を展開する有賀園ゴルフは9月、都内新橋に売場面積170坪と、通常に比べて小規模なショップを開業するが、これも従来の事業モデルを見直す動きといえる。
ゴルフ5が注力する都市型のカスタム専門店「プレステージ」は、コアゴルファーの満足度を高め、過剰な割引競争から抜け出すための方策だ。
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<h2>2830万ショットの試打履歴</h2>
カスタム専門店をチェーン化するにはフィッターの存在が不可欠だが、その人材育成は一朝一夕にはいかず、多くの専門店が頭を悩ませる課題でもある。
その際、ゴルフ5は豊富なデータを蓄積している強みがあるようだ。店頭で日々、来店客が打つ試打データをまとめており、総数は2830万ショット。これを分析することでゴルファーの傾向値を探り、同時にフィッティング技術を高める「教材」にもなる。
「ショットデータからは様々なことがわかります。たとえばヘッドスピード(HS)分布です。一番厚いところ(ピーク)は41で、10年前もピークは同じでしたが、かつては41を中心に正規分布を描いていたのが、今は41を中心に、それより高い47とか50近い部分がえぐれているんですね。
年齢を重ねて体力が落ちて、魚影の濃い部分が下方に来ている。まさに『ゼクシオ』が年々軽くなっているのと同じです」
このようなデータをメーカーに提供する場合もあるというが、フィッターの育成にも活用できるはず。
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プレステージの最大の特徴は、店内の在庫構成にある。ヘッドとシャフトを別々に陳列して、顧客の特徴に合わせて組み立てる。
「パターとウエッジは完成品だし、『マジェスティ』や『GⅢ』などの金ぴかクラブもインバウンド客用に完成品を置いてますが、それ以外はすべてカスタム用の試打クラブです。本数は1店舗当たり2700~2800本になります。
その上で、当社のエース級を集めたフィッターが、ドライバーからウエッジまで2時間ベタ付きでフィッティングする総合診断が8000円(ウッド4000円、アイアン4000円、ウエッジ2000円)。診断後3ヶ月以内にプレステージで購入すると、フィッティング料を返金するという仕組みです」
ただし、問題はある。プレステージの有料フィッティングで「最適スペック」を教えてもらい、同じ仕様のクラブを他の激安店で購入するケースが起こり得ることだ。フィッティングは有料だが、それを上回る割引額で同じ商品を購入できれば、ゴルファーは他店に流れてしまう。この点についてはどうなのか?
「その問題を解決するためには、顧客満足を高めるしかありません。一人ひとりのフィッティング技術はもとより、お客様の立場になって、ゴルフの悩みやゴルフを通じた生き甲斐づくり、そことどれだけ真剣に向き合えるかです。
プレステージの本質的な挑戦は、値引き以外の価値を生み出すことに尽きますから、スタッフの質向上が生命線です」
このような考えに基づくショップ経営は、従来のコスト構造からの転換を迫られる。端的にいえば、人件費の上昇だ。ゴルフ5の人員は1店舗当たり7~8名が平均だが、プレステージは通常の売場面積(300坪)の半分程度の規模ながら10名体制で対応する。その内5名がクラフトマンだ。
脱価格競争で「付加価値販売」を実現しなければ、プレステージ構想そのものが崩れるだけに、岡本部長が「本質的な挑戦」と語るのも頷ける。
ちなみに新宿店の構成は、売場面積が120坪、VIP用の試打室が2、オープン試打席が2、これにパター専用のフィッティングルームが設置される。
※ゴルフ5プレステージ新宿店については「<a href="https://www.gew.co.jp/news/g_44646">6月7日(木)ゴルフ5プレステージ新宿店オープン</a>」に詳しく書いています。
<h2>女性用アパレルへの挑戦</h2>
ゴルフ5のもうひとつの課題は不得意分野の強化であり、女性用アパレルの脆弱さをどのように克服するかに集約される。小売市場における同社のシェアは、クラブ全体で3割台後半と強いのだが、ゴルフアパレルは2割超、レディスアパレルに至っては1割超とアイテムによって凸凹がある。
それも当然の話で、郊外までクルマを運転して、300坪のクラブ売場でアパレルを購入する女性は想像しにくい。
「ですが、その分ノビシロはあると思うんですね。クルマを運転して郊外となると難易度が高い話ですが、単に新しいブランドを置くということではなく、わざわざ行きたい何かを用意する必要がある。
それは何かということを詰めてる最中ですが、一言でいえばプレステージの基本構想と同じです。豊富なブランドや色柄から、自分だけに最高のコーディネートをしてくれるスタッフを店頭に置くことを含め、顧客満足を高めることがカギになります」
つまり、女性社員を「スタイリスト」に育てる構想だ。同社の女性社員比率は約2割で、管理職は女性部長が1名、部長の下のマネージャーは若干名と少ない。いわば「男社会」ともいえる体質を見直すことも今後の課題になる。
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「アルペンアウトドアーズ」
同時に「空間演出」に注力する必要もあるだろう。工業製品の需要が全般的に低下して、「時間消費」が重視されるようになった。いわゆるモノ消費からコト消費へのシフトである。
ゴルフ業界にもこの流れに対応した動きがある。
ダンロップスポーツ(住友ゴム工業)は2014年10、12月に相次いでフィットネスクラブ2社を買収し、年内をめどに49店舗体制を目指している。フィットネスとゴルフの融合例に独自開発した「ゴルフ体操」があり、プレー寿命の延伸等につなげる構え。
また、ブリヂストンスポーツは東京・丸の内のビジネス街にマンツーマンのゴルフスクールを開業し、メーカーならではの最新機器を使ったレッスンや、近隣企業の福利厚生に役立てる青写真を描いている。
アルペンは4月、名古屋近郊の春日井市に時間消費型の大型店「アルペンアウトドアーズ」を開業した。店内にはキャンプ場を模したスペースがあり、
「時間消費型という意味では、ここがひとつの回答になります。オープン時には駐車場に行列ができる人気ぶりで、来店客のSNSには『気がついたら6時間も過ごしていた』との書き込みがあったほど。
まあ、6時間も過ごされたら駐車場の問題等で困りますが(苦笑)、いずれにせよ、ゴルフ5も商品構成やVMDの在り方を含め、時代に合った展開をする必要があるでしょう」
以上、ゴルフ5が抱える課題と解決策を駆け足で見てきた。クラブ市場で3割超のシェアをもつ巨艦だけに急旋回は難しいが、解決すべき課題は鮮明だという。今後、どのような艦砲射撃を連発するのか興味深い。