「ゴルフ界はウェルビーイングな社会の実現に貢献する!」
これは、日本ゴルフ場経営者協会(NGK)が掲げる中長期ビジョンです。去る5月30日、都内でNGKがウェルビーイングに関する講演会を主催し、私も聴講しました。講師はウェルビーイングの第一人者、慶応義塾大学の前野隆司教授です。
「ウェルビーイングをビジョンに掲げる以上、我々はウェルビーイングとは何かを学んでおく必要がある」
と、NGKの大石順一専務理事が講演会を主催した意図を語ってくれました。今回はウェルビーイングについて学んでみましょう。
2021年、私はウェルビーイングに関するセミナーを聴講。そこでは次のように説明していました。
「健康(ウェルビーイング)とは、単に病気や虚弱でないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態である」
これは世界保健機構(WHO)憲章の前文を、日本WHO協会が訳したものです。主語は「健康」ですが、これは身体が健康(Health)という狭義な意味ではなく、広義な意味での健康「Well(良好な)-being(状態)」と解釈しています。
またウェルビーイングに似た言葉に「ウェルネス」があります。これは豊かな人生、輝く人生のための基盤とし、身体的にも精神的にも健康であると定義されています。かつては身体的(Physical)に健康であることが良いとされてきましたが、近年は精神的(Mental)にも健康であり、幸福感が得られている状態がウェルネスで、これを目指す考え方に変化しました。更にこれからは職場環境や地域、福祉なども含め、社会的(Social)にも健康(健全)であるべきだという考え方に発展し、これがウェルビーイングであると私は理解しています。(図1)
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2024/08/komori2408.jpg" alt="" width="900" height="675" class="size-full wp-image-82351" /> 図1 ウェルビーイングとは
歴史に見る人の価値観の変化
日本では、国民の価値観が大きく変わる、歴史上の転換期がありました。その一つが1853年の黒船来航にはじまる開国です。大名や武士が絶対的な存在でしたが、その価値観が明治維新によって崩壊。欧米諸国から近代文化を学び、文化と産業を発展させる「文明開化」と、1873年にはじまる徴兵制度で「富国強兵」の時代に突入。欧米列強の植民地政策に抗すべく、明治政府が軍事力の増強を進めた時代です。当時の価値観は「産業の発展と軍事力の増強で国を豊かにする」で、それが1945年の敗戦で閉幕。
次に日本人の価値観は「経済至上主義」へと移りました。経済的な豊かさが価値観の中心となり、高度経済成長期を経てバブル経済に発展。1991年のバブル崩壊から「空白の30年」といわれる低迷期を経て、今それが終わろうとしています。
このように、日本人の価値観は「文化」「軍備」、そして「経済」と時代と共に変化し、今は「ウェルビーイング」という価値観に移る過度期というわけです。
そのことを認識する出来事の一つが、2011年の東日本大震災ではないでしょうか。震災をきっかけに「絆」という言葉が多く語られるようになり、家族の絆、地域の絆が重要視されるようになりました。
学生の多くは給料よりも、やり甲斐や好きなことで社会貢献できる企業を選ぶ傾向だとか。結婚の条件もかつては三高(高収入・高学歴・高身長)でしたが、三平(平均的な収入・平均的な容姿・平穏な性格)に変わり、今は三低(低姿勢・低依存・低リスク)や三合(性格・価値観・好みが合う)だそうです。心の豊かさや幸福感が価値観の中心になりつつあるのでしょう。
<h2>ゴルフに学ぶ幸福の4因子</h2>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2024/08/komori240802.jpg" alt="" width="1000" height="1000" class="size-full wp-image-82350" /> 図2 幸福の4因子(資料提供:日本電信電話株式会社<br />「Sustainable Smart City Partner Program」)
NGKの講演会で登壇された前野先生は、幸福学の基礎として、幸せになるには「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」そして「ありのままに因子」の4因子(図2)が大切だと述べていますが、私はこの4因子はゴルフそのものだと感じました。
「やってみよう」は、ゴルフに必要な主体性やチャレンジ精神、上達意欲そのものであり、マズローの欲求5段階説の最上位「自己実現欲求」を満たす原動力です。「ありがとう」も、ゴルフの基本的な考え方である他人ファースト(利他主義)であり、感謝思考とイコールです。「なんとかなる」という楽観主義やプラス発想もゴルフでは大切です。「ありのままに」も、球はあるがままにプレーするというゴルフの基本ルールそのものですし、現状を受け入れることの大切さや、自分軸を持ち、自分らしさを大事にすることもゴルフを通じて学べます。
となると、学校の総合教育や社員研修でも、ゴルフを通じてウェルビーイングが学べるでしょう。ゴルフを通じて子どもの人格形成を行う「ファースト・ティ」の大人版です。
更に前野先生は、幸福度と仕事との関係を次のように述べています。「幸福度が高い社員の創造性は3倍、生産性は31%高くなる。一方欠勤率は41%、離職率は59%、業務上の事故は70%減少する」と。また幸せと感じている人は、そうではない人と比べ寿命が7・5~10年長い。つまり幸せは予防医学とイコールだと説明されています。(図3)
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2024/08/komori240804.jpg" alt="" width="1000" height="563" class="size-full wp-image-82353" /> 図3 NGK主催の講演会でウェルビーイングについて語る<br />前野教授
GEW(2023年10月号)の本連載で、ゴルフは健康経営®ツールとして最適だとお伝えしたように、健康経営を切り口にゴルフ施設の利用促進を図ることも可能になると思います。学校の総合教育や社員研修、健康経営をゴルフ事業者のみで提供するのが難しい場合は、コンサルティング会社や健康経営サービスを提供する企業と協業しても良いでしょう。ウェルビーイングでゴルフの可能性はまだまだ広がると思います。
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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