日本プロゴルフ協会(PGA)は昨4月10日、定例理事会後に倉本昌弘会長が記者会見を行った。当日は9項目の議題が俎上に載ったが、「ゴルフスタジアム問題」についても話し合われた。5月1日に新組織がスタートし、新たに「IT事業開発本部」を立ち上げてプラットホームを構築、会員にホームページ(HP)を提供する構想も明かしている。
PGAはこれまで広報業務の一環としてHPを運営してきたが、今後は内容の充実を図り、「HPをもちたい会員がいれば対応できる体制にしたい」(倉本会長)――。むろん、このコメントは「ゴルフスタジアム問題」を意識したものだ。
多くのレッスンプロが信販会社と高額なローン契約を交わし、その動機はゴルフスタジアム(GS)から無料でHPを制作してもらえるところにあった。「ゴルフスタジアム信販問題被害者の会」の西村國彦弁護士は「本来はPGAがその役割を果たすべきだった」と話しているが、新体制でこれを実現する方針を示した。
記者会見の大半は「GS問題」に費やされたが、この件についてPGAの問題意識はどこにあり、どのように解決しようとしているのか? 一問一答で要約する。なお、太字の質問は本誌によるもので、これ以外では日本ゴルフジャーナリスト協会の小川朗副会長から質問があった。
<h2>記者会見冒頭の挨拶</h2>
「ゴルフスタジアムの件もありましたが、5月1日に新組織のひとつとしてIT事業開発本部を設置します。GS問題については片山さんがいろんなことを書いていますが、すべてが合っているというわけではないし、我々は情報収集している最中です。
LPGAは早い段階で「会員個々の問題だから協会はタッチしない」というスタンスを出しており、我々も本来はそうだろうと思いますが、PGAの定款では、自己破産をした会員は資格喪失になる。過去にもそういう事例があったなかで、この件については方策を考えてみようかなと。
顧問弁護士と相談をしながら、救済措置がとれるならば、何か考えていこうということです。ただ、基本的には個人が(信販会社と)交わした契約に我々が関与するのは難しい。理事会に資料を提出するために若干の資料集めをするにしても、今は何をどう集めていいかわからない部分もありますが、各地区で会員の被害状況は把握したい。月並みな言い方をすると、現段階では静観ということになるかもしれません。」
<h2>質疑応答</h2>
<strong>IT事業開発本部はいつ、どのような内容でスタートするのか。</strong>
「すでにやっている部分もありますが、一言でいえばプラットホームの再構築です。各所からジョイントしたいという話もありますが、第一段階としては会員情報を入れてシステムを一本化する必要がある。現状は(会員5562名のうち)1200~1300人分のメールアドレスしかなく、集約できていない状況なので、一箇所に集めて一般の人達に情報公開したい。
その後、第二段階で一般の方や業界とのマッチングを目指し、第三段階では業界外とのマッチングを目指す。プラットホームができれば、HPを作りたいという会員にも対応できるでしょう。それがなかったから外部(ゴルフスタジアム)に頼まなければならなかった。実は、この件は2ヶ月ほど前から動き始めていましたが、その矢先にこの問題が出てきたのです」
<strong>小川氏 システム完成までのスピード感は?</strong>
「資金があればすぐできます。ただ、PGAには(遊休財産が)8億円ほどありますが、なかなか使わせてもらえない。どこの団体も高齢化していて、ITについては『なんだ、それ?』という反応があるので、理解を得ながら進める必要があるでしょう。
今、IT関連の予算は年間1500万円ほどですが、それでは何年も掛かるので、大きな投資を一度にして、何年間そのシステムが使えるのか。1億使って10年(償却)なら年間のコストは1000万円、20年なら500万円です。今みたいに1500万円をちょこちょこ使うとツギハギになるので、このへんも含めて精査したい」
<strong>小川氏 かつてPGAとGSが提携していたことが信用となり、GSと契約をしたというプロもいる。</strong>
「ゴルフスタジアムとPGAの関係は平成19年9月から22年末までで、インターネットレッスンの提携をしてましたが、以後は一切関わりがありません。それと、申し上げたいのは、片山さんの記事に『日銭をもらって所得を申告していない者(レッスンプロ)が沢山いる』とありますが、」
<strong>沢山ではなく「一部」と書いています。</strong>
「それが問題だと書いてますが、定職でレッスンをしている者は、ほぼ99.9%申告しています。なかにはラウンドレッスンをして、そのまま領収書がなくポケットに入れちゃう者がいると。ただ、コンプライアンスの問題が発生してから厳しく言い続けていることは、ニギリは絶対にダメですよと。もうひとつは、もらったお金は申告しなさいということで、協会としては指導を続けています。まあ、現実はどうなのと言われると、見つけるのが困難ということですが」
<strong>見つかった場合は資格の剥奪など強制力はあるのか。</strong>
「そうなれば、コンプライアンス委員会に諮って、どういう形かで懲罰が決まります。いきなり剥奪とは思えないけど、戒告なのか訓告なのか・・・」
<strong>無申告で懲罰の前例はありますか。</strong>
「ないですし、告発もありません。ただ、(会員からの)質問はいっぱいあるんですね。例えば地区のプロ会がお金を出し合って大会を開くことも、厳密にはダメだと言っています」
<strong>賭博開帳図利の可能性がある?</strong>
「ええ」
<strong>ただ、そのような大会はかなりありますね。</strong>
「だからやめてくれと言っているわけです、集めたお金が全額取り分になるのはダメです。スポンサーからきちんとお金を集めて、これを分配するのはいいという区分けをきちんとしなさいと、地区大会でも言っています」
<strong>スポンサー大会はOKだけど、プロが出した参加費を全額賞金に充てるのはダメ。</strong>
「はい。うちの会員だけではなく、ほかでもやっているところはあると思いますが、それはダメです」
<h2>プロの未熟さを責めるのは論拠が違う</h2>
<strong>定職に就いている者は99.9%申告しているとのことですが、「定職」というのは練習場等に所属して源泉徴収される場合ですか。</strong>
「それと、個人で練習場を借りて営業しているケースですね。不定期じゃない場合は、何月何日に練習場を借りて仕事をしたことを税務署が把握するわけだから、その部分に関しては99・9%申告しているという意味です」
<strong>そう言い切れる?</strong>
「はい。そうじゃないと練習場も困りますし」
<strong>これとは別に、ラウンドレッスン等の場合は事業所を挟まないから捕捉しにくい。</strong>
「そうですね。あとは友達同士の場合などで、例えば片山さんとゴルフをして、終わったあとに食事をした際、これが今日のレッスン費だともらった場合は調べようがないわけです」
<strong>調べようがないから、どうしようもない?</strong>
「いや、どうしようもないということじゃなく、我々はしないでくれと指導しています。だから、やってないだろうとは思っているけど、現実にあると言われれば、告発しなければいけないのか。ということについては、非常に難しいと思います」
<strong>今回のゴルフスタジアム問題は、レッスンプロの常識が欠如していることも槍玉に挙がっています。</strong>
「欠如というのは具体的に?」
<strong>仮に年収300万円のレッスンプロが、500万なり800万のローン契約に判子を付いた。そのことです。</strong>
「それは(審査を通した)ローン会社の問題でしょ」
<strong>むろん、そうです。ローン会社が無審査だったと「被害者の会」も言っており、仮にそうなら責めはローン会社が負うべきです。ただし、その手前で判を押した側にも瑕疵がある。</strong>
「その論拠はおかしいでしょう。だって、たとえば2万円しか収入がなくても1億の家を買っていいと銀行が言ってくれたと。ならば借りるし、むしろ片山さんのほうが非常識ですよ。だって、お金を貸す側が、あなたにお金を貸しましょうと。借りたほうは、お金があればちゃんと回せると思っているわけですから。まして今回は5年ローンが大半と聞いているし、月々5万円、多いひとで7万~8万円の返済額が(広告費として)入ると言われている。『本当にわたしで大丈夫ですか?』と聞いているのに『貸します』と言われたわけだから、それを非常識と言ったらおかしいでしょう」
<strong>そう思うこちらが非常識だと。</strong>
「そこを責めるのであれば、ぼくはそう思いますよ。そうじゃなくて、『あなたはこの関係を疑わなかったんですか』とか、『あなたは5万円を払い続けられるんですか』『あなたの仕事で大丈夫ですか』という話なら、『ちょっと浅はかだったかもしれない』となりますが、」
<strong>それなら今の話と同じでしょう。そもそも常識が欠けて、だから判を押したわけだから。</strong>
「違いますよ。そもそも自分ができると思っていて、なおかつ(広告費が)入ってくるわけですから」
<h2>PGAは基本的に関与できない</h2>
<strong>そういった教育的カリキュラムをPGAの講習会に加える必要性は?</strong>
「どういったカリキュラムですか」
<strong>契約の際に気をつけること、あるいは税務署の人間を呼んで税務問題を指導するとかです。</strong>
「税務問題は入っていると思います」
<strong>信販系の問題はカリキュラムに入っていない?</strong>
「あのぉ、我々みたいな人間には基本、お金を貸さないじゃないですか。わたしはPGAの会長で1080万円ですけれど、(1期2年なので)住宅ローンを借りたいと言ってもまともなところは貸してくれないですよ。だって、定額収入がないわけですから。
我々の常識からすれば、プロゴルファーにローンを組ませることが基本的に少ないわけです。逆に言えば今回は、そこを突かれたわけだから、騙されやすい面はあった。
それと、全員に聞いたわけではありませんが、購入者は何百万円もするソフトを1回も使ったことがないと。あれより簡単で安いソフトは沢山ありますが、これを買わないとHPを作ってくれない、お金も(広告費として)払ってくれないから、仕方なく対価として買ったという話を聞いています」
<strong>だとすれば、詐欺性を疑える?</strong>
「ただ、顧問弁護士に言われたのは、被害者かそうじゃないかわからない今、我々公的機関が何かに煽動されたり、こうしたほうがいいとは極力言わないほうがいいと。そのように言われましたので、書く場合はそのあたりを理解した上でお願いします」
<strong>被害人数は調査中ですか。</strong>
「我々のざっくりした感触では、会員数で300~500の間かなと。『被害者の会』は1000人規模と見ていますが、関わった人はそれぐらいだとしても実際にはどうでしょう。まあ、ゴルフスタジアムにつきましては、ゴルフ界の社会問題だと思いますが、我々は直接タッチできません」
<strong>先ほど「救済」を検討するという話でしたが?</strong>
「信販会社と個人の話なので、基本的にはできないと思います。ただ、議論の上では、破産した人間に対して何かできないのかと。そういう話もありましたし、準備だけはしておきたいと考えています」
以上、倉本会長との一問一答を要約した。論旨をまとめると、
<ol>
<li>新設のIT事業開発本部でHP事業を強化する</li>
<li>ゴルフスタジアム問題は信販会社と個人の問題なのでPGAは基本的に静観する</li>
<li>一部のレッスン収入「無申告者」に対しては従来通り指導を徹底し、懲罰を含め厳格化する</li>
</ol>
ことに集約されそう。今回の問題は、水面下で燻る様々な課題を顕在化させたといえるだろう。契約に至った背景に「プロの上下関係による紹介」を指摘する声もあり、だとすれば、ある種の閉鎖的な人間関係が徒になったと見ることもできる。
ゴルフスタジアムは事業再建の過程で、IT系企業との資本・業務提携を示唆しているが、同社が構築したシステムをPGAが買収すれば「プラットホーム強化」の青写真も描きやすくなる。相互送客や最新のスイング解析システムを導入して顧客カルテを掌握すれば、会員価値の向上と組織の近代化につながるはず。「公益社団法人」としてどこまでやれるのか、このあたりの動向も注視する必要がある。(片山哲郎)
<strong>訂正 (4月12日11:28) 自己破産は会員資格停止との倉本会長発言について、PGAから正しくは資格喪失との訂正が入りました。</strong>
なお、PGAは代表電話(03-5472-5585)を被害者の「連絡窓口」としているが、一部で「相談窓口」を設けたとの情報については「相談を受けられる段階ではなく、勘違い情報」(事務局)と否定している。