<strong>Q1 生物多様性の保全とゴルフ場が果たす役割</strong>
大石さんは、前月号で様々なステークホルダーと共生するゴルフ場企業のパーパスとして、「環境経営」に取り組むことが重要と提案されました。政府は、生物多様性の損失を止め、持続的に「生態系サービス」を得ていくための政策として、2030年までの日本の目標として、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする「30by30」(サーティー・バイ・サーティー)を決定しています。この政策とゴルフ場の関係について、大石さんのお考えを教えてください。
<strong>A1 ご質問ありがとうございます。</strong>
ゴルフ場の有する地球環境改善機能とは、国内約2200ゴルフ場が有する約10万ヘクタールの樹林地によるCO2固定機能と、不耕起で管理されている約14万ヘクタールのフェアウェイやラフの土壌炭素の貯留機能、加えて、適切なコース管理による里山としての生物多様性の保全機能です。
以上の機能は、ゴルファーの存在によって成り立っていますので、ゴルファーのみならず、全ての人に認知頂く啓発活動を展開することが重要です。ゴルフに対するネガティブなイメージには「国家公務員倫理規程」や「ゴルフ場利用税」がありますが、これらの問題解決にもつながるのではないでしょうか。
<h2>「生物多様性の保全」とは?</h2>
「生物多様性」とは、地球上の動物・植物・様々なバクテリアまでを含む多様な生物が直接的・間接的に繋がり合う、複雑で多様な生態系を意味する言葉です。社会・経済全体が、生物多様性により安定した「自然環境(自然資本)」から得られる恵である「生態系サービス」に依存しています。具体例としては、医療を支える医療品の成分には5~7万種もの植物からもたらされた物質が貢献しています。我が国も加盟している「国際自然保護連合」によれば、1年あたりの「生態系サービス」を経済的価値に換算すると約3040兆円とのことです。
1993年、「生物多様性の保全」「生物の多様性の持続可能な利用」及び「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ均衡な配分」を目的とした「生物の多様性に関する条約」が、「国連環境開発会議」で194の国と地域によって締結されました。その後、2010年に名古屋市で開催された「COP10」で、2020年までに陸の17%、海の10%を保全するエリアスペースとする「愛知目標」が採択され、我が国は2020年までに陸の20・5%、海の13・3%を法律などに基づく保護地域に指定、目標を達成しました。世界的には陸で16・6%・海で7・7%と集計されており、未達成となっています。
人類は、過去50年間で回復力を超えた自然資本の利用によって物質的に豊かになりましたが、「生態系サービス」は劣化傾向にあります。「生態系サービス」を持続させるためには、「ネイチャーポジティブ」(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる)に向けた行動が喫緊の課題となっているため、我が国の対応策が、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする「30by30」で、12月にカナダで開催される「国連生物多様性条約第15回締結国会議(COP15)」での採択を目指しています。
「30by30」の基本方針は、健全な生態系を確保するために「国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上」と「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理」です。
注目する点は、民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト(仮称)」と認定する制度の構築を行い、2023年に全国で100地域以上を先行的事例としてOECM国際データベースに登録することです。
「自然共生サイト」は、既存のナショナルトラスト・バードサンクチュアリ・ビオトーフ以外に、企業の水源林、里山、企業敷地や都市の緑地、研究や環境教育に活用されている森林、防災・減災目的の土地など、管理結果として生物多様性の保全が図られていれば、インセンティブのある対象地域として認定される制度です。
現在、検討されている認定基準は、「境界・名称」「ガバナンス・管理」、「生物多様性の価値」「管理による保全効果」の4項目で、具体的には「区域の生物多様性の価値の現況を説明する資料(第三者による論文や文献)」、「里山といった二次的自然に特有の生物相・生態系が存する場である資料」、認定後の「5年に1度のモニタリング調査実施」と言ったものです。「自然共生サイト」に認定されても、
生態系の保全が保たれていれば、既に指定されている法的規制以上のものは発生しません。
現状の人類による活動は、生物多様性が持っている回復力・生産力を上回る規模となっています。一人一人が、生態系が非常に微妙なバランスで成り立っていることを知り、次世代に生物多様性とそこから生み出される「自然資源」を残すことが重要との考えが広まっています。
日本ゴルフ場経営者協会としては、一つでも多くのゴルフ場が「自然共生サイト」としての認定が受けられるよう、対応策を検討していく予定としています。
別件ですが、9月22日、来春以降の運用開始を目指して、経済産業省による実証実験の「CO2排出量取引市場」が東京証券取引所に開設されました。この新市場には、日立製作所・クボタ・みずほ銀行・東京都水道局など145企業・団体が参加し、初日は「1,60010,000円/t」の価格で627tのCO2取引が行われました。これからの動きを注視しましょう。
最後に、次の一文を紹介します。
「CO2排出量と気温上昇以外の全てが減速しており、『加速はとても良い』から、『減速はとても良い』に変化しようとしている。日本は、世界の大国の中で最初に減速した国となる。例えば、減速が進めば、物を長く使うようになりゴミが減り、環境問題が解決する」(ダニー・ドーリングオックスフォード大学地理学教授著「スローダウン 減速する素晴らしき世界」より)
どのように考えられますか?
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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