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  • 月刊GEW12月号 「飛ばないボール」ゴルフ市場への影響は如何に?

    ハッシュタグ「ゴルフ産業q&a」記事一覧

    <strong>Q1  ゴルフ界は、気候変動対策のリーダーになれる!</strong> 先頃、地球温暖化対策を検討する「第28回国連気候変動枠組条約締約国会議」(COP28)がドバイで開催されました。世界の平均気温が観測史上最高となった7月、グテーレス国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が来た」として危機感を露わにすると共に、9月の「気候野心サミット」では「温暖化で世界の危機と不安定さが増す中で、我々の行動は全く足りていない」と発言しています。 そこで、ゴルフ界の気候変動問題への対応を振り返り、今後の展望について、大石さんのお考えを教えてください。 <strong>A1  ご質問、ありがとうございます。2015年に国連総会で採択された「SDGs」が、2030年まで残すところ7年となったにも関らず、課題解決が遅々として進まないと感じているのは私だけでしょうか。</strong> 地球温暖化については、2021年8月に「IPCC」(国連の気候変動に関する政府間パネル)の第一作業部会が、産業革命以降の世界の平均気温の上昇が今後20年以内に1・5度に達するとの科学的予測を盛り込んだ報告書を発表し、「人間の活動が地球温暖化を引き起こしていることは疑う余地はない」と断定して、30年以上続いた論争に決着を付けました。世界の気温が1・5度上昇すると、グリーンランドの氷河や北極圏の氷などが解け、世界の平均海面水位が今世紀末に最大55㎝上昇する可能性があるようです。 <h2>端緒は「京都議定書」から!</h2> ゴルフ界の気候変動対策の端緒は、「京都議定書」が実行段階に入った2008年でした。縣和一九州大学名誉教授の「大気と浄化と温暖化防止に寄与するゴルフ場」という研究発表により、ゴルフ場の温室効果ガス抑制機能が明確になりました。その後の研究も加わり、ゴルフ場の機能として「緑地としての二酸化炭素固定」「不耕起管理による土壌炭素の貯留」「里地里山としての生物多様性保全」が認知されるようになり、「ゴルフ普及によりゴルフ場の持続可能性が高まること」は、地球規模の環境問題の解決に貢献することが明確になっています。 特に、2015年のCOP21で採択された気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」、並びに、国連サミットで2030年を達成年とした「誰一人取り残さない」との強い決意のもとに制定された「SDGs」(将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現代の世代の欲求を満足させる開発)により、世界の気候変動への取り組みが加速しました。 また、世界保健機関(WHO)は「スポーツ・アクティブなレクリエーションなどの身体活動はSDGsの達成に寄与する」としています。 ゴルフ場は、異常気象による直接的な被害に加え、気温上昇などによるコースコンディションの劣化、熱中症の危険など、年々増大する課題に直面しています。 2018年の「G20大阪サミット」における「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を受け、「ゴルフ界も廃プラ削減に取り組もう!」を宣言、2021年の「プラスチック資源循環促進法」により、プラスチック製品の削減を促進しています。 <h2>「4パーミル・イニシアティブ」とゴルフ場の「土壌炭素貯留機能」</h2> 2023年、公益財団法人都市緑化機構が実施した「首都圏のゴルフ場芝地における土壌炭素蓄積量に関する研究」により、「ゴルフ場の芝地には、海外の研究事例と同様に二酸化炭素の吸収源として高いポテンシャルがある」ことが、明確になりました。これは日本ゴルフ場経営者協会も協力して、国連気候変動枠組条約事務局に提出する「国別温室効果ガスインベントリ報告書」の精度向上のために実施したものです。 ゴルフコースは「不耕起」により管理されます。これにより土壌中の有機物の分解速度が穏やかになり、一部が分解されにくい有機態炭素となって長期間土壌中に貯留されます。「不耕起」によって土壌炭素の貯留量を増加する国際的運動が、COP21でフランスが提唱した「4パーミル・イニシアティブ」です。 人間の経済活動によって二酸化炭素が年間約100億トン排出されており、樹木などが吸収する57億トンを差引くと43億トンが純増しているとのこと。土中炭素は、1兆5000億~2兆トンで、そのうち表層の30~40cmに約9000億トンあるとされています。この表層の炭素を年間0・4%増やせれば43億トンの大半を帳消しにできる。これが「4パーミル・イニシアティブ」です。 <h2>「サーティ・バイ・サーティ」</h2> 社会・経済全体は、過去50 年間に 「自然環境」から得られる「生態系サ ービス」に依存して豊かになったが、 回復力を超えた利用によって「生態 系サービス」は劣化傾向にあります。 その「生態系サービス」を持続させ るために、地球規模で生じている生 物多様性の喪失を止め、回復軌道に 乗せる「ネイチャーポジティブ」に 向けた行動が喫緊の課題だとして、 2022年「国連生物多様性条約第 15 回締約国会議」(COP 15 )で採択 されたのが、2030年までに陸域 と海域の 30 %以上を健全な生態系として保全を目指す「サーティ・バイ・サーティ」です。 我が国は、従来からの国立公園などの保護地域の拡張に加え、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定することで、この目標を達成する方針としました。この「自然共生サイト」に、ゴルフ場が「里地里山といった二次的自然環境に特有な生物相・生態系が存する場」として認証されれば、生物多様性の喪失という地球規模の課題解決に積極的に取り組む産業として評価される可能性があります。 <h2>「負の外部性」への対応は</h2> 環境問題のような「負の外部性」 (ある経済主体の活動が、その活動と は直接関係ない他の主体や社会に損 害や費用を発生させる)は、個人や 個別企業の活動だけでは限界があり ます。COP 28 では「損失と損害(ロ ス&ダメージ)」に対応する国際的な 支援基金の拠出について議論が行わ れました。合わせて我が国では「カ ーボンプライシング」による「排出 量取引市場」の形成が進められよう としています。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2024年01月28日
    <strong>Q1  「雇用問題」の解決ポイントをどのように考える?</strong> 前月号で大石さんは、ゴルフ場業界の深刻な人手不足を解消するポイントとして、業界全体でゴルフとゴルフ場のネガティブなイメージを払拭することが大事であり、そのためにはゴルフとゴルフ場の社会的存在意義を明確にし、魅力的な将来像を示すことだと書かれていました。 具体的には、2030年を目標年として、ゴルフ産業の持続可能な発展を目指す中長期ビジョン「ゴルフ界はウェルビーイングな社会の実現に貢献する」を掲げて、活動するべきだと。大局的な話ですが、このことを「雇用問題の解決」に限り、より身近な方法はあるのか? この点について聞かせてください。 <strong>A1 ご質問、ありがとうございます。まず、大局的な話として、本連載の17回目で「ゴルフ場の『パーパス経営』と、ステークホルダーを考える」と題した記事を書きました。その論旨は、会社経営で大事なことは、従業員を含む全てのステークホルダーが参画して共生を目指し、企業の「社会的存在意義を明確に示すパーパス経営」が不可欠になってくる、ということです。</strong> そして前月号では、業界の中長期ビジョンに「ウェルビーイングな社会の実現に貢献する」ことが大事だと書きました。このウェルビーイングには「ゴルフ産業で働く人たちの『幸福感や満足感』が高まる状態」も含まれ、実現すれば生産性の向上や離職率の低下も期待できる。その結果、雇用促進が図れるのです。 ところが最近、ウェルビーイングの流れに反して、従業員への対応に失敗した残念な事例が頻発しています。そのひとつに、百貨店業界で約60年ぶりという労働組合のストライキがあり、ニュースでも大きく取り上げられました。 セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう西武を米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」(傘下に「アコーディア・ゴルフ」もある)に売却した事案です。これにより従業員は、雇用の安定性が損なわれる不安や、百貨店文化の喪失などを危惧してストを打ったわけですが、多くの企業は改めて、ステークホルダーとしての従業員の重要性を認識したのではないでしょうか。 ゴルフ場業界も90年代初頭、バブル経済崩壊後のデフレスパイラル的な低価格競争で、収益力が低下しました。これに伴い非正規雇用者の増加など、人材投資を抑制するコスト削減策が蔓延。そして、ゴルフ場の約半数が民事再生法や会社更生法等による法的整理に至り、ゴルフ場の金銭的価値を追求する「ハゲタカ」と呼ばれる外資系投資ファンドに買収されました。これにより、ゴルフ場業界にネガティブなイメージを抱く人が増え、現在の人手不足の遠因になったと思われます。 このイメージを払拭するためには、ゴルフが持つ国民生活上の有益な役割や、ゴルフ場が有する地球環境問題の改善に有効な機能などを広く訴求すること。それが人手不足解消の基本になると私は考えます。 その上で、より身近な改善点もありますので、次にこの点を紹介しましょう。全てのゴルフ場で深刻化している「コース管理職員不足」についてです。 業界の求人活動は届かない 過日、日本芝草学会に所属している農学部の大学教授と、以下の会話を交わしました。 <strong>大石</strong>「近年、ゴルフコースの管理職員不足が大きな問題になっています。直接雇用はおろか、コースメンテナンス専門企業の雇用状況も危うい状況です。現場では様々な募集活動を行っていますが、採用どころか、応募も無いに等しい。特に、芝草関連の学部を卒業し、将来のコース管理を担ってもらいたい『責任者候補』の採用が、皆無と言える状況です。先生のゼミ生などで、ゴルフ場に就職しようと考える学生はいないのですか?」 <strong>大学教授</strong>「学生は、ゴルフ場に自分たちが就職できる場所があるとは思っていないようですよ。もちろんゴルフ場の存在は知っているけど、就職先として意識してないのが現実です。その理由なんですが、ゴルフ場業界の求人活動が、まったく足りてないように感じるなぁ」 この話に私は慄然としました。人手不足を嘆きながら、我々は何をやって来たのだろう……。単純に言えば、我々の活動はまったく的を射たものになってないと言えるのです。 そこで、危機的な状況にある「コース管理部門」の求人活動について早急に行うべきは、近隣の「農学部・造園学部・園芸学部・バイオ学部」等を設置する大学を直接訪問し、ピンポイントで求人活動を行うことです。同時に、全国に367校・生徒数8万8650名が在籍(2018年現在)すると報告される農業系高校への求人活動も、積極化しなければなりません。求人メディアに広告を出しておしまいでは、事態は好転しないのです。 次の策は、女性のコース管理職への就労を目指す働き掛けです。実は、農業関係学部の大学生や農業高校の生徒には、驚くほど女性が多いのです。現状、女性のコース管理職員は非常に少ないのですが、彼女たちに就職先として選んでもらうためには、機械化(自動化を含む)や女性の就労に向けた設備の整備が重要です。諸々の施策で女性に選ばれる職業になれば、男性にとっても魅力的な職場になるのではないでしょうか。 また、超高齢社会におけるシニア層の雇用も重要です。2022年の総人口に占める「生産年齢人口」(15~64歳)の比率は、2000年比で9%減少していますが、厚生労働省の発表によれば、70歳以上でも働ける制度をもつ企業の割合は2022年で39%に達し、2012年の2倍ほど。定年が65歳以上の企業も12ポイント増えて25%になったそうです。高齢になるにつれて賃金が低下し、現役世代に敬遠される職種に就かざるを得ない課題もあるようですが、この点も考慮しながら高齢者雇用を考える必要があるでしょう。 もうひとつの課題である「外国人雇用」につきまして、一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会では、外国人のコース管理職への就労が早期実現することを目指し、各方面と折衝中。いずれ本稿で、その内容を詳しく紹介します。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年11月02日
    <strong>Q1  深刻な人手不足からの脱出を考える</strong> ポストコロナ社会に移行して、日常生活に活気が戻ってこようとしています。このような状況の中、コロナ禍の自粛で業務内容の縮小を迫られた飲食業や宿泊業も、業況の回復を目指した活動を再開しています。しかし、その矢先に深刻な人手不足に直面。慢性的な人手不足に悩むゴルフ場業界の雇用情勢も、深刻さが増しているようです。 人手不足から脱出するにはどうすればいいか? 大石さんのお考えを聞かせてください。 <strong>A1 ご質問、ありがとうございます。</strong> ご質問にお答えする前に、7月26日に発表された本年1月1日現在の日本人の人口について確認しておきます。1968年の調査開始以降初めて、全都道府県で人口が減少し、かつ、年間最大の80万人減となって、1億2242万人余となりました。この原因は、2022年の出生者数が77万人(1968年の調査開始以降最小)であったことに対し、亡くなった方が157万人(1979年の調査開始以降最大)となったためです。 政府は、「少子化は日本が直面する最大の危機。2030年代に入るまでが、状況を反転できるかの重要な分岐点だ」として、児童手当の所得制限の撤廃や期間延長・出産に関する支援・貸与型奨学金の減額返還制度の変更・育児休業取得の促進などを主な内容とする「こども未来戦略方針」(本年6月に策定)に基づき、子ども・子育て政策を強化する方針です。しかし少子化の原因は、若い世代が将来の社会・経済の展望に希望が持てず、子育てに対する負担感を感じていることだと言われています。金銭的な政策だけでは、解決が困難と感じているのは私だけでしょうか。 この状況と同一なのが、本年4月に帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査」で、51・4%の企業が人手不足と回答した問題です。 一般的に、人手不足が及ぼす悪影響は「時間外労働の増加・休暇取得数の減少」「従業員の働きがいや意欲の低下」「能力開発機会の減少」「離職者の増加」などの進行によって最悪の場合は廃業に至ります。慢性的な人手不足となっているサービス業は、非正規雇用率や短期離職率が高く、処遇面・仕事量・報酬面に課題があると言われています。 <h2>ゴルフ場業界の人手不足対策は?</h2> バブル経済崩壊後、デフレスパイラル的な低価格化競争が起きました。企業は収益力低下への対策として、正規雇用から非正規雇用にシフトしたり、人材投資を控えるコスト削減策を実施。ゴルフ場業界も例外ではなく、ゴルフ界の将来展望にネガティブなイメージを持つ若者が増えているように思われます。 ネガティブなイメージが強い業界は、一般的に人手不足に陥り易いと言われています。 したがって、ネガティブなイメージを払拭するため、ゴルフ場の社会的存在意義を明確にし、魅力ある将来像を示さなければ、我々が未来を託す人材の確保は不可能ではないかと思います。 2022年、「一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会」は、ゴルフ産業の持続可能な発展を目的として、2030年を目標年とする中長期ビジョン「ゴルフ界はウェルビーイングな社会の実現に貢献する」を掲げ、活動する方針を決めました。「ウェルビーイング」とは、ポジティブに仕事などの活動に集中し、他者との良好な関係を保ちつつ、生きる意味や意義を自覚して目標に向かって取組んでいる状況で、精神的・社会的にも満たされている状態を表わす概念です。 よって、「中長期ビジョン」の目的は、マーケティング的には「ゴルフの普及によって、国民の生活が身体的・精神的に健康で豊かになること」であり、マネジメント的には「ゴルフ産業に従事する人たちの幸福感や満足感が高まることによる生産性の向上や離職率の低下が期待できること」で、最終的には持続可能な発展が実現されることです。 ここで、ファッション業界のマーケティングトレンドから、企業の在り方を考えてみたいと思います。ファッション業界は「計画的陳腐化」(短期間でデザイン・色・スタイルを変更して買替需要を喚起)と言う手法を使って売上げ拡大を目指す企業が多いのですが、大量生産と廃棄処分による温室効果ガスとエネルギー使用量の増大に対して批判が大きくなっています。この批判に対し、「地球が私たちの唯一の株主」だとして、2022年に全株式を環境危機と闘い自然を守るNPO法人に譲渡した「パタゴニア」の活動があります。 同社は1990年代半ばに全ての衣料品の素材をオーガニックコットンに転換、大量消費を喚起する「ブラックフライデー」に対抗して「このジャケットは買わないで」と持続可能な消費を呼び掛ける「グリーンフライデー」を展開。最近では「新品よりもずっといい」をキャッチフレーズに「修理」を呼び掛ける運動も行っています。 今やその活動は食品にも広がり、「リジェネラティブ・オーガニック農法」で栽培された野菜を原料にしたスープやフルーツに加え、なんと「カーンザ」と言う多年草の穀物(根が長く、植え替えが不要で炭素を多く吸収)を原料とするビールまで発売したのです。「リジェネラティブ・オーガニック農法」は、不耕起栽培・有機肥料・被覆作物の活用などで、より多くの土壌炭素を貯留でき、ゴルフコースの管理にも通じる農法です。 以上のように、目先の目標に捕らわれることなく、社会的役割を追求する企業が、就業先として選択され始めています。 超高齢社会を迎えた我が国の課題である「健康寿命の延伸」、地球温暖化防止や生物多様性の保全という課題解決に、ゴルフ場が果たす役割は沢山あります。それを丁寧に広報していくことで、業界の社会的評価の向上と就労者や求職者のモチベーションの上昇に繋がります。 今回は、ゴルフ場業界として「ネガティブなイメージを払拭する」ことについて述べました。次月以降は具体的な雇用促進ポイントや事例を紹介していきます。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年10月09日
    <strong>Q1  「ゴルフ場利用税」改正要望のその後</strong> 例年、11月に入ると与党税制調査会などに対し、「ゴルフ場利用税」の存否問題について陳情活動が行われていました。ゴルフ場でプレーすると税金が取られる、いわゆる不公平税制の撤廃が目的ですが、直近ではそのような活動が行われていないようです。なぜでしょう? <strong>A1  ご承知の通り、「ゴルフ場利用税」の存否を含めた課題解決を求める活動は、全国組織のゴルフ関連15団体で構成される「日本ゴルフサミット会議」の中心的な課題として、毎年11月に開催される与党税制調査会に対してゴルフ界として陳情を行ってきました。</strong> 陳情の内容は、2018年までは「完全撤廃」でしたが、2019年からは、日本ゴルフ協会(JGA)の提案により、同協会の「ゴルフ場利用税廃止運動推進本部」が従来の活動を再検証し、廃止に至らない要因の排除に向けた活動計画を再構築する。それにサミット会議参画団体が連携するとの方針に転換されました。具体的には「ゴルフ場利用税撤廃」を前提としつつ「非課税措置の充実(対象年齢や対象競技の拡充)」に変更して活動が行われました。 その結果、「国民体育大会の公式練習・2020年東京オリンピックのゴルフ競技及び国際的な規模のスポーツ競技会のゴルフ競技(公式練習を含む)の非課税措置」が2020年度に導入されました。それ以前は、国際大会の出場選手にも課税する内容になっていたのです。 2020年度以降の要望は、ゴルフ場利用税を撤廃するという最終的な目標に向け、本税の「在り方の見直し」を要望するとして、JGAの「ゴルフ場利用税の在り方検討会」では、外部からの有識者も招聘して「法定目的税化」「名称の変更」「固定資産税に転嫁」など6案が検討されたようですが、2023年度の税制改正要望は行われていない。以上が私の理解している経緯です。 一連の経過について筆者なりの所感を申し上げますと、サミット参画団体が当事者意識を持って、「万機公論に決すべし」との姿勢が希薄だったことと、「ゴルフ場利用税」の知識が不均一のために、活発な議論の末に結論を見出すことが出来なかったことを憂います。 東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件も、議論を恐れない体質が備わっていれば、発生しなかったのではないでしょうか。本誌も日本ゴルフジャーナリスト協会の一員なので自由闊達な議論を期待します。 <strong>Q2 「ゴルフ人口は減少した」と今年も言われている?</strong> 総務省から5年に一度の「社会生活基本調査」が出され、10月には「レジャー白書」も発表されて本誌でも専門家による分析結果を公表しています。残念ながら、今年もゴルフ人口は減少したとの分析内容になってしまいました。ゴルフ人口の予測については「2015年問題」との表現から始まり、直近では「2025年問題」を危惧する見方があるように、少子化と超高齢社会で、2008年をピークに減少する日本の総人口と年齢別人口構成に基づいて急激なゴルフ人口減が起きるのではとの予測も発表されています。大石さんはどのように考えますか? <strong>A1  これは本当に回答が困難な問題です。なぜなら、ゴルフ場業界に籍を置く者としては、減少するとの分析結果を安易に受け入れるべきではなく、そうならないよう努力することを前提に考えるべきだと思うからです。したがって、そのような観点から回答しましょう。</strong> 前月号でも触れたように「日本は世界の大国の中で最初にスローダウンした国となる」と言われています。ここで言う「スローダウン」との表現は、「衰退」とか「後退」ではなく、加速するスピードが減速する状況のことだとご理解ください。 2020年、世界はコロナパンデミックにより、かつて経験したことのない形でのスローダウンに直面し、何も前進しないような感覚に陥ったのではないでしょうか。ゴルフ場業界も最初の数カ月間は初体験の「緊急事態宣言」発出と、コロナ禍への恐怖から、急激な利用者数の減少となり、バブル経済崩壊以降、脆弱な経営体質となっていたゴルフ場の閉鎖ラッシュを危惧する方も多かったのではないでしょうか。 しかし、5カ月を経過した頃から精神的・身体的なストレスを安全・安心な環境の中で解消しようとのニーズと、「身近でささやかな幸せを希求する」との価値観によって、ゴルフが身近なレジャーとして再評価されるに至り、ゴルフ場延べ利用者数が急増。この傾向は、一時の爆発的な増加ではないものの、28カ月が経過した現在もコロナ禍前に比較して微増する形で継続しています。  背景には、リモートワーク導入などの「働き方」、身体的・精神的ストレス解消のための身体的活動の有用性、人とのコミュニケーションの必要性、エシカル消費意識の向上などがあったと思います。 このような変化は、イギリスの「国家統計局(ONS)」が2020年夏に2500人を対象にした「コロナウイルスと英国への社会的影響」と題されたアンケート調査にも表れています。70歳未満の47%が「コロナパンデミック以降、生活によい変化があった」と答え、「一緒に暮らしている人とよい時間を過ごすことが増えた」56%、「生活のペースが緩やかになった」50%、「移動の時間が減った」47%、「家族や友人と連絡を取ることが増えた」42%、「運動する時間が増えた」が33%など。70歳未満の人が、コロナ禍によるスローダウンから生み出された時間を、個人の価値観に応じて有効活用している姿が窺えます。 逆に、70歳以上は「生活によい変化があった」が24%に留まり、「ウェルビーイングが大きく悪化」と答えた人が47%いました。 全体として、コロナ禍による雇用や収入への不安はあるものの、不要な消費や汚染を増加させてはならないとの倫理観、家族や友と楽しいことをして時間を過ごす価値観に変化しているようです。ゴルフは400年以上も多くの人に愛好されてきました。今後も人の心にマッチしたベネフィットを与え続けることが出来れば、減少予測を覆せるはずです。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年08月15日
    <strong>Q1  生物多様性の保全とゴルフ場が果たす役割</strong> 大石さんは、前月号で様々なステークホルダーと共生するゴルフ場企業のパーパスとして、「環境経営」に取り組むことが重要と提案されました。政府は、生物多様性の損失を止め、持続的に「生態系サービス」を得ていくための政策として、2030年までの日本の目標として、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする「30by30」(サーティー・バイ・サーティー)を決定しています。この政策とゴルフ場の関係について、大石さんのお考えを教えてください。 <strong>A1  ご質問ありがとうございます。</strong> ゴルフ場の有する地球環境改善機能とは、国内約2200ゴルフ場が有する約10万ヘクタールの樹林地によるCO2固定機能と、不耕起で管理されている約14万ヘクタールのフェアウェイやラフの土壌炭素の貯留機能、加えて、適切なコース管理による里山としての生物多様性の保全機能です。 以上の機能は、ゴルファーの存在によって成り立っていますので、ゴルファーのみならず、全ての人に認知頂く啓発活動を展開することが重要です。ゴルフに対するネガティブなイメージには「国家公務員倫理規程」や「ゴルフ場利用税」がありますが、これらの問題解決にもつながるのではないでしょうか。 <h2>「生物多様性の保全」とは?</h2> 「生物多様性」とは、地球上の動物・植物・様々なバクテリアまでを含む多様な生物が直接的・間接的に繋がり合う、複雑で多様な生態系を意味する言葉です。社会・経済全体が、生物多様性により安定した「自然環境(自然資本)」から得られる恵である「生態系サービス」に依存しています。具体例としては、医療を支える医療品の成分には5~7万種もの植物からもたらされた物質が貢献しています。我が国も加盟している「国際自然保護連合」によれば、1年あたりの「生態系サービス」を経済的価値に換算すると約3040兆円とのことです。 1993年、「生物多様性の保全」「生物の多様性の持続可能な利用」及び「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ均衡な配分」を目的とした「生物の多様性に関する条約」が、「国連環境開発会議」で194の国と地域によって締結されました。その後、2010年に名古屋市で開催された「COP10」で、2020年までに陸の17%、海の10%を保全するエリアスペースとする「愛知目標」が採択され、我が国は2020年までに陸の20・5%、海の13・3%を法律などに基づく保護地域に指定、目標を達成しました。世界的には陸で16・6%・海で7・7%と集計されており、未達成となっています。 人類は、過去50年間で回復力を超えた自然資本の利用によって物質的に豊かになりましたが、「生態系サービス」は劣化傾向にあります。「生態系サービス」を持続させるためには、「ネイチャーポジティブ」(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せる)に向けた行動が喫緊の課題となっているため、我が国の対応策が、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする「30by30」で、12月にカナダで開催される「国連生物多様性条約第15回締結国会議(COP15)」での採択を目指しています。 「30by30」の基本方針は、健全な生態系を確保するために「国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上」と「保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理」です。 注目する点は、民間の取組などによって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト(仮称)」と認定する制度の構築を行い、2023年に全国で100地域以上を先行的事例としてOECM国際データベースに登録することです。 「自然共生サイト」は、既存のナショナルトラスト・バードサンクチュアリ・ビオトーフ以外に、企業の水源林、里山、企業敷地や都市の緑地、研究や環境教育に活用されている森林、防災・減災目的の土地など、管理結果として生物多様性の保全が図られていれば、インセンティブのある対象地域として認定される制度です。 現在、検討されている認定基準は、「境界・名称」「ガバナンス・管理」、「生物多様性の価値」「管理による保全効果」の4項目で、具体的には「区域の生物多様性の価値の現況を説明する資料(第三者による論文や文献)」、「里山といった二次的自然に特有の生物相・生態系が存する場である資料」、認定後の「5年に1度のモニタリング調査実施」と言ったものです。「自然共生サイト」に認定されても、 生態系の保全が保たれていれば、既に指定されている法的規制以上のものは発生しません。 現状の人類による活動は、生物多様性が持っている回復力・生産力を上回る規模となっています。一人一人が、生態系が非常に微妙なバランスで成り立っていることを知り、次世代に生物多様性とそこから生み出される「自然資源」を残すことが重要との考えが広まっています。 日本ゴルフ場経営者協会としては、一つでも多くのゴルフ場が「自然共生サイト」としての認定が受けられるよう、対応策を検討していく予定としています。 別件ですが、9月22日、来春以降の運用開始を目指して、経済産業省による実証実験の「CO2排出量取引市場」が東京証券取引所に開設されました。この新市場には、日立製作所・クボタ・みずほ銀行・東京都水道局など145企業・団体が参加し、初日は「1,60010,000円/t」の価格で627tのCO2取引が行われました。これからの動きを注視しましょう。 最後に、次の一文を紹介します。 「CO2排出量と気温上昇以外の全てが減速しており、『加速はとても良い』から、『減速はとても良い』に変化しようとしている。日本は、世界の大国の中で最初に減速した国となる。例えば、減速が進めば、物を長く使うようになりゴミが減り、環境問題が解決する」(ダニー・ドーリングオックスフォード大学地理学教授著「スローダウン 減速する素晴らしき世界」より) どのように考えられますか? <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年07月14日
    <strong>Q1 ゴルフ場にとって「パーパス経営」とは?</strong> 最近、「パーパス経営」という言葉が目につくようになりました。パーパス=目的が、企業の存在意義という使い方をされているようですが、ゴルフ業界ではあまり聞かれませんね。この点について、特にゴルフ場経営にはどんなパーパスが必要なのか……。大石さんはどのように思われますか? <strong>A1 ご質問ありがとうございます。おっしゃるように「パーパス」は、最近注目されている言葉で「企業は何のために存在するのか、社会的にどのような意義があるのか」という事業の原点を明確にするものです。</strong> もう少し踏み込むと「パーパス」は、株主を主体として利益を追求する旧型の経営スタイルではなく、取引先や業界、国や地球環境まで考えて、すべてのステークホルダー(利害関係者)と共生することを目指す「パーパス経営」の原点となるものです。 現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、国民の価値観と行動は安全や安心を基準とすることに変化しています。また、頻発する異常気象を身近に感じ、環境問題への意識も高まっているのではないでしょうか。このような状況に加え、IoTで全ての人とモノが繋がり、様々な知識や情報を共有できることから、働き方もリモートワークの導入等、多様化の兆しが生じています。 反面、我が国は、少子化と超高齢社会で急速な人口減少が進み、社会構造の変革によって、このままでは国内経済の規模は徐々に縮小せざるを得ない状況にあるとみられます。 このような状況を乗り切るには、「ディスラプション」がキーワードになると言われています。「ディスラプション」とは、既存のものを破壊するような革新的なイノベーションを意味する言葉で「創造的破壊」と訳されます。卑近な例に、ネットフリックスによる映画やドラマの配信サービスや、アマゾンによるネットショッピングの普及があります。自動車業界にもEVや自動運転の普及によって、大きなディスラプションが起きようとしています。 これまでの「情報社会」では、IoTによって知識や情報が集積され、情報強者が有利になる一方で、高齢者や過疎化する地方社会では十分に情報が共有されず、格差拡大の要因ともなっています。 このような状況を打開するのが、人工知能(AI)による様々な課題解決策を伴った情報の提供です。ロボットや自動走行等による人手不足解消、エネルギーの多様化による温室効果ガスの削減、健康情報管理による健康寿命の延伸や、ロボット介護による社会保障コストの低減等で、経済的・環境的課題と少子超高齢社会での課題解消に繋げようという動きが生じています。 <h2>ゴルフ場経営での「パーパス」を考える</h2> ゴルフ場業界でも「ディスラプション」は起きようとしており、その波を乗り切るために必要なのが「パーパス経営」と考えます。 「パーパス経営」は、冒頭に記した「個々の企業が何のために存在するのか、社会的にどのような意義があるのか」を明確にする「パーパス」を定めることから始まります。 その過程で重要なことは、その議論を経営者側のみで行うのではなく、若年層や女性を含めた従業員も参画して、すべてのステークホルダーとの共生を目指すことです。 企業は「社会の公器」と言われる通り、その活動は社会を進化させるためにあり、環境問題・社会的不平等・生物多様性の喪失など、様々な課題が浮き彫りになった今日、従業員や社会を幸福な状態(ウェルビーイング)に導く原動力となり得るからです。 そこでゴルフ場のステークホルダーですが、国民全体の心身ともに豊かな生活を実現するために、株主に加え、地域社会・自然環境・ゴルファー・ゴルフ業界、そしてゴルフ場で働く従業員などが対象となると筆者は考えます。主なステークホルダーとゴルフ場との関係性を次のような視点で分析し、「パーパス」にどのように生かすかを考えたら良いと思います。 「地域社会」との関係では、地域の持つ様々なアセット(歴史・観光資源・祭事・産業・雇用情報など)を分析する。「自然環境」との関係では、地球温暖化防止・地域環境の保全などにゴルフ場の持つ環境保全機能の更なる向上と、その機能の発信ができているかを検討する。 また、「ゴルファー」との関係では、創業時の精神・慣習・今までの経緯などを踏まえて、次に必要なものは何かを検討する。そして「従業員」との関係では、従業員の能力を最大限に発揮してもらうための心身ともに健康で豊かな気持ちで働ける職場環境の整備が不可欠です。 その他としては、ゴルフ業界や関係省庁などの政策も加味する必要があるでしょう。 これ以外にもステークホルダーはいるでしょうが、上記の関係性をきちんと整理して、その上でゴルフ場の「パーパス」をどのように設定するか、この点が重要になってきます。もちろん、経営者個々によってゴルフ場の「存在意義」をどう考えるかは異なると思いますが、最も大切なことは、従業員や社会を幸福な状態に導く「ウェルビーイング」を成長の源泉にすることで、ゴルフ場が提供するサービスも輝きを放ち、ゴルファーを幸福な状態に導くことができるはず。このような循環を構築できれば、結果的にゴルフ人口も増えるでしょう。 「パーパス経営」は、自社の存在意義を社内外に発信して企業価値を高めるパーパス・ブランディングと、顧客の本質的なニーズを理解してベネフィットを提供するパーパス・マーケティングの両輪で成立します。  ちなみに、日本における「パーパス経営」の元祖は渋澤栄一と言われており、「論語と算盤」に象徴される「私益」と「公益」の同時追求「道徳経済合一説」が知られています。 多くのゴルフ場企業が、社是・社訓・社歌などで、既に企業目的を表明されていることと思いますが、時代の変化に応じて見直すことも必要ではないでしょうか。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年06月06日
    <strong>Q1ゴルフ界に気候変動対策の具体案はありますか?</strong> 気象庁は6月27日、関東甲信越地方の梅雨明けを発表しました。観測史上最も短く、早い梅雨明けとなり、気候変動による地球温暖化を身近に感じます。大石さんは常々、ゴルフ界は気候変動問題に積極的に取り組むべきと提言されていますが、具体的な対策はありますか? <strong>A1ご質問ありがとうございます。</strong> 国内ではほとんど話題になりませんでしたが、2018年の「国連気候変動枠組条約締結国会議(COP24)」において、IOC、FIFA、20年東京及び24年パリのオリ・パラ競技大会組織委員会などが参加して、スポーツ界が一丸となって気候変動問題に取組む「スポーツを通じた気候行動枠組み」が立ち上げられました。 この枠組みの目的は、スポーツ活動は移動やエネルギー使用・競技場の建設・食事の手配などを通して気候変動を助長する面があると認識し、スポーツ界が気候変動問題に取組む模範的な活動を示すことで、スポーツが持つ人気と情熱により百万人単位のファンに気候変動対策を訴える活動を行うものでした。 具体的には、「より大きな環境責任を担うため組織的な取組みを行う」「気候変動の全般的な影響を削減する」「気候変動対策のための教育を行う」「持続可能な責任ある消費を推進する」「情報発信を通じ気候変動対策を求める」の「スポーツを通じた気候行動原則」を掲げました。この枠組みに対し、COP24の事務局は、「スポーツ部門が気候変動対策のリーダーになれる機会だ」と強い期待感を示しています。 残念なことに、宣言団体の一つだった20年東京オリ・パラ競技大会組織委からは、物品調達に関する「フェアトレード認証」などへの取組に関して、積極的なレガシーといえるものが十分に公表されず、6月30日に解散してしまったのです。 その一方、日本ゴルフサミット会議は、20年に「NO!プラごみポスター」と「ゴルフ界も廃プラ削減に取組もう!」とした趣意書を作成。全国のゴルフ場・練習場などに配布して、廃プラ削減などを呼びかけました。これにより、洗濯物用ビニール袋の廃止、生分解性プラスチックティ、水筒持参などの取組みを行うゴルフ場やゴルファーが多く見られるようになりました。 そこで本稿は、今後ゴルフ界が注力すべき温暖化防止活動の一つとしてEV(電気自動車)とゴルフの関連性について述べていきます。 <h2>ゴルフ場に充電設備を!</h2> 私は、身近な温暖化対策の一つとして、EVの普及と密接な関係にあるゴルフ場の「EV充電インフラ」があると考えています。 EUは6月末、気候変動対策の一策として「EU域内では35年までに二酸化炭素を排出する新車販売を禁止し、ゼロ・エミッション車(温室効果ガスを排出しない車)に限定する」ことを決めました。ちなみにEUでの21年の新車登録台数は約970万台で、うちEVは前年比6割増の約88万台となっています。その流れは日本も無縁ではありません。 時として「EVの普及」と「充電インフラ」の整備は「卵が先か鶏が先か」の議論になりますが、次のような状況からEVの普及は日本でも意外と早く進むと考えられます。 そのひとつは昨年8月、IPCCが「世界の気温は2018年時点の予測に比べて10年以上早いスピードで上昇しており、今後20年以内に、産業革命前に比較して1・5度上昇する」と発表。 さらに「人類の活動が地球温暖化を引き起こしている」と断定したことです。また、15年9月に国連サミットで採択された「SDGs」への理解と達成に向けた官民の活動が活発化。個人の生活様式も「エコロジー」や「エシカル」を意識するようになりました。 当初、国内で発売されたEVは1回の充電で走行できる距離に不安があったものの、前述のEUの政策もあり、最新のEVは搭載バッテリーの大容量化で走行距離500km時代を迎えようとしています。ちなみに「テスラ」の日本での販売台数は、20年の約1900台から21年には2・7倍の約5200台に増加しています。 ゴルファーに人気の高い「ベンツ」「BMW」「アウディ」「ボルボ」が、走行距離500km超のEVを発売予定。これまでEVにやや消極的だった「トヨタ」も「bZ4X」に続き、秋には欧州や中国で「レクサスUX300e」を発売するとしています。 去る5月20日には「日産」と「三菱」から発売された軽EVが、国や地方自治体の補助金を利用すると180万円台(東京都は130万円台)で購入できるなどから、1か月足らずで両車合わせ約1万4500台もの受注があったそうです。商用軽EVの発売も予定されるため、ゴルフ場の日常業務で使用する日も近いと考えられます。 8年ほど前、国産EVの搭載バッテリー容量が「40kwh」であった頃、「3kw充電器」が多くのゴルフ場に設置されました。日本ゴルフ場経営者協会(NGK)が率先する形で全国的な説明会を開き、関与しただけでも70コースほどで設置されました。設置コストは国と自動車4社からの補助金の活用で、ほぼ自己負担額はゼロとなり、1コースでの最多設置数は4基ほどだったと記憶しています。 最近のEVは、搭載バッテリーの容量が「80~100kwh」となっており、6時間の普通充電で200kmの走行距離を確保するためには、「6kw充電器」が必要となるため、今後、補助金を活用して充電器設備の更新が必要となるでしょう。 政府は30年までに、補助金制度を設けて「急速充電器」を3万基、「普通充電器」を12万基に増設するとしています。また、マンションでの充電インフラ設置は住民の合意形成が必要なため、遅れることが予想されます。マンション住まいのゴルファーがEVを購入した場合、ゴルフ場の充電インフラが大きな付加価値になるでしょう。エコと経営戦略の両輪で、ゴルフ場はEV時代への対応が求められます。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年05月27日
    <strong>Q1  各種コストの上昇にどのように対応するのか?</strong> 昨年の暮れに「GDO」がウェブサイトの「予約送客手数料」を値上げすると発表しました。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻等を原因として、原油高や様々なコストが上がっています。一部ではゴルフ場も「便乗値上げ?」と言われますが、大石さんはどのように考えますか。 <strong>A1  ご質問、ありがとうございます。「便乗値上げ」とは、「止むを得ない理由に便乗してそれ以上の値上げを行うこと」ですが、今回の値上げの多くは「便乗値上げ」には該当しないと考えています。その問題の前に、2021年度のゴルフ場利用者状況を簡単に説明しましょう。</strong> 2021年度の感染状況は前年度を上回り、多くの自治体に長期間、「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」が出されました。広域移動の自粛や飲食店の営業制限等により、社会・経済活動が停滞したことは衆知のとおりです。 ところが、ゴルフ場利用者数は2020年度下期からの増加傾向が続き、2009年度以降12年ぶりに9000万人弱となり、1ゴルフ場当たりの利用者数も1997年度以来の4万人超えとなりました。特にゴルフ界の将来を支える「18歳以上70歳未満」の利用者数は、コロナ前の2019年度に比較して4%増の7000万人弱となっています。 この要因は、コロナ禍での様々な行動制限や精神的ストレスへの反動現象でしょう。広域移動を行わず、感染リスクの低い自然環境の中で家族や仲間と楽しめるレジャーとしてゴルフが評価された結果だと思われます。つまり、コロナ禍における価値観の変化こそが、今後の「ゴルフ普及」のキーワードのひとつだと、改めて証明できたと思います。 さて、次に本題である「コスト上昇要因」と、それへの対応について考えてみたいと思います。 コスト上昇によって値上げをする場合には、消費者に丁寧に情報開示することが必要です。今回、ゴルフ場が値上げ傾向にあるのも様々な要因が背景にあります。 第一の要因には、「ウェブサイト予約」を運営するGDOの「予約送客手数料」の値上げがあります。値上げの中身は、算定対象料金に「消費税」と「ゴルフ場利用税」を含めることで、手数料水準を「楽天GORA」と同一にするというものでした。これによって、算定対象料金が1万円未満の場合、手数料が「20%強上昇」することになりました。この値上げは、同社の予約サイトを利用するゴルファーには周知されていません。ゴルフ場のコストアップ要因になっていることを利用者に伝える必要があると考えています。 尚、ウェブサイト集客の問題については別の機会に紹介します。 第二の要因は、コロナ禍によるサプライチェーンの寸断や、異常気象を引き起こすラニーニャ現象の長期化による穀物生産量の減少と、これを懸念することで生じる先高感が食品価格を押し上げることです。 気象庁の発表では、2021年秋から始まったラニーニャ現象は今年夏まで続くとみられ、米国中西部では長雨でトウモロコシの作付けが遅れ生産量が減少、記録的な熱波に襲われたインドの小麦も不作が懸念されています。特に、小麦は世界の輸出量の30%を占めるロシアとウクライナの戦争によって、食糧危機に発展するのではと危惧されています。 日本の小麦消費量は570万トンで、自給率は14%程度。残りの488万トンを輸入に頼り、うどん・パン・パスタ等が10%以上の値上げとなっています。食品価格の値上げは6~7月だけでも3600品目以上が予定され、このままでは年間1万品目以上が値上げされるとの報道もあるほどです。 以上の食品価格の上昇は、レストラン商品の価格の値上げに繋がりますが、「SDGs」に基づいた「フードロス削減施策」をプレーヤーの理解を得て実施し、適正な範囲に留めることが肝要と考えます。 <h2>円安の影響もジワリ</h2> 第三の要因は、原油、天然ガス等の価格の高騰です。コロナ禍での需要減と、その後の経済回復による需要増、さらにロシアへの経済制裁が重なったことで電気・ガス・ガソリン・燃油サーチャージ等の値上げにより、間接的な各種商品の製造原価や流通コストが増加しています。 特に電気料金は、電力自由化後に参入した「新電力」の一部が、「日本卸電力取引所」のスポット価格が前年同期比2倍以上に高騰。逆ザヤ現象となって撤退する企業や新規受付を停止する事態となっています。 この現象は大手電力各社も同様で、電気小売り契約のない企業が急増して、「最終保障供給」を利用する企業が5月末で1万3000社に及ぶ事態となっています。「最終保障供給」は、電力小売り契約のない法人に必ず電気を届ける一時的な制度のため、標準料金の1・2倍と高く設定されていたが、大手電力各社も資源高の影響で新規法人に「最終保障供給」より高いプランを提示するなど、セーフティーネット機能が発揮できない事態を招きました。 経済産業省は「最終保障料金」が割高な状態を保つために、市場価格を適宜反映したものに改めるとしていますが、一連の事態がゴルフ場経営の負担となることは当然です。電気料金値上げに対するひとつの策として、年々上昇する「再エネ賦課金」の影響を受けない等の利点がある再エネ事業者との「PPA(電力購入契約)」の活用も有効でしょう。 第四の要因は、全農が6月以降の肥料価格を、直近6か月よりも最大9割引き上げると発表したことです。日本の化学肥料の原料は「リン酸」の90%が中国、「尿素」の84%がマレーシアと中国、「カリ」の85%がカナダ・ロシア・ベラルーシからで、ほぼ輸入に頼っている状況です。これらがゴルフ場の管理コストを高めることは明らかで、対策としては「緑化廃棄物等のコンポスト化」と「有機肥料」の活用が有効と考えられます。 また、日米欧の金利差による円安が、輸入価格を総じて押し上げ、ゴルフ場の経営を圧迫しています。生活物価が上がれば、呼応して人件費の適正な上昇も必要で、そうしなければ人財確保がさらに難しくなってきます。「値上げ」に際しては、原因とコスト吸収策も含めて、丁寧な情報開示を行い、理解を求める姿勢が重要と考えています。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年03月07日
    <strong>Q1  ゴルフ人口「75歳の壁」は、本当なのか?</strong> コロナ禍で、特に若い世代のゴルフ人口が増えていると様々な人から聞きますが、信憑性がよくわかりません。そんな中、先日一季出版はスポーツ庁が毎年発表している「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(スポーツ庁世論調査)のローデータを1歳刻みで分析した結果「ゴルファー2025年問題、75歳の壁がデータに出現」と発表しました。具体的には「70~74歳の層で山脈形成、75歳から半減以下の断崖に」というものです。大石さんはどのように考えますか? <strong>A1</strong> ご質問ありがとうございます。この記事は、スポーツ庁が毎年11月に「楽天インサイト」パネルの約220万人を対象に、18歳~79歳の男女に対して、人口構成比に準拠した割付で有効回収数2万件になるまでWEBアンケート調査(目標回収数に達するまで回答をWEB受付)したローデータに基づくものですが、まず、ゴルフに関係する内容を見てみましょう。 これによるとゴルフ実施率は、2019年7・1%、2020年6・6%、2021年6・2%と年々減少しています。また、2021年に「ゴルフを新たにあるいは再開した人」は、男性では50歳代4・4%、60歳代6・0%、70歳代4・7%、女性では20歳代1・4%、30歳代1・3%となっています。以上のように「スポーツ庁世論調査」によるゴルフ参加率の減少は、2021年度の延べゴルフ場利用者数が前年度比10%増の8980万人になったこととはやや反するものとなり、多くのゴルフ場関係者が肌感覚として感じている「若年層ゴルファーの増加」とは異なる結果です。 これとは別に、ゴルフ人口については調査対象数や方法が異なる次の三つの数値があります。「レジャー白書2021」520万人、「スポーツ庁世論調査」からの推計数585万人、総務省が5年に一度発表する「社会生活基本調査2016」895万人です。これらのどれを信じるかは、読み手の判断に委ねざるを得ないのが実情です。 ご質問の1歳ごとのゴルフ人口を推計するためには、1歳ごとの人口構成に準拠したサンプル数が必要ですが、スポーツ庁の調査は10歳ごとの人口構成に準拠したものとなっているため、1歳ごとの参加者数を推計するものではありません。私見ですが、「75歳の壁がデータで出現」は、ややミスリード的な表現ではないでしょうか。 ゴルフ業界では「団塊の世代」が全て75歳以上の後期高齢者になる2025年を想定した対応を考えるべきとの意見があります。これは、2005年頃に2015年に「団塊の世代」が満65歳を迎えてゴルフ人口が大幅に減少するとした「2015年問題」の焼き直し的な考え方で、やや「オオカミ少年」的になっているとも思えます。 近年、健康寿命は延伸しており、加えてスウェーデンのカロリンスカ研究所の発表では「ゴルフ実施者の寿命は未実施者よりも5年長寿」とされています。さらに、就労年齢も70歳まで引き上げられるなど、現役年齢が上昇しています。 市場の今後を推測するうえで調査数値はある程度参考になるかもしれませんが、調査内容は様々であり、超高齢社会の到来によりシニアの生活環境も変わっています。そのため筆者は、ゴルフ場利用者の増加原因は、コロナ禍で人々の価値観が「家族や仲間との時間の大切さ」「競争より、助け合って暮らす」等の身近な事象や安全欲求にシフトして「ウェルビーイングな生活」を目指したためと考えます。各種データに一喜一憂することなく、世情を冷静に見つめることが重要でしょう。 急激な人口減少局面を迎え、過度な経済成長を目指すよりも、世界の人々が心身ともに豊かに暮らしていける社会的基盤を作るとする「SDGs」への取り組みこそが最重要課題ですと主張しているのはそのためです。 <h2>誰でも出来る「フードロス」への取り組みにトライしよう!</h2> 「SDGs」への取り組みは保健・教育・人権・ジェンダー・環境等、多岐にわたりますが、ゴルフ場として取り組み易い目標の一つが「フードロス削減」ではないでしょうか。 超高齢社会の中で少子化による人口減少が進む日本ですが、国連は、2019年に約77億人だった世界人口が2030年に85億人、2050年には97億人に達すると、急激な増加に警鐘を鳴らしています。また、気候変動による干ばつや洪水などによって、現状でも世界で8億人以上もの人が食料不足により慢性的な栄養不足に苦しんでいます。国連世界食料計画が全世界で行っている食料支援量は年間420万トンになります。ロシアによるウクライナ侵攻によって小麦の輸出が滞り、日本国内で様々な食品が値上げされていますが、小麦粉を主食とする国や地域では食糧危機による政情不安が危惧されています。 ところが、消費者庁の発表によれば、2019年の日本の「食品ロス量」は年間570万トン(一人当たり45㎏)で、この内訳は事業系が309万トン、家庭系が261万トンとのこと。実に、国連食料支援量の1・4倍にあたる「まだ食べられる食品」を日本は廃棄しています。 食品ロス削減のために、2019年10月に施行されたのが「食品ロス削減推進法」で、毎年10月に「食品ロス削減月間」として運動が行われています。「フードロス削減」への個人として取り組み例は、食品ロス問題を意識して削減を心がけること、すぐ使う予定の食材は賞味期限までの長さに拘らず購入すること、外食時には食べきれない量をオーダーしない等が求められています。 また、レストラン等の事業者の責務として「お客様に食べきって頂くこと」が一番大切であるとして、小盛を作る等の選択メニューを準備する等が求められています。食品ロスを解消することで食品を無駄なく使うことは、経費を削減できるだけでなく地方自治体や国が廃棄にかける費用の削減にも貢献できます。 近年、学校教育においても、エシカルな消費(倫理的消費)としての食品ロス削減について授業が行われています。「企業は社会の公器」との考え方が、重要になっています。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年01月20日
    <strong>Q1 ゴルフ場の「温室効果ガス固定機能」とは?</strong> 先日、ある方から「現状、日本のゴルフ場は約2150コース、その敷地面積は約24万ヘクタールで、神奈川県とほぼ同一面積になる。そして、ゴルフ場は、樹林地を伐採して造成したため、樹木による二酸化炭素の固定が出来ていたはずの面積が失われた」との話を聞きました。ゴルフ場の負の側面を表わす話ですが、大石さんのお考えは? <strong>A1 その話はどのような根拠に基づくのか定かではありませんが、知り得る範囲の知識に基づいて私の考えを申し上げます。</strong> 日本のゴルフ場は、1960年には195コースで、その敷地面積は1・3万ヘクタールでした。それが2002年には2442コースとなり、敷地面積も27万ヘクタールにまで拡大しました。その後、バブル経済崩壊以降の景気低迷や東日本大震災等により、直近の11年間だけで約220コースが閉鎖や他の用途に転換され、現在は2198コースで約24万ヘクタールとなっています。 高度成長期の1970年代においては、環境保護団体などから環境破壊とのバッシングを受けたことも事実です。このような状況に対し、1976年には、ゴルファーからの緑化協力金や寄付金等により緑化推進と環境保全事業を目的とした「社団法人ゴルファーの緑化促進協会」(現、公益社団法人ゴルフ緑化推進会)が設立され、各地の植樹活動の支援や環境保全等に関する啓発活動を展開しています。 ご高承の通り、山林や原野を用いてゴルフ場を開設するためには、国と地方自治体の開発規正法上の許可を取得する必要があり、開設された時代によって相違はあるものの、環境保全のためにゴルフ場敷地面積の30〜40%程度を残留緑地や回復緑地にしなければなりません。 さて、ここで冒頭のご質問の件です。ゴルフ場の造成によって「神奈川県と同等の約24万ヘクタールの樹林地が伐採された」は、正確ではありません。残留・回復緑地の存在を考えれば、樹林地を伐採してフェアウェイやラフに造成できる面積は、多くても約15万ヘクタールと考えるのが、妥当と思います。 また、ゴルフ場の樹林地と芝地等が光合成によって二酸化炭素を固定する年間量について「縣 和一九州大学名誉教授」が2008年に発表された論文「大気浄化地球温暖化防止に寄与するゴルフ場」があります。 この論文では、2008年当時のゴルフ場約2400における二酸化炭素の年間固定量は、約460万トンと試算されています。この固定量は、4人家族の標準世帯230万戸の年間使用電力量を、火力発電する際に放出される量と同等としています。 「環境破壊」と糾弾されたゴルフ場が、実は地球温暖化防止に貢献している証左といえます。 さらに、二酸化炭素が難分解性の土壌有機物として固定されれば、地球温暖化の抑制につながります。大気中の二酸化炭素は植物の光合成により吸収され、植物体を形成する葉や根となり、枯れると微生物等により土の養分を保つ有機物に分解され、土壌中の有機炭素として蓄積されます。 この土壌炭素量は、約1兆5000億トンと巨大で、大気の2倍、植生の3倍となっています。この土壌炭素の量を増加させることができれば、地球温暖化を抑制することができます。 そして、世界に広がる考え方が、「4パーミルイ二シアチブ」です。 <h2>「4パーミルイニシアチブ」とは?</h2> 現在、人類の経済活動によって大気中に排出される年間の炭素量は、約100億トンずつ増加しており、樹木などによって吸収される分を差し引くと年間約43億トンが純増しているようです。 一方、前述した土中炭素約1兆5000億トンのうち、表層の30〜40センチに約9000億トンの炭素があるとされています。この表層にある約9000億トンの炭素を毎年0・4%増加(約36億トン)させることができれば、人類の経済活動によって増加するであろう二酸化炭素の大半を吸収し、温暖化を防止することができるとの考え方に基づいた活動が、「4パーミルイニシアチブ」です。 2015年12月の「国連気象変動枠組条約締結国会議」(COP)にフランスから提案され、2020年9月現在、我が国を含む489の国や国際機関が参画しています。 日本の地方自治体として山梨県が初参加し、果樹園などで発生した剪定枝を「炭」にして土壌改良材として使用し、炭素を長期間土壌に貯留するとともに、温暖化防止に寄与して生産された果実を新たなブランド品としてPRしています。 なぜ、山梨県の取組が「果樹園」となっているのでしょうか。それは、通常の稲作や畑作は、農地を耕起するために土壌炭素は微生物の働きによって分解され、二酸化炭素として大気に放出されるという循環を繰返します。植物による有機炭素の生成速度が土壌炭素の分解速度よりも大きいと、土壌中に土壌炭素が貯留されることになります。そこで重要となるのが、「不耕起」による土壌作りです。ゴルフコースのフェアウェイやラフは、基本的にエアレーションなどによる更新作業=「不耕起」によって管理されています。 前述のフェアウェイやラフに造成された約15万ヘクタールについては、コース造成時に土壌炭素は一旦消失しますが、「不耕起」管理によって再貯留されています。 昨年夏から、ゴルフ場の芝地を対象に土壌炭素の調査が行われました。「都市緑化機構」が我が国の「温室効果ガスインベントリ報告書」の精度向上のために実施したものです。ゴルフ場を対象にした初めての本格的な調査ではないでしょうか。日本ゴルフ場経営者協会は、現地調査に協力して頂けるゴルフ場の選出などで協力を行いました。 現状、速報として欧米のゴルフ場での研究結果と同様ゴルフ場開設後の経過年数に応じて土壌炭素が増加していることが確認されました。 調査結果については、本年度上半期に公表される予定です。 ゴルフ場が、緑化施設として二酸化炭素を固定し、「不耕起」管理によって土壌炭素を貯留し、地球温暖化防止に貢献していることが更に明らかになろうとしています。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年12月13日
    Q1 聞き慣れない「ウェルビーイング」の意味とは? 大石さんは前回、2030年を目標としたゴルフ界の中長期ビジョンとして「ゴルフ界はウェルビーイングな社会の実現に貢献する」と提案しましたが、初めて「ウェルビーイング」という言葉を聞きました。「WELL-BEING」を直訳すると「幸福」「健康」という意味だそうですが、よくわかりません。「ウェルビーイング」という概念や、これに基づく社会の動きなどがあれば教えてください。 <h2>A1 ありがとうございます。わたし自身の考えを、なるべく平易にお伝えしたいと思います。</h2> まず、世界保健機関(WHO)は、「そもそも人間が幸福であり、健康であり、福祉(幸福)を享受することができること、そのことを大切にする考え方がウェルビーイングである」としています。 我が国では、2021年3月に発表された「成長戦略実行計画」の一つとして「国民がウェルビーイングを実感できる社会の実現」が掲げられました。具体的には、 「成長戦略による成長と分配の好循環の拡大などを通して、格差是正を図りつつ、一人一人の国民が結果的にウェルビーイングを実感できる社会の実現を目指す」 というものです。これを受け、自民党内に設置された特命委員会では「ウェルビーイングの向上を実現していくことこそが、政治や行政の目指すべき目標」として、将来を担う世代のために国づくりを検討するとしています。 産業革命以降、世界は豊かさを求めて国内総生産(GDP)を伸ばすべく経済活動を拡大してきましたが、その結果として、大量の廃棄物や過剰開発による地球温暖化現象、生態系の変化を生み、人類は大きな危機に直面しています。 2年を経過したコロナ禍により、非対面・非接触という「人と人との分断」が起こり、今までの生活が一変しました。孤独や孤立といった問題が顕在化するとともに、多くの国民が「人と人とのつながり」といったお金では買えない価値観を痛感し、「ウェルビーイング」という概念が注目されつつあるのです。 我々はこれまで、国や国民の豊かさを測る指標として「GDP」を重視してきましたが、GDPでは捉えきれない精神的な充足感「全ての人と社会が幸福を実感する」新たな指標として「国内総充実(GDW)」が提唱されてもいます。 ほかにも有名な指標があります。 世界一幸福度が高いといわれるブータンでは、国王が「GDPよりGNHが大事だ」と述べていますが、これは「国民総幸福量」の略称です。GNHは単なる観念論などではなく「精神的な幸せ」「健康」「時間の使い方」「文化の多様性」「ガバナンスの質」「地域コミュニティの活力」「環境の多様性」「生活水準」の9分野から構成され、国家運営の基礎とされています。 さて、国連の「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」は、毎年3月20日の「国際幸福デー」に合わせてランキングを発表しています。名付けて「幸福度ランキング」です。 これによると2021年度の日本は、前年よりやや上昇して149か国中56位でした。1位は3年連続でフィンランド。アジアの最上位は24位の台湾です。 日本は、1人当たりのGDPや社会保障制度の確立、世界第2位の長寿国、治安が良く暮らしやすい等、素晴らしいはずなのに、なぜか順位が低いのです。なぜでしょう? <h2>ちょっと気になる日本人気質!</h2> 順位が低い理由のひとつとして、日本は「人生の自由度」と「他者への寛容さ」が低く、そのことが原因で幸福度が低いとの見方があるようです。「人生の自由度」に悪影響を与えるのが「働きすぎ」で、「休暇が取りづらい」「職場の中で自分に合った働き方を自由に選べない」などが指摘されます。 他者への「不寛容」については、積極的に寄付やボランティア活動に参加する習慣がないことも、影響しているとみられます。 日本は、数値化された客観的なデータからは、間違いなく「幸せな国」と言えます。今後は、容易に数値化できない「自由度」や「寛容さ」に加えて、多種多様な人が互いの考え方の違いや個性を受入れながら、ともに成長する社会の実現を意識して生活すれば、幸福感に満ちた国になれると思います。 別の視点で「日本人気質」を考えてみましょう。「世界幸福度ランキング」が低順位な一因に、私は「中庸を重んじる」(言い方を変えるとハッキリしない)日本人気質があるように思います。 このランキング調査は「自分の生活の満足度が、いまどこか」を主観的に回答する方法で行われるので、「中間的」なところを選ぶ回答が多いのではないかと考えられます。 中庸を重んじる日本人気質は、気候変動に関する別の調査結果にも表れています。 2021年、世界の人々の問題意識や意見の傾向を調べる米国のシンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」が、先進17か国の1万8000人を対象に「気候変動や地球温暖化対策についての意識調査」を行ないました。ほとんどの国で、「非常に懸念している」という回答が、2015年調査に比べて増えましたが、日本は減少しているのです。 各国の「懸念増加率と割合」は、ドイツ19ポイントアップの37%、英国18Pアップの37%、豪州16Pアップの34%、韓国13Pアップの45%となっています。日本は8P減少の26%です。日本は他国と比べても「気候変動」に対する意識が高かったはずなのに、一体どうしたというのでしょう。 この調査はさらに、気候変動に対して「個人の生活をどれくらい変化させたいと思うか」と質問しています。日本人の回答は「少ししか変えない36%」「ある程度変える48%」で8割以上を占め、積極性の低さが目立ちます。先述した「懸念の度合い」についても、「非常に懸念している26%」「ある程度懸念している48%」と7割を超えましたが、この「ある程度」に、私は「中庸」を好む日本人の気質が表れているように感じます。 数値化が難しい「ウェルビーイング」の在り方を考えるとき、一人ひとりが個々の価値観をどのように確立していくのか。同時に、「中庸」が「積極派」に一変するのも日本人の特徴。我々ゴルフ業界も、その流れをつくる努力が必要です。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年11月02日
    <strong>Q1 2030年を想定したゴルフ界の「中長期ビジョン」</strong> 大石さんは、ゴルフが果たす社会的役割の観点から、2030年までの「中長期ビジョン」を策定する必要があるとして、第5回から第10回までの連載で「新型コロナウイルス感染症に起因する視点」「社会構造の変革に起因する視点」「SDGsに起因する視点」の3視点から具体的な提案をされました。 今月号では、大石さんが考える「2030年を想定したゴルフ界の中長期ビジョン」とはどのようなものかを教えて下さい。 <strong>A1 わかりました。</strong> 現在、人類が直面している最大の課題は「気候変動問題」ではないでしょうか。地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである「パリ協定」では、各国に対して2050年までにCO2排出量の大幅削減やカーボンニュートラルの達成が求められています。我が国も、2050年にカーボンニュートラルを達成するとしています。 加えて、2050年の日本の人口は9700万人に減少し、高齢化率は2020年の29%から39%に上昇すると予測されます。我が国は、急激な人口減少超と高齢社会という問題に、人類史上初めて対処しなければならない国となるようです。 今まさに、多難な時代を乗り切る航海に出港しようとしています。この航海を無事に乗り切るためには、羅針盤とも言える未来を見通したビジョンを持ち、日本人の特質であるやや過ぎるほどの勤勉性と我慢強さを発揮するしかないと考えています。今からの30年は、明治維新や第2次世界大戦後に示した日本人の「先取の気質」が試される時が来るのではと思います。 第2次世界大戦後の荒廃から11年後の経済白書に「もはや戦後ではない」と記される復興を遂げ、その後の所得倍増計画などによって敗戦から20年余で経済大国となりました。この復興期には、優れたビジョンを持つ経営者によって多くの世界的企業が誕生しました。これらの企業の特徴は、「世の中を革新する最高のものを提供するとの意志とエネルギー」「すべてを忌憚のなく議論する風土」「個性を認めあう気質」の三要素を持っていたようです。 ゴルフ界の「ビジョン」を確立してスタートを切る前提として、この三要素を整える必要もあります。 <h2>優れた「ビジョン」とは?</h2> ゴルフ界で持つべき「ビジョン」を提案する前に、「優れたビジョンとは何か」を理解しておく必要があります。「ビジョン」という言葉を辞書で引くと、「将来のあるべき姿を描いたもの。将来の見通し、構想、未来図、未来像」と記載されています。現在、様々な企業が「ビジョン」を発表していますが、それらの多くは「自らの意志を投影した未来像」で「自らが心から達成したいと願う未来」を表わす一枚の絵のようなものと感じます。 そして「優れたビジョン」には、人や組織の固有のものでありながら、多くの人に「私の夢でもある」と思わせる「公共の夢」になりえる要素があります。その夢を構想していく見識を、信念にまで高めた末に生まれたビジョンは、人々に共感され、共有され、皆の夢として「自らが心から達成したいと願う未来」となるのではないでしょうか。 例として、アウトドア用品の「パタゴニア」を見てみましょう。「パタゴニア」は、「意思決定は、すべて、環境危機という文脈で行う」として、意思決定のための基準価値として、「環境危機」「品質」「地域社会」「利益」「自主的な環境税」「社会に対する活動」「透明性」等を掲げています。以上を集約した同社のミッションは「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」としています。 また、「サントリー」は、顧客はもちろんのこと、地域社会や自然環境と交わす言葉として「水と生きる」を掲げ、使命として「人と自然と響きあう」、志として「Growing for Good」、わたしたちの価値観として「やってみなはれ」、事業の成功をステークホルダーや社会と分け合うとして「利益三分主義」を掲げています。 両社に共通する考え方は、企業は社会課題の解決により利益を得ている「公器」であり、公共の視点がない企業は長い視野で見れば、凋落するという考え方です。 <h2>ゴルフ界の中長期ビジョン</h2> そもそもなぜ、筆者は2030年をゴルフ界の中長期ビジョンのゴールに設定したのか? それは、1960年代後半からのゴルフブームを牽引した「団塊の世代」が、総じて80歳を超えるからです。これによりゴルフリタイアが加速すると予測され、かつ、持続可能な世界を実現するための世界的な目標「SDGs」の最終年も2030年です。 「中長期ビジョン」に必要な要素は、前述したように多くの人に「私の夢でもある」と共有・共感してもらえる未来像を示すことです。 超高齢社会を迎えた我が国にとって重要なのは「健康寿命の延伸」です。ゴルフは、瞬間的な身体負荷が他のスポーツに比較して小さいため高齢になっても継続が可能であり、加えて、自然環境の中で楽しめるために身体的・精神的健全性を維持するには最適なスポーツです。 また、人生に必要とされる「ライフスキル」の多くがゴルフプレーから習得できるため、ジュニアや若年層の方にとっても有効なアイテムであり、幸福を実感できる社会の構築にも役立ちます。 次に、ゴルフ場は、地球環境の保全に貢献するポテンシャルを持っています。ゴルフ場の樹林地は空気中のCO2固定を行いますし、耕転を行わずに管理する芝地は土壌炭素の貯留機能を有しています。このようなゴルフ場の機能は、気候変動の原因ともなっている温室効果ガスの増加に待ったをかけるものです。 以上から、筆者はこう考えます。一人一人が人間として成長し、心身ともに充実して生きられる「ウェルビーイングな社会の実現にゴルフは貢献する」――。そのことをゴルフ界の「中長期ビジョン」とすることを提案します。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年10月07日
    <h2>Q1 ゴルフのイメージアップとSDGsとの関係</h2> 大石さんはこの連載で、3つの大きな視点から「ゴルフ界全体でゴルフ普及活動のビジョンをつくろう」と提案されています。 前月号では「経営効率化とSDGs」との視点で書かれていましたが、今月号では「ゴルフのイメージアップとSDGsとの関係」について、大石さんの考えを教えてください。 <strong>A1</strong> わかりました。まず、WHO(世界保健機関)はSDGsの3番に示される「全ての人に健康と福祉を」を達成するものとして、 「運動とスポーツを行うことは、アクティブなライフスタイルと精神的な安定をもたらす。スポーツは、世界的な課題に取組んでいくために必要不可欠なツール」 と記しています。したがって、ゴルフの普及活動は3番の「全ての人に健康と福祉を」に該当すると思いますが、ここで重要なのが「健康寿命」という考え方です。 「健康寿命」は、2000年にWHOが「人生において健康な期間をどれだけ伸ばせるかを考えよう」と提唱し、日本では2010年から3年ごとに調査発表しています。昨年の暮れに厚生労働省は、2019年の「健康寿命」について男性72・68歳、女性75・38歳と発表しました。これは、2016年に比べて男性が0・54歳、女性が0・59歳延びたことになります。 最近では、疾患や怪我などで自立した生活を送れなくなるリスクが、より重要視されています。2019年の平均寿命は男性81・41歳、女性87・45歳ですから、「平均寿命」から「健康寿命」を差引いた「日常生活に支障がある期間」は男性が8・73年、女性が12・06年で、調査を開始した2010年と比較すると男性が0・7年、女性が0・6年短縮しています。 ちなみに2016年の日本の「男女平均の健康寿命」は、シンガポールの76・2歳に次いで世界第2位の74・8歳でした。「日常生活に支障のある期間」はシンガポールが6・7年、日本は9・4年で、シンガポールの人達は、日本人に比べて自立した生活を2・7年も長く送っていることになります。 「健康寿命」をさらに延伸させ、自立した生活ができる社会の実現が求められており、厚生労働省は2019年に「2040年までに健康寿命を男性で75・4歳、女性で77・9歳以上とする健康寿命延伸プラン」を発表しました。このプランでは、 「有酸素運動と筋肉に負荷をかける運動によって、生活習慣病を起こすリスクが低下する。加えて、活動や意欲の低下原因となる転倒や骨折を防止できる」 として身体活動・運動を推進して健康への意識を高める環境を整備するとしています。第7回の連載で、 「健康寿命の延伸には、若い時から適度な身体的負荷のスポーツを継続することが重要で、無理せず長続きするためには、仕事とプライベートを両立する必要がある。それに適合するのが、ゴルフ」 と書きましたが、国の健康寿命延伸プランにもマッチしています。 <h2>ライフスキルはゴルフで学べる</h2> また、WHOはライフスキルについても次のように定義しています。 「日常の様々な問題や欲求に対して、より建設的かつ効果的に対処するために必要不可欠な能力」 具体的には、社会人に必要な「自己認識スキル」「コミュニケーションスキル」「意思決定スキル」「目標設定スキル」「ストレスマネジメントスキル」で、第7回の連載に記した通り、これらは全てゴルフから習得可能なスキルです。 したがって、教育現場や地域と連携したゴルフの普及活動は、3番の「すべての人に健康と福祉を」、4番の「質の高い教育をみんなに」、8番の「働きがいも経済成長も」、11番の「住み続けられるまちつくりを」に該当します。 近年、多くの地方自治体が地域の活性化を目指して、SDGsをキーワードとした様々な取組みを行っています。特に、学校や地域の人達にゴルフ場を開放するイベントや、災害時の避難場所としての提供(事前協定の基に)は、ゴルフの普及に加えて、ゴルフ場の地域貢献につながるため「ゴルフとゴルフ場のイメージアップ」になると思います。 <h2>ゴルフ界は「多様性と包摂性」を!</h2> 昨年開催された東京五輪・パラリンピックの最大のレガシーは、日本社会に多様性と包摂性について考える契機を与えてくれたことです。 1896年の第一回アテネ大会では、女性の参加が認められていませんでしたが、第三十二回東京大会では女性選手が過去最高の49%を占めました。また、新競技としてアーバンスポーツといわれる種目が、スケートボード、スポーツクライミング、3×3バスケットボールなど5種目採用され、男女混合種目も水泳、柔道、陸上など7種目で採用されました。さらに、LGBTQ(性的少数者)を公表している選手が160名以上参加し、重量挙げ女子にはトランスジェンダーの選手が初めて出場する大会でした。 半面、大会組織委員会前会長の女性蔑視発言に端を発した騒動は、日本が多様性の第一歩ともいえるジェンダー平等との課題について大きく後れていることを、世界に露呈する残念なことになりました。 ゴルフは、男性中心のやや閉鎖的な環境で発展したために、施設や運営に「強者の論理」に重心を置くケースが多いように感じられます。 ゴルフ界にとって最も重要なことは、東京五輪で示された多様な価値観を受入れる包摂性を持つことだと考えます。具体的には、女性、高齢者、初心者などを受入れる施策が重要で、体力や飛距離に応じたプレー習慣(色別ティーマークの廃止)・男女混合競技・男女差を極力減少させた設備などの展開が必要です。 多様性と包摂性は、SDGsの最も重要なキーワードで、17目標の全てに関係する概念です。 以上、SDGsに掲げられた目標を克服する取組みは、「ゴルフのイメージアップ」となり、経営上の課題解決の糸口になると考えます。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年09月10日
    <h2>Q1「SDGs」とゴルフ場は極めて相性が良い!</h2> 大石さんはこの連載で、3つの大きな視点から「ゴルフ界全体でゴルフ普及活動のビジョンをつくる必要がある」と提案され、前月号では3番目の「SDGsに起因する視点」から、ゴルフは健康増進に最適で、ゴルフ場は緑化施設のため地球温暖化防止にも寄与できると、SDGsとの相性の良さを指摘しました。 今回はもう一歩踏み込んで「SDGsをゴルフ界にどのように取り入れたら良いか」を教えてください。 <strong>A1</strong> 本題に入る前に、最近あった嬉しい話を報告します。 2020年秋、日本ゴルフサミット会議では「NO!プラごみポスター」と「ゴルフ界も廃プラ削減に取り組もう!」と題した趣意書を全国ゴルフ場・練習場などに配布、廃プラ削減を呼びかけました。 この企画を最初に提案した2019年当時は、ゴルフ界のSDGsへの理解が進んでいなかったこともあり、団体間に温度差があったため、実行に1年以上を要してしまいました。 ところが最近「生分解性ティー」を製造する企業と、その地域のゴルフ場団体がタッグを組み、「NO!プラごみポスター」の普及活動を行っていることを知りました。 「SDGs」をキーワードに、同じ地域の複数の業種がコラボし、地方創生を目指していることは、発案者の一人として苦労の甲斐があったと感じています。 地域の複数の業種がコラボして、地産地消による地方創生を目指す事業は、SDGsの11番「住み続けられるまちづくり」に該当します。 国と地方自治体は「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を設け、様々な業種のマッチングをサポートしようとしています。 <h2>「サステナブル・デベロップメント」とは?</h2> 1987年国連の「環境と開発に関する世界委員会」は「サステナブル・デベロップメント」を、「将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現代の世代の欲求を満足させる開発」と定義付けました。 環境と開発は共存できると考え、環境保全を考慮した節度ある開発が重要と発表したのです。 この考え方に基づき、2015年の国連総会で「誰一人取り残さない」との強い決意で採択されたのがSDGsです。 十七のSDGs目標は、世界の全ての人達が将来を思いやる考えで臨まなくては解決できない問題です。 当初はSDGsとCSRを同一と考える方が多かったようですが、CSRは、企業の利潤を活用して社会的課題や環境問題を解決するボランティア活動です。 一方のSDGsは、企業の戦略目標であり、企業活動そのものの目的になり得るものです。 また、WHO(世界保健機関)は2018年に発表した「身体活動に関する世界行動計画2018~2030」で、身体活動とSDGsとの関係を次のように述べています。 「ウォーキング・サイクリング・スポーツ・アクティブなレクリエーション等の身体活動の促進は、健康面や社会経済面に倍数的なベネフィットをもたらし、持続可能な開発目標の達成に寄与する」 多くのゴルファーにとってのゴルフは「スポーツであり、アクティブなレジャー」で、日常生活から心身を開放して心を慰める趣味です。 したがって、ゴルフと緑化機能を持つゴルフ場は、WHOが言うところの「持続可能な開発目標の達成に寄与する」に合致します。 <h2>「サステナブルな社会」の実現に貢献するゴルフ場</h2> では、ゴルフ場経営の合理化と効率化にSDGsをどのように取り入れていけば良いかを考えてみましょう。 まず、冒頭の「ゴルフ界も廃プラ削減に取り組もう!」は、SDGs目標の何に該当するでしょうか? 「使い捨てプラスチック製品」の使用を減少させて、廃プラスチックを削減することは、12番の「つくる責任・つかう責任」に該当します。同時に使い捨てプラスチック製品の使用削減や代替品への転換を支持する「エシカル(倫理的)消費」により、結果として13番「気候変動に具体的な対策を」と14番「海の豊かさを守ろう」、15番「陸の豊かさも守ろう」にも貢献します。 2022年4月からは、プラスチック製品全般について「循環型経済」への転換を促進する「プラスチック資源循環法」も施行されるので、一層の進展が予測されます。 近年、健康で持続的な生活スタイル「ロハス」、リサイクル素材の衣料品等のエコ商品購入、発展途上国の商品を適正な価格で購入する「フェアトレード」等々、地球環境や社会的課題の解決に配慮した物やサービスを消費する「エシカル消費」が拡大しています。 環境問題、フードロス、地域間の貧富、同一労働同一賃金、ジェンダー不平等の解消などに影響を与えています。 ゴルフ場のレストランでも関心が高い「フードロス」削減は、2番の「飢餓をなくそう」と3番の「全ての人に健康と福祉を」、さらに12番の「つくる責任つかう責任」にも関連します。「フードロス」を削減する方法は、「昼食は事前予約制・メニュー数の削減・栄養価やアレルギーの表示・地産地消やヘルシーメニュー」などの工夫を行えば、食品残渣を減少させられるでしょう。 2021年5月に農林水産省は、2050年までに農林水産業のCO2ゼロミッション化を目指した「みどりの食料システム戦略」を発表し、具体的に2050年までに「化学農薬の使用量を50%低減」、「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料を30%低減」するとしています。 この政策に対応するためのコース管理技術の向上は、13番の「気候変動に具体的な対策を」に当たります。また、労働時間の短縮、低料金化と過剰サービスの改善は、「ワークライフバランスの改善」となって8番の「働きがいも、経済成長も」、9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」となって、従業員満足度及び労働生産性の向上になります。 今月号では「経営効率化とSDGs」の視点で書きましたが、次月号では「ゴルフ・ゴルフ場のイメージアップとSDGs」との視点で考えてみようと思っています。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年08月11日
    <h2>Q1「SDGsに起因する視点」で考える「ゴルフ普及」とは?</h2> 大石さんはこの連載で、「ゴルフ界全体でゴルフ普及活動のビジョンをつくる必要がある」と提案されています。その際、3つの視点があるとして、「新型コロナウイルス感染症に起因する視点」と「社会構造の変革に起因する視点」のふたつを過去の連載で取り上げました。そこで今回は、3番目の「SDGsに起因する視点」について、具体的な考え方を教えてください。 <strong>A1</strong> 「SDGs」と言うと、「何をすれば良いのか」との疑問を持つ方も多いと思います。そこで、極力平易に私の考え方をお伝えしますので宜しくお願い申し上げます。 10月号で、ゴルフ界は「ゴルフの普及を通して様々な社会課題の解決に貢献する」ことを、統一した価値観として持つべきと書きました。この業界は、ゴルフ場、練習場、用品業界など多くの業種の協労で成り立っています。よって、大きな意味での問題意識は一本化できますが、具体策になると統一活動が困難になる現実があります。 だからこそ、まずは大きなテーマを設定し、その課題を解決するための具体策は個々の立場で考えることが早道になります。たとえば「社会構造の変革」は、少子高齢社会がテーマとなり、シニアのゴルフリタイアを食い止めるには、体力低下をカバーするクラブやボールの開発、飛距離に応じたプレー環境の整備、体力維持のフィットネスの導入等、個別の「やること」が見えてきます。 そこで今回の視点は「SDGs」です。人類が豊かさを求め過ぎたことによって生じた環境破壊や格差拡大等の問題を解決するために、2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、「誰一人取り残さない」との強い決意のもとで、「誰が考えても異論のない解決を要するテーマ」が「SDGs」です。解決するためのテーマを17項目に分類して、それらを2030年までに解決しようと宣言しました。 <h2>気候変動問題</h2> 17の課題のなかでも注目されるのが「気候変動問題」で、今年8月に「IPCC(国連の気象変動に関する政府間パネル)」が「人間の活動が地球温暖化を引き起こしていることは疑う余地がない」と断定、30年以上の論争に決着を付けました。 英国で10月31日から開催された「COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)」では、現段階で各国が提出している目標では、2030年の温室効果ガス排出量が2010年比で16%増え、今世紀末には気温が2・7度上昇する可能性があるとして、各国の議論が交わされました。COP26では、日本を含む120か国が、既に2050年にカーボンニュートラルを達成すると宣言していましたが、最大排出国である中国、インド、ロシアなどの足並みが揃うかが注目点です。 2016年の「パリ協定」では、世界的な平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1・5度に抑える努力が不可欠とアナウンスされてもいます。 <h2>日本の「SDGs」対応</h2> COP26の期間中、日本は温暖化への取り組みが遅れている国に贈られる不名誉な「化石賞」を受賞しました。受賞理由は、水素やアンモニアを利用した「火力発電のゼロ・エミッション化」の名の基に火力発電所の維持を表明したためです。 とはいえ、日本でも2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比「46%削減」、2050年までに「排出量ゼロ」、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的汚染をゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」等で、具体的な取り組みが始まります。来年4月からは、プラスチック製品全般の環境配慮設計の促進、使用の合理化、排出、回収、リサイクルの仕組み作りを目指す「プラスチック資源循環促進法」が施行され、今まで無償で提供されていた「使い捨てプラスチック12品目」がレジ袋と同様に有料化等になります。 また、農業の生産力向上と持続性の両立を目指す「みどりの食料システム戦略」を策定。2050年までに農林水産業のCO2ゼロミッション化を目指して化学農薬50%低減、化学肥料30%低減、耕地面積に占める有機農業の面積を25%以上とする等とされています。農薬・化学肥料の低減は、ゴルフ場にも大きな影響があり、コース管理技術等のイノベーションが必要となります。 つまり「SDGs」は単なるお題目ではなく、企業活動の根幹に関わる大命題といえるのです。 <h2>変革する資本主義</h2> このような「SDGs」への関心の高まりによって、資本主義の在り方が見直され、近代資本主義の原動力であった倫理観(勤勉性や薄利多売等)に回帰しようとしています。 近年、注目されているドイツ人哲学者マルクス・ガブリエルは、 「コロナパンデミック・環境破壊・貧困は、グローバル経済が過剰な競争で利益を追求し過ぎた結果」 だとして、新たな資本主義の姿を次のように話しています。 「倫理的な価値と経済的な価値を同時に引き上げることは可能であり、緩やかで持続可能な成長こそが利益を生みだす。21世紀は、倫理資本主義の時代」 になる。また、渋沢栄一翁も「論語と算盤」の中で、「論語(道徳)と算盤(経済)は両立する」と指摘しています。以上のように、資本主義の在り方が、今までの株主利益を第一とする「株主資本主義」から、企業活動に関連する全ての人を対象とする「マルチ・ステークホルダー資本主義」に変化しようとしています。典型的な例が近江商人の「三方良し」を取り入れた「サントリー」の「利益三分主義」(事業への再投資・顧客や取引先・社会貢献)ではないでしょうか。 さて、ここまで大きな話をしてきましたが、前述したことを我々ゴルフ業界はどのようにして身近に引き寄せ、具体的な経営戦略として実行できるかがキーポイントです。 実は、ゴルフ界は身体活動による「SDGs」達成への貢献(WHOは身体活動の普及はSDGsの12項目に貢献する)、ゴルフ場の緑化施設としての温暖化防止機能等、「SDGs」とは極めて相性が良いのです。具体策を次回に提案しましょう。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年07月16日
    <h2>Q1 社会構造の変革をゴルフの発展につなげるには?</h2> 大石さんはこの連載で前回、2030年までの「ゴルフ普及活動の中長期ビジョン」をつくるべきと書かれていました。ビジョンの視点は3つあって、前回は「新型コロナに起因する視点」がテーマでしたが、それ以外にどのような視点と方法があるのか? 具体的な施策に踏み込んで教えてください。 <strong>A1</strong>ご質問ありがとうございます。それでは今回は「社会構造の変革に起因する視点」について述べたいと思います。極力わかりやすく、イメージしやすいように努めますので最後までお付き合いください。 私は常々、時代の変化に合わせてゴルフ界の価値観も変わるべきだと考えています。その価値観は「ゴルフ界は、ゴルフの普及を通して様々な社会課題の解決に貢献すること」に尽きます。これをしないと、国民の9割以上を占めるゴルフ未経験者の関心を得られずに、人口減少の流れと共にゴルフ界も衰退するからです。衰退すれば、ゴルフ産業に関わる人々が仕事を失う。それは避けなければいけません。 「社会的課題」は時代によって変わりますが、新型コロナの蔓延によって、従来の価値観では解決しにくい問題が噴出しています。オリパラの開催を巡る議論、帰省の問題、友人との飲食、飲食店の営業は是か非かなど、判断に迷う場面が増えています。このような状況についてドイツ人哲学者のマルクス・ガブリエルは、次のように述べています。 「コロナパンデミックによって倫理的・道徳的な決断を、日々行わなければならなくなった。コロナパンデミック・環境破壊・貧困は、グローバル経済が過剰な競争によって利益を追求し過ぎた結果である」 と倫理的・道徳的な価値観が判断の重要な要素と説き、次のように続けます。 「コロナ禍において倫理的・道徳的な価値観が上昇し、緩やかで持続可能な成長が求められている。倫理的な価値と経済的な価値を同時に引き上げることは可能であり、持続可能性こそが利益を生み出す」 今、話題の渋沢栄一翁も「論語と算盤」のなかで、「論語(道徳)と算盤(経済)は両立する」と言っています。ポストコロナ社会では、強欲資本主義を改めて、寛容や融和の価値観を取り入れ、持続可能な社会を目指す「倫理資本主義」を目指さなければならないということです。 この文脈に「ゴルフ界」を載せてみると、できることが沢山あるにもかかわらず、具体的な行動につながりません。理由は総論賛成・各論反対を生み出す業界体質です。 一口にゴルフ場といっても、設立コンセプト・設立年代・会員構成・経営企業の体質など、千差万別です。さらに視野をゴルフ界全体に広げてみると、プレーヤーの団体、ゴルフ場、練習場、用品、プロゴルフ団体など、活動目的が千差万別で、危機意識の共有が困難です。このような業界体質にあって、私は統一した活動は不可能と考えています。 ただし、やり方はあるのです。まずは全体が目指すべき目標を設定し、その目標を達成するために個々がそれぞれの立場で活動すること。全体の目的は統一しますが、方法と実行は個々に行うという手法です。 <strong>ゴルファーの半分が高齢者</strong> その際、第一の課題は、ゴルフ界全体の「統一目標」をどのように設定するかですが、私は今回のテーマ「社会構造の変革」を土台にして、目標を設定すべきと考えます。社会構造の変革は様々な局面に表れていますが、本稿では「人口構造」を取り上げてみましょう。 2020年の人口を100とした場合、世界人口の平均は2050年に159%、2100年には183%になると推計されています。その反面、主要国の中で今後減少する国はドイツ、イタリア、ロシアと日本で、日本は2050年に85%、2100年には66%と類例を見ない減少予測です。また、2020年の65歳以上者の割合は、世界平均で9%ですが、日本は29%で、欧米各国の平均20%に比べて突出している。そのことが、日本のゴルフ産業に強烈なインパクトを与えます。 現状のゴルフ人口は、70歳以上が24%、60歳代が22%で5割近くをシニアが占めています。過去半世紀、ゴルフの発展を支えた「団塊の世代」は2030年に全て80歳を超えてしまい、急速なゴルフリタイアが始まります。このリタイアを少しでも先に延ばし、その間に若いゴルファーを育てることが急務です。 <strong>高齢ゴルファーの継続策</strong> そこで私は少子高齢化という「社会構造の変革」を土台に、統一目標の一つを「高齢ゴルファーの継続率アップ」に設定します。継続率を高めるには、体力低下の抑制、飛距離低下を抑制するための用具開発や環境整備、男性が「赤ティー」から打つのが恥ずかしいなら、その恥ずかしさを払拭する工夫など、様々な具体策が見えてきます。 クラブメーカーはレクリエーションゴルファー用のルールに縛られない飛距離の出るクラブを開発する。ティーチングプロは身体に優しいスイングや筋力アップのストレッチを開発して指導する。 ゴルフ場は、ストレッチが可能なエリアをクラブハウス内に設ける。 あるいは、スポーツジムとコラボして、体力維持プログラムを提供することも可能です。既に、ゴルフ場とスポーツジム双方の会員が、双方の施設を利用できるコラボ事業もスタートしています。 自身の飛距離によってティーイングエリアを自由に選べるUSGA方式の「Tee It FORWARD」を推奨・普及する。色による男女別ティー表示の払拭は、ジェンダー問題とも通底しており、その改善にもなります。 高齢ゴルファーのリタイア理由の一つが「ゴルフ仲間の欠落」です。ゴルフ場がゴルフ仲間を作る機会を提供すること、近隣のゴルフ練習場と連携してゴルフサークルを作り、仲間を増やすことも可能でしょう。 要するに、「統一目標」は掲げますが、やり方はそれぞれの団体や企業が自由な発想で実行すればいい。その成果を共有することで、向かう先はひとつに収斂され、ゴルフ界に一体感が生まれます。 今こそ、ゴルフは健康長寿社会の実現に向けて、その力を発揮できます。先述した哲学者のマルクス・ガブリエルは、新たな成長エンジンを倫理・道徳的価値に求めていますが、ゴルフ界も同様なことが言えるかもしれません。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年05月15日
    <h2>Q1 ポストコロナ社会でゴルフを普及するには?</h2> この連載の第1回で、大石さんは「ゴルフ界全体でゴルフ普及活動の中長期ビジョンを策定する必要がある」と提案されました。「中長期」とは、具体的にいつ頃までのイメージですか? その根拠も併せて教えてください。 <strong>A1</strong> 今回のコロナパンデミックを見るまでもなく、世の中には不測の事態が沢山あり、事業計画が狂うことは珍しくありません。とはいえ物事を進めるには時間軸を意識したビジョン策定が必要であり、「ゴルフの普及活動」を考える際、私は2つの理由から「中長期ビジョンの策定期間」は2030年までが妥当だと思っています。 第1の理由は、ゴルファーの約5割は60歳以上ですが、この層が2030年には70歳以上になるからです。特に、1960年代後半以降のゴルフブームを牽引した「団塊の世代」は80歳以上となってしまい、加齢によるゴルフリタイアが増加します。ゴルフ界はその前に、具体策を実施していく必要があります。 策定期間を2030年までと考える第2の理由は、持続可能な世界を実現するために世界的な目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」の最終年度が、2030年だからです。CO2の排出・吸収量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルは、2050年が世界的な目標ですが、その流れで日本も2030年に温室効果ガスを2013年度比46%削減すると表明しました。 国内のゴルフ場森林は、年間460万トン以上のCO2を吸収・固定することから、緑化施設としてのゴルフ場も、積極的に貢献すべきと考えます。これによってゴルフ全体のイメージが向上すれば、普及の下地作りが期待できます。 <h2>Q2 ビジョンを立案するための視点とは?</h2> ゴルフ界は2030年までのビジョンを示すべき、との考えはわかりました。問題は、何をどのような視点で示すのか、だと思います。ゴルフ界はこれまで宮里藍、石川遼などのスターが生まれ、その都度、プレー人口が増えると期待されましたが、いずれも一過性のブームに終わりました。今回の「ポストコロナ社会におけるゴルフ」の普及・活性化は何がキーワードになるのか具体的に教えてください。 <strong>A2</strong> 2030年までに我々ゴルフ界が実施すべきことは、かつてのスター待望論とは本質的に違い、ゴルフが果たす社会的役割の観点で考える必要があると思います。私は連載の1回目にゴルフ界が取り組むべき3つの視点を紹介しました。1)「新型コロナウイルス感染症に起因する視点」2)「社会構造の変革に起因する視点」3)「SDGsに起因する視点」です。これらは独立した視点ではなく、相互に連携し合っています。そこで今回は1)の視点で「ゴルフ普及策」の立案を考えてみましょう。 新型コロナによって我々の生活は一変しました。「緊急事態宣言」の発出や「外出自粛」「テレワーク・ズーム会議等による働き方の変化」が起き、同時に人々の価値観が大きく変わりました。今まで安全だと思っていた日常生活が、突如、ウイルスの脅威に晒されて、感染を忌避する行動が価値観の変化を促したのです。その結果、ゴルフプレーに求めるベネフィットも変化しました。長引く在宅勤務は、運動不足による体調不良や孤独感等の精神的ストレスを増長させ、コロナ前に比べてうつ症状を発する事例も増えています。コロナ禍におけるゴルフ場・練習場の来場者増加は、それらを解消する側面から生じたこともあるでしょう。 そこで一度、コロナ禍での価値観を整理してみます。私は「衛生面への関心」「健康であること」「人とのコミュニケーションの必要性」等が改めて見直されたと思いますが、皆さんは如何でしょう。 上記のことに連なって、「日常生活がいかに脆いか」「生きる力や逞しさが必要」「家族や仲間との時間が大切」「競争社会よりは助け合って暮す」「身の丈に合った暮らし」を望む傾向も強まっています。 米国の心理学者アブラハム・マズローは「欲求五段階説」を提唱しています。いわく、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」として、人間の欲求を次の五段階で理論化しました。 第1段階 生理的欲求 第2段階 安全欲求 第3段階 所属と愛の欲求 第4段階 承認欲求 第5段階 自己実現欲求 自己実現に向かう成長過程は「欲求」の上昇に置き換えられるかもしれませんが、コロナ禍の現在はむしろ「第1段階」と「第2段階」で、自分の基本的な生活維持に欠かせない物事への欲求にシフトしている様子が伺えます。理想的な自分を志向するなどではなく、もっと根源的で身近な欲求が再認識され、これによりスポーツによる健康維持への理解も大きく前進したと思われます。同時に、運動やスポーツをいつでも楽しめる「場」の確保が、人々の生活に重要となっています。 その際、スポーツを楽しむ「場」が安全な環境(感染症対策、身体的機能の正しい理解等)であるかが厳しく問われています。ゴルフは三密を回避できるスポーツであり、加えて、多くのゴルフ場がコロナ対策に積極的に取組んでいることが評価された結果、昨年8月以降のゴルフ場はコロナ前を上回る入場者を記録しています。 まとめれば、コロナ禍においては健康や安全への危機意識が生まれ、肉体的・本能的な「生理的欲求」や安全・安心な暮らしを重視する「安全欲求」など、「低次の欲求」が主体となり、自己実現欲求等の「高次な欲求」は後回しになっています。コロナ感染症が収束するまでの2~3年は、フィジカルとマインドの健康を重視する価値観に基づいた行動が多くなると考えられ、マーケティング施策の立案もこの点を考慮する必要があると思います。 問題は、コロナ感染症が収束すると、人々の価値観が「承認欲求」や「自己実現欲求」に戻ると考えられることです。これを想定して、今から人々の欲求の方向性を研究しなければなりません。ゴルフプレーから得られるベネフィット「ライフスキル取得」や「人と人との分断を解消できる」等をマーケットに訴えかけることを、ゴルフ界全体の統一行動につなげることが大切でしょう。 各ゴルフ場は、コロナ禍において得られた個別のマーケット情報を一過性のものとせず、個性豊かな経営に活かすこと。ゴルフ場業界はややもすれば「金太郎飴」的な経営になりがちでした。ポストコロナでは「昼食時間を取らないスループレーを主体とする」「シャワーのみを提供」「非接触型の接客を推進する」等、緊急避難的に実施した施策を個性あふれるものに進化させることが必要です。 ゴルファーの価値観は多様化しています。提供側のゴルフ場もステレオタイプな考えから、柔軟で多様な発想に脱皮する必要があります。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年04月23日
    <strong>Q1 「国家公務員倫理規程」でゴルフはなぜ「禁止行為」?</strong> 菅首相の長男が関係省庁の役人との接待で問題視されましたが、その際「倫理規程」でゴルフが禁止行為だと知りました。つまり国が、ゴルフを良からぬものとして認定しているわけですが、なぜでしょう? <strong>A1</strong>この件は、ゴルフ業界として非常に残念なことです。むろん、業界は黙認しておらず、業界団体が連携して「国家公務員倫理審査会」に対し政治家等を通して「削除」を働きかけていますが、なかなか実現しません。その理由は後述します。 振り返れば1998年の「大蔵省接待汚職事件(金融機関からの過剰な接待)」を契機に、2000年に「国家公務員倫理法」が施行されました。「国家公務員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではない」として、16条からなる「国家公務員倫理規程(以下倫理規程という)」が政令として制定されたわけです。 「倫理規程」では、許認可・補助金交付・立入検査、監査・行政指導等の事務を行う職員が、利害関係者と行ってはいけない9項目の行為を定めており、第7項目に「利害関係者と共に遊技又はゴルフをすること」と明記されます。2020年国家公務員倫理審査会が作成した「国家公務員倫理規程論点整理・事例集(152頁)」には、利害関係者とのゴルフを禁止する趣旨として「特にゴルフに関しては、倫理法・倫理規程が制定される契機となった不祥事において、実際にゴルフを介した事業者等からの接待が多くあったことから定められたものである」とされています。 つまり「特にゴルフ」が不祥事の温床となった「接待に使われた」事実認定があり「共にゴルフをする」ことについても、該当例と非該当例を具体的に示しているのです。 以上のように、152頁に及ぶ教育資料があるにも係わらず、最近、総務省接待事件が起きました。 私が知っている、民間企業の社長から公的金融機関の最高責任者に就任された方は、就任と同時にゴルフ仲間の車には同乗せず、公共交通機関を利用してゴルフ場へ行くようになりました。正に「李下に冠を正さず」を実行されたわけです。 接待された公務員は処罰を受けましたが、接待する側への世論の批判が低調なのには驚くばかりです。6月4日、総務省はNTTなど複数企業から延べ78件の接待を受けていたと発表し、倫理規程に抵触するとして32名を処分。 また、接待側として最も多かったNTTグループも社内処分を発表しましたが、以上のような事案があるたびに、処分者にはゴルフの神髄(ゴルフは自己判断を基本としたスポーツであり、正直さ・責任感・礼儀・判断力・忍耐力・尊敬など社会生活で大切なライフスキルが身に付くスポーツ)を学んでもらいたいと思っています。 さて、なぜ「倫理規程」からゴルフの3文字が削除されないのか。端的に言えば、私はゴルフの普及過程において「ゴルフは富裕層の娯楽という誤った認識」が定着したからだと考えています。 <strong>Q2  倫理規程でゴルフはイメージダウン、その影響は?</strong> ゴルフ産業の活性化にはプレー人口の増加が必要ですが、9割以上の国民はゴルフをしません。遠い、高い、長時間のほかに、倫理規程での「禁止行為認定」も負の印象を与えます。イメージは大きな空気感だけに覆すのは大変で、その空気感が障害になっていると思えますが? <strong>A2</strong>前回、この連載で「ゴルフ場利用税」が撤廃されない問題について書きました。「倫理規程」もこれと同根で、ゴルフが「一部富裕層の娯楽」だと国民から思われているイメージの問題があります。ただ、ご質問の「イメージダウン?」は、国民の一人一人がゴルフをどのように見ているかにもよるでしょう。 ゴルフを「健康維持、精神的ストレスの解消」の手段として楽しむ人は、倫理規程によるイメージ悪化でゴルフをやめよう、とはなりませんが、ゴルフを富裕層の贅沢な遊びと毛嫌いする人は、倫理規程が負のイメージの象徴となります。 そのイメージがゴルフ普及の足枷になるなら、ゴルフ界が団結して「ゴルフやゴルフ産業の持つ社会的効用(健康維持・環境維持等)」を国民に示し、「倫理規程」から「ゴルフ」の3文字が削除されるよう、国民の賛同を得る活動が最も大事だと考えます。地味だし時間はかかりますが、粘り強く進めることです。 現状、「ゴルフ場利用税の撤廃」や「倫理規程から『ゴルフ』を削除する」ための陳情行動は、国民の理解を得られていません。国家公務員倫理審査会が市民1000人の意識を調べたところ「倫理規程の改正は必要ではない」との回答が7割を超えており、そのため業界の陳情が批判の的になる恐れもあります。 ただし、ゴルフの持つ「社会的な効用」は確実にあります。ゴルフ場の森林が大量のCO2を吸収したり、里山保護に役立っている調査結果もありますが、同時に、SDGs(持続可能な開発目標)とゴルフの良好な関係も業界が主張すべき価値になり得ます。流行り言葉のSDGsに便乗するという意図ではなく、もっと本質的な価値観の話です。 2018年、世界保健機関(WHO)は「身体活動に関する世界行動計画2018−2030」を発表しました。その内容は「定期的に運動を行うことは、非感染性疾患(心疾患・脳卒中・糖尿病等)の予防と治療に役立つほか、高血圧、過体重、肥満の予防やメンタルヘルス、生活の質及びウェルビーイングの改善に効果がある」としたもので、ウォーキング・サイクリング・スポーツ・アクティブなレクリエーション等の身体活動を推奨しています。 これらの活動は単に健康面だけではなく、社会・経済面に倍数的なベネフィットをもたらし、同時にSDGsの達成にも寄与します。 SDGsは17の目標を掲げており、WHOは先述の身体活動がSDGsの3番目「すべての人に健康と福祉を」に寄与、さらに他の12項目についても貢献できると明記しているのです。10番目の『人や国の不平等をなくそう』では「身体活動やスポーツは公平性や包含性などの価値を高め、排他的行為や差別のない社会を創造する媒介手段になり得る」とあり、5番目の『ジェンダー平等を実現しよう』では「スポーツを通して意識改革を進め、差別を招く考えを防止、あらゆる形態の男女差別を終わらせる」とあります。 有益な身体活動のひとつであるゴルフを禁止行為に指定する「倫理規程」は、これらを否定することになりかねません。屋外での身体活動を通じて環境変化や自然保護の大切さを体感する機会も減じてしまう。そのような論理でゴルフの「効用」を確立・訴求することができます。 コロナ禍により心身の健康を身体活動で維持する価値観が増大中。その価値が再認識される今だからこそ、ゴルフの「ベネフィット」を国民にアピールする。その結果、倫理規程の改正につながると考えます。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年03月16日
    <strong>Q1 なぜゴルフには「税金」がかかるの? ゴルフには「ゴルフ場利用税」が課せられます。スポーツを楽しむのに課税されるという、俄かには信じられない状況ですが、なぜ、このような税があるのか教えてください。</strong> <strong>A1</strong> ゴルフ場利用税の背景を知るには、戦前まで遡る必要があります。往時、日本のゴルフは、華族や財界人が欧米のプライベート・クラブを範とした会員制ゴルフクラブを立ち上げて、普及しました。クラブには選ばれたメンバーしか入れず、排他的です。これによりゴルフは「特権階級の贅沢な遊び」との認識が根付きました。 特権階級には「社会の為」という意識があり、それが「寄付行為」につながります。実際、文献にはいくつかの事例が残っています。まずは大正期、福岡県のゴルフ場が開場時に県への寄付金を会員から募った記録があり、昭和初期には埼玉県で「未舗装道路を車で通行すると、砂埃により田圃で作業する人達に迷惑を掛けるのは忍びない」として、プレーの時に「道路舗装費」を徴収して寄付したこともありました。 税金にかかわる記述としては、1933年、静岡県が川奈ゴルフコースに対して奢侈税(しゃしぜい=贅沢税)を徴収する動きがあり、オーナーの大倉喜七郎氏が「そのような税を払うくらいならゴルフ場を閉鎖する」と、断固反対の姿勢を見せました。実際に3ヶ月間営業を停止して、県側が翌年に撤回したというエピソードが残されています。 その後、金融恐慌が起きた1927年に映画館や遊園地等の利用に地方税として「観覧税」が新設。1929年世界恐慌、1931年満州事変、1937年日中戦争が勃発して、1938年に戦費調達としてゴルフ場入場料の1割の「入場税」が国税として導入されました。 この「入場税」は1943年に「戦時特別入場税」と名称が変更され、1944年には15割へと大幅な増額となります。以上のように、第二次世界大戦に向かって戦時色が強まる時代背景の中で、一般庶民の娯楽(映画館や遊園地)はもとより、担税力のある富裕層の娯楽と見なされたゴルフへの課税が強化された経緯があるのです。 1945年に終戦を迎え、戦後復興に向かう中でも「入場税」は存続し、1948年に一旦地方税、1950年には再度国税となった後、1954年に一部が地方税に再移管されました。 この再移管された時点で、地方税として「ゴルフ場・パチンコ店等の利用」について「娯楽施設利用税」と名称が変更され、1989年の「消費税」導入まで存続します。「消費税」の導入時には、ゴルフ場利用以外は廃止となりましたが、ゴルフ場の利用についてのみ「ゴルフ場利用税」と名称を変えて存続します。存続の理由は、「ゴルフ場開設は地方自治体の行政サービスと密接な関連がある」「ゴルファーには担税力がある」「財源の乏しい地方自治体にとっての貴重な財源」の3点です。 消費税導入の前年、1988年度のゴルフ場利用による「娯楽施設利用税額」は1009億円と、現在の2倍以上の税収がありました。これを廃止すると地方財政への影響があまりにも大きく、他の娯楽施設利用への課税は消費税と相殺される形で廃止となったものの、ゴルフだけが例外的に存続されたのです。 ゴルフ場利用に対する「娯楽施設利用税」の標準税率は、3~4年の間隔で税率が改正され、最終的には「1100円」となっていましたが、消費税導入時に税負担水準を維持するとの考えから、消費税相当分(3%=300円)を引下げるとして「800円」となりました。その後、バブル経済の崩壊や三度の消費税率改正においても標準税率は見直されず、税収の10分の7がゴルフ場所在地の市町村に入る制度が現在も維持されているのです。 この間ゴルフ界は、「スポーツ課税」は不当であるなどと主張して「完全撤廃」の運動を展開しますが、撤廃一本鎗で代替案がなかったことも存続の一因と考えられます。 <strong>Q2 「ゴルフ場利用税」をなくすための方法論は? ゴルフをカジュアルスボーツにする際、「利用税」はその分プレー料金が上がるため足枷になります。どうすればこの税はなくなるのでしょう。</strong> <strong>A2</strong> 戦前・戦後においてゴルフへの課税は仕方なかったとは思います。しかし、1956年度の経済白書に「もはや戦後ではない」とされ、その後、高度成長期に「1億総中流」という意識の中でゴルフは国民的娯楽になりました。 今日、超高齢社会の中で、スポーツや文化的な活動を通して心身ともに豊かな「人生100年時代」をを迎えようとしています。豊かな国民生活に不可欠なレジャーへの課税が「ゴルフ場利用税」として残ることは納得できません。 ヨーロッパでは、スポーツ施設の利用や観戦を「付加価値税」の軽減税率対象としていますが、日本では同様の検討はされませんでした。その一方、ゴルフ場利用税は消費税との「二重課税」であるとして、その正当性を疑う向きもありますが、実際にはプレー料金に消費税を課し、これにゴルフ場利用税を「併課」することから「二重」には当たらないとの主張もあります。 「ゴルフ場利用税」の撤廃には、国会での税制改正決議が必要ですが、本税により利益を受ける側がある限り、撤廃は困難でしょう。別の例で申し上げれば、1957年に「社団法人制ゴルフ場」の設立が「公益に資する要素が少ない」として認可されなくなりましたが、既存の「社団法人制ゴルフ場」は存続となったことと同様の現象です。 また、「ゴルフ場利用税額」は都道府県の決定基準によって複数の等級区分で決定されています。各自治体で税額は異なりますが、ゴルフ場の規模等により数百円から千二百円まで細かく分類されるものの、合理性に欠けるものが散見されます。 「ゴルフ場利用税」は基本的に廃止すべきものですが、地方税の課税根拠は国税に比較して希薄であり、徴税可能な対象から徴収する傾向があります。そもそも根拠が希薄なため、「ゴルフ場利用税は誤っている」と正論を押し立てることは可能でしょうが、理屈で撤廃を主張するだけではなく、条件闘争を含めた実践的な対応が求められます。 6年ほど前の税制審議会の議事録に「ゴルフは、ジャケットを着て行くのだから、担税力のある人達のする娯楽」との発言が残っています。時代錯誤の呆れた発言ですが、このような認識が根強く残ることも事実。撤廃運動が成就していない理由は「富裕層の娯楽という誤った認識」と「ゴルフ界の勉強不足による運動の方向性の誤り」にあったと考えられます。これを撤廃するためには、地道な活動ですが、ゴルフの様々な「価値」を粘り強く発信し続け、「富裕層の娯楽」という世間のイメージを払拭し、国民の方々から理解を得ることが、重要だと考えています。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年02月10日
    <h2>Q1 コロナパニックの業界</h2> 去年の春、新型コロナが猛威をふるいはじめて世界がパニックになりましたが、ゴルフ場業界にとって2020年はどんな年だったのか? 教えてください。 <strong>A1 回復した二大要因</strong> コロナ感染拡大の2020年は、誰もが初めての判断ばかり迫られる大変な年だったと思います。1月中旬からコロナ報道が目立ちはじめて、2月には小・中・高校の一斉休校、3月にWHOのパンデミック宣言が出され、4月には初めての緊急事態宣言発出など、コロナ禍に巻き込まれました。 この間、ゴルフ業界も対策を急ぎました。5月にコロナの「感染防止ガイドライン」を策定し、8月には「ガイドライン自己適合宣言」を策定するなど、行政や他のゴルフ団体と協力して、スピード重視の対策が取られました。 最大のピンチは、埼玉県が緊急事態措置として、ゴルフ場を「休業要請対象に含む」と発表したことです。NGKにも複数の埼玉県内ゴルフ場事業者から「近隣自治体と相違するため、修正折衝して欲しい」との要請があり、私は県に直談判。3日間懸命に折衝して休業要請対象からゴルフ場が外れたのです。 その後、7月下旬には経済活動との両立を目指す「Go To トラベル」が開始されましたが、これを受けて業界の一部から「復興を目指したイベントを実施しては?」との意見が出たものの、私は「感染は複数年に及ぶから、最低でも年内はイベント等を控え、感染防止に絞るべき」と反対。白熱した議論が思い出されます。 さて、ご質問のゴルフ場利用者の状況ですが、第1回緊急事態宣言が発出された4、5月の2か月間のゴルフ場利用者数は、対前年同期比で35%減(580万人減)。特に関東1都6県は42%減(225万人減)となりました。 この時、我々は先の見えない危機感に怯えましたが、6月以降は感染拡大が一定の範囲内で抑制され、これに比例して市況は徐々に回復しています。8月には前年同月比18%増(126万人増)を記録して、法人需要(大型コンペ)等の低迷により減少が懸念された10~12月の3か月間も100万人程度の増加となっています。本年に入り、1都2府8県に2回目の緊急事態宣言が発出されましたが、各ゴルフ場が感染防止対策を講じ、プレーヤーも行動変容ができたことから大きな混乱もなく、影響は限定的だったと思います。 NGKはゴルフ場利用税の課税状況から入場者数を把握しており、国内で最も確度が高い指標だと自負していますが、2020年度のゴルフ場利用者数は対前年度比5~6%減の8100万人程度(約500万人減)と予測します。 この程度の減少で留まったのは、各ゴルフ場がクラスターを発生させない努力を重ねたこと。加えてゴルフは精神的ストレスや運動不足を解消でき、「3密回避」が可能なスポーツだと理解・評価されたことも大きいでしょう。 同様の理由で、米国でもゴルフ場利用者は急速に回復しましたが、米国ゴルフ財団(NGF)は、 「ゴルフは身体的・精神的なストレスを解消するとして多くの人々から注目を集めているが、感染リスク評価による消去法によってゴルフが選択された側面もある。よって、今後は、ゴルフ界側から新しくてより良い印象を与えるストーリーを発信してアピールしなければならない」 として、コーズマーケティングによる対応を勧めています。 <h2>Q2 ゴルフ界の本質的課題</h2> ゴルフ界には様々な課題が山積していますが、一連のコロナ禍で浮き彫りになった課題は何ですか? 大石さんはゴルフ関連15団体で構成される日本ゴルフサミット会議の代表幹事も務めていますが、業界全体の在り方を含めて課題と解決策を教えてください。 <strong>A2 課題解決は3つの視点</strong> まず、コロナ禍により様々な面で価値観が変化し、個々人の行動も大きく変容したのではないでしょうか。団塊の世代が後期高齢者に移行する超高齢社会で、かつ人口減少という社会構造の変革期でポストコロナ社会を迎えました。ゴルフ界全体で「ゴルフ普及活動の中長期ビジョン」を策定する必要があると考えています。 世界陸上選手権で2個の銅メダルを獲得、スポーツコメンテーターとして活躍中の為末大氏は、現在の予測困難な状況下では、 「見えているものを一旦無視して、そもそもを考え、それから今に当て嵌めてみることが大切」 と、自身のコラムに書いています。そのような視点から、私はゴルフ界における課題を3つの要素で検討してみました。 第1は「新型コロナウイルス感染症に起因すること」、第2は「社会構造の変革に起因すること」、そして第3は「持続可能な社会実現(SDGs)に起因すること」です。それぞれゴルフ界に及ぼすプラスとマイナスを的確に把握し、対応策を実施すること。マイナスと思われる要素でも、発想を転換すればプラス要素に変えられる。そのことを重視します。 第1の視点「新型コロナウイルス感染症に起因すること」では、外出自粛による利用者数の減少は大きなマイナスだったものの、逆にスポーツ実施による身体的・精神的効用、スポーツによる「人と人との分断解消」を多くの方が再認識したことはプラスです。 また、感染防止策の一つとして在宅勤務などによる「働き方」の変化は、孤立感の増大や運動不足等のマイナス側面があるため、今後は個々人のライフスキルを向上させる必要がある。このライフスキル向上もゴルフ実施によって修得できると考えられます。 第2の視点「社会構造の変革に起因すること」では、超高齢社会を迎えて増大する社会保障費を抑制する「健康寿命の延伸」が大きな課題であり、その解決策の一つがスポーツ参加率の向上で、若年者から高齢者まで実施可能なゴルフには潜在的な可能性がある。また、企業経営においても「健康経営」(従業員の健康リテラシーを高めることへの投資は、労働生産性の向上となり企業収益力を増大)が各企業に浸透し始めたことも、ゴルフ普及の好機です。 第3の視点「持続可能な社会実現(SDGs)に起因すること」では、気候変動・海洋汚染・ジェンダー問題・健康的な生活の確保等の面において、技術革新と意識改革に基づく事業展開によりゴルフ界も貢献できます。大きな話題となったジェンダー問題の一つである女性の社会進出は、女性ゴルファーの創造につながる好機であり、また「エシカル(倫理的)消費」の浸透で生じる変化への対応も課題の一つでしょう。 これらを実現するためには、右顧左眄する業界体質を改め、活発な議論を通して課題解決を図る姿勢が必要ではないでしょうか。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2022年01月16日