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    ハッシュタグ「セブンハンドレッド」記事一覧

    <strong>起:日本で開催されるはずだったフットゴルフW杯</strong> 本連載では、セブンハンドレッドクラブ(栃木県)が地域に開かれたゴルフ場の在り方を模索し、ゴルフ以外でどのようなことを仕掛けているかについて紹介してきた。お陰様で地域内外からも「色々とやっているゴルフ場」であることが認知され始めてきた。 3代目として継業した時から想いは変わらず、ゴルフ場の潜在的可能性を開放するためには、ゴルファーは勿論、ノンゴルファーにもゴルフ場の魅力を感じてもらうことが必要だと信じてやってきた。その際たる事例がフットゴルフだ。 本来であれば、2020年に40か国・1000人が集まるフットゴルフワールドカップがセブンハンドレッドで行われ、歴史に残る年になるはずだったが、コロナ禍のため残念ながら中止になった。ただ、僕たちはワールドカップ招致・開催の夢を諦めていない。国際フットゴルフ連盟では、フットゴルフの振興を促進するために2年ごとにワールドカップを開催しており、日本に誘致すべく今でも僕たちは水面下で取り組みを進めている。今回はその様子をお届けしたい。 <strong>承:フロリダで行われたワールドカップ</strong> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/202307kobayashi2.jpg" alt="" width="1500" height="1149" class="aligncenter size-full wp-image-78505" /> 2023年5月27日から6月6日にかけて、フットゴルフワールドカップが米フロリダ州のOrlandoにて行われた。開催コースはなんと、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内にある、Walt Disney World Golf Courses。アメリカを象徴するエンターテインメント・リゾートの最高峰の場所で、39か国・1300人のフットゴルファーが集結した大会となった。 まず驚いたのは、その大きさ。ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートは世界最大の広さのリゾートで、その面積は実に山手線内側の約1・5倍もある約12万2000km2。広大な敷地の中には、複数のラグジュアリーホテル・ビラ、巨大なスーパーからレストランまである最高の環境での開催。加えて、大会中はアプリで見られる生放送の映像も入れ、複数のスポンサーが付くなど2028年ロサンゼルスオリンピックでの種目化を目指した用意をしていた。 主催のアメリカフットゴルフ協会の会長は、このワールドカップを成功させるために、家族でフロリダに移住して用意を重ねていたそうだ。2025年は日本に招致を!とロビー活動のため勇んで乗り込んだものの、見事にその規模・本気度の違いを見せつけられた気分だった。 <strong>転:日本のゴルフ場の可能性は周辺地域の活用にある</strong> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/09/202307kobayashi3.jpg" alt="" width="525" height="860" class="aligncenter size-full wp-image-78507" /> ワールドカップを通じてフットゴルフは勿論、ゴルフというスポーツが如何に身近であるか、日米の差を感じられたのは収穫だった。 Walt Disney World Golf CoursesはPGAツアーが行われるようなコースでもありながら、常設でフットゴルフが楽しめ、リゾートのパッケージとしても販売されていた。Magic Kingdom Theme Park(日本のいわゆる「ディズニーランド」)の真横にゴルフコースがあり、家族でレジャーに来て、ゴルフ組とテーマパーク組に分かれて楽しめる設計だ。 ゴルフが主目的でなく、レジャーや地域に遊びに来た人が、気軽にゴルフを楽しめる。これこそ、日本に必要なゴルフの文化だと確信した。アメリカ式のテーマパークは作れなくても、日本ならではの地域の魅力を磨き込み、活性化を通じて観光地に押上げ、そこにゴルフ場が存在するという姿。そんなセブンハンドレッドの未来を創りたいと、改めて強く心に決めた。 <strong>結:今後のセブンハンドレッドとフットゴルフ</strong> 規模の差を見せつけられ、諦めるなんて生半可な気持ちで取り組んでいる僕たちではない。2023年11月には日本で3回目となる、大規模な国際フットゴルフ大会の開催をセブンハンドレッドでは控えており、世界各国から約150名のフットゴルファーが集まる見込みだ。 既にイギリスやオランダ、マレーシア、アルゼンチン等からの問い合わせがあり、フロリダでもしっかりと彼らとコミュニケーションを取りながら「日本に行きたい!」という声をしっかり獲得できた。世界随一のリゾートでなくても、地域資源をフル活用しながら、独自のワールドカップ開催を目指して。 2025年に日本でフットゴルフワールドカップの招致が出来るよう、世界各国の選手と密にコミュニケーションを取りながら「日本への期待」を集めるべく、これからも頑張っていきたい。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年09月03日
    <h2>栃木における農業の可能性</h2> ぼくは栃木県さくら市にあるセブンハンドレッドクラブの3代目社長だ。幼い頃、セブンハンドレッドでプレーをした後、地元の水田にある農家の直売所に行くことが大好きだった。今思い返せば、その直売所での買い物もゴルフ体験の一つだったように感じる。そして、そこでは忘れられない美味しい「お米」との出会いがあった。自画自賛をするようだが、我がさくら市のお米は、日本随一の美味しさだと思っている。 その美味しさはお米だけに限らない。東京に生まれ育ったぼくにとって、栃木の農産物は宝物のように感じられる美味しさを持っている。高品質なのに、低単価。栃木の県民性も相まって、どこか保守的・控え目で、売り出していこうという気持ちよりも、「良いものを作る」という気概が感じられる。 この魅力的な栃木の農産物をゴルフ場レストランやグループ会社のお丸山ホテルで地産地消にて紹介するだけでなく、もっと県外に広めていきたい!とずっと思っていた。 <h2>農産物直売所の指定管理を受託</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/06/image3.jpg" alt="" width="788" height="328" class="aligncenter size-full wp-image-77635" /> セブンハンドレッドで行う新たなトライとして、さくら市が運営する農産物直売所「菜っ葉館」の指定管理者になるべく手を挙げた。 菜っ葉館(さくら市氏家地区農産物直売所)は、女性起業等の新たなアグリビジネスの展開による農業・農村の振興を目的として、組合が主体となり2007年にオープンした施設である。毎朝農家が、自ら育てた野菜を持ってきて棚に並べ、それを消費者が買っていくという直売所らしい光景が毎日見られる。 建物面積は約300m2弱と大きくはないが、栃木を南北に貫く国道4号に面した場所にあり、上手く活用できればさくら市の農産物PR拠点となり得る場所である。その一方、採算が取れていない・持続的な運営のためには民間の力を必要とするなどの事情で、市が指定管理者を募集したという経緯である。 自治体における指定管理者制度とは、公共施設や公共事業などを行政が行うのではなく、民間企業や団体などの「指定管理者」に運営を委託する制度である。㈱セブンハンドレッドには公の施設を運営した経験ははないが、プレゼンに加え今までの地域連携の様子や経営力を評価され、当該施設の指定管理を受託することが出来た。いよいよ、2023年4月1日からセブンハンドレッドとしての経営・運営が始まる。 <h2>菜っ葉館と今後の構想について</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/06/image4.jpg" alt="" width="570" height="350" class="aligncenter size-full wp-image-77634" /> 宇都宮や県内外からも〝ちょうどいい〟距離のさくら市にある菜っ葉館を、農業・観光振興の両軸から重要拠点と位置づけ、さくら市の農業を代表する場所にしていきたい。 経営をするにあたっては現在の従業員や農業組合・農家との関係性維持を最重要視しながら、現場主導のボトムアップ型の改善を実現する。対話を通じて重要度と緊急度の高い改善を行いながら、事業を改善するにあたっての真因分析を行うことで、段階的に良くなる経営(年輪経営)が可能だと信じている。 また、地域の農産物直売所としての存在価値を向上させるだけではなく、組合員農家とのネットワークを活かした六次産品の創出も行うことで、さくら市の農業を盛り上げるためのキッカケづくりが出来る場所運営を目指していきたい。 グループ会社(お丸山ホテル・住地ゴルフ)との連携を通じて、ゴルフ場やホテルでの食材を仕入れて地産地消を明確に打ち出すことや、農産物直売の出張販売などを行っていく。当然、首都圏を中心とした方々へのEC等での販路開拓や、ロイヤルカスタマーへの贈答品としての新たな付加価値も創り上げていく。 明るい展望は見えているものの、市に出した事業計画でも初年度は赤字の経営計画。併せて社内には公的施設の運営経験がある人物はいないので、大きなトライである。 原風景と地域の自然を守るために菜っ葉館の運営に加え、昨年度より始めた我々の新規事業である「いちご栽培・販売」も含めると、我々はゴルフ場運営会社なのか?と疑問すら湧いてくる弊社ではある。 しかしながら、弊社のビジョンは「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」であり、「あらゆる人々・環境に喜びを提供し、健康で持続可能な社会づくりを目指し、地域の活力を共に生み出す場所として、進化と変革を続けるゴルフ場」である。 美しい原風景である水田・畑が、太陽光パネルになってしまう様子を地域住民は残念がりながらも「仕方がない」という気持ちで諦めてしまっている。農業を維持・推進することは、単にビジネスではなく、景色を守り、地域を守ること。すなわち「あらゆる人々・環境に喜びを提供し」「地域の活力」を生み出すことだと思っている。 全国でも珍しいであろう、ゴルフ場経営会社による地元自治体の農産物直売所の指定管理・運営の取組みを、是非あたたかく見守り応援していただきたい。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年06月25日
    <h2>ゴルフ場を活用してもらい新たな種を生む</h2> ぼくが経営するセブンハンドレッドクラブ(栃木県)のミッションは「世界一なんでもできるゴルフ場」だ。この標語はゴルフ場の常識にとらわれず、社員が様々なトライをすると同時に、「外部」のアイデアや情熱を当社に持ち込んでもらう狙いがある。 外部というのは、地域の商店街や学校、行政や社会福祉法人などで、街の関係者の困りごとを「セブンハンドレッドだったら解決できるのでは?」と持ち込んでもらい、一緒に取り組み、イノベーションの種を生んでいくことに尽きる。 その結果、地域に新しいコトが生まれ、街が存続し、「この地域にゴルフ場があってよかったね」と言われる存在になること。実は、すでに具体的な取り組みが生まれている。今回はそれを紹介しよう。 <h2>民業圧迫? さくら市が無料のフットゴルフ場を開設</h2> セブンハンドレッドは2019年9月、コース内にフットゴルフの環境を整えた。フットゴルフはサッカーボールを蹴って、直径21インチ(約53センチ)の穴に入れるもので、詳細は以前、この連載にも書いた。その取り組みが地元さくら市の職員にも飛び火して、2020年7月に官民連携の「フットゴルフタウン推進委員会」を設立。ぼくは副会長に推挙された。 以来、子どもから大人まで楽しめる市主催のフットゴルフ大会が通年で開催され、セブンハンドレッドのトライから始まった取り組みが、皆の取り組みとして広がっている。 撒いた種は啓蒙普及のイベントにとどまらず、思わぬ方向に枝葉を伸ばした。なんと、さくら市フットゴルフ協会は、市営公園の「ゆうゆうパーク」に市運営のフットゴルフ場をオープンしたのだ。しかも、プレー料金はタダである。 実は、この公園はセブンハンドレッドから車で15分圏内のところにある。しかも当コースのフットゴルフ場は大人1人2750円(9Hプランの場合)〜と有料だから、同一商圏にライバルが登場したことになる。それを自治体が主導するとなれば民業圧迫であり、なおややこしいことに、圧迫している自治体側の副会長をほかならぬ僕が務めているのだ(笑)。 自社の収支だけを考えれば事前に阻止すべきことである。だけど僕らの存在意義からすれば、この出来事こそ大事だと思っている。僕らの「やりたい!」意志が市民の「やりたい!」という種に変わり、それが結実した事例なのだから。 <h2>宇都宮大学の授業でゴルフ場の存在意義を考える</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/06/image5.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-77581" /> さくら市との官民連携を通じ、別の活動もはじまった。市役所からの紹介で宇都宮大学との関係ができ、2021年度より宇都宮大学・地域デザイン科学部のメイン授業「地域プロジェクト演習」に、地域パートナーとして参加している。 この演習は、地域デザイン科学部に所属する全3年生が混成で5~7人のグループに分かれ、地域が抱える課題を調査・整理。我々が1年間伴走しながら、解決策を提案するPBL(問題解決型)授業である。ほかの地域パートナーは栃木県内の行政やNPO・社団法人が選ばれているが、弊社は唯一、市の推薦で株式会社の地域パートナーとして参加している。我々の公益・社会性が認められたもので、心底嬉しい。 演習のお題は「地域とゴルフ場・ホテルの関係性デザイン~セブンハンドレッドクラブとお丸山ホテルが地域集会場となるためには~」というもので、お丸山ホテルは弊社のグループ企業である。 学生は、ゴルフ場ができる地域貢献の価値を真剣に考えてくれ、その結果、セブンハンドレッドで開催する市主催さくら市民体育祭で「e-sportsイベント」を実施。子ども達を市民体育祭・ゴルフ場に呼び込む企画を提案・実施してくれた。 子どもにゴルフ場に来てもらうために、という観点から生まれた発想だが、ゴルフ場なのに屋外でなく、屋内でe-sportsゲームを行う逆転の発想。ぼく自身、考えたこともなかった。近隣の市の体育祭においても「e-sports」の事例はなく、栃木初の試みではないだろうか。この成果に市民も強い興味を持ち、来年度以降も市の体育祭で「e-sports」開催の検討が始まっている。 <h2>セブンハンドレッドの存在意義</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/06/image8.jpg" alt="" width="788" height="363" class="aligncenter size-full wp-image-77582" /> 我々だけでは想像できなかった取り組みが、少しずつセブンハンドレッドで芽生えている。その根底にあるのは他人事ではなく、自分事として「やりたい!」という意志の種を当コースに植え付け、社会に生み落としていく。「地域にゴルフ場があって良かった」と思ってもらえる未来を創るためだ。 これからもセブンハンドレッドは「僕たちのトライ」だけではなく、「皆のトライ」を応援しながら、一緒に実現するための取り組みを進めていきたい。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年06月18日
    ぼくが経営しているセブンハンドレッドクラブ(栃木県)は「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」をビジョンとして掲げている。そのため過去の連載では、ゴルフ場としてのクラブライフに触れることは少なかった。当コースには個人会員がおらず、法人無記名会員だけで運営してきたため理事会などの組織がない。だからこそ、他の会員制クラブに比べて自由な企画が発想でき、ゴルフ場を地域に貸し出す等の意思決定も即座にできる強みがある。 そのため、個人会員の影響力が強い他のゴルフ場経営層から、 「セブンハンドレッドだからいろいろできるんだよね」 と言われることが多く、そのたびに複雑な思いを禁じえなかった。なぜなら、ゴルフ場は資金面で運営を支える「会員」のための倶楽部である。その会員がいないゴルフ場でいろいろな挑戦をしたところで、「参考事例」としての評価しか得られず、社会的な意義もない。 そこで一念発起! 会員制クラブの「存在意義」を変えるため、個人会員の新規募集を決断した。 <h2>会員と共創するために</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/06/image2.jpg" alt="" width="425" height="598" class="aligncenter size-full wp-image-77483" /> 昨今、起業家の想いや商品・活動に共感した人から資金を募るクラウドファンディングが普及している。ぼくは、この「想い」を重視する社会的気運の高まりは確実に広まると信じている。そこで、我々が掲げる「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」という想いを理解いただき、新しいゴルフ場創りを一緒に行うパートナーとして会員を集めたいと考えた。ポスターのメインビジュアルに「我々はこんなゴルフ場にしていきたいんだ!」という将来のイメージを込めて「公園のようなゴルフ場の様子」をデザインしてみた。 募集開始は2022年10月1日、募集人数は30口。入会金の76万円には税金と預託金の10万円も含まれている。年会費は税込みで5万2800円。すでに約10名の新会員が誕生しており、 「ゴルフ場を地域コミュニティに開放するというビジョンにワクワクしています」 という、嬉しい言葉も頂いた。 これからは「数の時代」ではなく「質の時代」だとぼくは思う。一人ひとりとの関係性を大切にしながらビジョンに向けた共創の実現を、新会員と一緒に実現したい。 <h2>ゴルフ場のDX化に向けて</h2> 新会員の誕生に関わり、もうひとつ用意した仕掛けがメンバー関連業務のDX化だ。自分は会員権売買を主業務とする住地ゴルフの代表も務めているが、この仕事を通じ、メンバーの管理業務が紙でやり取りしている部分が多いことを知った。 お客様は紙に記入したり、書類をなくしたり、郵送したりと煩わしい部分が沢山あり、一方のゴルフ場側もお客様から届いた書類を入力したり、書類を集めたりと双方で多くの作業が発生している。自分がセブンハンドレッドに入った2016年当時に驚いたのは、 「こんなに紙を使うのか」 ということであり、あの衝撃は今でも忘れられない。SDGsの観点からも、貴重な資源である紙を極力使わない入会フローは、今後のゴルフ場業界において必須だと考える。 そこで、お客様の要望に応じて、情報共有や会員契約の書類についても全てオンラインで完結する入会フローを作成した。入会前の面接もオンライン会議で行えば、入会希望者がどこにいても面接できる。 現在、入会希望者の約3割が完全オンラインでの入会を希望され、特に東京都内など遠距離の在住者からは評判がよい。もちろん、クラブの雰囲気やコース状況は実際に来場して体感頂く必要があるが、入会希望者の大半はすでに細かい様子をご存知のはずなので、顧客視点に立つ上でもオンラインの会員入会フローは求められるのではないかと思う。 これまで法人無記名会員で運営してきたセブンハンドレッドクラブにおいて、「個人記名会員」を募集することは大きな転換点になってくる。ゴルファーにもっと愛されるべく、競技会や倶楽部ライフの充実を図りながら、ノンゴルファーの皆さんにも開かれたゴルフ場創りを爆速で進めていきたい。新年も、よろしくお願いいたします! <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年06月11日
    去年の8月1日、コロナに罹患してしまった。重度の症状で、この間「生きることの意味」を朦朧とした意識の中で考え続けた。そんなわけで本連載はほぼ1年休載したが、今は元気に日常生活に復帰している。本号から再開する連載では、病床から得た教訓を含めて皆さんにゴルフ場の挑戦を隔月で伝えたい。よろしくお願い申し上げます。 <h2>起 ゴルフ場を核とした地域づくりを目指して</h2> 「地域にゴルフ場が存在する意味を創る」。栃木県のセブンハンドレッドクラブを3代目として事業承継したときに思った想いは今も変わらず、挑戦を続ける原動力になっている。経営ビジョンを「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」と改め、ノンゴルファーにとって馴染みのないゴルフ場を、どうやって身近に感じてもらえるか? という問いと日々向き合い続けている。 1つの解決策として、2021年9月に導入したフットゴルフがある。近隣市町村やスポーツ好きの間で少しずつ浸透していき、毎月300名程の来場がある。ゴルフの来場人数と比較すれば微々たるものだが、「ゴルフ場に初めて入った!」という新経験を、毎週100名に提供できていると思うと、本当に喜ばしい。実は、2020年の「フットゴルフワールドカップ日本大会」は当セブンハンドレッドが会場だったが、コロナで流れてしまった。しかし、その関りから生まれた地元自治体・さくら市との連携は当コースを大きく成長させてくれた。 <h2>承 お丸山ホテルを通した地域活性</h2> さくら市商工観光課からの紹介で、コロナ禍で廃業した地元・喜連川のお丸山公園内にあるホテルを購入し、「お丸山ホテル」とリブランド。このチャレンジは、お客様に好評を頂くホテルとなってきた。日本三大美肌の湯・喜連川温泉に、地元食材を使った料理、そしてスタッフの心がこもったサービスがお客様から高い満足度を得ている。オープン当初はコロナ禍もあり、非常に苦しい闘いが続いた。 2022年2月の第6波では、経営的に最も厳しく、全社員を集めて会社の銀行残高を説明したくらいだ。しかしながら、スタッフの獅子奮迅の努力もあり、今ではホテルを目指して来るお客様も増えてきた。 お丸山ホテルのビジョンは「さいこうを目指す」というもので、「最高」のホテルサービスに加え、地域を「再興」するためにイベントを「催行」し、「さぁ、行こう!」と言ってもらえるようなホテルを目指している。このビジョン策定中に、光栄なことにさくら市主催の「お丸山会議」のワーキンググループの司会役を仰せつかることが出来た。 日夜、商工や観光振興関係に携わる市民の方々と、どのような喜連川・お丸山公園を目指していくかを議論している。今年度のワーキンググループ終了時には、本誌にもぜひ結果をお知らせしたい。 <h2>転 コロナで死の淵を見たことで覚悟が出来た</h2> フットゴルフも始め、コロナ禍も乗り切れそうと思っていた矢先、2021年8月1日にコロナに感染した。 容体がとても悪く、朦朧とした中で生まれたのが「本質的な問いと向き合い、人の底力を信じ共に育ち学び合い、新たな価値作りを通じて、真の豊かさと美しさを創る」覚悟だった。正直、コロナで死んでもおかしくなかったため、生きているだけで幸せだが、生かされたからには、その生を全うしたいと強く思うようになった。 企業の本質は組織であり、人である。事業承継してゴルフ業界に関わるようになり感じた業界の課題は、「人財育成」に対する向き合い方だと感じていた。 オーナーのためのゴルフ場ではなく、スタッフ・お客様・地域のためのゴルフ場となるべく、これからの時代は「指示型組織」ではなく「自律分散型組織だ!」と言い続け、社内の組織開発を率先して行うことで個々人の主体性を磨いてきた。 「人の底力を信じ共に育ち学び合い」を自分の使命に掲げたからには、今まで以上にやり切ろう!と、対話の質を上げてきた。その結果生まれたのが、想像もしていなかった「農業」事業だった。 <h2>結 いちごを通じて地域おこしを目指す</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/05/20221001_090844.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-77318" /> ゴルフ場の相ケ瀬圭司支配人と対話をしている時「僕、実は農業をやりたいんです」との申し出があった。「やりたいことが出来る組織になる」ことを目指しているため、自分は即答で「やりましょう」と答えた。ついにゴルフ場から責任者がいなくなってしまった(笑)。なんて喜ばしいことなんだろうと思えた瞬間だった。 栃木と言えば「いちご」。このイメージは定着しているが、本気で急拡大を狙っている企業は少ない。僕らはこのギャップに挑戦すべく、今年度からいちご畑1・5町歩(1万5000m2)の栽培を開始した。 <h2>勿論、課題だらけ!</h2> いちごの栽培方法を勉強するところから始め、圧倒的な人手不足の中、夏の異常気象でいちごの苗が全滅し、ちゃんと育ち出荷できるのかという不安を常に抱えているが、立ち止まることなく、出荷が出来る状態になる今年の冬まで猛烈なスピードで突き進んでいきたいと思う。 そんな中、更なる飛躍の機会を頂いた。セブンハンドレッドを通じた様々な取り組みや地域連携、お丸山ホテルの経営と商工観光に対する意気込み等が評価されたのか、光栄なことに、今年度より栃木県のとちぎ観光地づくり委員会(DMO)の委員の役目を仰せつかった。栃木のみならず日本を代表する商工観光に携わる方々と意見交換をすることで、「街づくり」や「地域振興」に対する視座が高まり、自社の特異性についても理解が深まっている。 委員会の中で気づいたことは、ゴルフ場経営は、誰よりも自然や土地と向き合う仕事であること。この自社アイデンティティを新しい強みと捉えなおし、これから一層「農業・いちご」の栽培に力を入れていく。目指すはゴルフ場と融合した観光農園と宿泊(農泊)体験の提供で、栃木を代表する企業になること。 セブンハンドレッドから始まる地域づくり。勿論、ゴルファー向けの取り組みも強化すべく、今年の秋には初めての会員募集を用意している。これからもゴルファー向けの取組はもちろん、ノンゴルファー向けの取組みでも日本のゴルフ場業界をリードできる存在になるべく突き進んでいきたい。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年05月21日
    セブンハンドレッドクラブ(栃木県さくら市)は「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」をビジョンに掲げ、ゴルフ場の魅力を高めるための挑戦や地域連携を行っている。地域が一体となる起爆剤として、フットゴルフのワールドカップ招致に成功したが、コロナで今年10月の開催が中止になったのは残念だ。 その一方で、別のチャレンジも行ってきた。さくら市から依頼されたホテル経営への挑戦である。長らく地元で愛されてきた築35年、19部屋の温泉ホテルが、コロナ禍により閉館となった。場所は当ゴルフ場から近いお丸山公園(栃木県さくら市喜連川)に隣接しており、その再建を期待されてのことだった。 打診を受けたのが嬉しかった。意気にも感じた。自分は東京の人間だが、ゴルフ場は地元に根差さないと生き残れない。その地元からの依頼を無碍には断れない。 買収は昨年12月で、リニューアルオープンは今年の4月。「お丸山ホテル」と名称を変えて、日本三大美肌の湯・喜連川温泉を再興すべく立ち上がった。ホテル業は未経験だから様々な困難に直面している。今回はその一部始終をお届けしたい。 僕は、町の振興・活性化には滞在できる場所が不可欠と考えている。人が集まると賑わいが生まれ、その賑わいの中核になるホテル。そんなことをイメージしつつ、実現方法がわからないから知人の建築家・デザイナーに相談した。それがホテル運営のスタートだった。 「スポーツとヘルスケア」を軸にしながら、すべてを一新するのではなく、古くても良いものはきちんと残す。その際、経済産業省・特許庁が近年推進している「デザイン経営」という、デザインの力をブランド構築やイノベーション創出に活かす経営手法を取り入れた。 デザインを用いて商品開発するときの失敗パターンとして、会社の一部のメンバーとデザイナーが勝手に決めてしまい、気づいたら変わっていたというのがある。これでは社内に一体感は生まれない。そこで今回は社員とデザイナーを含め、対話形式で積み上げる方式をとった。 ムードボード(各々が自社をイメージする写真を持ち寄り会話する手法)を用いた対話や、改修前のホテルを見学し、改善点を写真に撮って共有するワークショップ、未来はどんな会社になっているかについて絵本を作ってもらうなどを通じ、徐々に自分たちが創り上げていく意識が醸成されたと思う。その結果、僕らが大切にしている様々なキーワードや姿が浮かび上がった。「丸」もそのひとつである。 上記の活動で印象的だったのは、「丸形」に近い写真を持参する社員が何名もいたことだ。円陣や観覧車などそれぞれ違うが、丸のイメージをもつ社員が多かった。その気持ちを大切にして、名称を「お丸山ホテル」に決め、ロゴも丸形を基調として、お丸山の場所一体に再び賑わいを取り戻そう、という目標をデザインにも表している。 <h2>開業以来の実績、世間の評価 反省と失敗</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/04/kobayashi2.jpg" alt="" width="788" height="259" class="aligncenter size-full wp-image-76990" /> エントランスや壁がどんより暗かった建物内は、照明等で照らし、サイン(表示物)もアートワークで空間全体を明るくした。温泉はホテルのウリなので、手を加えて露天風呂とサウナを新設した。地域住民にとっては昔から思い入れのあるホテルだから、過去のものをなくすと「自分たちの場所」ではなくなってしまう。そこで大事なのが新旧の絶妙なバランスだが、これをデザインできたと思っている。多くの人が「キレイになった」「最高だ」と褒めてくれ、その一言一言が何よりも嬉しかった。昨年12月のスタートからわずか4か月でリニューアルオープンにたどり着き、一定の成果を出しつつあることに誇らしさも感じている。 その一方で、ホテル業は素人同然なため、悩まない日はないほど現場では様々なことが起きる。まず、コロナ禍で滞在者・宿泊者をどう伸ばすかだが、開業から2か月間で宿泊者を含む滞在者は累計約6000名。これは当初想定の5割ほどで、コロナ禍の中のスタートとしては上出来だと思っている。 当社の強みであるセブンハンドレッドとの連携については、宿泊ゴルフパックなどの企画をPRしているが、これによる来場者は全体の3割ほど。 また、アッと驚き、感動してもらえる食事をどのように提供するかについては、地域特産品の「ヤシオマス」を使ったメニュー等の開発をしているが、これに伴う収支の確保など、難題は枚挙にいとまがない。 従業員は24名だが、その3割がゴルフ場からの異動、もしくは兼務する部分もある。いわゆる素人集団であり、日々のオペレーションをどうやって確立するかさえ難しい。19部屋の最大収容人数は108名だが、宿泊客を迎えながら、日帰り温泉やレストラン利用客も受け入れ、これに会食やイベント、お客様から突発的な申し出があると、パンク寸前になってしまう。僕も現場に出て布団上げやレストランホールの仕事などをこなしているが、本稿を書きながら頭が痛くなるほど課題が多い(苦笑)。 開業前には、事前の訓練にプレオープンと銘打ち5日間のテストオープンをおこなったが、結果は散々なものだった。オペレーションやサービスの根幹等の課題を話し合ってきた。オープンして2か月が経ち、ようやく業務に慣れてきた空気が現場にでき始めた。今後はさらに良いサービスができる確信がある。奮闘中のスタッフには改めて感謝したい。 ゴルフ場がホテルを経営すると、「ゴルファー向けだね」と言われてしまう。ゴルフ場に付帯する施設としてのホテル、という見られ方だ。もちろん、ゴルファーも大切な顧客だが、それに限定するつもりはサラサラない。お丸山の「再興」も兼ねており、地域の物を使い、ラグジュアリーでも質素でもない、誰もが馴染める大きな「器」としてのホテルを目指すつもりだ。 セブンハンドレッドもお丸山ホテルも「誰一人取り残さない」というSDGsの精神を大事にしながら、持続可能な発展ができる場所として存在意義を発揮したい。 ■出典 デザイン経営 出典:<a href="https://loftwork.com/jp/news/2020/03/05_design-driven-management_report" rel="noopener noreferrer" target="_blank">https://loftwork.com/jp/news/2020/03/05_design-driven-management_report</a> <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年04月30日
    松下幸之助は「企業は社会の公器」という言葉を残した。過去2回の連載では新たなゴルフ場の価値を「公益」の視点で考えて、地域社会との共生やフットゴルフの導入など、実際の活動を中心に紹介してきた。3回目の今回は、なぜ自分がそのような考えに至ったのかをいくつかの視点でお伝えしたい。 Sustainable Development Goals(SDGs=持続可能な開発目標)の達成が近年、叫ばれている。だが、本来は企業の存在目的や、活動そのものが、次代を担うに相応しいものでなければならない。私利私欲のみを追求する企業は、社会から退場を迫られる。松下幸之助の言葉は、SDGsと通底するところが多い。そして、ゴルフ業界もその可能性に溢れている。ぼくが創業家の三代目として栃木県のゴルフ場を継ぐ決心をしたのも、新たなゴルフ場の在り方を提言できると確信したからだ。 小学生から始めたラグビー一色の人生の転機は、東日本大震災であった。高校3年生の当時、テレビで目の当たりにした光景に居ても立っても居られず、一人被災地にボランティアに向かった。そこで痛感したのは、自分の無力さだった。。一人が足掻いても出来ることは限られている。有事の時はラグビーのようにチームで、社会全体で立ち向かわなければいけないということを実感した。 大学に進学してからは、アメリカ・ワシントンD.C.に留学して「国際環境と開発」を履修した。2015年に国連がSDGsを発表する前だったこともあり、大学周囲の様々な国際機関や企業を訪れ、ヒアリングを通じ「自分なりのSDGsを考える」ことを期末課題とした。当時を振り返ると、全く本質を理解できていなかったと感じるが、社会の目指す先が変わり始めていることを、一流専門家から聞けたことは自分の経営理念に大きく影響している。 SDGsとは、国連で採択された「未来の形」だ。健康と福祉、産業と技術革新、海の豊かさを守るなど経済・社会・環境にまたがる17の目標と169のターゲットがあり、2030年までの実現を目指している(※1)。4つのP(人間People、地球Planet、豊かさProsperity、平和Peace)を目標として、これを5番目のP(国際社会のパートナーシップPartnership)で実現することが定められ、中でも重要な理念として「誰一人取り残されない(No one will be left behind)」を掲げていることが特徴だ。儲けることを第一義に置き、得た利益で社会的責任を果たすというCSRの考えとは、この理念において大きく異なっている。 持続可能な社会を目指す上で、誰かが蔑ろにされたり、負債を未来に先送りしたり、ましてや誰かの犠牲の上に成り立つ社会ではなく、在り方から根本的に変えるもの。自分はSDGsをそのようなメッセージだと受け止めている。 ゴルフ場には広大な敷地があり、あらゆる可能性がある。これを有効活用して自分の流儀で「誰一人取り残されない」社会を作り出そうと考えている。 とはいえ、一朝一夕でSDGsは達成できない。まずは全社一丸となって進むためのビジョンが必要となり、スタッフ全員と1on1で話をすることから改革を始めた。 社内で会社のビジョンを考えるためのワークショップを開いていくと、ゴルフのお客様へ最高の経験を届けることは勿論だが、ゴルフをしない方にもコースを見てもらいたい! という言葉や、「笑顔で働きたい」という願いを多く聞くことができた。 話は変わるが、ゴルフ産業を含むサービス業ではお客様を第一に掲げ、自らを犠牲にしながら働く姿を見ることもあるが、ぼくはこれに反対だ。サービスの由来はそもそもラテン語の形容詞セルブス(servus=奴隷の)や、それが名詞化したスレイブ(slave=奴隷)、サーバント(servant=召し使い)で、言葉の背景にはローマ時代に築かれた「上下関係、主従関係」があると言われる(※2)。 この言葉からも、サービスは時として一方的な奉仕の意味合いが含まれていると感じるのだ。しかし「誰一人取り残されない」社会を目指すためには奉仕する・される関係ではない関係を作る必要があると考えた。すると当社の企業理念は、働く人、ゴルフをしない人も含めた「みんな」が笑顔になれる環境づくりを目指す会社、となる。こういった背景から「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」というセブンハンドレッドのビジョンが生まれるに至った。 <h2>人と人の「つながり」が新たな経営資本になる</h2> ここまでの話だと、慈善事業に注力するだけの印象かもしれないが、そうではない。ぼくは、SDGsを体現することが企業活動を爆発的に前進させる、イノベーション創出の最大の機会だと考えている。イノベーションは、シュンペーターが「経済発展の理論」の中で用いた「新結合」と訳されることが多いが、その原義は「生産をするということは、われわれの利用しうる色々な物や力を結合することである。生産物および生産方法の変更とは、これらの物や力の結合をすること(※3)」である。つまり既存の知と既存の知の結合(かけ合わせ)から、企業が進化を遂げるために必要な源泉が生まれる、ということだ。 ゴルフ場はノンゴルファーを受け入れることが少ないが、それはゴルフ場業界がイノベーションとは程遠いメンタリティにあることを示している。ゴルフ業界は良くも悪くも排他性が強いと感じる。ゴルフ場を開かれた場所にし、ゴルフ場でチャレンジしてみたい願いや想いを集めて実行していけば、この場所を核とした「結合」が次々と生まれる。前号までに紹介したフットゴルフや地域のマラソン大会をセブンハンドレッドで開催したら、これに連なる案件が続々と寄せられるようになってもいる。 現在、社名にかこつけて「セブンハンドレッド トライアル」を実施している。これは、10年間で700個の新しいトライ(取組み)を生み出そうというチャレンジだ。700個のトライをすれば、必ずヒットが出る! という想いの下、スタッフ全員で新しいことにチャレンジしているのだ。 一見、無謀かもしれないが、だからこそ「新結合」が重要になる。社内の発想だけでは限りがあるため、顧客や会員、地域住民、または広大な敷地を使って「楽しみたい」と思う人からアイデアをもらい、一緒に実行していくのだ。今まで出来なかったことが、出来る! となると、様々な意見が集まってくるし、事実セブンハンドレッドでは様々な取組みが生まれ始めている。お金がイノベーションに変わるわけではない。人と人との繋がりである「人的資本」が新しい資本を生む原資となる時代だからこそ、ゴルフ場にはイノベーションを生む無限の可能性があると信じている。 ※1 蟹江憲史「SDGs(持続可能な開発目標)」、中公新書、2020年。 一部筆者が加筆 ※2 阿部佳「わたしはコンシュルジュ」、講談社、2010年。 ※3 ヨーゼフ・シュンペーター、(1997)「経済発展の理論」(塩野谷祐一 他訳)岩波書店。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年04月16日
    ぼくは栃木県さくら市のゴルフ場、セブンハンドレッドクラブの三代目オーナーだが、一昨年、事業承継を決める前に「自分の役割」について悩んでいた。多くのゴルフ場は地元との関りが薄く、東京から来て山を買い、ゴルフ場にして「入山料」を取るビジネス。そんな在り方に強い疑問を感じていたからだ。 ある日、地元・さくら市の教育委員会から「子ども達が走る場所がない」と聞いて衝撃を受けた。広大な敷地をもつゴルフ場が、なぜ地域の子ども達に遊ぶ場所を開放しないのか。「ゴルフ場をもっと開かれた場所にしよう」という新たな使命に気づいた瞬間だった。 地域住民やゴルフ未経験者に話を聞くと、ゴルフ場は「富裕層のゴルフ好きのための場所」と思われており、最大の敵は「社会に蔓延するゴルフ場への心理的障壁」にあると確信したが、具体的に何をどうすればいいのだろう‥‥。新たな悩みに直面した。 そんな折、フットゴルフという新しい競技を知る機会があった。これは足とサッカーボールを使って18ホールをプレーする「ゴルフ」のこと。ボールがあれば誰でもできるサッカーは、ゴルフ場の「心理的障壁」を取り除くにはピッタリだ。代表就任後初の大掛かりな仕事としてフットゴルフを導入しようと、日本フットゴルフ協会(JFGA)に連絡を取った。一昨年6月のことである。 フットゴルフは特別な用具を購入する必要がなく、女性や子供など誰でも気軽に参加できる。ルールはゴルフとほぼ同じで、少ない蹴り数で、フットゴルフ用のカップ(直径約53㎝でサッカーボール5号球約2個分)に入れる競技である。ゴルフ場への配慮もされており、サッカースパイクは禁止、グリーン上でのプレーも原則禁止、服装はゴルフウェアを推奨。プレー時間も3時間ほどで全18ホールを終了する。 当コースの場合、カップは主にコースのラフにあけている。ティーイングエリアはゴルフと同じか、ラフに特設エリアを設け、パープレーのスコアは合計72で、最長のホールは271ヤード(パー5)。JFGAの関係者によれば、現在フットゴルフ協会公認のゴルフ場が17コースで、その多くはゴルファーがプレーを終える14時頃からスタート。 ゴルファーがいない時間帯を有効活用でき、フットゴルフを通じて初めてゴルフ場も体験できる。社会に根強く残る「ゴルフ場への心理的障壁」を打破するためにも、フットゴルフを通じたゴルフ場体験の普及は効果的。まさに一石三鳥の取り組みだと思っている。 しかし、JFGAによれば「ゴルフ場の理解が少ない」「現場社員からの抵抗が強い」などが普及の妨げになっているとか。ゴルフ場は本来、ゴルファーのためだけの場所にあらず、ノンゴルファーや地域住民のための場所でもあるべきだ。そこでJFGAの関係者と会ったその場で導入を決意し、セブンハンドレッドのスタッフへ説得に回った。 とはいえ、当時は代表に就任してわずか3か月の新米社長。現場からの信頼も低い中でいきなり「ゴルフ場でサッカーをやろう!」では、面食らうスタッフも多く、理解が得られなかった。当然だろう。ゴルフ場でサッカーをするイメージは、あまりにも現実とかけ離れている。特にコースメンテナンスに心血を注ぐ管理部門にすれば「とんでもない」という話になる。それでも前述の意義を説明し、徐々に理解が深まって、説明開始から1か月後には合意を得られた。驚いたのは、フットゴルフ普及のため弊社に転職した者がいたことである。どの世界にも「熱い男」はいるものだ。 初めてフットゴルフを受け入れたのは一昨年の9月、80名ほどの若者が場違いな雰囲気に戸惑いながら、それでも嬉々として来場した。ところが‥‥。 現場スタッフの対応は並大抵ではなかったと思う。クラブハウス内や駐車場でボールを蹴ったり、ゴルファーからは「フットゴルフのカップが邪魔」「追い抜かれた」「危ない」などクレームの嵐。スタッフからも「予約時間に来ない」など、多くの顰蹙を買ってしまった。 <h2>町興しにもつながった</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/04/foot2.jpg" alt="" width="788" height="526" class="aligncenter size-full wp-image-76564" /> ただ、フットゴルファーに悪気はなく、最大の問題はマナーを「知らない」ことなのだ。当初は「ゴルファーがボールを打つ時に大声を出す」「前をプレーするゴルファーとの間隔の取り方ができていない」「前のゴルファーを追い抜いてしまった」など、フットゴルフに対する悪印象や偏見があった。 話は少し横道に逸れるが、昨今では外部との協業により新しい価値を生み出す「オープンイノベーション」が盛んになっている。異なる背景をもつ企業同士が協業すれば、新たな視点で従来にない価値を生み出せる。ぼくは、フットゴルフに対するクレームを聞いて、まさにこれは立場が違う者同士が協業するときに見られる「対立構造」と同じだと実感した。大切なのはそれぞれの立場に立って説明し、理解を促進することだ。 初めてゴルフ場に来るフットゴルファーには、プレー前にルール、コースの回り方、ゴルフに準じたマナーやエチケットの説明を徹底した。また、「予約時間に来ない」ことについても、「少なくとも予約時間の30分~1時間前には来場する」というマナーを徹底。「予約時間=来場時間」という認識を改めてもらうために、予約時間と来場時間をそれぞれ事前に通知した。ゴルファーとフットゴルファーの双方が、同じフィールドで楽しく安全にプレーするための準備は、スタッフにとってひと手間かかる作業だが、弊社のビジョン「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」を体現する上で不可欠な取り組みだと感じている。 スタッフの細かな配慮が功を奏し、セブンハンドレッドの来場者は現在、当たり前のようにフットゴルフを受け入れている。これまで累計3000名ほどのフットゴルファーが来場しており、ちなみにプレー料金は約5000円だ。 このフットゴルフ、実はセブンハンドレッド内だけに留まらず、市内の町興しにもつながり始めている。「フットゴルフのワールドカップを開催しよう!」との合言葉を機に、地元さくら市役所内で「フットゴルフタウン推進委員会」が立ち上がり、さくら市が「フットゴルフの聖地」となるよう地域の活性化を図る動きが始まっているのだ。 残念ながら、今年10月に当コースでの開催が決まっていたワールドカップはコロナ禍で中止となってしまった。それでも小学生向け社会体験学習の一環でフットゴルフの体験教室を行ったり、市役所員が中心となり「街コン」としてフットゴルフイベントを開催。小学校の体育の授業にも導入されるなど、フットゴルフ推進の動きは加速している。 これにより、ゴルフ場への社会的関心の低さを打破するだけではなく、ゴルフ場から新しいトレンドを発信、地元が活気づく様子を見ると本当に嬉しい。 <hr /> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://bt3.jp/url/ts/g/z9lenol2">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年04月02日
    わたしは2019年4月、三代目としてセブンハンドレッドクラブ(栃木県さくら市)の社長に就任した。現在28歳。就任当時は、世界一若いゴルフ場経営者ではなかったか。そのこと自体に価値はないが、当時はそれぐらいしかウリがなかった。 高校時代、ラグビーで「花園」に出場した。脳震盪は日常茶飯事で、「ワン・フォー・オール」「オール・フォー・ワン」は今も自分の生きる指針だ。そんなわけで今後10年間、700本のトライ(挑戦)をセブンハンドレッドを通じて達成したいと考えている。 大きなトライが、思いのほか早く実現しそうだ。地元・さくら市の温泉ホテルの再建である。 2020年4月末日、地元の数少ない観光資源のひとつ「喜連川温泉」を有する温泉ホテル(旧称:喜連川温泉ホテルニューさくら)が閉館した。ホテルの所在地は「お丸山公園」の中心地。昔から地元民憩いの丘陵公園で、休日には百を数える模擬店が連なる賑やかな場所だったが、東日本大震災を境に過疎化と少子化により徐々に衰退した場所である。 さくら市は旧氏家町と旧喜連川町が合併して2005年に誕生した。いわゆる平成の大合併による。それ以前、1981年に当時の喜連川町長が町興しのために温泉開発を行った。ボーリングをして湯が湧き出し、今では「日本三大美肌の湯」として数少ない地元の観光資源。当時では珍しい「自治体がつくる観光資源」で、その一環として温泉ホテルが誘致された。それが閉館――。 地元民の誇りと思い出が詰まったホテルだけに落胆は大きく、また、当ゴルフ場も宿泊連携を交わしていたので驚いた。が、閉館は新型コロナの緊急事態宣言が出された只中であり、社長2年目の自分もゴルフ場経営の立て直しで精一杯。「このコロナ禍では仕方ない、潔い判断だな」という程度の気持ちで眺めていた。 <h2>地元からの一本の電話</h2> 閉館の報に接してから、2か月後だったと思う。さくら市役所の商工観光課から一本の電話が入った。要件を聞いて驚いた。 「ホテル経営に興味はないか?」 というのである。 ただ、驚きはしたが、意外な感じはなかった。セブンハンドレッドは、さくら市健康増進課との連携協定や教育委員会と「授業連携」を交わしており、ゴルフ場を市民に開放してきたからだ。夏祭りやランニング大会、高齢者の体操教室など、ゴルフ場を地域の「公共財」として提供してきた。そんなわけで、温泉ホテルの一件も、お鉢が回ってきたのだろう。もっと本質的に地元に貢献したいと思っていた矢先だけに、打診を受けて嬉しかった。 自分は東京生まれの東京育ちだから、栃木弁はしゃべれない。それでも、さくら市は第二の故郷だと勝手に思っている。さくら市民にとっての自分は「よそ者、若者、バカ者」である。別に卑下するわけではない。実はこの3拍子は、町興しに必要な「3つの者」と言われているのだ。 「よそ者=良くも悪くも地域のしがらみに囚われない」「若者=最年少のゴルフ場経営者&最年少の商工会メンバー」「バカ者=既存の枠組みにとらわれない発想が好き」――。自分自身、3拍子が揃っていると感じている。生来のお調子者でもある。 だから、大切な観光資源と市民の誇り(シビック・プライド)であるホテルの再生を託してもらえたこと、市役所の会議で自分の名前があがったことが、ひたすら嬉しく、意気に感じた。 「前向きに検討します」と応じたものの、すぐに社員の反応が気になった。セブンハンドレッドはホテル業が未経験。コロナ禍でゴルフ場経営は厳しく、また、ホテル業界全体が苦しんでいる中で、社員の反応はどうなのか? 正直に言えばドキドキだった。 <h2>「やりましょうよ!」</h2> <img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/03/gai.jpg" alt="" width="788" height="330" class="aligncenter size-full wp-image-76261" /> 自分が2019年に代表となってから、「ゴルフ場の文化を変える」ための取り組みに注力してきた。合言葉は「やってみよう」であり、まずはトライして、そこから判断しよう、と言い続けた。冒頭に触れたが、セブンハンドレッドの社名にちなんでスタッフや取引企業、地元関係者と連携して「10年で700本のトライ」を生むための「セブンハンドレッド・トライアル」を実行中。ゴルフ場スタッフの働き方改革、ベンチャー企業との協業、トップダウンではなくボトムアップ型の組織形態へ変更するなど、現場には戸惑いもあるはずだが、旧来のゴルフ場がやってこなかった改革を、小さく進めてきた。 ホテル買収の件について、全スタッフ34名にアンケート調査を行った。その結果、約9割が賛成だった。常に高望みする自分の性格を知っているせいか、はたまた深く考えていないのか(笑)、みんなの前向きが嬉しかった。備考欄には「これまでホテルがないのはもったいないと思っていた」「また挑戦できますね」と、ポジティブな反応が大半だった。コロナ禍で経営が「守り」に入り、スタッフが消極的になることが怖かったが、杞憂だった。自分も挑戦しなければ! と、ホテル経営を引き受けた次第。 ホテルは敷地約3000坪に、3階建ての19部屋、築35年である。買収完了は昨年12月だが、そこに至る手続きは、①前オーナーとの交渉、②市長ら地元有力者への相談、③外部有識パートナーとのディスカッション、④デザインを取り入れたリノベーションの構想などの経緯を踏んだ。名前は地域名を冠して「お丸山ホテル」。今年4月下旬の開業を目指し、新たに20名のスタッフを採用し、大掃除や運営のための議論を行っている。 今後の構想を描くのが楽しい。ゴルフ場をもつ強みから「スポーツ&美肌の湯」を活かした「ヘルスケア」を軸に展開したい。さらに「採光」と「再興」をかけ合わせて「さいこうの場所」を体現したい。採光は「美しく彩(いろど)られた光」であり、地域の美しくユニークな魅力を感じられることを意図。「再興」は、お丸山公園一帯の再興を目指す。 「さ、行こう」と、人々が気軽に立ち寄り、人の温かみと息吹を灯せる場所にしたい。 ただし、「ゴルフ場に付随するホテル」と見られては意味がないだろう。あくまで主はホテルであり、従がゴルフ場という関係が望ましく、「ゴルフ場もあるホテル」「ホテルに付随するゴルフ場」と思われるくらい、ホテル経営に磨きをかける。そうすれば、ゴルフ場経営や地域価値の創出にもつながるはず。「ゴルフ場が地域に存在する意味を創る」こともできるだろう。次回は、上記に関わる具体的な事象に踏み込んでいく。 <hr> この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら</a>
    (公開)2023年03月05日
    新型コロナウイルスの感染拡大とともに、ゴルフ場における非接触の取り組みが加速している。配膳ロボットや顔認証、自動チェックイン機の導入などDX(デジタル変革)が地域に密着したものであれば、それは厚労省が2025年に構築を目指す地域包括ケアシステムとも近づく。 高齢者が集い、障がい者が気軽に利用できるゴルフ場はSDGsにもマッチする。 <h2>レストランで猫型ロボットが活躍</h2> ゴルフ場のレストランで、猫型ロボットが料理を運ぶ。そんな光景が珍しくなくなって来た。すでに多くのコースで導入されゴルファーたちからも好評だという。 1月末からコース内にある2カ所のレストランに、1台ずつのロボットを導入したキャスコ花葉CLUB(千葉)の佐竹新支配人が、猫型ロボットの導入についてこう語る。 「非接触と人件費カットの両方ですが、プラスSNSが普及する中での話題作りも考慮しました」。 インスタ映えだ。「女性が『可愛い』と言って頭をなでると(ロボットが)反応したりもするので」。 仕事はもっぱら、人間のアシスタント役。「当コースは45ホールありまして、18ホール用と27ホール用のレストランが計2か所あり、そこに1台ずつ導入しました。ホール担当の配膳係ももちろんいますが、ロボットは配膳と下げ膳の補佐役的役割を務めています。通常のワゴン4台のうち1台を減らした分にロボットが入っている感じです」。 ファミリーレストランや居酒屋などの配膳台からお客が自ら料理をテーブルに移す光景を目にするが、同コースの場合は違う。ロボットの役割は料理などの運搬のみでテーブルに置くのは人間の役割だという。 「当コースはメンバーシップですし、ご接待で使われる方もおられますのでスタッフがサーブします」。 ただ、運び役以上の役割もすでにちゃんと演じてくれているようだ。「猫型ロボットもいろいろ声を出したりするもので、従業員が行くと『え?猫型ロボットじゃないの?お姉ちゃんじゃなくていいよ』なんて冗談を言う方もいるようです。別のお客様からは『面白いね』という声もいただきますし、従業員も今のところうまく使えているようなので導入して良かったと思っています」。 すでにロボットはすっかり職場に溶け込めたようだ。販売元である(株)SGSTの小鹿泰光代表も、「導入は10コースを超えて、順調に注文も入っています。従業員が他のサービスに注力できるようになり、人とロボットが協働することでレストランの運営が効率化し、サービス向上にもつながることが期待できるということで導入の運びとなっています」と、好調に売り上げを伸ばしている理由を説明する。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/2204ogawa_PGM2.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-72843" /> レストランにおけるタッチパネル方式の注文システムも、ここにきて増えつつある。これは国内146のゴルフ場(内リース1コース)を保有・運営するパシフィックゴルフマネージメント株式会社(PGM)が進めている試みだ。 同社はゴルフ場の運営基幹システムである「Teela(ティーラ)」を自社で開発し、2019年の8月20日に一斉導入。セルフレジが導入されており、チェックインも支払いも、非接触で行えるようになった。レストランではタッチパネルで注文ができるセルフオーダーシステム(TSM)を現在7コースに導入し、注文時の感染リスクもゼロに近づけている。 <h2>静脈認証の次は顔認証</h2> 栃木のセブンハンドレッドクラブでは、1月7日から顔認証によるチェックインを導入した。入場後、タブレットの画面に顔を近づけるだけで、検温、チェックインが同時に完了。フロントですでに用意されたカードホルダーを受け取り、貴重品ボックスへと直行できる。 このシステムはDXYZ(株)が開発。マンション、オフィス、保育園等の入退場や受付用に提供していた「FreeiD」サービスに、ゴルフ場向けの会員認証・検温機能を追加することで実現した。これによりビジター用の受付カードへ住所、名前、電話番号を記入するなどの手間がいらなくなった。 しかしこのシステム、意外にも導入のペースが上がらずにいる。というのも顔認証に先駆け導入した手のひら(静脈)認証が好評で、利用者の多くが移行への必要性を感じていないからだ。 この手のひら認証、フロントで手をかざし、生年月日を申告すれば、チェッインが完了。また楽天GORAの会員の場合もすでに個人情報は登録済みとあって、チェックイン時の手間は氏名の申告だけで済む。すでにその便利さを実感しており「あえて顔認証まで登録しなくても」というゴルファーが多いのだという。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/700C.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-72842" /> 銀行のATMなどでもおなじみとなっている静脈認証。ゴルファーにも抵抗はそれほどなかったが、顔認証となるとプライバシー保護への漠然とした不安を口にする向きも少なくない。 しかしゴルフ場の朝の混雑時ともなれば静脈認証を待つ列はおのずとできる。関係者の一人は「結局、グループでお見えになったうちの1人が、他の3人の前で顔認証をしてくれれば『ああ、これは便利だ』と実感してもらえるはず。まずその、とっかかりになる方を増やさないと」と望みをつないでいる。 課題は他にもある。最初にスマホのアプリで、顔写真と住所、氏名、生年月日、電話番号を登録するというハードルがある。「その手間を惜しむ方が意外に多いんです」と現状の課題を明かした。 そのため現在、フロントとレストランにパウチしたQRコードの案内を設置。食前や食後の空いた時間にスマホをかざせば顔認証のアプリをダウンロードし、自分の顔を登録できるようにした。その甲斐あって顔認証の登録者も現在30人にまで増えたという。 新しい試みに挑戦すれば、当然修正すべき課題も見つかる。「スタッフはSLACKという社内コミュニケーションアプリを持ち、情報共有してから、会議に臨んでもらうようにしています」とセブンハンドレッドCの小林忠広社長。 このゴルフ場の強みは、そうした積極的なDXで得られたトライ&エラーのデータを、地元の中小企業などと共有することを視野に入れている点だ。 小林社長はさらにこう続けた。「地域の方々に『ゴルフ場があって良かった』と言っていただくためには、地域をともに活性化させることだと思いますから」。 同ゴルフ場は発達障害や視覚障害者に「広いところで散歩してもらおう」とスペースを提供している。その真意を小林社長に尋ねると「地元の人たちに(とって)ゴルフ場を『行ったところのある場所』にしていかなければ」と付け加えた。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2022/07/mujin.jpg" alt="" width="788" height="591" class="aligncenter size-full wp-image-72845" /> ■取材後記 漬物一つとっても、材料は地元から調達。ゴルフ場の経営者が力を入れて語る地産地消は、すでに当たり前のこととして定着している。小林社長と話していて、ここまで地域と密着しているゴルフ場も稀ではないかと実感させられた▼行政との関わりも深い。「地元さくら市の高齢課や健康増進課、生涯学習課など8つくらいの部署と連携しています」。今年度のイベントは2日間にまたがるものや「視覚障害者フットゴルフ体験」など、その数は16に上った▼こうした状況が、意識しての結果ではないところが興味深い。「気が付いたら、そうなっていました」と笑う。その時々に、地域の問題と真摯に向き合ってきた結果だろう。高齢者へのフレイルトレーニングやウォーキングイベントをコース内で開催し「散歩してストレッチして、ランチを食べて帰っていただいています」。常連さんたちにとっては、セブンハンドレッドは、もはや庭のようなものだ▼厚生労働省が2025年をめどに構築を目指す地域包括ケアシステムは、地域医療と介護を連携させ、健康寿命を延ばしていくことも目標の一つに含まれる。団塊の世代が後期高齢者になるその年までに、ゴルフ場もしっかりとその枠組みに加わっていくべきではないか。果たせる役割は、相当にある。
    (公開)2022年07月25日
    ゴルフ人口は800万人規模で国民の7%。つまり、一部の富裕層が広い土地で独占的に遊んでいるというイメージが、ゴルフにはある。 今回登場するセブンハンドレッドクラブ(栃木県さくら市)の小林忠広社長は28歳。創業家の三代目だ。それだけを聞けば世間と乖離した「ゴルフ愛」や価値観の持ち主と思えるが、意外なことにゴルフ界の現状を容赦なく斬る。 「業界は思考停止状態」「地域社会に役立たなければ未来はない」――。異色の若手経営者が、ゴルフ界のあるべき姿を明示する。まずは動画、その後インタビュー記事をお読みください。(聞き手・片山哲郎) <iframe width="788" height="433" src="https://www.youtube.com/embed/0eeMhFwH00c" frameborder="0" allow="accelerometer; autoplay; clipboard-write; encrypted-media; gyroscope; picture-in-picture" allowfullscreen></iframe> ラグビーで育ちました 「いろんなペットボトルがありますねえ。わたし、このお茶頂いてよろしいですか?」 <strong>どうぞ。欲しい物を「欲しい」と言えるタイプなんですね。</strong> 「はい。欲しいと思ったら取っちゃうタイプなんです(笑)」 <strong>それも若さの特権かな。いくつですか?</strong> 「1992年生まれで28歳になりました。弊社の社長になったのは2019年の4月だから当時は26歳です。自社調べでは、世界最年少のゴルフ場経営者だったと思います」 <strong>ほお、ギネスに申請した?</strong> 「いえ、あくまで自社調べですから(笑)。まあ、若さだけじゃなんのウリにもなりませんし」 <strong>ゴルフ場経営は家業ですね。三代目ですか?</strong> 「はい、セブンハンドレッドは祖父が創業しています。開業は1980年の5月なので40周年を迎えました。ぼくは幼少期から栃木のゴルフ場に通っていたので、ゴルフ場で生まれてラグビーで育ったという人間なんですね」 <strong>高校で「花園」に出場したとか。</strong> 「そうなんです。慶応の付属校で、10年前の90回記念大会に出ています。すぐに負けちゃいましたけど、当時はラグビー一筋で主将でした。 それで大学もラグビー部から声が掛かりましたが、目標の花園出場を果たして燃え尽きたというか・・・。高校で引退して、大学時代はラグビー協会やオリンピック委員会の仕事をしたり、NPOを立ち上げたり。その後、大学院ではシステムデザイン・マネジメントを学んで、ワシントンDCにも留学しています」 <strong>NPOは何をする組織ですか?</strong> 「アメリカのスポーツコーチングを日本に導入したんですね。何をするかと言えば、実は何もしません(笑)。コーチングはひたすら聞くことが大事なので」 <strong>そうですか。そのあたりは後程伺うとして、小林さんはゴルフ場の若手経営者として注目株だと聞いています。今日はいろいろ教えてください。</strong> 「とんでもありません(苦笑)。ただ、わたし自身は家業であるゴルフ場経営やゴルフ業界そのものの在り方に違和感を覚える部分が多いので、みなさんの協力を頂きながら変えたいという思いが強いんですね。じゃないとゴルフ産業は続かない、終わってしまうという危機感があります」 <strong>そこはまったく同感ですが、「変革」のイメージはどんな感じ?</strong> 「そうですねえ。たとえばセブンハンドレッドがある栃木県のさくら市教育委員会と話す機会があるんですが、自分は東京育ちなので田舎は土地が余っている、子供が遊ぶのに不自由しないだろうと思っていたら、意外と場所がないんだと。 中学の陸上で練習できる場所が少ない、暗くて狭い道が多いから安心して遊べないとか。それ聞いてショックを受けたんですよ」 <strong>ショックですか。かなり強い言葉だけど。</strong> 「はい。この話とゴルフ場の在り方はリンクしていて、我々の存在意義そのものの問題になるんです。当コースは『みんなが幸せを実感できるゴルフ場』を掲げていますが、『みんな』についての再定義を含めて、果たして我々は社会に貢献しているだろうか、と。 ぼくも父も祖父も東京の人間で、この地域の里山を買い取って木を切って、自分達の庭にして『入山料』をもらうビジネスじゃないですか、ゴルフ場って。 だけど地域に貢献しているかといえばそうではなく、囲いを作って一線を引く。場合によっては地域社会と隔絶している。果たしてそれでいいのかと。ここに大きな疑問を感じるんです」 <strong>わかります。一握りの金持ちが広大な土地を占有して遊んでいる。それがゴルファー以外の大方の認識だから、内心反発もあるだろうし。</strong> 「ですからゴルフ場は、もっと社会に求められる存在になるべきだと思うんですね。格としての一流ではなく、社会にとって有意義な存在として一流を目指したい。そのためには『地域社会』に根差す意味や意義を生み出さなければと考えています。 ぼくが社業に携わったのは2016年からですが、事業を継承するからには、そのあたりのビジョンを明確にしなければと考えていました」 <h2>今後10年で700トライ目指す</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/kobayashi2.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-65893" /> <strong>それは、ゴルフ場を地域の共有財産にするという考えですね。だけど一方で、俱楽部制度は本質的に排他的です。文化も同じで純度が高まるほど排他的になる。</strong> <strong>御社は当初、会員700人に限定した少数の俱楽部制度から始まっています、それが名前の由来だし。</strong> 「正確に言うと700法人の会員で運営するというコンセプトでしたが、それは創業時代の話なので、ぼくの代になってからは『みんなの幸せ』を全面的に打ち出しました。 セブンハンドレッドは今後、700のアイデアを出していこう、向こう10年間で700のトライを決めるんだと、それが今の方針です。 ゴルフ業界は昭和のスタイルから脱してないし、少しキツイ言い方をすれば何も考えていないんじゃないか」 <strong>それはまあ、ずいぶん刺激的な発言ですが、そのような批判眼は家業を斜めに見て育ったこともありますか? ゴルフ場経営者の家に生まれてゴルフ部に入ったら「ゴルフバカ」になりそうだけど、ラグビー部を選ぶあたり、反骨心が旺盛だったとか。</strong> 「ていうか、そもそも小学生で170㎝と大きかったんですね。今は176だから6㎝しか伸びていませんが、当時から足は遅いし俊敏じゃないし、運動神経はよくなかったんです。 それでもラグビーはみんなに活躍の場が与えられる。フィールドに立つのは15人で、メジャー競技の中では一番多いじゃないですか。チビでもデブでも役割があって、いろんな形でチームに貢献できる。そこに魅力を感じたというか」 <strong>ポジションは?</strong> 「ロックでタックル専門です。役割はとにかく突破することで、常にケガが絶えません。大きなのは眼底骨折で、脳震盪は30回以上やってます。 ラグビーで培った経験が自分の哲学になったというか、『オール・フォー・ワン』『ワン・フォー・オール』の精神は自分にとって非常に大きいです」 <h2>ゴルフ場は「昭和のモデル」</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/kobayashi5.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-65894" /> <strong>それが先ほどの話、地域社会におけるゴルフ場の在り方につながるわけですか? 地域が困っているなら力になろうじゃないか、「ワン・フォー・オール」の精神と言うか。</strong> 「そうですね。地域社会は過疎化や高齢化が深刻ですが、それに対してゴルフ場ができることはもっとあるはずです。利用税の面では多少、貢献してると思いますよ。さくら市には年間1億ほど利用税が落ちていて、歳入の1%ほどを占めていますから。 それと、デスティネーションという意味では市外からお客さんを呼んできて、地域にお金を落とす意味もある。だけどそれ以外の部分では昭和から何も変わってなくて、マネジメントやブランディングも然りですよね」 <strong>昭和の事業モデルとは?</strong> 「まず、概念としてカントリークラブとゴルフ倶楽部がありますが、今は大手チェーンが実質パブリック化しています。ご承知のように日本でゴルフ場が増えたのは会員権の投機ビジネスがあったわけで、今は会員制とパブリック的なコースに大別できますが、会員制は会員を増やしてプレー収益と年会費を得るビジネス。 一方のパブリックは、ともすれば沢山入れて安かろう悪かろうになりがちなモデルなので、個別のマーケティングがありません。あったとしてもゴルファーのためのブランディングに限定されるし、集客をネット予約会社に頼り切ってる現状を見れば思考停止状態だと思います」 <strong>激しい言葉ですねぇ。ゴルフ場は頭を使ってない。</strong> 「そこをどうやって突破するかを考えたとき、当社のステイトメントでは『みんなが幸せ』を掲げてますが、業界関係者やゴルファーだけではなく、社会を巻き込んで『ゴルフって変わったよね』と思われないと、ゴルフ産業は終わってしまいます」 <strong>プレー人口800万人規模、国民の7%を相手に争奪戦をしていると産業自体が疲弊する。コロナで瞬間、3密回避でゴルフ場入場者は増えたけど、基本的には縮小局面での価格競争が常態化している。ゴルフ場だけではなく、クラブメーカーも同じです。</strong> 「そうですよね。で、いろんなゴルフ場のHPを見ましたけど、例外なく『ゴルフ』って言葉が入ってます。でも、ゴルフ場の利用者はゴルファーに限定する必要はないと思うんですよ。 キレイに整備された土地に『人々がそれぞれの目的をもって集う場所』と再定義すれば、ほかにやりようがある。我々の場所を求めるのはゴルファーだけじゃないよねって」 <h2>自分は優秀じゃないんです</h2> <strong>「オレの土地だ」って守るんじゃなく、開放する。開放して新しいセンスが入ってくると多様的な価値が生まれる。</strong> 「そこなんですね。ゴルフ産業はゴルフ産業だと頑なに言い続けるのではなくて、観光産業かもしれないし、わたしはヘルスケア産業だと思っていますが、多様な観点があるべきです」 <strong>いろんなゴルフ場経営者と話しますが、ここまで突き抜けてるのは珍しいですね。</strong> 「そうですか(苦笑)」 <strong>進歩的と言われる経営者でも、ベースはやはり「ゴルフ」になる。御社の場合はコース名もセブンハンドレッドで「ゴルフ」が入っていませんが、小林さんが社長になってから?</strong> 「いえ、以前からセブンハンドレッドクラブです。セブンハンドレッドゴルフ俱楽部とかならもう少しゴルフ寄りになるのかもしれませんが、基本は地域のカントリークラブを目指しています」 <strong>そういった志向性の元をもう少し深掘りします。話を多少戻しますが、NPO設立の目的は?</strong> 「立ち上げは大学4年ですが、そもそも体育会系の指導法は体罰やネガティブなやり方が幅を利かせて、選手の可能性を限定したり、萎縮させる。そこに問題があると思ったんですね。 逆にアメリカのコーチングは自分の能力をポジティブに信じる方向なので、これを日本でも広めたいと。その後、2017年1月に法人格を取りました」 <strong>日大アメフト問題で明らかになったのは、外部の指導者が学内に聖域を作って、推薦入学の枠も確保する。中学・高校の運動部に絶大な影響力をもっていて、下手すれば運動部ゴロですね。</strong> <strong>一般教養科目の体育教員と体育会の指導者は根本的に立場が違って、部外者が我が物顔で振る舞っていた。</strong> 「その背景には勝利至上主義があると思うんですね。『一番になりたいか?』と聞かれれば、誰だって『なりたい』と答えますし、資本主義社会では総じて勝つことが大事です。 でも、勝利できる人はほんの一部で、高校ラグビーは花園に出て、野球は甲子園で活躍して推薦をもらいますが、一部の選手しか報われないのは問題です。 なので、学生スポーツは勝利を目指す過程に価値があると再定義しなければなりません」 <strong>大学でラグビーをやらなかったのは挫折感もあったわけですか? ふつう、表舞台でやりたいでしょう。</strong> 「いえ、ぼくは主将だったので大学のラグビー部から声が掛かりましたが、燃え尽きたということのほかに、ちょうど進学のタイミングで東日本大震災が起きたんですね。 それで、日本がこんなに大変なのにラグビーのマッチョな連中が、自分のためだけに練習してていいのかと。ワン・フォー・オールの精神で言えば、今こそボランティアで被災地に行くべきだと。 少しでも力になりたくて、被災地で活動してました」 <strong>ラグビーで鍛えた体力を社会に役立てる。</strong> 「純粋にそう思ったんです。NPOの話に戻せば、14人の仲間と立ち上げてワークショップとかをする活動なんですね。とにかく話を聞きますが、その際ポジティブな精神状態や環境が凄く大事で、そういった状態に置いてあげることもコーチングの役割です」 <strong>二十歳そこそこで表舞台ではなく、裏方の面白さを見出すセンスがユニークですね。</strong> 「あのぉ、全部できる選手だったら、そうはならなかったと思うんです。主将でしたがスタメンじゃなかったし、足も速くない、できるのはタックルだけで」 <strong>あれは難儀な係でしょう。突っ込んで蹴られて踏んづけられて、脳が揺れたり目ン玉折ったり。</strong> 「はい(苦笑)。ですから、自分は優秀じゃないなと思ったときに、仲間にいろんなお願いをしたり、助けてもらったり。その中でチームのビジョンをつくってみんなで達成して、さらにビジョンを更新する。そこにぼく自身、遣り甲斐や喜びを感じました」 <h2>「自己学習」する組織</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/kobayashi6.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-65895" /> <strong>そういった人生観が、独自の組織論なり新たなゴルフ場の在り方につながるのかな。</strong> 「そうですね。ウチのゴルフ場もそうなんですが、個人オーナー系で残ったところはトップダウンが多いですよね。祖父や父の代もそうでしたが、ぼくの場合は現場の声を極力拾うようにしています。 それぞれの社員が経営者感覚でオーナーシップを発揮して、組織自体が学習するというやり方です」 <strong>ゴルフ場の組織は異質でしょう。経営会社がある一方で理事会もある。大半のコースは地権者が3割ほど土地をもっていて、地主が理事会に入るケースもある。地主は時間と金があるからゴルフが上手くて、やたら威張り散らすとか。</strong> 「ウチのゴルフ場は今、地権者はほとんどいないんですね。それと会員は無記名法人だから理事会もなくて、この点はラッキーだと思います。 それと、ウチには支配人もいないんですね。『支配するヒト』って役職自体、なんかヤバくないですか(笑)。 セブンハンドレッドは割と高級路線で、域内の烏山城やジュンロペまではいきませんが、いいお客様に愛されて残ったゴルフ場なんです。一方では知名度が低いのが欠点で、東急セブンハンドレッドと勘違いされますけど」 <strong>事業の規模感はどうですか?</strong> 「そうですねえ。まず、専有面積は100万㎡ほどで、来場者は年間3万3000人です。2019年度の客単価は8000円台で昨年は7000円台でした。 平日は7000円あたりで土日が1万4000円かな、それでもちゃんと利益は出ています」 <strong>大手ゴルフ場チェーンの場合は客単価9000円が収支の攻防ラインです。理想としては客単価1万円で5万人の5億だけど、御社はその半分という感じですね。</strong> 「5億までいけば理想ですが、ゴルフ場経営は規模感だけで測れない面もあるんですよ。ウチの売上規模で利益が出ているのは比較的フラットな地形だから、コース管理費が安い強みもあるんですね。それと正社員は36名で、」 <strong>それはかなりコンパクトですね。</strong> 「だと思います。この36人を3チームに分けてオペレーションしていますが、支配人はいないけど部長がいて、業務部長、総務部長、コース管理部長の3名です。 業務はレストランやスタートルーム関連の仕事、総務は営業企画や新規事業を統括して、部長の下のリーダー格が補佐するという形です。 で、ぼくがゴルフ場へ行くたびに必ず何か変わってるんですよ。先ほど社員一人ひとりがオーナーシップを発揮するのが理想と言いましたが、これはMITの教授が提唱する『学習する組織』に則ったもので、組織自体が知見を溜めて自己学習する経営論です」 <strong>MIT(マサチューセッツ工科大学)だと経営工学の分野でしょうね。ナマモノである会社組織を工学的に考察する。</strong> 「おっしゃるとおりです。企業文化の側面を含めて、組織にとって大事なことを、組織自体が遅滞なくジャッジする。一例がぼくの社長室で、ゴルフ場に毎日来るわけじゃないから『社長室いらないよね』って何気なく言ったら、ある日突然物置になっていて」 <strong>物置って?</strong> 「・・・物置です。突然ゴルフボールとか景品が置いてあって、本当に物置にしてしまった(笑)。 レストランのメニューも気づけば変わっているし、お客さんが『チャーシュー美味しいね』って言ったらお土産で販売して、自家製のドレッシングも売ってます。これらは小さい話かもしれませんが、」 <strong>組織を「考える生き物」にする。ヒトの情緒を含めて工学的に思索するのが面白いですね。組織は情緒の集合体だし。</strong> 「はい。この動画見てください。社内では定期的に研修や発表会をやっていて、このときはセブンハンドレッドのイメージを持ち寄った発表ですが、部長ではなく一般社員が仕切っているんですね」 <strong>楽しそうですねぇ。ヒトは誰かから期待される、役立っているという充足感が喜びになるし、組織の力も倍加する。企業が社員を管理する手法とは対極ですね。</strong> 「そこなんですよ。昔は部下が上司の顔色を伺う、部長が社長の顔を見る組織だったかもしれませんが、現場の判断が良ければもっと任せるべきだと思うんです。 レストランの服を変えたいなら、好きなの選んで事後報告でお願いします、みたいな。それで成功体験や自己肯定感を得る循環を生み出すのが『学習する組織』です」 <h2>なんもやってないですね</h2> <strong>大本の教育は誰がやるんですか。</strong> 「わたしがやります」 <strong>ほかに社長の仕事は何ですか?</strong> 「けっこう今、なんもやってないですねえ(笑)」 <strong>なんもやってない?</strong> 「はい。基本は新規事業の立ち上げですが、ゴルフ場のほかにも個人的にいろいろやっていて、常時複数の仕事をしてるんです。 現場に来るのは週イチぐらいで、何もしてないはアレですが(笑)、企画開発関連や外部とのコネクションが多いです」 <strong>外部とは?</strong> 「ゴルフ場関連では、所在するさくら市の市民課や健康増進課、教育委員会との打ち合わせも比較的多いんです。市主催のマラソン大会をウチのゴルフ場でやったり、喜連川中学のコミュニティスクールを地域の企業と連携したり」 <strong>実学に近いところでやる。</strong> 「非常に近いですね。地域の魅力を発見したり、地域の中で子供を育てる活動は自民党が力を入れてるので、今後注目されると思います。 ぼくは歳が若いこともあって、みなさんから『謎の期待』をされるんですが、」 <strong>東京からたまに来て、なんかわからんけど、なんかやってくれるだろうと。</strong> 「そうそう(笑)。そんな活動をしてますが、ほかのゴルフ場の社長は何をしてるんですかね?」 <strong>ゴルフ場は施設産業だから、キャッシュフローが順調なら現場に任せればいいわけで、業界活動が中心でしょう。</strong> 「なるほど。まあ、自分の仕事で一番大事なのはビジョンメイクで、それを実現するための体現者になることなんです。 『みんなが幸せを実感できるゴルフ場』を掲げた場合、幸福感は人それぞれだから唯一の『解』はありませんが、これを組織に落とし込むと、組織として不当なやり方をしたり、誰かを貶める、悪口を言う、納入業者を叩くのはやめようと」 <h2>SDGsは企業マーケではない</h2> <strong>非常に観念的だけど、美意識がありますね。実はこれからの経営は美意識なり思想が不可欠で、物質的な豊かさを嫌悪する世情さえある。</strong> <strong>脱炭素社会が卑近な例ですが、御社のHPはゴルフ場には珍しく「持続可能性」を掲げている。いわゆるSDGsへの取り組みですね。</strong> 「はい。社長になる前、2018年10月に今のビジョンに変えました。みんなの考えを持ち寄って、個々にどうなりたいのか、会社として何が理想なのかを集めて、ぼくの言葉に転換したんです。 留学時代、論文のテーマがサスティナビリティだったんですね。SDGsは気候変動が注目されますが、実際には飢餓や性差、教育を含めた格差の是正など17のゴールがあって、そのために169のターゲットがある。 結局のところ誰一人置き去りにしない、目の前の利益を取ることで誰かを不幸にするのは不条理なんだという考えで、」 <strong>ラグビーに似ている。</strong> 「はい。それで今、日本のテレビがSDGsウイークをやり始めたり、CSR(企業の社会的責任)の延長にSDGsを置いて企業マーケティングの一環に成り下がる風潮ですが、そうではなく、大事なことはSDGsの本質を一人ひとりが理解して、会社においてはぼく自身がその体現者になることです。 ガンジーの非暴力、無抵抗主義じゃないですが、幸せになるって言葉の意味を全員が理解してこそ、高いレベルの『組織学習』が実現するし、ウチだけではなく、みんなが実践することでSDGsは達成されます」 <h2>地元の温泉宿を買収した</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/kobayashi1.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-65896" /> <strong>その文脈にゴルフ場ビジネスの再定義がある。</strong> 「それが地域社会におけるゴルフ場の在り方なんです。先ほどマラソン大会や夏祭りの話をしましたが、ウチはさくら市の健康増進課と連携協定を結んでいるんですね。 体育館でやっていたおばあちゃんの体操教室がコロナで中止になって『どうにかできませんか?』と頼まれたり」 <strong>「謎の期待」ですね(笑)</strong> 「ええ(笑)。それでゴルフ場を開放して、ランチも食べて頂いて。 いろんなゴルフ場が地域イベントを開催していますが、ウチの場合は市や教育委員会の主催行事を依頼されて受ける立場なんです。ここがよそと違っていて、地域のニーズを叶えられるなら『なんでもやります』って姿勢です。 すると『次はああしよう』『こうしよう』って広がるし、その流れで別の案件が出てくるという循環になります」 <strong>それで温泉宿を買収した。</strong> 「はい、去年の12月15日に上物だけ買い取りました。経営難で廃業した物件で、コロナで旅行業が大変な今『なぜホテルなの?』と聞かれますが、喜連川温泉は日本三大美肌の湯ということで、数少ない地元の観光資源なんですね。これがなくなると地元は大打撃で、」 <strong>何部屋ですか?</strong> 「19部屋です。セブンハンドレッドからクルマで10分以内のロケーションで、コースには宿泊施設がありませんし、平日は7~8割が地元需要だけど土日は県外が3~4割だから泊まれるメリットもある。 社内で議論しましたが、ぼくがやる気満々で(笑)。ゴルフ場のスタッフ総出で大掃除、この春に開業する運びです。 ただ、自分が重視するのは地域の魅力づくりなんですよ。さくら市は人口4万4000人で、宇都宮のベッドタウンなんですが、観光資源がありません。さくら市は氏家と喜連川が合併した市で、ウチはちょうど中間なんですね」 <strong>地元の応援も期待できる。</strong> 「はい。日頃から地域とつながっているから、ホテルの話にもなるわけです。目先の利益ばかり追いかけてたら違う展開になったでしょうね。 話は違いますが、前の氏家市民と喜連川市民は仲が悪いんです」 <strong>「平成の大合併」で似たような自治体は多いですね。財政やインフラのレベルが違うと豊なほうが割を食うから合併を嫌がる。あるいは歴史的にいがみ合う場合もあって。</strong> 「それで、どうせ仲が悪いなら年に一度大ゲンカしましょうと。ゴルフ場を開放するからスポーツチャンバラで戦いませんか、って企画も構想中です(笑)」 <strong>面白いですねえ。賞品は?</strong> 「んー、なんだろう。勝ったほうが1年間、さくら市じゃなくて元の市名を名乗れる権利とか(笑)。終わったらノーサイドですっきりすればいいんです」 <strong>ゴルフ大会じゃなくチャンバラというのが小林さんらしい。参加の母数が格段に違うし、メディア受けする。さくら市が主催するとなお面白い。</strong> 「不動産は、魅力や活力がないと死ぬんですね。ウチに年間3万3000人来場するのはゴルフ場の魅力ですが、周囲に畑作って健康的な食材を収穫して料理する」 <strong>それを温泉ホテルで提供する。</strong> 「となれば、ヘルスケアとしての魅力も出てきます。要は発想の在り方で、地域密着の視点で考えればアイデアは沢山出てきますし、ゴルフ場が『場』を開放すればいいんです」 <h2>世界一給料が安いゴルフ場経営者</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/kobayashi4.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-65897" /> <strong>今年はフットゴルフの世界大会もやるそうですね。</strong> 「そうなんです。9月の予定ですが、コロナで来年になるかもしれません。 日本を含む3か国が世界大会の誘致に動いて、その会場がセブンハンドレッドに決まりました。そもそもウチはフットゴルフのフィールドを常設してるんです、コースの未使用地に36個の大きな穴(カップ)を開けて。 これもゴルフ以外にコースを開放する方針の一環で、本大会は世界から1000人が集まって2週間休業しますが、営業補償関係なく無料で貸します。『いいんですか?』って言われたけど、フットゴルフ協会はお金なさそうだし(笑) お金といえば、ドローンの練習にもコースを開放してますが、こちらは『払います』と言われたのでいくらかもらってます」 <strong>なるほどねぇ。取材の前段までは若者にありがちな理想主義者かと思ったけど、むしろ実践主義者ですね。しかも思想が入っている。</strong> 「はい、自分は思想ファーストです。その上でぼくがやりたいことは事業の立ち上げなんですよ。ゴルフ場経営とは別にいろいろやってますが、今年はもっとゴルフ場に注力します。 自分、世界一年収が安いゴルフ場経営者だと思うんです。新卒とあまり変わらないし、部長の半分以下じゃないですかね。独身だし、自宅だし、お金必要ないんです。 事業の立ち上げも金儲けが目的じゃなくて、魅力的な事業をつくりたい、その一心なんですよ。 先ほど、向こう10年で700のトライを決めたいと言いましたが、社員にも『やる前から否定論を言わない』を徹底しています。積極的にトライすると地域文化や産業発展の姿が見えてくると思うんですね。 ゴルフ業界が止まっている間に社会はトランスフォーム、つまり劇的に変容しています。ぼくは性善説ですが、ヒトは基本的に変わりたいと思っていて、人間は本質的に良き変容を求めると思うんです。 そこには社会的なアジェンダも必要だし、自分が楽しければいいではなく、豊かな社会の実現に向けて組織や地域をつくりたいと」 <strong>自分の時間や身体を「公器」と捉えているのかな。同様にゴルフ界を社会的な「公器」にしたい?</strong> 「そのあたりがゴルフの在り方の再定義だと思ってますが、我々だけでは難しいので、いろんな方と連携して実現したいですね」 <strong>28歳だから時間は沢山ある。</strong> 「いえ、28はオッサンですよ(笑)」
    (公開)2021年02月03日

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