ジュニアゴルファー専用のシャフトが、1本2万8000円で発売された。果たして売れるのか?
「いえ、数は出ないし、儲からないでしょう。社会貢献の意味合いが強いですね」
そう語るのは、三菱ケミカルの伊藤成就課長である。商品名は『ディアマナジュニア』。シャフトの高級ブランド『ディアマナ』から派生したもので、商売度外視の社会貢献なのだという。
「ゴルフ人口が減少する中、ジュニア向けに専用設計したシャフトはありませんでした。ですから当社は、将来の市場を担う子供たちにマッチするシャフトを提供したかった。単に大人用のシャフトを短く切るだけでは、硬くなりすぎますからね」
それにしても、ジュニアの定義は難しい。発育が早い子供は中学生で大人用のクラブを使いこなす。また、複数のメーカーがジュニア用クラブを展開しているが、成長期には体格が変わってしまい、ヘタをすれば1年で使い物にならなくなる。
いちいち買い替えるコストを考えれば、二の足を踏む親も多いだろう。さらに、シャフトだけで3万円近いとなれば、市場性は極めて薄い。
<h2>収益度外視のプロジェクト</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/04/junior.jpg" alt="ジュニアゴルファー" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43543" />
それでも踏み切った背景には、「社会貢献」以外にもいくつかの理由がありそうだ。同社はジュニアゴルファーの定義を身長135~155cmで、競技志向が強い小学4年生から中学1年生に定めているが、東京大会の次の五輪もゴルフ競技の採用が決まっており、有望な子供に逸早くブランドを訴求したかったとの思いがありそう。
また、機能製品の開発は、同じユーザーを対象に研究していると発想が狭まり、煮詰まってしまう可能性がある。ターゲットをガラリと変えることで、新たな発見や発想が生まれる。
「当社には収益性を求めない開発プロジェクトチームがあって、可能性を探るのが狙いです。そこから生まれたのが『ディアマナジュニア』で、高品質の素材を使って大人用と同レベルの設計を施しました。
この年代はゴールデンエイジと呼ばれ、神経系の発達がほぼ完成するといわれています。スポーツなどの動きを習得するのにもっとも適した時期なので、専用シャフトの開発でシャフトの動きを感じてもらいたかった。
ドライバー用の重量は43.5g、バット径は14.1㎜と、大人用より細くなっています。ジュニアはシャフトを選べなかったので、選択肢ができたことも意味があると思いますね」
ドライバー用は幅広いスイングに合う「レッド」と、走り・弾き系の「ブルー」で各2万8000円。FW用が1万6000円、アイアン用は1本9000円とかなり高い。
将来、稼げるプロになってほしいと考える親にしてみれば、思案のしどころといえそうだ。
<h2>オノマトペを生かした開発が必要になる?</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/04/diamana-junior1.jpg" alt="ディアマナ ジュニア" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-43547" />
開発には、苦労も多かったという。広報担当の国司祐希さんがこう話す。
「一番難しかったのは『言葉』ですね。ジュニア用のドライバーシャフトは大人用より10cmほど短く、それでも手元が柔らかい、先が走るとか、フィーリングの違いを感じてもらう必要があります。
でも、子供ですからね、的確な言葉は返ってきません。合うシャフトを打つと『軽く』感じ、合わないシャフトだと『重く』感じるという程度。これを開発に置き換えるのは大変でした」
テスト風景を勝手に想像すると、こんな具合だろうか。
「どう、このシャフト? 手元がしなる? 先が走る?」
「う~ん、わかんない」
苦労は察するに余りある。
が、このことは子供に限った話ではない。振り心地など感性が重視されるゴルフクラブは、プロの意見をフィードバックしながら開発するのが一般的。その際、「プロ語」を理解することが大きな課題になる。
当たりが薄い、カツンではなくビシュといったように、感覚を数値に置き換えて設計に反映させる必要があるのだ。試作品を何度も作る手間とコストも軽視できない。
そのような難しさはゴルフクラブだけではない。これを解決するために近年、「感覚」を商品開発に取り込む際にオノマトペ(擬声語・擬態語)を活用する企業は多い。オノマトペはざらざら、ふわふわ、こつこつなど、感触や状態を表す言葉で、理屈ではなく感覚を表現するのに適している。
さる寝具メーカーは、消費者を集めたグループインタビューで好みの「掛け心地」を調べる際、もふもふ、ふかふか、ふわふわ、ほかほかといったように、オノマトペを開発に取り入れている。
これは商品名にも使われており、赤城乳業のアイスキャンディー『ガリガリ君』は成功例のひとつとされる。
仮にシャフト開発にオノマトペを導入する際、ジュニアゴルファーとのやり取りは格好のテストケースになりそうだ。大人は理屈で説明しようとするが、言葉数が少ない子供たちに感覚的な表現で選ばせれば、面白い結果が得られそう。
ボワボワ~ン、シャキシャキ~ン、ポヨポヨ~ン。
なんでもいいが、子供たちが選ぶ言葉は意外と本質を突くかもしれないのだ。その意味でオノマトペ的な開発は、シャフト研究全体に新境地を開くかもしれない。