「溶剤を使わずに水だけでグリップ装着できる両面テープがある。是非、取材してみてください」――。
2月に開催されたジャパンゴルフフェア(JGF)の会場で、工房関係者の多くが口コミで宣伝していた。噂の主はJGF初出展の倉本産業。同社は1950年に広島で創業。自動車メーカー・東洋工業(現マツダ)へ、ボディに車名ロゴを貼り付ける粘着フィルムを開発・納品したのが始まりだ。
以後、粘着加工製品を中心に、高度成長期にはNHKの受信ラベルや『マツダファミリア』で流行したボディストライプのマーキングフィルムなどで成長した。このほどJGFでお披露目したのが、グリップ装着時に溶剤ではなく、水で装着できる両面テープ『グリップテープ水』(仮名)というもの。
JGF期間中、デモンストレーションを行ったのが開発を担った技術部の若手2人。5年ほど前から環境に配慮した両面テープの開発に乗り出し、経営陣のゴルフ好きが高じて、ゴルフ市場での販売に漕ぎ着けたそう。
「これまで当社は、企業や工場向けの製品、つまりB2Bのビジネスが中心でしたが、今回の両面テープはゴルフショップや工房などで使う流通向け商品になると思います。商品は4月中旬か遅くとも5月には発売したい。ただ、現時点では両面テープの厚さ、幅、長さなどが決まっておらず、価格も未定です」(営業1部・林義信部長)
「なにせ、新規参入なのでわからないことだらけですが、多くの業界関係者からの問い合わせがあるので、期待できると思っています」
会場では、乾燥に要する時間は24時間と説明していたが、季節によっては2時間程度でグリップとシャフトが動かなくなる。ところが、これまでの石油系溶剤ではなく水を使用することから、揮発性に乏しいという声も聞かれる。
「100%揮発する保障がなく、仮にシャフトがスチールだとしたら、シャフト内部が錆びる可能性は否めない。カーボン専用と謳えば聞こえはいいが、過去にも同様の製品がありメジャーにはなっていませんね」(業界関係者)
ただし、工房作業の環境改善につながるほか、臭いを気にする百貨店のゴルフ売場で使用できるなど、水でグリップを装着できることで潜在需要が期待できる。
「グリップ交換が多いときは、1ヶ月で一斗缶の溶剤を使います。値段は4000円ほどだから、『グリップテープ水』の価格は分かりませんが、溶剤代が要らないので多少の経費削減になります。手荒れについてもメリットがある。特に冬場は揮発性の高い溶剤を使用すると、手の平が荒れて痛むので作業効率が低下します。『水』だとその心配はありませんし、揮発性の溶剤を使用できない売場環境や、ゼロ・エミッションを目指す企業が導入することも考えられます」(都内北区・ゴルフショップチョイス吉田昌弘店長)
前出の林部長が語気を強める。「貼付後にテープを濡らす水は、グリップの内部に入る量で十分です。しっかり水滴を落としてグリップを装着すれば、24時間で乾燥します」
粘着加工製品の老舗が挑む「溶剤いらずの両面テープ」。市場でどんな評価を受けるのか。