月刊ゴルフ用品界2018年10月号「地クラブの神髄」掲載。
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出藍の誉れ――。
六十年を超える共栄の技。匠達が、合力を求める者達の願いを叶えるために、磨き、培われてきた業。
其の黒子の心意気を、秘められた巧手を使い手の為に施したのが匠ジャパン。先代・坂本環は鍛造場を造り、研磨場を造り、そして鍍金場を造った。
そして鍛造で背中の抉れた鉄も作った。越えられない壁。そして超越する思考。引き継ぐべき技。青は藍より出でて藍より青し――。
坂本環が成し得た礎に、新たな息吹を吹き込む坂本敬祐。三代目と目される坂本翔琉に伝承されると想い。そして決意。故に、二〇一七年七月十一日、歩み始めたTK2。
其の新たな歴史に、二〇一八年秋、新たな想いが共鳴する。其処に作り手の神髄があった。
神髄一 超えられぬ史実に挑む二代目の覚悟
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi2.jpg" alt="共栄ゴルフ 外観" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50967" />
六十年に渡り重ねられた史実は、変えようがない。
「何せ、若者の仕事場ができる。そのことが近所の若者の希望の光となった」――。
共栄ゴルフ工業の創始者である坂本環を知る現会長・坂本みち代は、創業当時をそう語った。
兵庫県神崎郡市川町。国産アイアン発祥地の最古参である共栄ゴルフ工業には、単なる鍛造工場だけに非ず、働き場という使命をも負った。故に、歩みは止まらない。坂本環は鍛造場を造り、研磨場を造り、鍍金場を造った。そして血気盛んな若者の生きる場を興した。其の物語は、日本のゴルフを支えてきた。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi1.jpg" alt="共栄ゴルフ 二代目社長 坂本敬祐" width="788" height="525" class="size-full wp-image-50966" /> 共栄ゴルフ 二代目社長 坂本敬祐
礎を築いた者への想いは、敬愛でもあり、されど、伝えられた者へは重圧であり、超えられぬ歴史。故に、二代目・坂本敬祐は腹を決める。
「先代が創り上げた礎石には、刻まれていないものがある。それは世に知らしめること。そして匠達に誇りを持たせること」――。
共栄の歴史は黒子の歴史である。故に、合力を求める者達の嗜好の中で、技は磨かれ、其れを持ち合わせながら日の目を見ないものがある。
「白日の下にさらされなければ、作り手の想いは届かない」
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi11.jpg" alt="匠ジャパン" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50976" />
継ぐ者の覚悟は、二〇一七年七月、匠の技を世に問う「匠ジャパン」、そして其れを知らしめるTK2を設立する。
「今日より、共栄は黒子に徹し、TK2は売り手となる」
腹をくくり、共栄が自らを表現した銘「ゼステイム」は、海の向こうに託した。それは過去、「VEGA」を欧州の売り手に託した経緯と似ている。
「黒子が自らの銘を持ち続ければ持ち続けるほど、現場は意識を削がれ、自らが何者かを忘れ、手が止まる。それが工場としての機能を低下させる」
銘を外に出せば、工場は黒子に徹することができる。手は止まらない。斯様な想いも見え隠れした。殊更に、日本の物作りでは職人が蔑まされる。
「この世界で一番高い給金を渡したい。それが匠達の誇りにもつながる」
誤解を恐れずに言えば、坂本敬祐は商人。匠達が魂を込めた商物を、俎上にのせて喝采を呼び込む。其れが二代目の務めであり、さもなければ作り手が浮かばれない。
其の想いが「匠ジャパン」、そして新たに興したTK2の意義と成る。超える想いが突き動かす。そして、海を渡る。
<h2>神髄二 遠い異国の地で与えられた値打ち</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi12.jpg" alt="匠ジャパン" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50977" />
二〇一八年四月。坂本敬祐は、「匠ジャパン」のウエッジを携えて、遠く職人文化が根底に流れるイタリアの地を踏む。ゴルフを生業にする者達に、その値を付けさせるために。
「この国は至る所にプロフェッショナルがいる。幼少期から街角の服屋に通い、着合わせを学ぶ。その繰り返しで、物作りの何たるかを知り、感性が磨かれる」
跳ね馬の紋章、時を経て馴染む革の履き物――。それらを生んだ風土が「匠ジャパン」を味わい、作り手の想いを分かち合った。
「腹がきまった」
異国への旅は、二代目の勝手な想いのみでは到底辿り着けない境地への道標となった。
「遠い異国の地で、わかり合える友がいる」
坂本敬祐の背中を押すに十分足る確証を得た。同地を地盤にして、欧州全土のわかり合える使い手のもとに「匠ジャパン」をあずけ、作り手の誇りを熟成する。そして、国産アイアン発祥の地で生きる作り手達を世界へ誘う。
「其れが先代が我々に残してくれた宿題。黒子の技を知らしめたい」――。
時代に即して出来ることがある。創業者・坂本環は場を造り、故に、
「追いつけない」
と、坂本敬祐は本音を吐露する。しかし、TK2は環の「T」、敬祐の「K」、翔琉の「K」を社名に込めた。伝承され、伝承する。其れに似た風土で、喜ばれた故に、新たな一歩が踏み出せる。そして、其の新たな一歩が、想いを市川町と遠い異国の地でつなげ、一方で時を同じくして、坂本敬祐は新たな男との出逢った。男の名は、片倉寛文――。趣味はパターデザインという金属加工を生業とするプロフェッショナルだった。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi4.jpg" alt="片倉寛文" width="788" height="525" class="size-full wp-image-50969" /> 片倉寛文―
「往時、彼は精密な金属加工のグリーンフォークを人知れず造り、売っていた。それが美しかった」
坂本の片倉に対する初見だ。そして言葉を交わす中で、片倉が生んだ道具の存在を知る。其れこそが、『2in1PUTTER』だった。そして二人の挑戦が始まった。
<h2>神髄三 転がるとは何ぞやゴルフは物理</h2>
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi6.jpg" alt="2in1パター 設計" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50975" />
片倉は学生時分、金属材料工学を学び、そして生きる道を金属加工に求めた。一方で、四半世紀前にゴルフにふれ、以来、例に漏れず使い手として苦悩に嘖まれる。
「狙った線に打てない」――。
同じ金属業仲間の工場を借り、「板切れに棒」のパター作りに精をだす。されど、玄人崩れが球転がしの道具ひとつ、容易に形に出来ない。金属を学び、物理を会得した男は、何故に、球が転がるかに考えを巡らせた。
「材質、重さ、形状。それが玉の運動、転がりに通じる。そして『順回転』と『転がり』は違う」
例えば、煙草の箱と同じ大きさの均一素材の金属がある。当然、重心は高さ、幅、奥行きを等分した処にある。その下を突けば、物体は上部が手前に倒れる。逆に重心より上部を突けば、上部は前方に倒れ、換言すれば上部が前方に転ぶ。つまり、球は重心より上を突くことで、前へ転び、前へ転がる。順回転とは似て非なるもの。
片倉は静かに口を開く。
「転がりとは芯に接して、前に倒れ込む。其れを起こす機能を形にした」
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi7.jpg" alt="2in1パター" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50971" />
球を転がす頭は、基本的に直進する。故に力の伝達は直進方向。しかし、頭の顔部には角度があり、下から上へ力は伝達される。その異なる方向の力は合成され、顔の角度より低い方向へ伝わる。芯より低いところへ。それが、逆回転を起こす事象となる。
「故に、如何に逆回転から順回転へ移行させるかが課題となる。しかし、顔の傾斜の上に傾斜を付ければ、合成された力は芯の位置に近づき、球は前へ転ぶ」
施したのは、ロフトのついたフェース面に、直角三角形を溝と溝の間に形づくった。
「この顔は大手のクラブ屋に持ち込んだ。ところが、結果、認められなかった」
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi8.jpg" alt="2in1パター フェース" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50972" />
其の道の職人とは言え、数多存在する金属加工屋のひとり。世界が変われば、誰も耳を貸さない。しかし、顔へのこだわりではなく、形状へのこだわりに琴線を揺さぶられたのが、新たな道を求めていた坂本敬祐だった。
<h2>神髄四 二つを一つに追いつける「初」</h2>
片倉にはもうひとつの苦悩があった。
「短い距離に恐れがある」
パッティングにおける感性の所作が、ゴルファーとしての片倉を苦しめた。感性と自動化――。道具でいうところの、鋭い形状と凡庸とした弁当箱。それをひとつの中に収める。それが、ピン型とマレット型を1本の、そして不可変重量で成す。何も足さず、何も引かずに。鍵は、
「格納する」――。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi9.jpg" alt="2in1パター 形状" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50973" />
形状は、いまでも報道を賑わせている米国海軍所属の輸送機「オスプレイ」。リトラクタブルなシステムを持ち、羽翼部が縦に格納される。一方、「F14戦闘機」は水平に羽翼部が格納される。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi10.jpg" alt="2in1パター 形状" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50974" />
「45度に反転すれば、ピン型とマレット型がひとつの塊で成る」
東日本大震災直前、素人の片倉寛文は、其のことに気が付く。
往時、坂本は形状に対して、
「興味を掻き立てられた。『匠ジャパン』は、超えるべき歴史がある。そこに『初』というものが必要だった」
先代が築いた場。同じ事では追いつけない。そこに表れたのが、ひとつでふたつを成す片倉のパターだった。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi5.jpg" alt="2in1パター 設計図" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50970" />
「其処から坂本氏と一緒に何度も設計図を書き直した」――。
片倉の生業はゴルフではない。しかし、坂本は、
「故に、その発想たるや、いまの我々に必要なもの。自らのために道具を造る。其れが自らを離れ他の者の苦しみに共鳴する。それは長年我々が苦しんできた物作りに通底する」
さすれば、片倉の生業に異を唱えることは無い。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/takumi2.jpg" alt="匠ジャパン 2in1パター" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-48152" />
「物作りには終着点がない。僅かな進歩でも使い手の利益を考える。其の上で、『2in1PUTTER』は『初もの』であり、御客様に恩恵を与える。其れを造る為の匠の集団が『匠ジャパン』でもある」
二人の男が、異なる苦悩を共有した。商売気がないといえば、語弊がある。されど、匠は何故に生きるのか。その解が、『2in1PUTTER』であり、其れを受け入れるのが匠ジャパン。青は藍より出でて藍より青し――。其れが匠ジャパンの神髄でもある。
<img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/takumi13.jpg" alt="匠ジャパン 2in1パター" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50978" />