今年も日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)プロテストの季節がやってきた。第1次予選は、7月19日の西日本CC(福岡県)を皮切りに5か所で行われ、9、10月の第2次予選を通過した上位者が、最終プロテストに進む。今年は難関・JFE瀬戸内海GC(岡山県)が舞台となり、10月31日から4日間、上位20位タイまでが合格者となる。
2019年の制度変更以来、試合の出場権を決定するクォリファイングトーナメント(QT)の受験資格が、JLPGA会員に限定されたことでプロテストの重要度が増した。昨年の総受験者数は649人で、合格者は18位タイまでの20人。合格率はたったの3・1%だった。
今年はさらに受験者が増加し競争は激化する。毎年この時期になると極度のプレッシャーから食べ物が喉を通らなくなり、体重を落とす選手が多いと聞く。試合当日となれば、人生の岐路が決まるため会場は独特の緊張感に包まれ、受験経験者は「プロテストだけは二度と受けたくない」と口にするほどだ。
JLPGAではゴルファーの指導や普及を図ることを目的に、「JLPGAティーチングプロフェッショナル会員」の養成も行っている。実技試験、講習会、入会審査に3年を要し、資格修得までにかかる諸経費は約230万円。これに交通費や宿泊費、食費などが加算される。従来はツアープロ、ティーチングプロ、いずれの正会員にもQTの出場権があったため、制度変更以降は、時間と費用をかけてでも可能性を求める選手が増えていた。指導者の資格から、ツアーを目指す動きである。
ところが昨年12月、JLPGAはこの動きに歯止めをかけるため「実力差によりトーナメントの運営に支障が生じる可能性を考慮」し、QT受験資格の規則変更を発表。「ティーチングプロフェッショナル会員においては、JLPGAツアーの競技優勝1回以上の者及びトーナメント事業部が別途定める基準を満たした者とする」との注釈をつけた。これを受けて「2023JLPGAティーチングプロ競技会」(茨城・静ヒルズCC、7月19~21日)が開催され、47人が参加。上位15人に、11月開催のQTファーストステージへの出場資格が付与された。
現在、亜細亜大学法学部4年生の縄田屋ももかは、5回目のプロテストの準備と必要単位修得で二足のわらじを履く多忙な日々を過ごしている。
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/10/2_nawataya.jpg" alt="" width="1000" height="819" class="size-full wp-image-79226" /> 縄田屋ももか
プロテスト受験資格の年齢を「18歳以上」から「17歳以上」に引き下げた2019年には高校在学中で、1度目のプロテストに挑戦できたが、2次予選で敗退。翌年はコロナ禍で延期となり、その後も調子の波を合わせられず、合格には至っていない。ティーチングプロフェッショナル資格も同時に受験中で、今年には修得予定となっている。制度変更について聞くと、
「ティーチングプロの資格を受験し始めてすぐくらいに、噂でQTの制度が変わるかもしれない、受験資格が無くなるかもと言われていたので、やっぱりかという感じでした」
と、複雑な心境を語った。
また、識西諭里は、昨年6月の海外メジャー「全米女子オープン」に日本地区予選を経て出場し、レベルの高さを目の当たりにして米国ツアーへの挑戦を決意。7度目のプロテストに落ちたその日に欧州ツアーQTのエントリーを済ませ、準備を進めた。米国下部ツアーの出場権および欧州ツアーのほぼ全ての試合に出場できる切符を勝ち取り、世界中のフィールドで転戦を続けている。
開幕戦での5位から始まり、7月にはシーズン2度目のトップ10入りを果たし、欧州ツアーポイントランキング60位のシード確定ラインを目指す。10月のプロテスト第2次予選が迫る中、心境を聞いた。
「欧州ツアーを優先させるのか、プロテストのために帰国して準備するのか。一応、受験予定でここまでやってまいりましたが、まだはっきりと申し上げられません」
好きな言葉は「意志あるところに道は開ける」。未来は自分の手で切り開くしかないが、過酷すぎる制度の変更を切に願うばかりだ。
女子プロゴルファーにそれぞれのプロテストへの想いを聞いた。
<strong>山口すず夏(3回目の受験)</strong>
2015年に「全米女子オープン」日本地区予選会で2位となり、日本人史上最年少の14歳で本選に出場しました。当時は制度変更前で、高校卒業後半年はプロテストが受験できず、米女子ツアーQTで出場権を獲得、2019年から米ツアーに参戦しました。その矢先、翌年からコロナ禍で大会中止が続き、帰国。2021年の初挑戦では通過ラインに3打届かず、京都の会場から神奈川の自宅までクルマの中で泣き続けました。プロテストに合格して日本のツアーで賞金女王になりたい。その後、米ツアーに戻りたい気持ちが強くあります。五輪出場も視野に入れて、世界ランク1位を目指します。
<strong>識西諭里(8回目の受験)</strong>
欧州ツアー開幕戦の5位に始まり、シーズン2度目のトップ10入りを果たしました。事前に海外ツアーの情報が少なく、どこまでやれるか未知数でしたが、優勝争いと予選落ちのどちらも経験して、やりがいを感じるし、やれるという気持ちが持てるようになりました。今まではプロテストのために生活をする日々で、毎年テストの時期になると「なんでゴルフをやっているのだろう」と落ち込んでいましたが、最近は「これも人生」と開き直ってます。出場試合が限られる中、とにかく結果が欲しいし、優勝したい。焦る気持ちを抑えて、目の前の試合に集中して勝つ準備を整えたいです。この先どうなるかは誰にもわかりません。でも前例がないことにとてもワクワクしています。道は自分で開くもの。私が開拓した道を誰かが通ってくれたらいいな。
<strong>三塚優子(実技テスト免除)</strong>
<img src="https://cms-backend-gew.com/wp-content/uploads/2023/10/3_mitsuka.jpg" alt="" width="1000" height="914" class="aligncenter size-full wp-image-79224" />
プロテストはあっていいけど、LPGA正会員でなくても、QTに参加できていいのではと思います。私は2006年のファイナルQTで6位に入り、当時の制度で単年度登録をしてレギュラーツアー出場権を得ました。「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」で初優勝したので、プロテストを免除、正会員になれました。4勝しましたが、ケガで思うように練習ができず、2016年にツアーを離脱。ずっとゴルフしかしてこなかったので、今は山登りや蕎麦屋巡りなどの趣味に没頭して、2年ほどクラブを握っていません。「引退」はしてないので、メジャー優勝の権利で出場できる試合で復帰するかもしれません。プロテストに受かる自信がないので(笑)、資格保持のためLPGAの会費は払い続けてます。
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この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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