今年7月、創業65周年を迎えた朝日ゴルフは「ゴルフ専門商社」として知られる。同業他社が次々と姿を消す中で、体質転換を図ってきた。昨年の売上は、5割程度を大手外資系メーカーの卸業で賄い、残りの半分を自社開発の商品で構成する。「15年前は9割を卸業で占めていました」(内本浩史社長)というから、明らかな変貌ぶりが伺える。
その自社商品を牽引するのが、累計販売数100万台弱のGPS距離計『イーグルビジョン』シリーズ。問屋無用の時代を粘り腰で生き抜く三代目社長の内本氏に、『イーグルビジョン』の楽しみ方と『ピンポジスポット』の取り組みを聞いてみよう。(聞き手:片山哲郎、構成:浅水敦)
<strong>朝日ゴルフは今年で創業何年目に入りましたか?</strong>
「65年です。私は3代目で2009年に社長へ就任しました。もう14年になるんですよね。早いなぁ」
<strong>14年の間に様々な改革を遂行してきましたね。</strong>
「メーカーと小売りの中間に位置する「問屋」も例外ではなく、一時は『問屋無用論』がいわれたものです。流通網の発達によって、メーカーと売場が直でつながった。〝脱問屋〟を志向する上で必要だったのが『自社商品』の開発でした」
<strong>その代表作がGPS距離計の『イーグルビジョン』。初号機の発売時期は?</strong>
「1号機は『イーグルビュー』という製品名で2009年のデビューです。まだカテゴリー自体がないゲテモノ商品でしたが、僕の考える方向に合致した商品だと直感したんです。それで専門の技術者を招集し、チームを整え事業をスタートしたのが2008年。その翌年に『イーグルビュー』の発売と僕の社長就任が重なったので、この商品とは縁を感じますねぇ」
<strong>ゴルファーの様々な履歴をインプットできる利便性がウケ、今では自社商品売上の約5割を占めるヒット商品に成長している。参入時の状況は?</strong>
「コースマップ作成にあたり、ゼンリンへ出向くわけですが、今思えば同社会長に直接会えたのが大きかった。この方はカーナビを作った実績がありましてね。先方は朝日ゴルフなんて会社は知りませんから、面接されているようでした(笑)」
<strong>口説き文句は?</strong>
「単なるGPS距離計ではなく『新たなゴルフ文化』を創造したい、新しい価値を生み出したいと訴えたのを記憶してます」
<strong>ほとんど即決みたいな感じですか?</strong>
「はい。当時はセルフプレーが増えてきて、機能面でいうと残り距離を表示させる。単純にそれだけなんです。でも、突き詰めるとゴルフっていうのは、好きじゃないと長続きしないじゃないですか。やがて、人生の一部になってくる。距離が分かると今までとは違う楽しみ方が生まれ、もっとゴルフライフが豊かになると熱弁を奮いました」
<strong>キャディーに頼らず自分でジャッジする。人のせいにできません。</strong>
「そう。例えばピンまで残り153ヤード地点。ここから何番で打とうか等いろいろ考えるじゃないですか。風向きや強さをはじめ左足が上がってたり、前下がりだったり、瞬間的に〝グッ〟と集中して考えるのが面白い」
<strong>距離がわからないと考えようがない。疑心暗鬼に駆られますね。</strong>
「距離が分かると、そこを起点に考え始める。ゴルフの奥深さですよね。まぁいいか、じゃなくてはっきり153ヤードを認識することで集中力を増していく。そのトリガーを引いてくれるのが『イーグルビジョン』なんです」
<strong>なるほど。これまではキャディーがいちいちやってくれた作業を普通の人ができるようになったことが大きい。社内での反対論みたいなのはあったんですか?</strong>
「ありません。近い将来、世の中はそういう時代になると確信していました。社員は大変ですけど。でも新しいことにチャレンジする姿は楽しそうに見えたなぁ」
<strong>2019年1月、世界的なゴルフ人口の減少を重く見たR&AとUSGAはゴルフ規則の改定に踏み切った。用品業界の視点で注目されたのが、新規則「4.3距離計測器の使用」です。</strong>
「これまで、プレー中の距離計測にGPSやレーザー距離計の使用を禁じていましたが、新規則では『ローカルルールで禁じない限り使用できる』ようになりました。背景には、プレー進行を速めることで『ゴルフは長時間』の悪評を払拭する狙いがあり、我々に千載一遇のチャンスがやってきた」
<strong>距離計の使用がルールの中で認められるようになった。まさに追い風ですが、距離計市場が膨らみ始めたのはいつぐらいですか?</strong>
「2019年のルール改定です。そこから爆発的に伸びていくんですけど、実は水面下でR&Aと接触してきたんです。最高技術責任者のスティーブ・オットー博士(用具規則ディレクター)から、プレー中の距離計使用がPLAY FASTに繋がるのならそのエビデンスを提出しなさいと。ルール団体としてもゴルフは非常に長い時間がかかるスポーツというのは認識していて」
<strong>何年頃の話ですか?</strong>
「2013年だから、いまから10年前です」
<strong>どんなデータを提出した?</strong>
「20~30人だったかな。同じコースでイーグルビジョン有りと無しで社内コンペをやりましてね。実際のところスコアがどれだけ違ってくるだろうと。すると、使用後の平均スコアが上がったんですね。個別にグロスを見ていくじゃないですか。で、スコアが下がってるのは僅か2、3人だった。その中に僕が入ってたからよく覚えてるんです。まぁ前年から使ってましたから(笑)。つまり、1打に要する時間が短縮されるからPLAY FASTになる。これを数値化して提出しました。現在はもっと精度の高いデータを渡していますけどね」
<strong>オットー氏は距離計のマーケットサインを送ったと思うんですよ。個体数でいうとどれくらい伸びたのか?</strong>
「それはもうグーンッと伸びましたよ。18年が9万台で19年は12万台を出荷しました」
<strong>一気に3割増。マーケットシェアでいうと19年のシュアは何%?</strong>
「最大40%です」
<strong>すると、市場はトータル約50万台の計算になりますが、ここをベンチマークにまだまだいけそうですか?</strong>
「2009年の発売時は、これからみんな距離計測器を持つようになるぞって」
<strong>進軍ラッパラッパ吹いて(笑)</strong>
「その頃の営業部隊の感覚は、本当にそうなるのか???だったと思いますよ。僕ですか。ないです、ないです。もう100%いけると思ってましたから」
<strong>GEWはゴルフ人口800万人規模を言い続けているんですけれど、それでいうと、およそどれくらいのゴルファーが持つイメージですか?</strong>
「ゴルフ好きな人や競技に出られる方は既に持っているでしょう。イーグルビジョンの累計販売数がまもなく100万台に到達しますが、レーザーやGPSをそれぞれ使っている人、レーザーとGPSも併用するなど三者三様ですからねぇ」
<strong>では、100万台に届くという中で、何割がリピーター?</strong>
「一人で3台持ってます、という人もいますし1台あたりのバッテリーの持ちもいいので、感覚だと60万人くらいですかね」
<strong>結構すごいことじゃないですか。</strong>
「いえいえ、全然足りませんよ。我々はハードよりもソフトウェアの方に資金を投入しています。一つはスマホのアプリケーション、それからゴルフ場のインフラの部分です」
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<strong>具体的には</strong>
「まず、GPSで一番重要になってくるのがコースデータの管理です。コースを改修したらデータも最新に更新しないといけないわけですよ。ゴルフ場データの修正は、ゼンリンがチェックすると同時に現地で測量する部隊も有してます。幸い物販でゴルフ場との接点を築いてきた経緯があるので、そういった情報も入りやすい環境にありますが、とにかくインフラ整備に注力しています。ここが他社メーカーとの一番の違いでしょう」
<strong>市場におけるレーザーとGPS距離計の割合は?</strong>
「直近だと5:5です」
<strong>レーザーの方がきっちり距離が取れて、GPSは衛星から来てるからブレるなんて声もありますが、その辺はどうなんですか?</strong>
「レーザーは既設仕様ですから雨天だと使えなかったり、2~3ヤードの誤差は生じますよ。GPSは衛星からの距離を常に計算してるので、その誤差分が2〜3ヤードと理解してください」
<strong>なるほどですね。それ以外では?</strong>
「レーザーは自分で測るから、能動的に確認する一方、GPS距離計は受動的に見るため自分で測った感覚がないですよね。だからブレやすいなんて声がでてくるんだと思いますよ」
<strong>従来、デジタル機器の販売に対して苦手意識を持っていた小売店も、積極的な勉強会開催やサポートセンターの設置により販売に勢いを増している。</strong>
「はい、製品本体にサポートセンターの番号が入っていて、一般のユーザーをはじめ小売店からの問い合わせにも対応しています」
<strong>使用方法もそうですが、これを使った楽しみ方を含めて啓蒙する必要がある。</strong>
「そう。だから勉強会が大事なんで、当社ではマーケティングセールスと呼んでいて『イーグルビジョン』の専従に営業部隊が紐づきます。特に大事なのがショップの『腹落ち』で、ストンと落ちると第1ハードルがクリアされる。まずは店員さんに理解してもらうことが凄く大事で、その流れで来店客に説明する循環ができると分母が広がる。
同時にゴルフ場でのレンタルですね。月例競技で使用が広がれば、シャワー効果が期待できるし、トーナメントのプロキャディと契約して販促してます」
<strong>需要創造はメーカーの役割で、問屋にはない機能ですが、御社がこれをやるのは初めて?</strong>
「だと思います。店舗ごとの勉強会やセルフ販売を促す店頭ツールにも注力して、店舗や顧客の問い合わせにはサポートセンターで6名が対応します」
<strong>そういった中で、ハードだけを売るのではなく、インフラもきっちり整備していくということなんですけど、ピンポジ君のスタートはいつでしたか?</strong>
「2015年です。ピンポジ君は他社にはない唯一無二の機能でしてね。もともとはピンシート発行機からスタートしました。ゴルフ場が手書きでやっていたピンシートを簡単に出力生成できる仕組みで、これをクラウドに上げて、イーグルビジョン本体へダウンロードするというのが当初の戦略にありました」
<strong>スマホ経由でデータ受信するピンポジ君に加え、最近は自動でイーグルビジジョンに送信される『ピンポジスポット』事業に注力。違いを簡潔にいうと?</strong>
「『ウォッチ5』などBluetooth搭載モデルとスマホのイーグルビジョン無料アプリ『EV PRO』を介することにより、当日のピン位置データがお客様のイーグルビジョン端末へ表示されるのが『ピンポジ君』です。新事業の『ピンポジスポット』では、ゴルフ場の一定のポイントを通過するだけで、スマホやアプリを介さずに自動的にピン位置がダウンロードできるサービスになります」
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<strong>ピンポジくんの導入コース数とゴルフ場側の作業工程は?</strong>
「約600コースです。まずグリーンのデータを取るじゃないですか。一番微調整が必要なのがエッジポイントなんです。ここを最下点に回転させながらグリーンの位置をクッと戻す。次はアンジュレーションの確認をして、矢印を入力していきます。一連の作業をグリーンキーパーがやると、アンジュレーションではなくて、ボールの挙動を描くんです」
<strong>競技ゴルファーや初めてそのコースでプレーする人にとってはありがたい。そのうちピンポジスポットは、現在何コース導入済みですか?</strong>
「約100コースですが、僅か1年でそこまで漕ぎつけたので、いいペースだと思うんですけど」
<strong>ピンポジスポットをゴルフ場が導入する場合の費用は0円。オープン装置として広める戦略ですか?</strong>
「基本的にピンポジ君は0円です。でも通信と機材を導入するので、ここの部分の料金はいただいています。月に6000円ほどですが、設置コースではイーグルビジョン本体の売上向上が相乗効果として表れています。愛知県のとあるゴルフ場では年間300台販売の実績があります。ソフト&インフラの両面でシェア向上を狙っていきたい」
<strong>一連のピンポジ導入目標としては何コースを目指す?</strong>
「1年以内に1000コースを超えたいですね。その実現のために紹介キャンペーンを始めました。うちの取引先であるショップさんがコースを紹介して、ピンポジ君が導入されるともれなく神戸牛をプレゼント中です(笑)」
<strong>いいアイデアですね。それ以外では?</strong>
「ユーザーがピンポジ入れてって言ってくれるケースが増えています。ピンポジ君に慣れてるから、直接マスター室に進言してくれる。ゴルファーサイドから背中を押されるっていうのが理想ですね」
<strong>最後にお聞きします。内本社長にとってイーグルビジョンとは?</strong>
「ゴルフを始めた人が、最短でゴルフの奥深さを知ることができる。ここに尽きます。
<strong>従来は、新製品の充電時間がすごく伸びたとか、より多くの衛星から電波を受信できるようになったなど、ハードウェアや価格で選ぶ時代でした。</strong>
これからは次世代ゴルファーの楽しむ姿を見据えなければいけません。ピンポジスポット事業はその可能性を飛躍的に高めます。来春投入のイーグルビジョンの新機種も楽しみにしてください。我々がさらにGPS距離計市場に風を吹かせます!」