• TOP
  • GEWとは
  • ライター一覧
  • GEW 購読申し込み
  • GEW 見本誌申し込み
  • 広告掲載について
  • 運営会社
  • 事業内容
  • 企業理念・ミッション
  • CEOメッセージ
  • 会社沿革
  • プライバシーポリシー
  • サイトポリシー
  • お問い合わせ
  • ゴルフ業界求人
  • PGA会員専用求人
  • 月刊GEW2月号 米国三大メーカー同時発売 どうなる巳年のクラブ市場

    ハッシュタグ「松浦真也の現場放浪記」記事一覧

    超大手ブランドから地クラブまで、シャフト転写シール製造現場を発見。 ゴルフ用品の一大生産拠点である中国の工場現場から、カーボンシャフトが出来るまでについてお伝えします。前回でシャフトの素管(そかん)まで完成しました。今月も広東省東莞市にある熙川復合材料制品有限公司からお伝えします。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/matsuura/g_54222">前回(第11回)の記事はこちら</a> <h2>シャフトにも研磨?</h2> シャフトを成形焼付後、外周を覆うテープを除去したままの状態では表面にプリプレグの樹脂が固まって出来た凹凸が残っています。それを除去し、設計通りの外径寸法に仕上げるために研磨を行います。 研磨機はシャフト専用の自動研磨機を使っていました。装置の大きさは幅1m、奥行3mほど。まず最初に搬送部にシャフトをセットすると、コンベアで自動的に一本ずつ装置内に送られます。 装置内ではシャフトは縦方向に細い道を進んでゆき、その道の左右には研磨ホイールが高速回転しながら待ち構えています。内部には水が流れ、まるで自動車の洗車機のようです。 社長の魏さんによると、この自動研磨機は10万元程度(約150万円)で「量産のためにはこの装置が必ず必要よ。一日に最大で3000本以上処理できるよ」とのこと。あっという間に、綺麗なカーボン素材の地肌になったシャフト素管の完成です。 <img class="aligncenter size-full wp-image-55908" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/matsuura2.jpg" alt="町工場が作る流行りのシャフトデザイン" width="788" height="525"> <h2>塗装は「しごき」</h2> 素管は次に重量や外径、振動数などの品質検査を行い、合格品は塗装工程に進みます。塗装はスプレー塗装をする場合もありますが、ここでは伝統的な「しごき塗装」が行われていました。 これはシャフト素管を塗料容器に先端から入れ、容器ごと傾けて塗料にドブ浸けしつつ、バット側から引き抜いて塗料を付着させる塗装方法です。引き抜きの時に、余分な塗料をしごいて除去するのでこうした呼び方をします。 作業は職人による手作業。塗料容器を傾け、それを元に戻しつつシャフトを引き抜き、塗料をしごき落とすのは相当な経験が必要。「均一な厚さで塗装するのは難しいよ」とは魏さんの弁。この後、シャフトは電気炉で塗料の焼付けを行います。この作業でシャフトと塗料は完全密着されます。 <h2>転写シールの製造も行う</h2> 近年においてはシャフトの表面に大きくメーカーのロゴや特徴的な図柄などが印刷されています。完全にシャフト外周全てに模様が印刷されているシャフトも増えてきました。 これを実現するのが転写シールです。あらかじめロゴが印刷されたフィルムを製造し、下地塗装後のシャフトに熱転写していく方法です。熙川復合材料制品有限公司では、この転写シールも大量に製造していました。 <img class="aligncenter size-full wp-image-55907" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/04/matsuura1.jpg" alt="町工場が作る流行りのシャフトデザイン" width="394" height="525"> <h2>巻き物フィルム</h2> まずはベースとなるフィルムです。長さは最大数百mにもなりロール状に巻かれています。これを長さ40m程もある長い机の上にコロコロと広げていきます。フィルムの幅はシールの種類に応じて選定。30㎝程度のものが多いそうです。 この広げたフィルムに対してシルクスクリーン印刷を行います。これは専用の「スクリーン版」を作り、一色ずつ手作業で印刷していく方法です。色数が多く、複雑なデザインの場合はスクリーン版が6枚~8枚にもなるとのこと。版を透明フィルムの上にセットし、上から塗料をヘラで往復させてフィルムに付着していきます。 その後、フィルムは作業場の天井付近で長い状態のまま室内で自然乾燥させていました。室内の空気を扇風機で循環させ、ひらひらと踊るフィルムはまるで「鯉のぼり」の製造工場のようでした。 魏さんによると、「この工程も自動化を考えています。将来は大手シャフトメーカーの仕事も請け負いたい」と意欲的でした。 <h2>熱転写してシャフト完成</h2> 完成した転写フィルムは再びロール状に巻かれ、転写工程に移ります。専用の熱転写機にロールをセット、シャフトを所定位置にセットしスタートするとフィルムが自動的に下りてきて密着。 加熱ローラーで加熱しながら、グルっとシャフトを回せば、シャフトにデザインが転写されます。この間わずか数秒ほど。装置1台で最大一日1万本以上の印刷能力があるそう。 こうして綺麗にデザインが印刷されたシャフトは、クリアー塗装がされて完成となります。シャフトは、長さ、重量、振動数、フレックス、外観検査を経て、クラブの組立工場やシャフトメーカーに出荷されていました。 <h2>MADE IN JAPANは復活するのか?</h2> 1年にわたって中国のゴルフクラブ製造の現場からレポートしてきましたが、今回で一区切りとします。実際の製造現場の雰囲気をお伝えできればと始めたこのレポート、連載が進むにつれていかに世界のゴルフ用品製造が中国、特に広東省という「巨象」抜きでは語れない状況なのか、痛感させられました。 米中の貿易戦争が懸念される昨今、ゴルフ用品の市場もこうしたリスクを意識せずにはいられません。 1988年に私の父が初めて中国大陸にヘッド研磨工場(現在のSINOゴルフ)を立ち上げてから今年で30年。既に世界の大手ゴルフクラブメーカー製品は大半が中国製になり、その技術革新のスピードには日本のゴルフ製造業は追いついていないと感じます。MADE IN CHINAはもう高級品なのです。 いつの日か日本のゴルフ製造の再興を願いつつ、レポートを終わります。またどこかの現場でお会いしましょう。 <hr> <a href="https://www.gew.co.jp/attention/matsuura">松浦真也の現場放浪記の記事一覧はこちら</a> 月刊ゴルフ用品界2018年5月号に掲載された「現場放浪記 第12回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら。</a>
    (公開)2019年04月15日
    ゴルフ用品の一大生産拠点である中国の工場現場から、今回はカーボンシャフトが出来るまでについてお伝えします。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/matsuura/g_53220">前回(第10回)の記事はこちら。</a> <h2>シャフトメーカーの実態</h2> <img class="aligncenter size-full wp-image-54237" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/matsuura2.jpg" alt="シャフトメーカーの実態" width="788" height="525" /> 中国におけるシャフト製造は専業で行っている工場は少なく、大手クラブ製造工場の一部門として製造している場合が殆どのようです。 その場合、ゴルフクラブ全体として一体的な製品開発が可能で、大手シャフトメーカーとの提携やクラブメーカー独自のオリジナルシャフトの製造などメリットが多い反面、製造する数量も1モデルにつき数万本から、といった大量生産が前提になります。 一方、数百本単位での製造は日本の国内工場が得意とするところで、高付加価値、高品質なシャフト製造が可能ですが、コストは安価にとはなりません。 今回、中国において数少ない中小規模のシャフト工場、広東省広州市にある熙川復合材料制品有限公司を訪れ、工場責任者の魏素云さんに話を聞きました。 前職は中堅クラブ製造工場のシャフト事業部の責任者であった魏さんは、2005年に独立し同社を立ち上げました。社名の由来は、当時シャフト製造の技術提携をしていた日本の大手シャフトメーカーの技術担当者の名前からつけたそうです(熙川で「にしかわ」と呼ぶそうです)。 それでは製造手順を見ていきましょう。 <h2>原材料は「プリプレグ」</h2> <img class="aligncenter size-full wp-image-54236" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/matsuura1.jpg" alt="原材料は「プリプレグ」" width="788" height="525" /> カーボンシャフトの原材料は勿論カーボン繊維。でも単体では極細の繊維に過ぎません。これをシート状に平らに並べて樹脂で固めたものが「プリプレグ」と呼ばれる原材料です。 通常シャフト工場はこのプリプレグを繊維メーカーから購入し在庫しています。プリプレグは薄いシート状のためロール状に巻かれ、大きいものでは幅1m×直径50cm程度になっています。強度や繊維の密度などによって細かく種類が分かれています。 <h2>材料は冷蔵庫で</h2> プリプレグの樹脂は温度に弱いため、シャフト工場では必ず冷蔵庫に入れて保管。常に4℃をキープしているそうです。 魏さんによれば、「冷蔵庫が故障したら材料全部パーになります。ロール1本で百万円するから、注意していますよ」とのこと。工場の一角に大きな冷蔵室が設けられ、厳重に管理されていました。 <h2>材料裁断</h2> プリプレグをシャフトにするためにまず裁断です。まずロールを伸ばし直線カット。メインとなる部分のほか、シャフト性能を決める補強材料と呼ばれる小さな三角形状のパーツなどに裁断していきます。 裁断は大きな油圧裁断機を使っていました。魏さんによれば「裁断機だけなら数万元だけど、どのように裁断するかは企業秘密!」とのこと。 <h2>プリプレグの巻きつけ</h2> 材料はまだペラペラのシート状です。これをマンドレルと呼ばれる芯棒に巻き付けていきます。 実はこのマンドレル、最終的にカーボンシャフトの中の空洞部分になる部分であり、シャフト性能を決める重要な要素。細いマンドレルで製造すると空洞部分が少なくなり重く・硬いシャフトに、太めのマンドレルでは軽く・柔らかいシャフトになります。 また外径の変化の度合い(テーパー度)や真円度にも高い精度が求められ、いわばシャフトの「カナガタ」です。シャフト1本の製造にマンドレル1本が必要なため、同じ種類のものを100本程度は準備するそうです。 巻きつけ作業の最初はアイロンで温めながら、プリプレグの端部をマンドレルに貼り付けること。棒に1枚シートが張り付いた「旗」のような状態にします。 <h2>まな板の挟み技!</h2> <img class="aligncenter size-full wp-image-54238" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2019/02/matsuura3.jpg" alt="まな板の挟み技!" width="788" height="525" /> 次に自動巻き付け機にセット。これは大きな二つのまな板が上下に組み合わさった様な機械です。先ほどの「旗」を下側のまな板の上に置いてスタートボタンを押すと、上からもう一つまな板が下りてきて挟みます。 そしてまな板同士が互いに逆方向にスライド。芯棒(マンドレル)は二つの板の間でコロコロ転がりながらプリプレグの「旗」が巻き付いていきます。 この巻き付け機による作業は3工程に分かれ、最初にメイン部の材料を巻き、2工程目、3工程目は小さく裁断した補強材料を部分的に巻き、シャフト性能の味付けを行っていました。 <h2>テープ巻き</h2> マンドレルに巻き付けたプリプレグはそのままでは解けてしまうので、次工程の焼付け・硬化までは一時的にテープ巻きをしておきます。まるでセロテープのようなテープをぐるぐる巻き付けていきますが、これも機械で巻き付けます。 1本20秒程で巻き付け完了です。 このようにして、シャフト製造はマンドレル1本1本にプリプレグを巻き付けて準備をしていきます。 <h2>電気炉で焼付け・硬化</h2> 次にこのマンドレル・プリプレグを電気炉にセット。一度に100本以上の処理ができるとのこと。 プリプレグは樹脂とカーボン繊維から出来ていて、オーブンで焼付ける事で樹脂が溶け、巻き付けたシートが一体化し、シャフト状に硬化します。「加熱温度は110℃~140℃、時間は3時間半程度ですね」とのこと話でした。 <h2>シャフト「素管」の完成</h2> 加熱後は放冷し、そのあと先ほどのテープを取り除きます。最後に専用の機械でマンドレルを引き抜く「脱芯」を行えば、ようやくカーボンシャフトの形の「素管(そかん)」になります。 次回では素管からシャフトが製品していくまでの工程を紹介します。どうぞお楽しみに。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/matsuura">現場放浪記の記事一覧はこちら。</a> <hr /> 月刊ゴルフ用品界2018年4月号に掲載された「現場放浪記 第11回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら。</a>
    (公開)2019年02月27日
    月刊ゴルフ用品界2018年3月号に掲載された「現場放浪記 第10回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <p style="margin: 0 0 12px;">前回の記事はこちら</p> <a href="https://www.gew.co.jp/magazine">月刊ゴルフ用品界についてはこちら。</a> <hr> ゴルフ用品の一大生産拠点である中国の工場現場から、キャディバッグが出来るまでについてお伝えしています。今回キャディバッグに使われるプラスチック部品の製造を行っている広東省東莞市茶山鎮にある耀宇塑胶五金制品有限公司(東莞)を訪れました。 世界の90%シェアを誇る TDCAのブランドで昨年のジャパンゴルフフェアにも出展したこの工場は、約20年前からキャディバッグ用のボトム部品、口枠部品、持ち手ハンドル部分、スタンド式バッグのスタンド部品(脚)を主に製造しており、約1万5000平米の工場敷地内に、約200人の従業員が在籍。全員ゴルフキャディバッグの部品を製造しています。 工場責任者の張祖杰さんによると、世界のゴルフメーカーが同社のプラスチック部品を採用。そのシェアは「超大手がウチの部品を採用しているから本数では90%の世界シェアだよ」との弁。年間でキャディバッグ500万本分の部品製造をしているそうです。 キャディバッグに使われる樹脂部品は単純な構造や機能であるにも関わらず、売上規模は「1億元(17億円)以上」と。しかもゴルフメーカーに直接納入するのではなく、あくまでキャディバッグ製造工場への納品。いわば孫請け工場なのです。黒子の立場にも関わらず、そのシェアの大きさには驚かされました。 <h2>デザインから製造まで</h2> キャディバッグに使われるプラスチック部品であるボトムや口枠は、実は非常に多くの種類があり、同社が常時製造できる種類で800種類以上あります。 また近年は大手メーカーとの協働でデザイン開発することも多く、「超大手メーカーとも直接仕事しているよ」とのこと。専門の製品デザイン部門を配し、常にメーカーからの要望に応えているそう。それでは製造手順を見ていきましょう。 <h2>やはりカナガタ?</h2> 口枠やボトムは「射出成形」という工法で作られます。これは、製品形状をしたカナガタ(金型)にプラスチック原材料をドロドロに溶融したもの(湯)を射出し、冷えたところで離型して取り出す方法です。 複雑な形状や大型の製品まで製造することができ、バケツ、玩具などの民生品でも幅広く採用されている成形方法です。カナガタはオス・メスがあり樹脂の注入口があります。 工場ではこのカナガタも自社設計、自社製造。成形のノウハウが満載のため、決して外部には製造委託させないそう。自社で専任の設計人員を抱えているそうです。 <h2>手では持ち上げられない</h2> 最初にカナガタを射出成形装置にセットします。射出成形装置は160t、もしくは260tの圧力で樹脂を押し出すような構造をした大型機械です。その価格は約19万元(320万円)もしくは50万元(850万円)とのこと。 カナガタはオス・メスあり、一つが約60cm角のブロック状。重さは約200kgもあり、とても人の手では持ち上げられません。工場内には2.8tのホイスト(クレーン)が走っていて、それで吊り上げながらセット。 「カナガタを取り付けるだけで2時間はかかるよ」と張祖杰さんの弁。高圧で樹脂を射出するため、寸分違わずセットしないとバリなどの成形不良になってしまいます。現場では熟練の工員が手際よく作業していました。 <h2>二色同時に成形もできる</h2> 射出成形機は全部で約30台もあり、うち3台が「2色同時成形」という製法が可能です。 キャディバッグを観察すると一部商品でボトム部の脚が黒以外の色になっているものがあり、デザイン性のほか、硬さを変えてバッグが安定して立たせる目的でこの様になっています。 これを造るのに必要なのが2色同時成形です。 セットしたカナガタは1色目の射出が終わると自動的に反転し、もう1色の射出を受け入れます。重さ1t近いカナガタが「クルッと」素早く反転して成形する様子は圧巻でした。 <h2>フル稼働で一日千個の製造</h2> こうして1台の射出成形機では1日最大1000個の部品を製造することができ、受注の増大に対応しているそうです。2016年には「中国国家高新技術」賞を受賞したとのこと。これは高い技術力とともに、世界シェアを席巻した実績が認められて、国家から表彰されたという事のよう。「ライバル会社? 無いよ」と自信の笑みを浮かべていました。 ふと工場内の一角を見ると立ち入りが厳重に管理された区画におびただしい数の「カナガタ」が保管されていました。 <h2>ところで材料って?</h2> キャディバッグのプラスチック部品の材料はPP(ポリプロピレン)、TPR(熱可塑性エラストマー)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂など。その原材料倉庫を見ると、まるでお米屋さんでした。 一粒一粒が小豆程度の大きさの原材料のツブが袋詰めされ、倉庫に山積みになっていました。それを射出成形機の上部に投入すればあとは溶融~射出までほぼ自動化されています。 将来は組み立てまで含めた全行程を自動化。人員を3分の1まで減らす計画もあるとのことでした。 <h2>刷新不止の精神</h2> 圧倒的な世界シェアと品質を誇る耀宇公司ですが、さらに新しい技術開発、製品開発を追求していく姿勢が随所に見られ、昨年はベトナムにも新工場をオープンしたとのこと。「刷新を止めない」。このスローガンは工場各場所に掲示されていて社員が共有していました。 でもこの工場が止まると、世界へのキャディバッグ供給も止まる? そう思わずにはいられませんでした。 <a href="https://www.gew.co.jp/attention/matsuura">松浦真也の「現場放浪記」記事一覧はこちら</a>
    (公開)2019年01月30日
    月刊ゴルフ用品界2018年2月号に掲載された「現場放浪記 第9回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <p style="margin: 0 0 12px;">前回の記事はこちら</p> <hr> ゴルフ用品の一大生産拠点である中国の工場現場から、キャディバッグが出来るまでについてお伝えしています。今回はキャディバッグに必要不可欠な金属製パーツの製造現場を訪れました。 五つの金 <img class="aligncenter size-full wp-image-52286" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/matsu1.jpg" alt="" width="788" height="525"> 中国の工場地帯である広東省を車で走っていると「〇〇制品五金廠」とある看板をよく見かけます。五金とは元々は「金」「銀」「銅」「鉄」「錫(すず)」を表す言葉ですが、現代では大まかに「金物」を意味し、身近な生活用品に使われる部品を指す言葉になっているようです。 例えば衣類のファスナー金具、ホック、バッグなどの金物、ショルダーベルトの金具など、全て「五金」の工場で製造されています。 キャディバッグではハンドルやショルダーベルトの金具(Dカン、ナスカン)やフードのホック、リベット、銘板、ファスナー引き手が該当します。 今回、広東省東莞市温塘鎮にある東莞乃輝塑料五金制品有限公司を訪れました。ここでは主にファスナー引き手やショルダーベルト金具と、フードを留めるホックを製造しています。創業は1975年。中国に工場を構えて20年で、従業員は現在150名との事でした。 代表部品として、ショルダーベルト部分の金具について順を追ってレポートします。 <h2>ダイカスト製法</h2> <img class="aligncenter size-full wp-image-52285" src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/matsu.jpg" alt="" width="788" height="525"> 金具の原材料は俗に「ジンク」と呼ばれています。正確には亜鉛合金を指し、亜鉛のほかアルミ、銅、マグネシウムを含有しています。 ダイカスト製法とは、金型に溶けた亜鉛合金を高速で圧入し鋳造する方法です。金型は二つに分かれており、一方が固定され、もう一方が可動式になっています。 ダイカストマシンはこれら2つの金型を油圧で自動的にはめ合わせ、圧力をかけて密着したうえで溶融した亜鉛合金を流し込み鋳造します。冷却後の金型の分解、製品の取り出しまで全自動で行っていました。 社長の林さんによると「この機械1台で1日当たり2千個以上製造できるよ」とのこと。「新品ならこの機械は1台15万元(260万円)するかな」――。この装置が金具工場のキモ。工場では5台ほどのマシンがフル稼働していました。 鋳造された部品はまるで「プラモデル」のように4個~20個程度同じ部品が繋がっていて、次々に出てきます。 <h2>カット・バリ取り</h2> 次にこれを一つ一つの部品にするため湯口・湯道をカットします。大きな部品では専用金型を使ってプレス抜きをする場合もありますが、小物の場合は手作業で行います。 次に「パーテリングライン」という金型の合わせ目に出来た鋳バリを手作業で除去していきます。作業はプラモデルのバリ取りと全く一緒です。工場ではこの工程で8人の作業員が作業していました。 <h2>研磨は半自動化されていた</h2> 次は研磨工程です。耐水ペーパーでの自動研磨や回転研磨機を使っての研磨を行っていきます。同じ部品を10個から20個まとめて冶具の上に並べ、研磨機にセットして表面を整え、平滑にします。 また鋳造肌を整える目的や光沢を出す目的でバレル研磨を行います。ヘッドと比べ比較的小さな(直径1.5m程度)振動バレル機に部品と石ころのような研磨剤を入れ、グルグルと回します。この他に水平式の回転バレル機も使い、毎分50回転程度の速度でグルグル回していました。 <h2>メッキ工程が美観を決める</h2> 亜鉛合金の金具は比較的メッキがしやすいのですが、社長の林さんによると「この成否で品質が決まるから気は抜けない」とのこと。 まずは銅メッキを行います。部品をまとめてカゴに入れ、70cm×50cm程度のメッキ槽にドブ漬けして湿式メッキします。水洗後、仕上げとしてニッケルクロムメッキを行います。こちらもドブ漬けしていますが、電気メッキです。また比較的大きな製品や高級品で金メッキをする場合は、カゴに部品を放り込むのではなく、一つ一つ専用の「吊り金具」にぶら下げてメッキ槽に浸けていきます。 メッキ後水洗し、水分除去。まるで洗濯機の脱水槽のような装置に部品を入れて、遠心力で脱水します。最後に乾燥と脱脂をすれば金具の完成です。 <h2>厳しい品質検査</h2> 乃輝五金制品廠ではキャディバッグ以外にも多くのバッグ用金具を製造しているため、品質管理も重要。社内検査の項目は、 <h3>引張り強度検査</h3> 金具が所定の強度を発揮するか。弱いとショルダーベルトが外れて怪我をすることもあるので重要。 <h3>メッキ剥離試験</h3> いわゆる碁盤の目試験。メッキの密着性を検査する。テープを貼って剥がしを2回連続し、剥離がないか確認。 <h3>メッキ強度テスト</h3> 回転バレル機に15分入れて強度試験。不良品では割れたようにメッキが剥離してしまう。 <h3>硝酸腐食試験</h3> 硝酸試薬を数滴滴下し、30秒酸化に耐えられるか。 <h3>塩水耐食試験</h3> 5%の食塩水を試験装置内で噴霧し、数日間の経過を観察し腐食の有無を検査。メッキが乗っていない箇所の有無を確認。 こうして製造ロットごとに試験サンプルを抜き取り検査し、記録をしているそうです。林さん曰く「ここまでしてもし1個でも不良が出たらオシマイだよ。単価も安いから儲かってないよ!」との弁。笑顔の裏には品質に対する自信が見え隠れしているようでした。
    (公開)2019年01月11日
    月刊ゴルフ用品界2018年1月号に掲載された「現場放浪記 第8回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr> ゴルフ用品の一大生産拠点である中国の工場現場から、キャディバッグが出来るまでについてお伝えしています。今回は広東省深セン市にある景恒運動用品(深セン)有限公司を訪れました。 ▼前回の記事はこちら <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/ma3.jpg" alt="景恒運動用品(深セン)有限公司" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-51607"> この工場では月産1万2000本程の生産キャパがあり、すぐ隣の系列工場と合わせて月産3万本のキャディバッグを製造しているそうです。 社長の周さんによると、日本の大手メーカーのバッグも製造しているとのこと。シェアは「販売トップ10製品中、6製品位はウチで製造しているよ」と。 具体的なメーカー名・ブランド名は秘密でしたが、「ウチでは材料を生地市場で買ってくることはまずないね。生地メーカーに直接オーダーだよ。品質優先だよ」とのことで、長年の実績を積み上げた信頼の工場でした。 では製造工程を追っていきましょう。 ⑥ボンディング キャディバッグの表面の生地は裏側にスポンジ状の裏地などを接着する「ボンディング」という工程を経た生地を使っています。 キャディバッグのデザインに応じて弾力感や膨らみ具合、耐久性などから、各メーカーは独自の裏地のボンディングを行っていて、そこにはメーカーの哲学も反映されます。コスト優先か、数年後の耐久性か、デザイン性重視か、などです。 表面の生地がメーカーから納品された後、ボンディング加工専門工場に外注し、裏地を貼り合わせます。 <h2>⑦生地の裁断</h2> キャディバッグの生地はメーカーからは幅52インチ(約132cm)のロール状に巻かれて納品されていました。ロールは細いものでは直径20㎝位、太いものでは50㎝位になります。これを専用の裁断機にセットします。まずは直線裁断し、長方形にカットしていきます。 次にカットされた生地を4~8枚程重ねて、一度に「型抜き」の要領で裁断していきます。 その工程では金型を使います。金型は片側が切断刃になった幅5cm程度の金属バーを型抜きのように曲げた形で「わっぱ飯」のわっぱのような形をしています。 それを重ねた生地の上に置き、上から油圧プレスして一気に「型抜き」します。裁断機は大型のもので幅2.5m、奥行も1.5m程あり、キャディバッグのサイド部の大きな生地も余裕で「型抜き」出来ます。価格は新品で10万元(170万円)程とのことでした。 <h2>⑧刺繍と縫製</h2> 次にキャディバッグでデザイン上重要な刺繍をします。デザイン画を表現する「アップリケ刺繍」、ロゴ部の周辺のみ刺繍する「かがり刺繍」、大きな面積を刺繍で表現する「たたみ刺繍」など、どう使うかはデザインの腕の見せ所。各モデルとも工夫をこらしていました。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/ma4.jpg" alt="縫製・刺繍" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-51608"> 刺繍の工程は切断した生地を電子制御で精密に動くテーブルに10~20枚キレイに並べておき、スタートすると生地1枚につき1本の刺繍針を上から降ろしてゆきます。そして、1秒間に8~10針の超高速で刺繍。小さいロゴなら1分以内で刺繍してしまいます。 次にチャック、ポケットなどをミシンで縫製します。また「パイピング」という細いチューブを生地の境界に取り付け、複数の生地で立体的にしてゆきます。またポケット部も縫製します。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/ma5.jpg" alt="縫製作業" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-51609"> これらの作業はミシンを使った完全な手作業。曲線を多用するキャディバッグは単に工業用ミシンを使える、というスキルでは太刀打ち出来ません。特に大きなサイド部の縫製は、キレイに仕上げるには作業経験が必要で、「シワひとつも絶対に許されない作業だよ」と教えてくれました。 <h2>⑨樹脂成形パーツ取付け</h2> 最近ではキャディバッグのサイド部はメーカーロゴなどがあり、立体的な造形をしています。これは別にEVA樹脂で成型したパーツを使い、生地の裏側に配置し、生地と高周波で融着して一体化。 周辺はかがり刺繍などをして仕上げます。こうして仕上げた各パーツは最終的に、一つの筒のように縫製されて、キャディバッグの形になっていきます。 <h2>⑩骨格となるベルポーレン</h2> まだ、生地を縫い合わせただけなので柔らかい状態です。そこでキャディバッグとしての骨組みを造ります。バッグの中に入っている樹脂製の筒で、ベルポーレンといいます。 厚さ1.4~1.6mm程度の硬い発砲ポリエチレン製の平板をキャディバッグ高さに合わせて長方形に切断。これを筒状に丸め、ホチキスで仮止めします。景恒運動用品では軽量タイプも製造していて、近年人気だそうです。 <h2>⑪ボトム、口枠の取付け</h2> 次に筒状のベルポーレンに縫製したバッグ生地を被せ、同時にキャディバッグの底の樹脂パーツ(ボトム)を工業用ミシンで太い糸を使ってバッグ生地と一緒に縫い付けます。キャディバッグの下部を見ると、太い糸でハチマキのように縫い付けてある部分です。 次に口枠部も取り付けます。口枠も樹脂一体成型で別工場から納品され、キャディバッグ工場でメッシュ生地を取り付けていきます。これを、縫製とリベットで取り付けていきます。 シャフトが直接当たる箇所ですので、リベットが飛び出ていたりしたら完全にアウトだそうです。また持ち手(ハンドル)、ショルダーベルト金具もリベットで固定していきます。 <h2>⑫組立・検査・出荷</h2> 最後にショルダーベルト、フードなどを取り付け最終検査。少しでも糸のほつれ、縫製ラインの曲がり、汚れなどがあれば即NG。厳しい品質検査を経て出荷となります。 次回はハンドル、ボトムといった細かいパーツやヘッドカバーの製造現場のレポートをします。どうぞお楽しみに。
    (公開)2018年12月13日
    月刊ゴルフ用品界2017年12月号に掲載された「現場放浪記 第7回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr /> ゴルフ用品の一大生産拠点である中国の工場現場から、今月よりキャディバッグが出来るまでについてお伝えします。今回はキャディバッグ材料の供給拠点のある、広東省深セン市を訪れました。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/ma3.jpg" alt="キャディバッグ製造と生地市場との関係" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50571" /> ①デザインから仕様の決定まで キャディバッグの製造で最初の作業はデザイン画を含んだ「仕様書」(製品仕様書や納入仕様書ともいう)の作成です。 これは大手メーカーが直接製作する場合、キャディバッグ専門商社が製作する場合があります。製造現場に渡す「仕様書」は、デザインだけでなく詳細な製造指示がなされるため、製造手順や品質管理のポイントなど、発注サイドが理解しておくべき内容も盛り沢山です。 具体的には、 ・使用する生地(品番、色バリエーション、ボンディング) ・樹脂成形パーツ(素材、形状寸法) ・縫製の方法(糸の種類、色、太さ、ステッチ) ・刺繍の方法(色や糸の指定、針数) ・口枠とボトム(サイズ、形式、色) ・口枠メッシュ(素材、仕切り材) ・パイピング(種類、太さ) ・ファスナー金具(種類、品番、色) ・ショルダーベルト ・金物(ナスカン、Dカンの詳細) ・内部ポケット(方式、材料) ・付属品(ネームタグ、プライスタグ、取扱説明書等) これらは主に専門商社がメーカーの意向を受けて、長年のノウハウを基に提案していく場合が多いそうです。 <h2>②生地選び</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/10/ma2.jpg" alt="キャディバッグ製造と生地市場との関係" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-50569" /> メーカーの企画段階では様々なデザイン素案が検討され、サンプル試作をします。ここで重要なのが生地選び。どのような生地を選択し、どんな色に決定するかは「スワッチ」と呼ばれる素材見本で触感を確かめながら決めていくそうです。 使用したい生地は必ずしもキャディバッグ製造工場で在庫しているとは限りません。特殊な生地、量産実績のない生地はどうしてもサンプル試作のために「生地市場」に出向いて、少量を購入することも多いそうです。 今回、「生地市場」を探し、深セン市にある「華南城市場」を訪れました。 <h2>③何でもそろう巨大市場</h2> まず訪れて驚いたのはその規模です。およそ東京ドーム32個分程度の敷地に、あらゆる民生品製造のための素材が揃っています。 バッグ、靴、革製品、住居内装、工芸品や玩具で用いる生地、金具、機械類まで何でも揃っています。例えば、ハンドバッグなどに使う磁石だけでも、専門の卸売店が40軒程度を連ねていました。 キャディバッグで使う生地素材は、PU(ポリウレタン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ナイロン、ポリエステルと大別されますが、それぞれ表面の風合いや柔軟性、厚さ等によって種類は数えきれないほど存在します。例えばPU製の人工皮革であっても表面のシボや風合いによって雰囲気は全く変わります。クロコダイル風からダチョウ風まで、何でもアリです。 生地の卸売店は間口6メートルほどの小規模店が殆どで、おおよそ200軒が長屋のように軒を連ねていました。各店にはそれぞれ得意としている専門材料があるようでした。 ほかにも、パイピング専門店、内部成形パーツに使うEVA(エチレンビニルアセテート)、TPE(熱可塑性エラストマー樹脂)専門店、刺繍糸専門店、チャックの専門店、金具専門店が営業しています。 この市場を巡れば、「なんでも作ることができる!」。良いキャディバッグのデザイナーは頻繁に市場を訪れ、「スワッチ」(素材見本)を貰っていくとのこと。提案力はその数で決まると言えるかもしれません。 <h2>④知的財産権保護は?</h2> 一方そうした巨大市場には、裏で有名ブランドの模造品を売っているイメージでしたが、近年の中国においては知的財産権を侵害するような製品を製造販売した企業(個人も含め)には厳しいペナルティーが科せられるそうです。罰金どころか廃業に追い込まれるリスクがあるため、「もう誰もそんな商売はやらないよ」と、ある生地卸店主の弁。見たところ全く怪しげな商品や素材は販売されていませんでした。 世界の工場」である中国で、深セン市といえば広東省随一の工業都市。その「顔」である華南城市場では真っ当に商売をしていくのが王道なのでしょう。 <h2>⑤デザインから型紙</h2> このような生地市場から調達した材料はサンプルを少量生産するのに適していますが、最初に行う作業は「型紙」作り。仕様書に描かれたデザイン画から実際の製品と同サイズに各パーツの型紙を造ります。 2次元のデザイン画から3次元の袋物の型紙を、大雑把に言えば「ハサミ1本で作る」のですから、相当な経験が必要。縫い代や膨らみは勿論、最終的にキャディバッグになった時の「立ち姿」にこだわり、サンプル一回でメーカーの要求に応えられるようになるには、相当な経験が必要だそうです。 次回は深セン市にあるキャディバッグ製造工場、景恒運動用品有限公司を訪れ、製造の実際についてレポートします。どうぞお楽しみに。
    (公開)2018年11月20日
    月刊ゴルフ用品界2017年11月号に掲載された「現場放浪記 第6回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr /> ゴルフヘッドの一大生産拠点である中国の工場現場から、チタンドライバーはどうやってできるのか。鋳造(ちゅうぞう)ドライバーヘッドを例にお伝えしています。前回でIP加工まで終わり、残すは塗装と組立のみ。今回は最終ヘッド仕上げを行う諾文ゴルフ五金制品廠(広東省東莞市)を訪れました。 前回の記事はこちら <a href="https://www.gew.co.jp/attention/matsuura/g_48161">丁寧な前準備がIP加工屋のノウハウ</a> <h2>21 手作業でマスキング</h2> ヘッドに塗装をする最初の工程はマスキングです。塗料を塗らない箇所をマスクし、後で剥がします。 マスキングする箇所は曲面なので、「伸びる」シートを貼り付けてゆきます。また耐熱性があり、後述のサンドブラストに耐える強度のある専用シートを使っていました。 ソール部分のマスキング作業は、まず全体にシートを貼り、塗装する部分とマスクする部分の境界線に沿ってカッターナイフを使って切断し、不要な部分のシートを剥がすという流れです。ソールの凹凸が塗装の境界になっていることが多いので、そこをガイドにして切断することが多いそうです。 フェース面はより正確にカットするため、モデルごとに専用のカット済みマスキングシートを用意し、スコアラインを目印にして貼り付けます。 このようにして「塗装しない部分」をマスクしますが、カッターナイフを使って切断していく作業はまさに職人技。社長の黄さんによると、「仕上げ作業は10~15人で、殆どが女性。ヘッドに傷を付けずにラインを出していく細かい作業は経験が必要だし、やはり手先の器用な女性がいいんだ」とのこと。皆、5年以上の経験がある作業員との事でした。 <h2>22 サンドブラスト</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/09/matsuura1.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-48798" /> マスキングされたヘッドは塗料の密着を良くするために、塗装する部分の表面をザラザラにします。これはサンドブラストと呼ばれ、専用の砂を圧縮空気で吹き付け、塗装する箇所の表面を粗くする作業です。 <h2>23 パテで手直し</h2> まだ塗装はできません。サンドブラストすると金属表面の微細な孔や凹みが現れることがあり、これをパテを使って埋めていきます。目視での作業なので目が良い人でないと難しそうでした。 <h2>24 塗装作業</h2> いよいよ塗装です。専用のブース内での手作業で、吹き付け塗装をしていました。大規模工場では一部自動化されているそうですが、中小の現場ではまだまだ手作業です。 昨今では中国国内でも工場排気に関する規制が強化され、有機溶剤ガスを含む塗装ブースの排気はそのまま大気放出できなくなり、浄化設備の設置が義務付けられるなど、ヘッド工場の経営も「メンドクサクなって来ているよ」(黄社長)とのこと。 <h2>25 乾燥炉へ</h2> 塗装が終わったヘッドは10個程度ずつツリーに吊り下げられ、乾燥炉に入れられます。工場では90度で40分程度加熱し、硬化を促進させます。 塗装に使う塗料はほとんどが「ウレタン系塗料」で、硬化剤も配合しているそうです。 <h2>26 仕上げの手作業</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/09/matsuura.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-48797" /> 冷却後、手でマスキングシートを剥がします。そして大事なロゴ入れです。 ソールにはメーカーロゴ、モデル名、ロフトなどが凹みで表現されており、そこに塗料を流し込みます。その作業も職人技。とても細い部分に塗料を流し込むので、「注射器」を使って色を入れていきます。 ここもやはり女性の職場。細かな手作業の連続で、一人当たり数百個も一日で仕上げることもあるそうです。 <h2>27 完成そしてクラブ組立</h2> こうしてドライバーヘッド部分がようやく完成しました。諾文ゴルフ五金制品廠ではヘッドの完成後、単体で国外に出荷したり大手ベンダーに納品されたりするそうです。 組立てラインでの工程は工房と変わりません。大型のシャフトカット機でバット側、チップ側をカット。その後に先端の接着部分の塗装を剥がし、粗くします。 この時ただ差し込むだけで先端を粗くする装置(2万元程度・約30万円)を使って、わずか2秒で完了していたのが印象的でした。ソケット挿入もシャフト10本分を一度に圧入する機械を使っています。 ヘッドはホーゼル内を洗浄した後、シャフトを接着。自動で接着剤を出す機械を使いますが、基本的には手作業です。 次にグリップを装着。これも工房でのやり方と何ら変わりません。 最後にシュリンクや各種ラベル貼り付け、検品をして完成です。これでようやく、ドライバーが完成しました。どんなモノ作りであっても「人の手」が大事な場面で必要なのは印象的でした。 AIや全自動ラインといったテクノロジーは、ゴルフについてはまだ先のようですね。次回からは「キャディバッグが出来るまで」をレポート予定です。お楽しみに。
    (公開)2018年10月10日
    月刊ゴルフ用品界2017年10月号に掲載された「現場放浪記 第5回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr /> ゴルフヘッドの一大生産拠点である中国の工場現場から、チタンドライバーはどうやって出来るか、鋳造(ちゅうぞう)ドライバーヘッドを例にお伝えしています。前回までは研磨工程まで終わりピカピカのヘッドの形になりました。今回はその続きです。 ⑮塗装の前にIP加工 ドライバーヘッドには黒色や金色、最近ではブルーや七色に輝くIP(イオンプレーティング)加工が施されています。これはアイアンに施される湿式メッキとは異なり、真空中でプラズマを発生させ、付着する金属イオンが飛んで、直接ヘッド表面に固着させる製法です。 今回2013年から多くのゴルフヘッドのIP加工を手掛け、大手ベンダーからも受注している広東省東莞市中堂にある日信真空科技有限公司を訪ねました。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/m5.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-48167" /> <h2>⑯まずはキレイに洗浄</h2> ヘッド研磨工場から届いたピカピカのヘッドは、まず輸送中で発生した傷の有無や外観表面をチェックされます。納入されたヘッドはキレイに見えても表面や内部には研磨の金属粉や研磨剤のカス、手の油など様々な不純物が付着しています。 それを専用の洗浄装置機で除去してゆきます。工場のSAM社長によると、「高品質を維持するには受入検査と洗浄が重要。これひとつのせいで、全部ダメになることもある」とのこと。 洗浄機には1m×70cm(深さ1m)程度の洗浄層(プール)が8~14層あり、酸や超音波洗浄水層、イオン交換水(純水)の層に分かれています。専用の治具にセットされたヘッドは順番に脱脂や酸洗い、超音波洗浄のプールに順番に浸かって行きながら洗浄されます。 ひとつの治具にはドライバーなら20個程度が取り付けられ、各プールには3分程度浸かって、次のプールに入っていきます。 まるで熱いお湯と水風呂に交互に入っているようです。 なお同工場では大型の洗浄機を使っていて、中国製で一台1500万円ほどするそうです。工程は全自動化されているとのことでした。洗浄されたヘッドには内部に水分が残っていることもあるため、乾燥炉で水分を飛ばします。 <h2>⑰専用治具へ取付け</h2> 洗浄後のヘッドはIP加工の装置に入れる為に専用の治具にセットします。いわゆるツリー状にヘッドを手で取り付けていきます。一つの治具にはヘッド最大12個が取り付けられ、その治具自体が装置の中でクルクル回るようになっています。これでまんべんなく表面に金属が「乗る」わけです。 <h2>⑱真空釜へセット</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/m5_2.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-48168" /> 治具に取り付けたヘッドをいよいよIP加工装置にセットします。装置は大型のもので高さ1.2m、内径1.6m程度の真空釜とその付属装置から構成されています。 真空釜の正面のハッチを開けると、先ほどのクルクル回る治具が11~13本取り付けられるようになっていて、そこにヘッドを取り付けた冶具を差し込んでいきます。真空釜は施工中に高温になり、正確に温度制御する必要があるために、周囲に水冷機構が設けられ、常に水が流れています。水温、流量が常にコントロールされているわけです。 <h2>⑲真空引き</h2> 次に真空釜のハッチを閉じ、内部を排気して真空にします。実はこの真空引きに時間がかかり、装置の性能によって完了までの時間が前後するそうです。 日信真空科技では、真空引きには1時間程度かかっているとのことです。 <h2>⑳本IP加工</h2> 真空引きの後、高周波装置によって内部にプラズマを発生させます。付着させる金属は電子線照射気装置によって蒸発させ、このプラズマ雰囲気中でプラス荷電したイオンにします。一方、冶具に固定されたヘッドはマイナスにしておくので、イオン化した金属はどんどんヘッドに付着していきます。 もちろん冶具にも一緒に金属が付着していくので、色がついていきます。 施工の時間は付着する金属の種類や厚さによって異なり、約1時間~2時間とのことでした。 「加工自体は装置がやるから自動だけど、それまでの準備をいかに丁寧にやるか、それがIP加工屋のノウハウなんだよ!」とSAM社長は力説していました。 表面に付着する金属はチタン、金、プラチナなど。ゴルフヘッドの場合は付着する金属の様態によってTiN(金色)TiCN(黒)などに加工するそうです。 このようにして同工場ではIP加工を専門に請け負い、月12万個程度の処理能力で大手ベンダーへ納入しています。 これで残る工程は最終の塗装と組立のみになりました。次回はその工程を紹介します。どうぞお楽しみに。 
    (公開)2018年08月27日
    月刊ゴルフ用品界2017年9月号に掲載された「現場放浪記 第4回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr /> ▼前回の記事はこちら↓ ゴルフヘッドの一大生産拠点である中国の工場現場から、チタンドライバーはどうやって出来るのか。鋳造(ちゅうぞう)ドライバーヘッドを例にお伝えしています。前回までは鋳造のアズキャスト(AC)が完成し、ようやくドライバーの形になりました。今回はその続きです。 ⑪フェースは特別な設計 ヘッド製造工場に到着したACは、別途鍛造製法で作られたフェース部分と溶接されます。ドライバーの場合は、より反発性能(反発係数と高反発エリア)のアップに重点を置く設計手法をとり、ボディとは異なる高機能チタン材料を採用。フェース厚さを変化させたり、ディンプル加工したりしています。 このフェース設計はクラブメーカー各社の腕の見せ所であり、機密事項・ノウハウも多く含む特別な部位と言えるでしょう。 <h2>⑫フェースはどうやって作る?</h2> ドライバーヘッドのフェースは、単にチタンの板材を切って製造するのではなく、主に鍛造(たんぞう)製法によって作られます。 中国の製造現場では、まずチタン平板を「抜き型」で切断したあと、加熱炉で熱してから鍛造します。この時点でフェースにはロールとバルジがついているわけです。後から研磨でロールとバルジをつけているのではないのですね。 鍛造されたままのフェースは不要部分が残っているので、これを三次元レーザーカットやワイヤーカットで切断します。 <h2>⑬分業化で支えるヘッド製造</h2> このようにして完成した部品を組み合わせ、ヘッドにしていくのですが、中国では従業員数千人規模の大手工場を除き、中小ブランド(いわゆる地クラブを含む)の完成までの各工程は専業の小規模企業の分業制によって支えられています。 大まかには、 <strong>A:鋳造ボディ製造工場 B:フェース鍛造工場 C:フェース鍛造後のカット工場 D:溶接工場 E:ヘッド研磨工場 F:メッキ工場(イオンブレーティング工場) G:仕上げ・塗装工場 H:クラブ組立工場</strong> と分かれています。 これら小規模なゴルフヘッド製造工場のメッカ、広東省東莞市にある<strong>C:フェース鍛造後のカット工場</strong>の高大上公司を訪れました。 ここではカップフェースの鍛造後の余計な部分をワイヤーカットという方法で切断し、次の溶接工程のためにフェースを仕上げる工場で、社長の勝さんは家族経営をしています。月産1万個程度、加工費の収入で生計を立てています。月の売上は10万元程度とのこと。 また同じく東莞市の誠鈦公司では社員3人でボディとフェースの溶接を行っています。社長の万さんによると、溶接機はTIG溶接機2台で月産5000個程度、主にチタンドライバーの溶接専門で行っています。いわゆるヘッド外注加工屋という立場で、「町工場」的な佇まいでした。 <h2>⑭そして研磨へ</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/1.jpg" alt="研磨前のヘッド" width="788" height="525" class="size-full wp-image-47856" /> 研磨前のヘッド そうして完成した研磨前のヘッド写真を示します。まだ肉盛(ビード)が残っていて、地肌も熱影響で変色していますね。その後、<strong>E:ヘッド研磨工場</strong>で研磨されます。 広東省東莞市中堂鎮にある諾文ゴルフ五金制品廠は、その後のE:ヘッド研磨工場兼G:仕上げ・塗装工場です。日系ゴルフ製造工場で実務経験のある社長の黄さんによると、従業員は30人で、月産2万個程度の製造キャパがあり、日本のメーカーの仕事も多いとのことです。 研磨工程は、まずヘッド溶接状態から余計な溶接ビードを回転式の研磨機で落としていきます。また、ヒール部分に残る鋳造の「湯口」の跡も落とします。その後、中研磨機でヘッド全体を研磨していき、クラウン形状、ネックのつながり、フェースのラインだしなどを行います。 黄さんによると、この工程は一番経験が必要で「日本のメーカーさんの要求は厳しいです。特にネック周りのラインとクラウン、フェースへのつながりです」と話していました。 また、工場ではドライバーだけでなく、アイアン、パターなども手掛けていました。 最後に「バフ掛け」と呼ばれる研磨を行い、金属面に光沢を出し、ピカピカに仕上げます。この段階で、「ミラー仕上げ」や「サテン仕上げ」、「ヘアライン仕上げ」などの最終仕上げや、サンドブラストでザラザラにしたりしてメーカーの要求通りに仕上げていきます。 こうして完成したピカピカのヘッドをメッキやイオンプレーティングで色付けしていきます。 次回はその工程を紹介します。どうぞお楽しみに。
    (公開)2018年08月09日
    月刊ゴルフ用品界2017年8月号に掲載された「現場放浪記 第3回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr /> ゴルフヘッドの一大生産拠点である中国の工場現場から、チタンドライバーはどうやって出来るのか。鋳造ドライバーヘッドを例にお伝えしています。前回までは鋳造に欠かせない鋳型「シェル」の製造までをお伝えしました。今回はその続きです。 ▼第2回はこちら   ⑥真空鋳造機で鋳造 400℃の加熱炉で2時間ほど加熱した鋳型(シェル)をチタン用の鋳造機にセットします。高温で加熱しているので、常温では白い「コロモ」だった鋳型が真っ赤になっています。チタン用の鋳造装置には真空釜があり、内部に鋳型(シェル)を4つ同時にセットできる回転機構があります。鋳型をセットして回転させ、遠心力を使って隅々にまで溶けたチタンを行き渡らせるわけです。単に溶けたチタンを流し込むだけではないのですね。 江西省のチタン鋳造工場、龍南新晶の謝 健さんによると、メインのチタン用鋳造機では一回の鋳造工程でドライバーヘッド96個が鋳造可能とのこと。その際に一度に使うチタン材量は重さ80㎏にもなるそうです。 クラウン部品(別体の場合)など薄物を鋳造する場合はもっと小型の装置を使ったり、大量の鋳造の場合はもっと大型の装置を使ったりします。最も大きな鋳造機では一度に144個のドライバーが鋳造できるそうです。 一回の鋳造にかかる時間は、まず釜を真空引きして内部の空気を抜き、それから溶けたチタンを回転している鋳型(シェル)に流し込み、放冷して取り出すまでに約42分。意外に早く出来るのが印象的でした。 龍南新晶工場では、1日で2000個のドライバーヘッドの製造キャパがあり、多くの大手ブランドのヘッドを鋳造していました。   <h2>⑦チタン材料って何使う?</h2> 代表的なチタン材料は純チタンに6%のアルミニウム、4%のバナジウムを配合した6―4チタンですが、少量のクロムや錫を加えたベータ系チタン、よりアルミ製成分を多くした軽比重のメーカー独自のチタンを使うことがあるとのこと。 特に近年では、ヘッドにカチャカチャや錘ネジといった付属品があり、鋳造後の機械加工(CNC加工)のため加工性も重要な要素とのことでした。   <h2>⑧鋳型を壊して剥離</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/matsuura2-1.jpg" alt="" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-44765" /> 鋳造後、真空釜を開けて大気開放し、自然放冷します。取り出したばかりの鋳型(シェル)はまだ熱いですが、工具を使って、作業員が殻を割るように砕いてしまいます。つまり鋳型(いがた)は一回コッキリの使い捨てです。窯から出した陶器を割るように、簡単に割れて中からチタンのドライバーヘッド本体が姿を現します。   <h2>⑨冷えたら「大切?」</h2> 鋳造したヘッドは24個がブドウのように連なっているので、それを房から切断します。これを中国語では「大切」(ダー・チエ)と呼ぶそうです。でも作業は豪快そのもの! 大きな電動ノコギリでヘッドを房から切り落としていきます。 切り落としのとき、熱を持つのでヘッド本体に影響が出ないように切断位置は少し離していました。   <h2>⑩粗研磨と溶接</h2> 切り離したヘッドにはまだ切断面のバリ、湯溜まりなどの不要部分が残っているので、それを研磨機で落としていきます。工場では回転ベルト研磨機を使って研磨しますが、非常に重労働。猛烈な音と振動で作業者の負担は相当なもの。しかも立ち仕事が殆どです。   <h2>⑪完成へ</h2> 最後に鋳造したヘッドのピンホールの修正をします。鋳造製法ではどうしても不純ガスの巻き込みでピンホール(微細な穴)が出来ることがあり、表面に穴が見えていて、比較的小さな穴の場合はスポット溶接で埋めて、その後研磨して修正します。また、仕様によってはヘッドや部品をレントゲン撮影して、内部に不良がないことを確認します。中に空間(巣)があると強度的にNGとなり製品になりません。 またソールのロゴも鋳造で綺麗に出ていない場合は、機械加工でロゴを彫り込んで修正します。 最後に、全体にサンドブラストをかけて表面を均一にして完成です。この工程によって表面は光沢がなく、ザラザラした状態になっています。   <h2>ヘッド製造工場へ</h2> こうしてようやく鋳造したドライバーヘッドの本体部品(アズキャスト=AC)が完成しました。これが中国各地や台湾、ベトナムなどに所在するヘッド製造工場に出荷され、フェースなどの部品を取り付け、溶接、メッキ、塗装といった「後工程」に回されるとのことでした。 次回以降はこの「後工程」について、ヘッド製造工場からレポートします。いよいよドライバーの最終形に近づいていきます。お楽しみに。
    (公開)2018年07月12日
    月刊ゴルフ用品界2017年7月号に掲載された「現場放浪記 第2回」をWebにアップしたものです。 なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 ▼第1回はこちら <hr /> まずはワックス作り チタンドライバーの鋳造をするためには、金属を流し込むための鋳型(いがた)を作る必要があります。ロストワックス鋳造法ではその鋳型を作るために、まずは「ワックス」を作ります。実は、ワックスといっても整髪料のようなジェルではなくて、ロウソクのロウ(蝋)と言い換えたほうが分かりやすいかもしれません。 前回お伝えした「金型」は手で運べる重さ(1kg以下)なので、手で運んでワックス成型機にセットします。成型機にはドロドロに溶けたワックス(温度は50度~60度)が流れています。金型を架台に手でセットして、スタートボタンを押せば、自動的に左右から金型にワックスの流れるパイプが接続され、溶けたワックスを注入してくれます。 約20秒ほどで金型の全ての箇所に注入が終わるので、自動動に接続パイプも外されます。「金型」を手で取り出して分解すれば、中には製品と全く同じ形のワックスが出来ているわけです。 でも、その取り出しには注意が必要です。金型を分解する際、変形しないようにしなければならず、また空洞部分や凹んでいる部分には「抜き子」と呼ばれる分解パーツも入っているので、慎重に取り除かないといけません。この作業にも熟練の技が必要です。傷を付けたら全く使い物にならないからです。 このように、ドライバーヘッドの形をしたワックスが一つひとつ出来上がっていきます。実際の作業では、熟練の作業員一人につき二台の機械を同時に操作していて、自動注入の20秒の間に別の機械の金型からワックスを取り出す作業をしていました。 江西省、龍南新晶の謝さんによると、ワックス製造は17人の従業員で、1日あたり2500個を製造出来るとのことです。   <h2>ワックスのツリー?</h2> ワックスは一つひとつドライバーヘッドの形をしていますが、鋳造の鋳型(いがた)はそれを複数個まとめて一気に鋳造します。そのため「ツリー」と呼ばれる集合体を作ります。ウッドなら24個でひとつの集合体になります。 ツリーの作り方ですが、それぞれのワックスを繋げるための同じロウで出来た「幹」の部品をあらかじめ準備し、それにワックスを溶着する方法を取ります。 専用の「電熱コテ」で幹とワックス双方の接着面を加熱して少し溶かし、冷めないうちに接合してくっつけるのです。一つのツリーに多くのワックスがつくのでまるで大きなブドウのようです。モタモタしていては冷めて溶着出来なくなるので熟練の技が必要です。こうしてできたツリーは35立方㎝の大きさです。 同工場では13名がこの作業を担当しています。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/matsuura1.jpg" alt="鋳造の工程とは? ワックスツリーと鋳型の作り方" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-44576" />   <h2>鋳型作りはまるで天ぷら?</h2> 次の工程はいよいよ鋳造の鋳型(いがた)作りです。まずはドラム缶のような回転槽に水ガラス(ケイ酸ナトリウム)やシリカ(二酸化ケイ素)の粉末をドロドロに水に溶かしておき、沈殿しないように回転して撹拌しておきます。その中に先ほどのツリーを手で持って、ドボッっと漬け込み、取り出します。まるで天ぷら粉に付けるようです。 それを今度はすぐに砂(ケイ砂)の入った槽に入れ、バサバサッと砂をまぶします。まるでパン粉をまぶしているようです。まぶしたら、専用の乾燥台に吊り下げて乾燥させます。最初は24時間の自然乾燥です。 工場では専用の乾燥室を設けて温度・湿度をコントロールし、空気をファンで強制対流させて、乾燥ムラの防止。残留水分のコントロールをしており、これには独自のノウハウがあるようです。 このドブ付け~砂まぶしの工程を何と9回半(最後は砂無し)も繰り返し、この工程だけで6日間もかかります。なお、同工場ではこの工程を24人の作業員で行っています。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/06/matsuura2.jpg" alt="鋳造の工程とは? ワックスツリーと鋳型の作り方" width="640" height="480" class="aligncenter size-full wp-image-44577" />   <h2>中身を取り出してコロモだけに</h2> 乾燥された鋳型はまだ中身のワックス(ろう)が残っています。これを加熱機に入れて、中のワックスを溶かして抜き取ります。具体的には約400℃の電気炉に入れて、1時間ほどで中のワックスは完全に溶けてなくなります。周りのコロモはケイ砂ですから、溶けずに残るわけです。電気炉から取り出したら放冷し、鋳型の完成です。 専門的にはこの鋳型を「シェル」と呼びます。天ぷらの衣だけ残った状態のこの白い鋳型は、「殻」のように簡単に割れるので、このような呼び方になったのですね。   <h2>さぁ鋳造、その前に。</h2> 次に、完成した鋳型に金属を流し込んでいよいよ鋳造するわけですが、その前にその鋳型を加熱します。加熱しないと、溶けた金属が鋳型に触れた瞬間に固まって、隅々にまで流れていかないからです。チタン鋳造の場合は1060℃になるように電気炉に鋳型を入れ、チンチンに加熱します。約4時間も加熱し、加熱ムラが出ないように注意します。 これでいよいよ鋳造の準備ができました。次回はいよいよ鋳造の本番と、その後の工程について紹介する予定です。お楽しみに。   ※ワックス種類 柔らかいワックスは割れにくい為、製造効率が上がるが、薄物では変形が問題になる。堅いと割れるので工場独自のノウハウで堅さ(溶解温度)選定しているようです。 ※鋳型の「コロモ」「砂」の種類・粘度・粒度 使う砂の粒の大きさ。コロモのドロドロ具合、水の配合割合は企業秘密でした。天ぷら屋と同じ?
    (公開)2018年06月08日
    月刊ゴルフ用品界2017年6月号に掲載された「現場放浪記 第1回」をWebにアップしたものです。 なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 <hr /> 初めまして。ゴルフクラブや各種ゴルフ用品の製造卸に携わっている日幸物産の松浦です。仕事柄中国の工場へ通う頻度が高く、その様子をレポートしてもらいたいとの要請を受けて、本号から「現場放浪記」と題して、製造現場を紹介することになりました。 近年はネット環境があれば仕事を進められ、わざわざ「現場」に出向いて部品を見たり触ったりする機会が減っています。たしかにITは便利ですが、「現場」から疎遠になると物作りの嗅覚が衰えるような気もします。そこで、この連載では「現場観」にこだわりましょう。初回は「チタンドライバーヘッドができるまで」です。 <h2>精密加工と手作業のコラボ</h2> <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/genba3.jpg" alt="チタンドライバーができるまで ~その①カナガタってなんだ?~" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-44088" /> まずはヘッド形状の大元といえる「金型」です。中国江西省の鋳造メーカー「LONGNAN XINJING TITANIUM INDUSTRIES INC.」(龍南新晶?業有限公司)の謝健さんによれば、 「金型は、ヘッド製法の違いによって意味が異なり、ヘッド製法は大別して鋳造と鍛造に分けられます」――。今回は、多くの製品で採用される鋳造製法(ロストワックス精密鋳造)の金型を見ます。   <h2>基本設計</h2> クラブメーカーはまずドライバーのコンセプト、想定ユーザー、ロフト・ライの構成やヘッド体積、素材などの基本スペックを決定し、ヘッドのデザインを決めます。ヘッド全体の外形デザイン、重心調整機構や可変機能、ロゴの配置や大きさ、ヘッドの色や加飾、スコアラインなどです。この情報を基にクラブ製造工場に発注するという流れが大半です。   <h2>マスター作り</h2> 次はマスターの作製です。マスターは製品の最終形状通りに模したモックアップで、素材は木型や樹脂型、アルミなどがあり、材料から削り出したり3Dプリンタを使用します。 この工程はメーカーのコンセプトや設計者の意図が現れるのでとても重要。メーカーと製作工場の間でやりとりが繰り返され、数か月かかることも‥‥。費用は最低数十万円程度です。マスターが完成し、最終チェックが完了したら、その外形を3Dスキャンしてデータ化します。   <h2>面貼りと内部設計</h2> スキャンしたデータは3次元的な点の集合体で、これを3D・CADを使って面貼りという作業により「曲面のデータ」を作成します。3D・CADのソフトは「ProENGINEER」や「SOLID WORKS」といった高額(100万円以上)な3Dソフトを使います。これはヘッド製造工場とクラブメーカーで共通化している場合が殆どです。 次に内部構造の設計をします。これは単に各部の肉厚を決めるだけではなく、補強のためのリブ、重心調整のための重量ネジ、荷重物やフェースの肉厚、クラウンなどの内部構造を設計します。 謝さんによると、外形と内部構造を決める3D・CADでの作業には、10年以上の経験が必要ということです。なぜなら、机上論で性能を求めればいいわけではなく、その構造が製造工程で不具合を起こさないよう「製造技術」を熟知する必要があるからです。 具体的には補強リブや溶接ための耳、湯溜まり、湯流れなどの知識です。ただ、内部構造の設計以後は、製造工場から金型専門メーカーに移管される場合が大半とのことでした。 <img src="https://www.gew.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/genba2.jpg" alt="チタンドライバーができるまで ~その①カナガタってなんだ?~" width="788" height="525" class="aligncenter size-full wp-image-44089" />   <h2>設計の完了</h2>  ヘッド内部と外部の設計が終わったら、製品の重心位置、CORやその分布が決定されます。場合によってはFEM解析や打球音の音響解析をすることもあります。その結果によって設計の変更・手直しを何度も繰り返し、最終的なヘッド構造が完成します。   <h2>製造金型としての設計</h2> ヘッド構造が完成しても、それで終わりではありません。ロスワックス鋳造の金型製作は、ワックスを流し込むための設計も必要です。鍛造製法とは異なり、鋳造の金型にはワックスを流し込む経路や溶けた金属が貯まる場所(湯溜まり)、空気の抜き孔やバイパス経路についても設計します。 また、金型は分解してワックスを取り出す必要があるので、分解するための部品配置、「抜き子」と呼ばれる内部空洞の金型を抜く部品などの設計も行います。   <h2>金型製造</h2> その後、CADデータを実際に工作機械に合ったデータにするためにCAMというソフトを通し、工作機械のプログラミング言語に変換します。使う工具の種類や工具の送る速度、回転スピードや加工の順番などを決めていきます。  その後NC工作機械を使って材料のブロックを削り、金型を製造していきます。なお、鋳造の金型(ワックス金型)はアルミのブロックから製造します。これが鍛造の金型と大きく異なる点です。 また、金型は複数(多いときは10個以上)のパーツが組み合わさる構造のため、各パーツが完成したら仮組し、すり合わせと研磨を施しますが、実は、これは手作業で行います。非常に精密な作業であり、経験10年以上の職人でないと任せられません。手の感覚だけで0.02mmほどの凹凸の修正をします。 以上の作業を終えたら、各パーツを組み立ててワックスを流すテストをします。全ての箇所にきちんと流れるか、段差等の不良はないか、内部構造は確保されているか、作業性の良さなどをチェックして問題がなければ完成です。謝さんの工場では外形データ受領後、約3週間で完成するそうです。 <iframe src="https://www.youtube.com/embed/xoDn6Silhck?rel=0" width="788" height="433" frameborder="0" allowfullscreen="allowfullscreen"></iframe> <hr /> 如何でしたか? 金型は多くの部品で出来ていること、手作業が多いことにも驚かされます。実は金型は1モデルにひとつではありません。ワックス射出成形の作業効率を上げるために、同じモデルで複数個作ります。こうしてできた金型は一組数十万円もします。次回はこの金型を使い、ワックスの射出成形からチタンを鋳造するまでの工程を紹介しましょう。
    (公開)2018年05月22日

    すべて読み込まれました。